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社説:日中首脳会談 「互恵」は約束の実行から

 東シナ海のガス田開発と、ギョーザ中毒事件に象徴される中国製食品の安全の問題は日中間の大きな障害となってきた。鳩山由紀夫首相と温家宝中国首相の会談で、この二つのトゲが抜かれることになったことを歓迎したい。

 ガス田問題は日中両政府が08年6月に共同開発などで合意した。東シナ海の日中中間線付近のガス田のうち「白樺(しらかば)」(中国名・春暁)の開発に日本企業が出資し、その北にある「翌檜(あすなろ)」(同・龍井)の南側海域で共同の資源探査を行うという内容だ。具体的な海域や利益配分などは事務レベルで詰めて協定を締結することになっている。

 日本側は外相会談などで再三、協議の開始を促してきたが中国側は「環境が整っていない」と消極的だった。しかし、31日の会談で温首相は「東シナ海を平和協力、友好の海にするための08年合意を実施に移したい」と明言し、双方が条約締結交渉の早期開始で合意した。

 中国側の大きな変化である。だが、基本的には2年前の状況に戻ったにすぎない。東シナ海での主権がからむため中国側には国内の反発など難しい問題があるようだ。しかし、首相が約束したからには必ず実行に移してもらわなければならない。

 もう一つのトゲだった「食の安全」問題は双方が「日中食品安全推進イニシアチブ」に正式合意したことで一応解決した。食品事故があった場合、相手国の同意のもとで製造現場の立ち入り調査を認めることなどが柱だ。新しい仕組みが有効に機能するよう両政府は真剣に取り組む必要がある。

 鳩山首相は中国海軍が日本近海で活動を活発化させていることに懸念を表明した。最近、東シナ海で中国海軍の艦載ヘリコプターが海上自衛隊の護衛艦に異常接近したり、中国の海洋調査船が日本の排他的経済水域(EEZ)内で海上保安庁の測量船に接近して調査中止を迫ったことなどを念頭に置いたものだ。

 この問題について温首相からは直接的な言及はなかったとされるが、双方は再発防止に向けた海上危機管理メカニズムの早期構築で一致し、首脳間の電話ホットライン設置でも合意した。ホットライン設置は温首相からの提案という。安定した日中関係を壊したくないという中国側の姿勢を前向きに受け止めたい。

 08年5月の日中首脳会談で「戦略的互恵関係の包括的推進」を確認して以降、首脳会談や首脳相互訪問は頻繁に行われるようになった。今回の温首相訪日もその一環だ。互恵関係は、まずは約束事の着実な実行から始まることを両首脳には深く認識してもらいたい。

毎日新聞 2010年6月1日 東京朝刊

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