島野光弘氏
「End of Eternity」プロデューサー。セガ所属。
勝呂隆之氏
「End of Eternity」ディレクター。トライエース所属。
則本真樹氏
「End of Eternity」シナリオ担当。トライエース所属。
第3回 声優さんはキャラクターの命です。[後編]
(※編集部注……第2回のトライエースの則本氏の後編です。第2回を読んでいない方は、前回のブログからさきにご覧ください)
■遠藤綾さんの声はとにかくかわいらしくて、まさにヒロインに適役。
これまでの経歴も、いわゆるヒロインやかわいらしい役柄が多かった模様です。
しかし残念ながらリーンベルはかわいいだけのキャラクターではなく、うまく説明できなかったこともあって役柄がつかみにくかったかもしれません。
例えばストーリー中のセリフで、
「嫌ッ!」
とか
「ふざけんな!」
とかあったりするのですが、遠藤さんに喋っていただくと、こっちがニヤニヤしてしまうほど、とにかくかわいくてかわいくてしょうがないのです。
何度やってもどうしてもかわいくなってしまって……無理もないですよね。育ちが違う、みたいな感じです(笑)
リテイクが続いたところでちょっと閃いて、こちらから「濁点つけてください」と指示を出してみたところ、大成功。
イメージ通りのリーンベルが見事にできあがりました。
文字で書くと
「い゛や゛ッ!!」
「ふッざ・けッんッッ〜・んな゛ッ!!!!」
って感じです。
これじゃワケ分かりませんね^^;
ちなみに遠藤さんも泣きのシーンを熱演してくださったのですが、その後すぐに、コロッと感情を切り替えて笑えるシーンの収録に移られたりするあたり、こっちはこっちで「プロだなー」と感心しきりでした。女性ってすごい。
■ゆかなさんには、『EoE』ではレベッカという人間の言葉を話せない少女を演じていただきました。
ですが、とにかくセリフが「あうー」とか「あうあうあー」みたいなのばかりで……。
ものすごく実績のある方だったので本当に申し訳なかったです。
今回現場を仕切っていただいた大沼さんにも「このためにゆかな呼ぶとかありえん。」と言われる始末です。orz
RPGファンの方なら『ファイナルファンタジーXII』のミュリンを演じた声優さんといえば分かるでしょうか。
あのようなキャラクターこそゆかなさんにはふさわしいはず……。
ですが、収録中のスタジオスタッフとのやり取りは、一貫して「あうー!」「あうあ?」と少女言葉で意思疎通していたのは見事でした(笑) ……イクラちゃん?
まーこれも別の意味で「帰ってこない系」ですね^^;
……でも、ゆかなさんがスタジオに現れた時、自分は逆に「なんか美人キター!」と思いましたけどね。
■ありえないといえば、ジャンポーレ役の寺島拓篤さんもありえない配役でした。
ジャンポーレは、見た目はマトモですが、中身はもうどーしようもないというか、その空気が読めない感じのハイテンションぶりは、やはり主人公&正統なイメージが強い寺島さんとはかけ離れたものでした。
声優さんが収録を行う場合、すでに収録が終わったほかの声優さんのセリフを聞いてもらい、雰囲気をつかんでもらってから喋っていただく場合があります。
ゼファー役の下野さんの収録時に、さきにジャンポーレの声を聞いてもらったことがあったのですが、その時の下野さんの反応が特筆モノでした。
ジャンポーレ 「xxxxxxxx!!」
下野さん 「この声は……寺島? ……寺島??!!」(訳:お前に一体何があった?)
どうやら下野さんと寺島さんは仲がいいらしく、さきに寺島さんから「今回は自由にやらせてもらえて楽しかった」と聞いており、その結果まったくイメージ(というか前例)にないキャラクター作りだったことに驚いたようでした(笑)。
ズレたキャスティングばかりでホント申し訳なかったです。
■自分が前回ブログを書かせていただいたときにも少し触れたのですが、檜山修之さんの起用は寺島さん以上に物議を醸しました。
ペーターはわりと重要な(?!)人物なのですが、その特異なキャラクター性から誰を声優にするべきか、すんなりとは決まりませんでした。
ふつうに考えるとコミカルな、バカッぽい感じの声になると思うのではないでしょうか。
自分も最初のイメージではそのように考えていたのですが、開発スタッフから出てきた候補の中に檜山さんの名前があったときは目を疑いました。ええホントに。
ザ・主人公、飛影、大ベテランの大御所ですよ?
