宮崎県で感染が拡大する口蹄疫(こうていえき)問題で、政府は鳩山由紀夫首相を本部長とする対策本部を設置、被害防止に本腰を入れた。農水副大臣らが現地で陣頭指揮する。
殺処分の対象となった牛や豚は8万頭を超え、国内で過去最大の感染拡大となっている。さらに広がれば、有数の畜産県が壊滅的な被害を受け、影響は全国に及ぶおそれがある。
徹底した被害予防を講じるほか、農家の支援に政府は万全を期してほしい。
口蹄疫は豚や牛、羊などひづめがある動物の家畜病で、発症すると口とひづめに水泡ができて発熱、やせ細って死ぬこともある。
空気感染するため、症例が見つかってからの被害拡大は早く、各国とも厳しい防疫体制をとっている。感染力が強く、有効な予防法が確立していないため、最もこわい伝染病の一つとされる。
国内での口蹄疫は、92年ぶりの2000年春に見つかって以来だ。そのときは宮崎県と北海道で740頭の牛が処分された。
先月9日に宮崎県都農町で和牛1匹に症状を確認した。感染報告は同月末に4000頭を超え、現時点では8万5700頭余に達した。前回より100倍以上とけた違いの被害が出ている。
今回は豚への感染も初めて確認された。牛よりも感染力が高く、5月に入ってからの感染は豚を中心に急増している。
被害は同県内にとどまっているが、感染力が強いだけに広い範囲で警戒が必要だ。
沖縄県は約4000戸の畜産農家に消毒用の消石灰を配布した。今月に入り家畜市場の開催を中止したほか、県外からの家畜持ち込みや、宮崎県を含む周辺地域からの飼料購入を自粛するよう呼びかけている。
農水省によると、宮崎県での感染は人や車両などの移動で拡散している疑いが強いという。観光客の出入りが多い沖縄では警戒を怠らないことが肝要だ。
畜産業が盛んな八重山では、関係者以外の農場立ち入り制限や感染ルートとなる車や機具類の消毒などに取り組んでいる。いったん発症例が確認された場合には一気に島内にまん延する恐れもあることから、関係者は不安を募らせている。
隣の台湾では1997年に400万頭近い豚が殺処分され、それまで輸出していた豚肉産業は壊滅的な被害を受けた。これらの被害を対岸の火事と油断してはならない。
消費者には冷静な対応が求められる。感染の疑いがある豚や牛の肉は市場に出回ることはないし、仮に食べたとしても人への影響はない。
九州内のスーパーで「宮崎産は使っていません」という張り紙が一例あり、九州農政局が撤去を求めた。また、近隣県の市役所が、南九州への旅行を自粛しよう、との文書を市民に配布した。風評被害をあおる過剰反応だ。
政府の対応は鈍い、との不満が地元にあるだけに感染封じ込めに全力であたってもらいたい。