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小沢氏不起訴(その2止) 「検察との対決」を演出、聴取応諾で活路

 <1面からつづく>

 ◇非小沢氏系七奉行、共倒れ危機「みんなで首相守ろう」 狙いは「小鳩分断」

 「検察当局の公平公正な捜査の結果はそのまま受け止めたい」。資金管理団体「陸山会」の土地購入事件を巡り、東京地検が不起訴処分を決めた4日夜、民主党の小沢一郎幹事長は党本部で記者団に淡々と語った。

 「検察との戦い」を党大会(1月16日)の舞台で宣言してから約20日。だが、検察への対抗心は党大会をピークに漸減し、同23日と同31日の2回にわたる東京地検の事情聴取を経て不起訴決着へと向かった。経過をたどると、検察との対決を「演出」しつつ、着地点を模索した「小沢戦略」の一端が見え隠れする。

 「徹底的に検察庁と戦ってやる」。元秘書の石川知裕衆院議員の逮捕を聞いた小沢氏は1月15日夜、東京都内のホテルで古くからの知人にぶちまけている。

 しかし、小沢氏が事情聴取に応じるのは既定路線だった。関係者によると、石川議員逮捕前には聴取応諾も視野に入れ、検察との対峙(たいじ)を通じ「身の潔白」を示す姿勢だった。この路線は石川議員逮捕後も貫かれた。

 昨年3月の西松建設事件の際は東京地検の事情聴取は見送られ、今回、1月初旬にあった聴取要請に小沢氏はしばらく応答しなかった。このまま突っぱねれば全面対決の様相も呈したが、それは回避した。

 1月23日の事情聴取後、当初は声明とされた小沢氏の説明は、自らの意向で記者会見に変わった。1日の記者会見でも2回目の事情聴取に応じたと明かした。小沢氏はこの会見で、刑事責任を問われた場合の幹事長辞任を示唆したが、「刑事責任を問われる事態は想定していない」とも言明した。

 「小沢氏には検察を押し切る自信があったのだろう」と周辺は語る。だが、「誤算」も生じた。

 検察との対決姿勢は党内に主戦論を生んだ。1月18日には「捜査情報の漏えい問題対策チーム」を設置。取り調べを録音・録画する可視化法案の早期成立を求める動きも強まった。しかし、動きはすぐに失速する。

 1月末、高嶋良充参院幹事長は可視化法案議員連盟会長の川内博史衆院議員に自重を要請。一連の動きを主導した党幹部は「党を巻き込んだ検察との対決を小沢氏は望んでいなかった」と振り返る。

 「大山鳴動してネズミ一匹も出なかった。巨額の国費で小沢氏の玄関をきれいに掃き、『クリーンだ』という口実を検察がつくってあげたようなものだ」。自民党幹部の一人は小沢氏と検察両方に不信の目を向けた。

 「小沢さんが4日に起訴でもされた場合、誰も事前に批判の声をあげていないのは党にとってよくない」

 東京地検の捜査が大詰めを迎える前の1月下旬、小沢氏に距離を置く民主党の枝野幸男元政調会長は、前原誠司国土交通相ら数人の親しい議員らと東京都内で会談した際、小沢氏の進退に言及する決意を打ち明けた。

 国会では自民党や公明党など野党が「自浄能力はあるのか」と「政治とカネ」の問題で追及を続ける一方、民主党内からは現職の民主党衆院議員逮捕という事態にひたすら「静観」を強いられ、焦燥感も広がっていた。

 枝野氏は1月31日、地元さいたま市での集会で「一定のけじめをつけるべきだ」と小沢氏の辞任を暗に要求。これに呼応して同じく非小沢氏系の前原国交相らも「自浄能力の発揮を」と足並みをそろえた。

 小沢氏批判ののろしが一斉に吹き上がった伏線は、約2週間前にすでに敷かれていた。

 「小沢さんは党と内閣を巻き込もうとしているのでは」「みんなでユキさん(鳩山由紀夫首相)を守ろう」

 民主党大会が開かれた1月16日の夜、東京都内の日本料理店に集まった小沢氏と距離を置く有力議員の会合で、出席者からそんな声が相次いだ。顔をそろえたのは渡部恒三元衆院副議長や、岡田克也外相、仙谷由人国家戦略・行政刷新担当相、野田佳彦副財務相、枝野氏ら。「七奉行」と呼ばれる非小沢氏系の議員の面々だ。

 表向きは「仙谷氏の誕生会」だったが、首相の「どうぞ戦って」発言で、首相が小沢氏を擁護しているとの印象が広まったことに「立件されれば首相と幹事長の共倒れ」と危機感を募らせ、対応策を練るのが主眼だった。

 非小沢氏系のある議員は「七奉行の一人が会合後、小沢さんとの関係について慎重に発言するよう首相に進言した」と語る。進言が奏功したのか、首相の発言はその後、小沢氏と距離をとる内容を交えるようになった。

 会合に出席した一人は「小沢氏に幹事長辞任を求めるより、鳩山首相と小沢さんの間に線を引くことが大事だった」と振り返り、一定の成果を強調した。

 党内の自浄作用をアピールし、「小鳩分断」を図った動きは小沢氏の不起訴で水面下に潜ったが、小沢氏に批判的な中堅議員は言う。「世間は小沢さんが不起訴になっても灰色と思っている。参院選が近付いても世論の逆風が続けば、タイミングを見てまた辞任を促す時が来るかもしれない」

毎日新聞 2010年2月7日 東京朝刊

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