犯罪が多い国かどうかを各国の犯罪統計(公式的な業務統計)の結果から比較することは、各国の法体系上、軽犯罪をどこまで含めるかが異なり、また、どうせ捕まらないと考えている犯罪を被害者がどれだけ訴えるかが国によって異なるので難しい。一番効率的な比較方法は、直接、一定の期間に一定の犯罪の被害を受けたか共通の質問票で調査することである。こうした調査である「国際犯罪被害者調査」(国連地域間犯罪司法研究所(UNICRI)と国連薬物・犯罪局(UNODC)によって実施)に多くのOECD諸国が参加しており、ここではその結果をグラフにした(データはOECD
Factbook 2006・2009による)。 国際犯罪被害者調査は世帯を対象として行われ、世帯員のうち過去1年間に犯罪の犠牲となったかを調べている。ここで被害率の対象となっている犯罪は非在来型の消費者詐欺、汚職を含まない在来型の10犯罪であり、具体的には、自動車泥棒(Theft of cars)、車上荒らし(Theft from or out of cars)、オートバイ泥棒(Motor-cycle theft)、自転車泥棒(Bicycle theft)、侵入窃盗(Burglary with entry)、窃盗未遂(Attempted burglary)、置き引き・すり(Theft of personal property and pick-pocketing)、強盗(Robbery)、女性に対する性犯罪(Sexual offences against women)、暴行・恐喝(Assaults or threats)である。なお1990年データはこれらに加えて自動車損壊を含む11犯罪が対象となっている。 在来型10犯罪と非在来型2犯罪の各々の犯罪被害者率については、日本とOECD平均について図録2788cに掲げた。 犯罪に関する業務統計とここで使用する調査統計の結果を比較すると、多くが自動車関連の犯罪である点は共通であるが、暴行、特に性的暴行はほとんどの国で業務統計上は報告されることが少ないとのことである(OECD Factbook 2006)。 日本の犯罪率は、2005年に9.9%とスペインを除いて先進国中最低である。1990年の8.5%から2000年の11.9%へと増加したが、その後2005年にかけては再度9.9%へと減少している。図には掲げていないがOECD諸国の平均も2000年から2005年にかけて犯罪率は18.5%から15.5%へと低下している。日本の対OECD比は、同じ時期に0.645から0.639へと低下しており、相対的にも犯罪の少ない国としての地位を高めている。 すなわち、犯罪が増えているという当局やマスコミの発表とは異なり、日本は依然として犯罪の少ない安全な国であり、また安全な国としての地位をさらに高めているのである。 興味深いのは犯罪率の高低と治安への不安の程度は比例しないということである。以下に、同じ調査の中で行われた不安度調査の結果と犯罪率の相関図を掲げた。これを見ると、日本の犯罪率は最低水準であるが治安への不安は、35%の人が感じており、最も高いレベルにある。それだけ日本人は治安に対して敏感であるということがうかがわれる。日本とは対照的に、犯罪率がトップレベルにあるアイスランドは治安への不安度は最低レベルである。 多くのOECD諸国でも犯罪は減少傾向にある。犯罪の減少が目立っているのは、米国、カナダ、オランダ、ポーランドである。特に米国は、1990年段階では、世界1の水準であったが(よく言われた「犯罪大国米国」)、2000年と2005年には犯罪率の中位水準にランクされるに至ったため、それだけ余計に、目立っている。 米国の犯罪率が低下した後、2005年段階で、犯罪率が高いことで目立っているのは、アイルランド、ニュージーランド、アイスランド、英国といった諸国であり、これらの国は犯罪率が20%を越えている。 同じ調査から途上国の主要都市の犯罪率を図録9370に示した。 調査の対象国は26カ国であり、犯罪率の低い順に、スペイン、日本、ハンガリー、ポルトガル、オーストリア、フランス、ギリシャ、イタリア、フィンランド、ルクセンブルク、ドイツ、ポーランド、ノルウェー、スウェーデン、オーストラリア、カナダ、米国、ベルギー、スイス、メキシコ、デンマーク、オランダ、英国、アイスランド、ニュージーランド、アイルランドである。 なお、一般論として、犯罪発生件数やその増加を取りまとめるのは、犯罪の取締当局(警察)自体であり、犯罪統計の発表の仕方も予算獲得のため犯罪の増加や警察官の不足、国民の安全確保ニーズを強調しがちとなる傾向があると見た方がよかろう。そうした意味からは、ここでふれたような調査統計の数字は貴重といえよう。私が農業経済学を学んでいたときに教わったのは、統計については、真実の把握のためには、業務統計はダメで調査統計でなければならないということであった(この点については図録作成方針も参照されたい)。 (2006年9月23日収録、2009年4月11日更新) |
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