10年前と何が違うのか。宮崎県内で家畜伝染病の口(こう)蹄(てい)疫(えき)の感染が食い止められない。被害は雲泥の差になった。
宮崎県の基幹産業である畜産業は大丈夫か。そんな不安も脳裏をかすめる。
いまから10年前の2000年3月、宮崎市の1戸の農家で口蹄疫に感染した疑いのある牛が見つかった。検査の結果、国内では92年ぶりの発生が確認された。
翌4月、隣接する高岡町(現宮崎市)の農家2戸で相次いで感染牛が出た。
なお警戒は続いたが、これ以上の感染は出なかった。10年前は、この3戸で感染をくい止めたのだ。それでも、終息を宣言するまでほぼ50日間を要した。
今回はどうか。都農町で口蹄疫に感染した疑いのある牛が確認されたのは、先月20日だった。
翌21日、都農町の南側に接する川(かわ)南(みなみ)町でも感染の疑いがある牛が見つかった。その後も連日のように感染が疑われる事例の報告が続き、今月12日現在で76例に達し、9割が川南町に集中している。
被害を大きくしたのは、牛に続いて豚にも感染が広がったことがある。養豚農家などの被害は30例余りを数える。
畜産農家は規模拡大で生き残りを図ってきた。国も県もそれを奨励した。
農家1戸当たり平均規模は鶏が最多で、豚、牛と続く。宮崎県では豚の平均飼養頭数は2000年の842頭から07年には1386頭に大幅に増えている。
これも裏目に出た。1頭でも感染の疑いが持たれれば同じ農場の牛や豚はすべて殺処分しなければならない。
被害が集中する川南町では、豚1万5千頭規模のほか、8千―3千頭など大型農場で疑い事例が出て、合計7万頭超の豚を処分しなければならなくなった。
人には感染しないし、万が一、感染した肉を食べても人体には影響はない。家畜間の感染拡大を阻止するためだが、生産者は身を切られる思いだろう。
川南町は「畜産王国」を自負する。
町のホームページには「(畜産の)歴史は古く、藩政時代から続く。そんな伝統が川南の畜産技術を高めてきたのであろう。高品質、安定供給には定評があり、横の連帯感も強い」などとある。
05年度の統計では372戸の畜産農家で粗生産額は152億円だった。
町の基幹産業が壊滅的な打撃を受けている。まずは口蹄疫を完全に封じ込めることに全力を挙げるしかない。終息のめどを付け、休止中の家畜市場など流通を一日も早く再開する必要がある。
そして、失意の底にある生産者に再建に向けて立ち上がってもらわなければならない。国の手厚い措置も必要だ。もっと広く励ましや支援の手が差し伸べられることも有効ではなかろうか。
女子プロゴルフの横峯さくら選手が賞金1200万円全額を宮崎県に寄付するという。誰でもできることではないが、畜産王国・宮崎を支えるため、物心両面からの幅広い支援を一層強めていく時だ。
=2010/05/14付 西日本新聞朝刊=