きょうの社説 2010年6月22日

◎人民元の弾力化 元高も手放しでは喜べない
 中国が人民元相場の弾力化を高める方針を決めたのは、米国との「貿易戦争」を回避す る狙いとともに、人民元上昇を抑えるために行われてきたドル買い・人民元売り介入がもはや限界に近づいたためだろう。人民元の緩やかな上昇は世界経済にとって好ましく、日本の景気回復にもプラスになる。中国向け輸出が多い北陸の製造業にとってはビジネスチャンスが広がる期待も膨らむ。

 人民元の弾力化は、中国がこれまでのような輸出一辺倒ではなく、内需拡大で成長して いくという宣言でもある。世界市場を席巻してきた安い中国製品が元高によって適正価格に収束していくなら、デフレに苦しむ日本にも朗報だが、中国に生産拠点を置いている日本企業にとっては手放しでは喜べない。元高によって輸出競争力がそがれるだけでなく、ますます労働争議の多発と過激化に苦しめられることになるからだ。

 中国国内で発生した労働争議は、昨年だけで60万件に達した。ホンダやトヨタといっ た大企業はもとより、中国に進出した中小企業も中国国内のインフレ圧力をもろに受け、既に大幅な賃金アップを飲まされるケースが続出している。元高と中国の内需拡大政策は中国進出の外国企業にとって、もろ刃の剣と言ってよい。

 中国政府は、外国資本の投資を促進する政策方針を転換し、賃上げ促進に大きくカジを 切ったと考えられる。国際競争力を犠牲にしてでも「所得倍増」による内需拡大を図らねば、労働者の不満を抑え切れなくなっているのだろう。

 中国は2007年に、労働者の解雇を厳しく制限する「労働契約法」を制定した。労働 者はストを連発しても解雇の不安が消え、これまで企業側に立ってくれた地方政府も口を挟まなくなった。工場をたたんで撤退したくても、労働者の解雇には相当の賠償金支払いが必要になり、合弁企業の場合は地方政府と合弁相手の了解を得るために、莫大な違約金を要求されるケースが目立つという。

 日本企業が中国に生産拠点を置く利点の多くは失われた。産業の空洞化を防ぐためにも 国外より国内立地を真剣に考えてほしい。

◎授業時間の確保 夏休みや土曜も活用を
 授業時間や学習内容を増やす新学習指導要領が小学校で2011年度、中学校で12年 度までに全面実施され、小学校では来春から教科書の厚みが格段に増す。学びの中身が変われば、それに応じて授業の在り方も見直しを迫られるだろう。

 金沢市議会では、土曜授業復活を求める質問に対し、教委側が現段階で検討していない としたが、新学習指導要領のもとでは、長期休暇の活用を含め、授業の時間設定の工夫が一層重要になる。土曜日をことさら「聖域」扱いしなくてもよいのではないか。

 実際、東京都教委は今年から、公立小中学校が希望する場合、地域への公開を条件に、 月2回を上限として土曜日に授業を行うことを認めた。正式な授業ではないが、県内でも能美市教委が2008年度から、土曜日の午前中に教員OBらが児童の学習を支援する「フォローアップスクール」事業に取り組んでいる。

 同様に「土曜寺子屋」「土曜スクール」などと銘打って補習を始める動きは全国各地に ある。平日の授業が窮屈になれば、体験学習や行事などを、これまで以上に積極的に土曜や夏休みに移す選択肢もあろう。脱「ゆとり教育」に合わせ、学校現場が柔軟に選択できる環境を整えていくことは教委の重要な役割である。

 夏休みの活用については、県内でも期間短縮や新学期前に「ウオームアップ週間」を設 定するなど取り組みが広がっている。土曜日に関しては、安倍政権時代の教育再生会議が「必要に応じ土曜日の授業も可能にする」と提言し、学校完全5日制の見直しに言及した。自民党の参院選マニフェストでも、この考え方に沿って「土曜日授業の再開」が盛り込まれたが、新学習指導要領の移行を控え、今後は保護者の関心も高まってくるだろう。

 従来の「ゆとり教育」は、学校5日制を前提に進められてきた。既存の枠組みに新たな 教育内容を詰め込めば、どこかでひずみが生じることになる。地域の人材や教員OBの活用を含め、教委の現場支援は極めて重要である。