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社説

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党首討論―増税の説明にもっと理を

 消費税率10%に言及した菅直人首相の意気込みは立派だが、明快さを欠く。参院選の争点に急浮上した以上、増税分をどう使うかといった説明も堂々とやってほしい。

 きのうの9党党首による討論会も、消費税をめぐる応酬が焦点だった。税率アップによる増収分の使途について、首相は「社会保障に回すべき消費税が足りないので、今は赤字国債で埋めている。このままでは財政が破綻(はたん)してしまうので、この分をまかなう」と強調した。

 だが、他の党首から「年金の財源に使うとした過去の説明と違う」「説明が足りない」などと突っ込まれた。首相は「財政資金を介護に使えば雇用も増える」といった中途半端な受け答えにとどまった。

 こんな状態ではいけない。首相は参院選を通じ、増税分の使途を含む大筋を掘り下げてわかりやすく説明し、有権者の納得を取り付けるため力を尽くさなければならない。

 とりわけ重要なのは、首相自身が掲げた「強い経済、強い財政、強い社会保障」と消費増税の関係である。増税で財政赤字を減らすだけでなく、経済成長を損なわず、社会保障の強化もできるという有機的な戦略の具体像を明らかにすべきである。

 首相は「増税しても景気回復は可能だ」と唱え、名目3%成長を目標に据えた。だが、国民の理解を得るには、より具体的なシナリオを示す必要がある。例えば、消費増税分が回る介護分野で雇用拡大、賃金改善、サービス向上や産業の発展をいかに実現できるのか。展望を示してほしい。

 消費税率の引き上げで「強い財政」を築く道筋もわかりにくい。

 政府はきのう、2020年度までの財政健全化方針を定めた財政運営戦略と、向こう3年間の中期財政フレームを閣議決定した。

 国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字を15年度には国内総生産(GDP)比で現状の半分に減らし、20年度には黒字化することを目指す。13年度までの国と地方の一般歳出の上限を今年度と同じ71兆円とし、新規国債の発行上限も44兆円余とすることに決めた。

 新規事業を始める場合には新規財源の確保か旧来事業の終了を条件とするルールも盛り込まれた。ところが、目標をいかに達成するかという肝心の点が抜け落ちている。

 首相は消費税率引き上げが早くて2〜3年後と述べた。それにしても15年の赤字半減目標達成への大まかな展望ぐらいは示すべきではないか。納税者はもちろん、財政赤字が大きい国の債務不履行に警戒感を高めている世界の金融市場も、確かな展望に裏打ちされた政治的決意を知りたいところだ。

原発輸出―インドへ?「非核」が泣く

 原発輸出を成長戦略のひとつにあげる菅直人政権が、インドへの原子力協力を検討している。原発1基で数千億円のビジネスである。関連企業にとって大きな商機と映り、政府内には景気・雇用対策としての期待もある。

 だが、これは経済的視点だけから判断するべきではない。日本は非核外交を看板にしている。核不拡散条約(NPT)に入らないまま核武装したインドに、原発やその関連技術・部材をおいそれと輸出するわけにはいかない。

 NPTの規定を厳格に守れば原子力の平和利用への協力を得られる。それが、NPTを支える原則のひとつだ。被爆国としてNPTに基づく核軍縮・不拡散を主張してきた日本までが、NPTに背を向けるインドと安易に協力すればどうなるか。ただでさえ、北朝鮮、イラン問題などで弱まってきたNPTの信頼性が、さらに空洞化する。

 原子力関連の輸出管理を論議する原子力供給国グループ(NSG)は2年前、インドへの輸出を例外的に認める決定をした。経済成長するインドとの関係強化をはかる当時の米ブッシュ政権の外交攻勢の結果だった。その後、米国、ロシア、フランスがインドと原子力協定を結んでいる。

 原子力業界では国際的な再編が進み、日本の大手メーカーも米国、フランスの企業と提携を進めてきた。インド原発の受注拡大をめざす米仏の企業は、日本の優れた部材を必要としている。日本もインドと原子力協定を結んで日本からも輸出できるようにしてほしい、との強い要請がある。

 日本政府も新興国インドとの関係を重視し、4月に訪印した直嶋正行経済産業相が原子力政策について意見交換する作業部会の設置で合意した。

 日本の非核外交の原則を崩さずに、インドと原子力協定を締結できるのか。政府内で検討中だが、菅首相は所信表明演説で、「核のない世界」に向けて先頭に立ってリーダーシップを発揮すると宣言した。その言葉とインドへの原子力協力に、どうやって整合性を持たせるか。

 「核のない世界」に一歩でも近づくには、できるだけ早く、インドも加わる核軍縮交渉の場をつくる必要がある。その道筋も示さず、そのための外交戦略も詰めないまま、インドと原子力協力を急ぐのでは、のっけからリーダーシップに疑問がわく。

 今週末にカナダで開催のG20の場でインド側に、日本の基本姿勢を伝え、改めて核軍縮を迫るべきだろう。

 成長戦略なら、すでに原子力協定がある中国の市場を重視すべきだろう。沿岸部に集中する中国原発の安全性を高めるためにも、耐震性、信頼性の高い日本の関連部材の輸出拡大を目指す。その方が日中双方の利益にもなるのではないか。

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