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社説:角界底なし汚染 理事長の責任は重大だ

 全国の大相撲ファンがどれだけ腹立たしい思いをし、寂しい思いをしていることか。そのことを日本相撲協会は真剣に受け止め、痛みを感じているのだろうか。

 まさに「底なし」の様相を呈してきた相撲界の賭博汚染である。日本人最高位の大関や若手の期待力士の名前が次々と浮上し、現役の親方も野球賭博に手を染めていた。

 加えて深刻なのは、協会トップの武蔵川理事長が師匠を務める部屋の元大関・雅山関も野球賭博に加担していたことだ。

 野球賭博の胴元は主に暴力団で、その資金源になっているとされる。すでに多くの相撲関係者が「社会悪」に組み込まれている。現役大関の琴光喜関は野球賭博の口止め料として元暴力団組員に現金を脅し取られた疑いが強まっている。これほど明白な危機に直面していながら協会の対応は手ぬるすぎる。

 協会は21日の臨時理事会で第三者機関の調査委員会の設置を決めた。名古屋場所を開催するかどうかと、賭博に関与した親方や力士の処分は調査委の報告を受け、来月4日の理事会で決めるとしたが、一連のスピード感に欠ける対応は、実質的な「先送り」としか映らない。

 当面、名古屋場所は開催する方向で準備を進め、野球賭博をしていた力士の出場を見合わすこともあるという。協会が親方や力士名の公表をためらっている間に報道が先行し、大相撲のイメージは低下するばかりだ。疑惑に口をぬぐい、素知らぬ顔で土俵に上がる力士の相撲を誰が見たいと思うだろうか。賭博と無縁な対戦相手にも失礼だ。

 武蔵川理事長の責任も明確になっていない。今月11日、協会が野球賭博をしていた力士名を公表しなかったことについて、私たちは「指導責任を問われるべき師匠や親方を守ろうとしているのではないか」と指摘した。しかし、協会トップの「指導責任」を問う事態にまで至るとは想定していなかった。

 協会トップが部屋の不祥事の責任を回避したまま改革は進むのだろうか。ここにも重大な懸念が残る。

 「土俵際」「仕切り直し」「うっちゃり」など、日常生活でも使われる相撲用語は山ほどある。それほど相撲はわれわれ日本人の生活にとけ込んでいる。その日本固有の伝統文化としての相撲が一部の協会幹部や現役の親方たちの悲しいばかりの不見識と指導力不足で社会からレッドカードを突きつけられている。

 伝統ある大相撲を薄汚れた見せ物にしてはならない。協会は早急に体制を一新し、裏社会との不明朗な関係を断絶する以外に大相撲が国民娯楽として生き残る道はない。

毎日新聞 2010年6月22日 2時30分

 

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