鏡や勝呂はこの妙案に大ウケで、でも冷静になって考えると
「やってくれるかな?」
「無理じゃね?」
「ダメもとでSEGAに出してみる?」
「やっちゃえ!」
……通っちゃいました^^;
当日の檜山さんはなぜかノリノリで、見事にペーター的な声や雰囲気を作ってきていただいており、試し録りの際には確かにピタリとハマっていたのですが……。
スタッフ 「すいませーん。いつもどおりにお願いできますか?」
檜山さん 「いつも通り?」
スタッフ 「はい、いつも通りカッコイイ感じでお願いします。」
どうやら檜山さんはふだんとは全然違う役柄ができると思ったらしいのですが、実際はいつも通りだったということで、もしかしたら不可解に感じたかもしれません。
(でも結構ノリよくアドリブ入れてくださいましたけどね。)
このミスキャスト(?)の化学反応は、ぜひ本編でご確認ください。
ペーターカッコイイよペーター。
■カッコイイと言えば、成田剣さんが収録当日まで抱いていたヴァシュロンのイメージは、メディアに初出した当時のヴァシュロンに皆さんが抱いたイメージに近い物があったようです。
それはやはり声に現れていると自分は感じていました。
カッコイイお兄さんキャラ、真面目、冷静沈着、頼れる存在etc.……キャラクターのビジュアルイメージと声優さん自身のイメージが合わさると、それがさらに強くなるのは当然とも思いますし、Twitterをご覧になっていた皆さんはすでに理解されていると思いますが、なんというか……実際はとても肩の力の抜けたキャラクターになっています(笑)。
何しろ最初はカッコよく演じてくれた成田さんに対してこちらが出した注文は、
「もっとチンピラっぽく!」
「もっとエロく!」
たしかこんな感じだったハズですから(笑)。
イメージのズレ、という点では当初はヴァシュロンが最も大きくなるはずでした。
ですが、Twitterがある現在はどうでしょう?(これは予想外の出来事でした)。
ただ、ヴァシュロンの実力はこんなものではありません(笑)。
本編での成田さんのぶっとんだ活躍をぜひお楽しみください。
■今回はすべての声優さんが本当にうまく役にハマってくれたと感じているのですが、その中でもとくにこの人にしてよかったと現場で思った声優さん、それが藤原啓治さんです。
『EoE』のストーリーは、メインがふたつある状態で進行していきます。
一方は主人公たち三人のエピソードで、もう一方はロエンやサリヴァンを中心とした権力者たちのエピソードです。
当初この両者に特別な対立軸は存在しておらず、平行線のまま同時進行していきます。
ただし、同時に(つまり交互に)展開を見せていくということは対比になっているということでもあり、ロエンはまさにもう一方の、裏の主人公とも言える重要な位置にいます。
人間の力ではどうにもならない見えない何かが影響したとしか思えないからこそ、訪れた不幸に対して自分を無理にでも納得させるしかない……。
そんな偶発的な不幸に、もしも明確な原因が存在しているとしたら?
「納得できない」という感情をむき出しにして行動するとても人間臭いキャラクター、それがロエンです。
彼が苦悩して苦悩して手に入れたものは、結局苦悩だったのか。
いまや藤原さんに対する自分のイメージは、「藤原さん=ヒロシ」ではなく、完全に「藤原さん=ロエン」です。
■毎回思うのですが、収録の現場に行くと、キャラクターに命が吹き込まれる瞬間に立ち会うような気持ちになります。
「このキャラクターはこんな奴なのか」とハッとさせられたり、声優さんの演技に引っ張られて逆に演出を変更したりするような、ストーリーにプラスとなる効果を実感すると幸せな気分になりますし、今回もそのようなことが多々ありました。
気がついたら文章がものすごく長くなっていたのでここまでにしますが、今回書ききれなかった声優さんたち、フルボイスを許容するハードの進化、今回ブログに登場させていただいた声優さんと収録現場のスタッフの方々すべてに対してお礼を言いたいと思います。
『EoE』の音声収録は本当に作り手冥利に尽きる体験の連続でした。
関わった方々が恥ずかしく思わない出来のストーリーにはなったかなと思っていますので、
ひとりでも多くの方に『EoE』の世界を楽しんでいただけたらうれしいです。