[追悼抄]慶大教授・大西祥平(おおにし・しょうへい)さん
日本相撲協会の薬物対策に取り組む(3月18日、死去、57歳)
2008年9月、大相撲の露鵬、白露山のロシア人兄弟による大麻吸引問題に対応したときの厳しい顔つきが印象に残っている。再発防止検討委員会(当時)の委員として、抜き打ち尿検査で主導的な役割を担当。「露鵬は基準値の5倍、白露山は10倍の数値が検出された。彼らの体内に大麻があったのは事実だ」。科学的データを基に糾弾する表情は、禁止薬物への憎悪感がにじみ出ていた。
「力士の健康守りたい」が口癖
「『力士の健康を守りたい』が口癖だった」。相撲診療所前所長で慶大医学部の先輩でもある吉田博之さん(65)が振り返る。
現役力士の健康診断に目を配り、検査で体に重大な欠陥が見つかると、「引退勧告」を突き付けるつらい役回りも担った。関取の座を目前にして心臓の弁に疾患が見つかった力士に、「相撲を続ければ命を失うかもしれない」と説くのは心が痛む作業だ。本人や親方、両親も納得させ、引退までに半年かかったケースもあった。大西教授をスポーツ医学の世界に導いた山崎元・慶大名誉教授(67)は「患者に慕われる医師だった。だが、情に流されず、正しいと思ったことはやり通す人。彼だから、引退勧告を受けた力士も納得してくれたと思う」と話す。
ソルトレーク、トリノの両冬季五輪に医師として同行した。スポーツの奥深さに触れるうちに、純粋な勝負に水を差すドーピングに対する憎悪が増していったのだろう。「スポーツは真剣勝負。だからこそ、フェアでなければならない」。協会でともに薬物対策を推し進めた伊勢ノ海親方(元関脇藤ノ川)(63)は、熱っぽく話しながらドーピング対策を推し進める大西教授の姿が忘れられない。
全部屋の力士や親方衆、おかみさんも加えてドーピング講習会を開き、欠席者には後日、「補講」を行った。外国出身力士のために、英語やロシア語など5か国語のマニュアルを用意した。昨春に病で倒れて闘病生活を余儀なくされても、相撲協会の反ドーピング委員を辞めなかった。病床で「また相撲協会でドーピング対策をやりたい」と話していたという。山崎名誉教授は「相撲界だけではなく、日本のスポーツ医学界にとって大きな損失」と悼む。
幕内力士の平均体重は154・5キロ。内臓にかかる負担と戦いながら、白熱した勝負を繰り広げる。「体が資本」の男たちを支える、縁の下の力持ちだった。(東京本社運動部 下山博之)
(2010年5月1日 読売新聞)
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