事件・事故・裁判

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

口蹄疫:大規模化で感染加速 埋却地の確保難しく--宮崎・川南町

 <追跡>

 宮崎県で口蹄疫(こうていえき)感染が広がった原因の一つに、牛の数百倍から1000倍もウイルスを放出するとされる豚に感染が広がったことがある。現場では何が起きたのか。豚への感染が最初に見つかった同県川南町から報告する。【川上珠実】

 「試験場の豚にも出たらしいぞ」。4月27日午後2時過ぎ、川南町の養豚農家、甲斐利明さん(50)は養豚仲間からの電話に耳を疑った。宮崎県は同日夕、県畜産試験場川南支場の豚5頭の鼻腔(びこう)に口蹄疫特有の水疱(すいほう)が破裂した跡を確認した、と発表した。

 国内で初めて確認された豚への感染疑い。この日を境に感染は加速度的に広がった。

 「この町の牛と豚はもう終わりだ……」

 甲斐さんは自宅でニュースを見ながら、ぼうぜんとつぶやいた。近代的な県の施設がウイルスの侵入をいとも簡単に許したショックは大きかった。

 祖父の代に開拓者として入植し、庭先の数頭から飼い始めた豚は1000頭にまで増えた。4月、隣接する都農(つの)町で1例目の感染疑い牛が確認されると、防疫を徹底した。日に何度も石灰をまくため、夜はせき込んで眠れなかった。ウイルス侵入の恐怖との闘いが続いた。

 現代の養豚業は1000頭超の大規模経営が主流で、企業経営なら5000頭以上もざらだ。町内には大規模農家が多く、ウイルスまん延につながった。

 埋却地の問題が輪をかけた。家畜伝染病予防法(家伝法)は、感染疑いの家畜の処分を発生農家に義務付けている。処分用地がないため自費で購入する必要があり、処分に時間がかかる農家も出た。一方、同町は地下水が豊富で、見つけた土地で地下水が出たために埋却できないケースも相次いだ。用地選定の遅れが、処分すべき家畜を延命させ、ウイルスを放出させ続けたとみられている。

 1951年施行の家伝法の想定を超えた経営規模の拡大と、農家側に埋却地確保を担わせる法の規定、さらには土壌の問題と悪条件が重なり、感染は一気に爆発した。

 甲斐さん方の豚は5月24日、ついに殺処分を前提としたワクチン接種を受けた。

 「心の中では早く楽になりたい。なんとか殺処分の日まで感染させずに元気に育てたい。今はそれだけ」

 かすれ声はやがて涙声に変わっていた。

毎日新聞 2010年6月22日 東京朝刊

PR情報

事件・事故・裁判 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド