24日に公示が迫る参院選。口蹄疫(こうていえき)の前例なき被害が広がる宮崎県では、選挙戦も異例の展開となりそうだ。東国原英夫知事が5月18日に非常事態を宣言、不要不急な外出の自粛や感染発生地域以外も含むイベント延期などを求めており、立候補予定の各陣営は発生地域での選挙活動の「自粛」で足並みをそろえる。だが互いの本音が読めないこともあり、対応は手探り。地元からは「選挙どころではない」といった冷めた声も聞かれる。
「握手は自粛」「移動制限区域では車から降りないで」‐。宮崎選挙区(改選数1)の各陣営に17日、県選管から異例の文書が送られた。県選管は「公選法に抵触しない限り運動は自由。非常事態宣言の趣旨や住民感情を理解して」とあくまで“お願い”を強調する。
各陣営は、発生地域での集会や選挙カー遊説を控えるなどの運動自粛の方針を固めている。ただ自民党現職松下新平氏(43)の陣営幹部は「県の方針は順守したい。握手は候補の気持ちが一番伝わるのだが…」と困惑気味。民主党新人渡辺創氏(32)は「求められれば握手する」と話す。
公示日恒例の出陣式も様変わりしそう。松下氏の陣営が支援者に出した案内状は「事情ご察しの上、お許し頂ける限りで」と、限定的な出席を呼び掛けている。
「自粛」が基調の選挙戦にも、各陣営の思惑が見え隠れする。松下陣営は県選管からの文書が届く前の今月初め、渡辺氏の事務所に発生地域での集会を見送るなど選挙活動の自粛を提案。渡辺陣営は「政党間で決めるべき問題」と答えたが「新人で知名度が劣るこちらの動きをけん制しているのでは」と警戒する。
共産党新人馬場洋光氏(41)には、松下陣営から同様の提案はなく、同陣営は「演説、集会、握手とも良識の範囲内で行う」という。
公示前の腹の探り合いとも取れる動き。JA宮崎中央会の羽田正治会長は「駆け引きでなく、口蹄疫対策は党派を超えてやってほしい」と注文する。県内で最も被害が集中する川南町で園芸店を営む男性(49)は「参院選の話題は全く出ない。今日の暮らしで精いっぱい」と客足が遠のいた店内でつぶやいた。
ウイルスとの終わりの見えない戦いに疲れた有権者に、立候補者の声は届くのか。
=2010/06/22付 西日本新聞朝刊=