宮崎県で発生した口蹄(こうてい)疫問題で、佐賀県内の畜産農家も深刻な打撃を受けている。競り中止で子牛を売る場がない繁殖農家は収入がなくなり、肥育農家は肉牛に育てる子牛が入らないため出荷が途絶えないかと不安を抱える。農家は「いつまで感染拡大が続くのか」と長期化に危機感を募らせる。
「競りに出せない子牛のえさ代もかかる。市場が開かれない分だけ負担が増える」。伊万里市で牛の繁殖・肥育を行う男性は、九州各県で競りが中止されている状況に頭を抱える。
一般的に生後9カ月ほどの子牛が競りに出され、肥育農家が20カ月程度育てて出荷する。子牛は雌が30万円前後、去勢した雄で40万円前後の値が付くが、9カ月を過ぎると価値は低下。10~15万円安くなることもあるという。
佐賀県によると、県内には牛の繁殖農家が約720戸、肥育農家が約280戸。佐賀県産の肉牛は年間約2万4千頭出荷される。2008年度の調査ではこのうち、県内で生まれて育った子牛は25%程度。大部分は宮崎(14%)や鹿児島(18%)をはじめ他県から購入している。
枝肉出荷は行われているため、肥育牛農家は今のところ競り中止による影響は大きくはないが、子牛が買えない今の状況が続けば約20カ月後には出荷する牛がいなくなる。唐津市の男性は「将来の所得がどうなるか分からない。とにかく終息を願うしかない」。九州外からの子牛の購入も模索しているが、見通しは立っていない。
佐賀県内の競りは今月まで中止。競りにかける予定だった子牛などに仮払金を支払うことを決めたJAグループ佐賀は、「再開への準備を進めるが、さらに中止を延ばす可能性もある」と、農家同士の直接取引の実施を検討。肉牛の生産では「血統半分、肥育半分」といわれており、県畜産課は「評価の高い宮崎県産の子牛がこのまま入手できなくなると痛手だが、肥育技術でカバーしてほしい」と話す。
【写真】口蹄疫の感染を防ぐため、牛舎の入り口の道路には消毒用の石灰がまかれ、靴の裏を直接消毒する消毒槽(箱)も置かれている=唐津市鎮西町
感染防止へ消毒徹底 外部とも接触避け
口蹄疫の感染を防ごうと、県内の畜産農家は神経をとがらせている。畜舎をはじめ、通路や飼料タンクの周辺まで消毒を徹底。外部との接触も控えるなど防疫対策を進めているが、目に見えないウイルスが相手で不安は大きい。17日に開かれた「市・町長会議」でも首長から万全な対策を求める声が相次ぎ、古川康知事は早急に連絡会議を開く考えを示した。
JAグループ佐賀は4月下旬から、約1000戸の畜産農家に消毒薬と消石灰を無料で配布。人を介した感染を防ぐため、指導員の農家巡回や関係者の会議も自粛し、情報の収集や提供は電話で行っている。県も24日から消石灰1万袋(1袋20キロ)の無料配布を決めた。
畜産農家は牛や豚に変化がないか、気が抜けない毎日。県西部の養豚農家は「わずかな様子の変化でも獣医と連絡を取っている。佐賀で発生させてはいけないと、みんなピリピリしている」と話す。
唐津市の肥育牛農家は「これからのシーズンは観光客が増えるので、移動による感染拡大が心配。一般の人にも、消毒を呼び掛けた方がいいのではないか」と不安をあらわにした。
この日、佐賀市で開かれた市・町長会議では、唐津市や玄海町など畜産が盛んな地域の首長が連携した対策や経済的な支援を要請。古川知事は「JAと一緒に県、市町との連絡会議を早く開きたい。取り組みがきちんと伝わらないと、安心感につながらない」と述べ、迅速な対応に努める考えを示した。
|