民主党の参院選マニフェストに盛り込まれた外交・安全保障政策は、昨年の衆院選マニフェストからの方針転換となった。日米関係の内容は、日米地位協定改定の提起を除いて自民党のそれと大差ない。対米配慮の姿勢がにじむ。これが、菅直人首相の強調する「現実主義を基調とした外交」なのだろう。
衆院選公約との大きな違いは三つある。第一に、衆院選で外交政策の冒頭に掲げられ、看板だった「緊密で対等な日米関係」は、地位協定改定を目指す項目の中でしか触れられていない。代わりに前面に出たのが「日米同盟の深化」である。
第二に、衆院選公約の「米軍再編や在日米軍基地のあり方の見直し」が削除された。そして、米軍普天間飛行場を沖縄県名護市辺野古に移設するとした「日米合意に基づいて沖縄の負担軽減に全力を尽くす」という項目が盛り込まれた。
日米合意で「見直し」に区切りがついたとの判断に加え、日本を取り巻く安全保障環境から在日米軍基地の新たな見直しは米国の同意を得にくいという考えがあるのだろう。
第三に、「『東アジア共同体』の実現」は引き続き掲げる一方で、中国に「国防政策の透明性」を求める方針を新たに盛り込んだ。
鳩山由紀夫前首相による「東アジア共同体の構築」の主張は、「対等な日米関係」とあわせて、米国内で「離米入亜」「親中国」の代名詞のように受け取られることもあった。このため、中国の国防政策に言及してバランスを取ったと見られる。
方針転換の結果、米国に提言したりモノを言うというより、対米協調を強く印象づけるものとなった。地位協定改定は、柱の一つとなる米軍基地の環境問題への対応が5月末の日米合意に盛り込み済みだ。日米関係は、「日米同盟の深化」や「沖縄の負担軽減」などを掲げる自民党の参院選公約とほぼ同じ内容である。
鳩山政権が普天間問題で米政府とぎくしゃくし、倒壊したことの揺り戻しなのだろう。菅民主党は対米協調こそが政権維持の前提という教訓を引き出したようだ。
しかし、鳩山政権の外交・安保政策の問題は、掲げた目標を実現する戦略と構想力を欠いたことだった。菅民主党はこの教訓を無視して、普天間の「辺野古回帰」と同様、対米方針の「自民党政策への回帰」で当面を乗り切ろうとしていると受け止められても仕方ない。
一方、自民党は、集団的自衛権行使を念頭に置いた安全保障基本法や、自衛隊の海外派遣のための恒久的な国際平和協力法の制定を掲げ、民主党との違いを鮮明にしている。
毎日新聞 2010年6月18日 東京朝刊