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「工場労働者の反乱」で中国経済の漂流が始まる(1/2)

フォーサイト6月23日(水) 13時24分配信 / 海外 - 海外総合
中国で賃金引き上げを求める工場労働者の“反乱”が燎原の火のように全土に広がっている。台湾系EMS(エレクトロニクス製品の受託製造会社)大手の富士康(FOXCONN)で起きた生産ライン労働者の連続自殺がきっかけだが、底流には急激な経済成長にもかかわらず低賃金と劣悪な環境にとめ置かれてきた中国の最底辺労働者の蓄積した不満がある。富士康や、同じくストライキが起きた広州ホンダは賃金引き上げに応じたが、この勢いで中国全土の工場労働者の賃金が急上昇すれば、「世界の工場」としての中国の競争力が揺らぐのは間違いない。中国は今、過去10年の無理な急成長のツケに苦しみ始めた。

■富士康が実現した中国の成長モデル

 富士康は世界最大のEMSである台湾の鴻海精密工業が中国に工場展開する際に設立したグループ会社だが、実質的には鴻海グループそのものといってもよいほど大きな存在となっている。鴻海が受託する製品の8割以上は、富士康が中国全土に展開する工場で生産されているからだ。ノキア、アップル、デル、ヒューレット・パッカード、ソニー・エリクソン、任天堂、モトローラなど世界の大手エレクトロニクスメーカーでは、鴻海に生産を委託していない企業を見つける方が難しいほどだ。売り上げは7兆円前後と、委託するエレクトロニクスメーカーと肩を並べるどころか凌駕する規模だ。
 中国にとっても富士康の持つ意味は大きい。富士康は広東省、福建省、江蘇省、山東省など沿海部はもちろん、山西省、重慶市など内陸にも工場を広く展開、82万人もの中国人を雇用しているからだ。中国に進出している外資企業のなかで売上高、輸出額ともに2005年以降、トップを維持している。
 1978年にトウ小平氏が開始した改革開放政策によって中国は「世界の工場」にのし上がったが、その根幹は低コストの労働力を提供し、世界から生産拠点を集め、つくった製品をグローバル市場に輸出するモデルだった。その成長モデルを最も忠実かつ大規模に実現したのが富士康、すなわち鴻海だったといってよい。
 それが意味するのは、富士康の給与、待遇が中国全土の工場労働者のベンチマークになっていたということだ。他の外資はそれぞれの地域にある富士康の工場の給与や待遇をみたうえで、自社の待遇を決めていた。富士康が中国の労働市場に与える影響はきわめて大きかった。

■新世代が直面する社会矛盾

 発端となった富士康の深セン拠点の連続自殺の原因ははっきりしない。今年に入って13人もの自殺者(未遂を含む)があり、その大半が飛び降りというのも偶然というには無理がある。勤務の過酷さや行きすぎた管理体制が影響しているとみるべきだろう。そうした過酷さ、管理体制は「中国版女工哀史」として既に批判されている通りだ。だが、女工哀史的な労働現場なしには中国の輸出産業は成り立たないというのも間違いない事実だ。
 重要なのは、中国全体が貧しく、現金収入のために農村から沿海都市部に出稼ぎに来るほかなかった90年代までなら我慢できたものが、中国全体の生活水準が急激に向上し、生活コストの上昇で出稼ぎの実質可処分所得が減った現在、多くの労働者は境遇に耐えられなくなっているということだ。トウ小平氏は「20世紀末までに1人あたりGDP(国内総生産)を1000ドルに出来れば中国社会は小康を得る」とした。この目標は、すでに2000年に実現し、中国は平均でみれば貧困段階を抜け出したが、その後の10年足らずのうちに1人あたりGDPは3700ドルに達し、中国は中進国にまで進化した。もはや外形的には女工哀史の段階ではない。

――(2)に続く

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  • 最終更新:6月23日(水) 13時24分
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