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社説:首相辺野古明言 沖縄の反発強める愚策

 道理もなく、実現性も見えない案に回帰したところで道が開けるはずはない。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の同県名護市辺野古への移設案は、鳩山政権の新たな混迷の引き金になる可能性さえある。

 鳩山由紀夫首相は23日、沖縄を再訪して仲井真弘多県知事、稲嶺進名護市長ら沖縄北部市町村長と相次いで会談した。この場で首相は初めて具体的な移設先を明らかにした。

 知事との会談で首相は、県外移設の約束が守れなかったことを謝罪するとともに、「(普天間の)代替地は辺野古付近にお願いせざるを得ない」「断腸の思いで下した結論だ」と語り、訓練移転など沖縄の負担軽減を図る考えを伝えて理解を求めた。知事は辺野古移設について「大変遺憾だ」「極めて厳しい」「県外、国外という県民の熱い思いとの落差が非常に大きい」と述べた。受け入れは困難との表明である。

 また、首相と市町村長の会合で、稲嶺市長は辺野古移設について「極めて残念で怒りを禁じ得ない」「実現可能性はゼロに近い」などと、明確に受け入れを拒否した。

 日米両政府は22日、移設問題で米軍キャンプ・シュワブ沿岸部(辺野古)に滑走路を建設し、普天間の基地機能の県外への分散移転を検討することなどで基本合意した。移設先は現行の日米合意案とほぼ同じだ。それ以外は事実上の先送りである。首相が国民に約束した、移設先、米政府、連立与党の合意による「5月末決着」は空証文に終わった。普天間問題は展望が開けないまま先送りされることが確実になった。

 仲井真知事は会談後、首相の辺野古移設案について「(県民の間で)失望感というか、裏切られたという感じが非常に強くなっている」と語った。率直な思いであろう。地元・沖縄が「首相の要請」を受け入れる状況は、今まったくない。

 また、知事は日米両政府が辺野古移設で合意後、県に方針を伝えた手法について「(日米)政府間の話は、決まってからでしか地元に(報告が)ない」と不信感を表明した。もっともである。日米合意の翌日に沖縄を訪れた首相は、県民には政府間合意を伝えるメッセンジャーとしか映っていない。

 普天間問題が浮上して10年以上になる。移設先の合意を取り付ける難しさこそが、解決に長期間を要している最大の理由である。新たな基地を建設するには、地元の理解が必須であることは明らかだ。鳩山政権が、この教訓を無視して基地建設を押しつけても成算はない。

 首相の方針は「5月末決着」の体裁を繕うものに過ぎない。最悪の事態である普天間の継続使用が現実味を増していることに気付くべきだ。

毎日新聞 2010年5月24日 東京朝刊

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