牛や豚、鶏といった家畜だけでなく、米麦や野菜、果樹も常に病虫害を受ける危険にさらされている。生産者が注意を払っていても完全に防ぐのは難しい。
ただ、一度発生すると地域の農業全体に大きな影響を与える場合がある。行政も含めて防御に見落としなどはなかったか、丁寧に点検してみる必要がある。
宮崎県内で家畜伝染病の口蹄疫(こうていえき)の発生が確認された。今月20日、都農町の農家で感染が疑われる牛3頭が見つかり、検査の結果、口蹄疫ウイルスが確認された。国内での発生は10年ぶりである。
症状は発熱や多量のよだれのほか、口や蹄(ひづめ)などに水(すい)疱(ほう)ができるのが特徴とされる。牛や豚、イノシシなどがかかるが、人に感染することはなく、感染した牛の肉などが流通することもない。仮に感染牛の肉を食べても人体に影響はない。
口蹄疫や強毒性の鳥インフルエンザ、豚コレラなどは海外からの侵入を防ぐのが難しく、越境性感染症と呼ばれる。
日本では1908(明治41)年以降、長く口蹄疫は発生していなかった。ところが、2000年に南北に大きく隔たった宮崎県と北海道で相次いで発生した。
このとき、「これが原因ではないか」といわれたのが中国産麦わらだった。
原因ウイルスの分析の結果、東アジアから侵入した可能性が高い。最初に発生した農場では、ウイルスが生存しやすい冬季に輸入された中国産麦わらを使っていた。中国産麦わらは当時、宮崎県と北海道で飼料として大量に使われていた。
だが、原因は特定されなかった。
ただ、口蹄疫発生を受け、これを教訓とした二つの動きがあった。
一つは、農水省が飼料用わらを輸入から国産に転換することにし、稲わらの栽培促進に助成制度をつくったことだ。
もう一つは国際獣疫事務局(OIE)による東アジア地域の口蹄疫会議が東京で開かれたことだ。地域全体で情報の収集と共有、会議の定期的開催、診断体制の強化に取り組む必要性が強調された。
それから10年になるが、飼料用稲わらの完全自給はなかなか難しい。一方、日本の周辺地域の状況はどうだったのか。
2009年初めから中国や台湾では散発的に口蹄疫が発生していた。今年に入ると中国、台湾に加えて韓国でも発生、日本は包囲される格好になっていた。
ここ数年、越境性感染症では強毒性の鳥インフルエンザ対策が最優先だった。その分、口蹄疫を警戒しつつも万全な態勢をとれなかったということはないか。
畜産王国の南九州では飼育頭数を増やし、規模を拡大することで生産者は生き残りを図ってきた。だが、大規模化するほど万が一、家畜伝染病などが発生した場合の打撃は大きくなる。国内生産者のリスク低減のためにも国際協力で予防、根絶を図っていくのは重要なことだ。
そして、国内では早期発見が肝心だ。生産者が経営を考えて通報をためらうことがないように十分な支援が必要だ。
=2010/04/25付 西日本新聞朝刊=