(cache) 裁判員1年 健全な良識さらに深めて

朝日新聞 2010年05月19日

裁判員1年 健全な良識さらに深めて

裁判員制度が始まって、この21日で1年になる。3月までの実施状況を先ごろ最高裁が公表したが、まずは順調な滑り出しを見せたと評価できよう。

もっともこれまでは起訴内容を争わない被告が大半で、証拠関係が複雑に入り組んでいるものや、死刑の選択が迫られるケースにどう対処するかは今後の課題だ。起訴に比べて審理された件数が少なく、事件が滞っているという問題も持ち上がっている。

法律家の努力と工夫が引き続き求められるが、とりわけ弁護人の活動がかぎを握ると言っていいだろう。裁判員経験者らを対象とする最高裁の調査や朝日新聞の取材でも、説明のわかりやすさなどの点で弁護人の評価は検察官や裁判官に後れをとっている。

組織をあげて取り組む検察に対し、それぞれ独立した存在である弁護士が対等に渡り合えるのか。懸念はかねて指摘されていた。だが、その困難を克服してこそプロフェッショナルだ。体験や意見を交換し、研究を重ね、力量を向上させていく必要がある。弁護士会はそのかなめとして、これまで以上のバックアップに努めてもらいたい。国選弁護体制の充実など、国による環境整備も欠かせない。

この1年は、裁判員の意欲や事情に最大限配慮する観点から制度が運用されてきた。今後もそれは大切にする必要がある。ただ、被告の権利をないがしろにした裁判であってはならない。最高裁の検証作業の中でも、裁判員が事実の究明に急なあまり、検察、弁護双方の主張を踏まえるという裁判のルールを外れた尋問をする例があると指摘された。法に基づいて、市民に果たすべき役割を丁寧に説明し、正しく導くことも法律家の使命である。

そうした問題は一部あるにせよ、法廷での言動や判決、アンケートなどを通して見えてくるのは、健全で良識をもった裁判員の姿だ。被害者の境遇に思いを寄せ、犯行に至るまでの事情に時に涙し、刑務所での処遇に関心を払い、被告の立ち直りを気づかう。

専門家任せであまり考えることのなかった問題に、国民の視線が向かいつつある。認識の深まりは、被害者への支援や罪を犯してしまった人の社会復帰、そして犯罪に強い地域づくりに取り組んでいく基盤にもなるだろう。

市民の司法参加が本決まりになった9年前、私たちは期待も込めて、法廷は主権者である国民が社会のあり方を考える場となり、民主主義が進化・発展する契機にもなると指摘した。

裁判員制度はまだ緒に就いたばかりで、この先、疑問や批判が寄せられる局面も少なからずあると思われる。正すべき点を正すのは当然だが、ひとつひとつの事象にいたずらに惑わされることなく、冷静な目でこの制度の将来を見守っていきたい。

毎日新聞 2010年05月21日

裁判員制度1年 「よい経験」深化させよう

裁判員制度が始まって21日で1年になる。最高裁が昨年末までの裁判員経験者に実施したアンケートによれば、「よい経験」と感じた人が96・7%に達している。

「社会人として、社会のことをじっくり考えるのは非常にいい」「それぞれの背負ってきた人生が反映された意見を十分に言えた」などの声が代表的なものだ。法律のプロもおおむね積極的に評価しており、順調なスタートと評価できよう。

事件によって、従来の裁判と異なる傾向が出ており、専門家も注目する。例えば、強姦(ごうかん)致傷の量刑分布をみると、裁判官だけの裁判より厳罰化の傾向がみられる。外形的な傷だけでなく、被害者の心の痛みに重きを置いた結果かもしれない。

一方で、刑の執行猶予を言い渡す際に、保護観察を付けるケースも増えている。保護観察官や保護司に定期的に面会して生活指導を受ける制度である。刑罰だけでなく社会内での更生に力を注ぐべきだ。そう考える人が少なくないことを示す。

全国的に保護司不足が言われて久しいが、政府が刑事政策の優先順位を決める参考にしてほしい。

問題点も浮き彫りになってきた。

事前に争点や証拠を絞り込む公判前整理手続きの長期化がその一つだ。対象事件の公判前整理手続きは、制度開始前年の3・4カ月から4・2カ月に延びた。

裁判がなかなか始まらないため、制度開始から今年3月までに起訴された被告の4人に1人しか判決を受けていない。原因として、検察と弁護側の駆け引きや、裁判所の慎重な訴訟指揮などが指摘される。

裁判開始が長引くのは、被告の立場からも望ましくない。検察はまず、積極的に証拠を開示することだ。それにより、弁護側が早期に主張を明確化することが可能になる。裁判所も含め、裁判の渋滞を招かぬよう改善に努めるべきである。

京都地裁では今月10日から、これまで最長の9日間の裁判員裁判が行われた。足掛け2週間の裁判は、さぞかし長く感じられただろう。

今後も、否認事件や死刑求刑事件など審理に時間がかかる裁判が出てくる。裁判所は、裁判員の体調や心のケアにも目配りしてほしい。

施行3年が経過すれば、必要に応じて見直しが検討される。裁判員にばかり目が向くが、防御権など被告の権利が適正に守られているかの検証が必要だ。また、経験が十分に語られなければ、国民全体への理解は深まらない。厳しすぎる裁判員の守秘義務の緩和も課題の一つである。

