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きょうのコラム「時鐘」 2010年6月23日
きのうの紙面の女優・藤山直美さんの言葉に心が引かれた。8月に金沢や富山で公演する。その抱負を語る中に、「芝居のはらわたは人情の機微や人間模様」とあった
「はらわた」は、一番大切なもの、と読み取れる。今どきの流儀なら、「コンセプト」やら「エッセンス」などと、生半可な片仮名を気取って使うが、言葉の重みがまるで違う。名優だった父・寛美さんの教えだろうか そんな言葉を教わっても、はらわたがちぎれたり、煮えくり返ったりする七転八倒を味わわなければ、自分の言葉にはなるまい。「はらわた」の一語を口にするだけで、役者の覚悟が伝わってくる 大腸の内視鏡検査で、はらわたは実感できる。指示に従って体の反転を繰り返し、腸の中にカメラを通す。養分をとるために、わがはらわたは何度も曲がりくねり、入り組む。芝居づくりも、そんな道筋をたどるのだろう 物事は曲折を経て進む。日本のサッカーは、急に強くはならない。政権交代で暮らしが急に変わりはしないだろう。高望みは、早過ぎる失望につながるだけである。藤山さんから、良い言葉を教わった。 |