熊本県水俣市や鹿児島県出水市など不知火海沿岸出身者のへその緒に含まれる水俣病の原因物質メチル水銀の濃度が、1974年生まれまでは他の地域より高いとする調査結果がまとまった。国立水俣病総合研究センター(水俣市)の坂本峰至(みねし)国際・総合研究部長ら研究グループが今月、中国・広州で開かれた国際環境毒性学会で発表した。
国は、原因企業チッソが有害な排水を止めた68年以降は「水俣病の新たな発生はない」として、翌69年12月以降生まれの人を救済や認定制度から除外してきた。被害者側は69年以降生まれも救済すべきだと訴えている。
へその緒は各家庭で保存されており、その水銀濃度は、汚染された魚を食べた母親の胎盤を通じて胎児が水銀に侵された度合いを示し、胎児性水俣病を診断する有力な手がかりとなる。調査結果について坂本部長らは「不知火海沿岸の新生児は、74年生まれまでは胎内で高濃度のメチル水銀にさらされていたことを示す」と説明している。
調査では、不知火海沿岸地域で47〜89年に生まれた325人のへその緒のメチル水銀濃度を分析した。70〜74年生まれの21人の最高値は0.82ppmで、濃度が高い方からみて真ん中にあたる11番目の人の値(中央値)は0.17ppm。75〜89年生まれの13人の中央値は0.1ppmだった。
比較のため秋田、福岡、宮崎各県など国内6地域の1932〜2001年生まれの357人も調べたが、各地の中央値はいずれも0.17ppmを下回り、70〜74年の不知火海沿岸出身者の濃度の高さがきわだっている。
国との損害賠償訴訟で和解協議中の水俣病不知火患者会には69年12月以降生まれの原告が十数人いる。同会は「調査はこうした人たちを救済する有力な証拠」とみて、政策に反映するよう国に求める。