裁判員制度が中長期的に順調に運用されれば、将来的課題である民事裁判への国民参加の道も開けよう。

読売新聞 2010年05月23日

裁判員制度 1年間の検証を改善に生かせ

裁判員法が施行されてから1年が経過した。裁判員裁判は、(おおむ)ね順調に実施されている。

だが、一方で課題も見えてきた。これまでの公判の綿密な検証を行い、問題点を改善していくことが大切だ。

最高検によると、裁判員法が施行された昨年5月21日からの1年間に、対象事件で530人に判決が言い渡された。一つの事件で6人の裁判員が選ばれることから、これまでに全国で3000人以上が裁判員を務めたことになる。

多くの公判は3~4日間で終了している。だが、京都地裁で20日に判決が出た事件の公判は、これまでで最長とみられる9日間を要した。傷害致死罪などに問われた被告の精神鑑定医らの証人尋問に多くの時間が割かれたためだ。

今後は死刑の適用などを巡り、より長期化する公判もあろう。

裁判員に過度の負担がかからないよう配慮しながら、十分に審理を尽くすためには、裁判官はもちろん、検察官、弁護人が効率的な公判の進行に留意することが肝要である。

大きな課題として浮かび上がったのが、裁判員裁判の約2割を占める性犯罪の公判のあり方だ。

帰宅途中の女性に乱暴し、負傷させた男について、大分県警が、裁判員裁判の対象である強姦(ごうかん)致傷容疑ではなく、対象外の強姦容疑で送検したケースがあった。

女性が、「事件を知られたくない。裁判員裁判だけは嫌」と訴えたからだという。

検察は結局、強姦致傷罪で起訴し、被告は裁判員裁判で裁かれることになった。

女性が負傷した以上、検察の対応は、公正な処罰の観点から適切だったといえるが、公判では、被害者のプライバシーの保護に、十分に配慮しなければならない。

現在、法廷では、被害者の氏名を明らかにせず、被害者が証言する際には、別室からモニターを通じて語るビデオリンク方式などを用いている。こうした措置だけで十分なのかどうか、検討を重ねていく必要があるだろう。

懸念されるのは、裁判員裁判を敬遠するために被害届を出さずに泣き寝入りする被害者が増えるのではないかということである。

このほか、起訴から公判まで時間がかかり過ぎるといった問題点も指摘されている。

裁判員法は、必要があれば2012年以降に制度を見直すよう定めている。法曹界は、裁判員経験者の意見を参考に、制度の改善に努めてほしい。

産経新聞 2010年05月24日

裁判員施行1年 定着へ長期化など是正を

一般市民6人が刑事裁判の審理に参加する裁判員裁判が21日で施行から丸1年を迎えた。大きな混乱もなく、順調なスタートを切ったが、制度の定着にはまだ克服しなければならない課題が少なくない。検証を積み重ねて是正していきたい。

最高裁が行ったアンケートによると、裁判員となった市民のほとんどが「よい経験をした」「参加してよかった」などの好意的回答を寄せている。最高裁の竹崎博允長官は会見で「国民の積極的な姿勢によるところが大きい」と語った。国民の協力なくしては、この制度が運用できないことを改めて感じる。

ただ、これまでの裁判の大半は被告側が起訴事実を認めて量刑を争うものばかりだった。裁判員にとっては比較的審理しやすい事件で、公判もおおむね3~4回と短期間で結審している。

日本弁護士連合会(日弁連)は「審理しやすい裁判ばかりで、順調に推移したのは当然だ。2年目に入ったこれからが、定着への正念場となる」と説明している。

今後は、死刑求刑や被告側が否認する事件も増えてくる。また、被告の刑事責任能力をめぐって検察、弁護側双方が激しく対立する場合も想定され、裁判員の負担も大きくなる。

問題点はこうだ。起訴から公判までの期間が長期化している。裁判迅速化のために、裁判員裁判では、裁判官、検察官、弁護人の法曹三者が初公判までに必ず公判前整理手続きを行い、争点や証拠を絞り込んで初公判に臨むことが裁判員法で義務付けられている。

最高裁によると、起訴から判決までの期間は約6カ月で、このうち公判前整理手続き期間は平均4・2カ月だ。制度開始前(平成20年)の対象事件で要した3・4カ月を上回っている。

関係者が慎重になり過ぎ、手続きに時間がかかるのが原因のようだ。法曹三者は互いに協力して手続きを進める必要がある。もちろん、拙速な審理が冤罪(えんざい)につながりかねないことも肝に銘じたい。

性犯罪の被害女性が裁判員裁判を躊躇(ちゅうちょ)する例もあった。プライバシー保護と正義の追求にはこまやかな配慮と工夫が欠かせない。

守秘義務の範囲が曖昧(あいまい)なことも課題だ。裁判員に厳格に守秘義務を課せば、経験者は自由に体験を語れなくなる。新たに裁判員となる人のために、守秘義務の緩和も早急に改めるべき課題だろう。

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