「日銀が国民を苦しめている」経済学の重鎮、白川総裁を一喝

2010.06.17


経済学界の重鎮、浜田宏一氏から叱られた白川方明日銀総裁【拡大】

 「日銀の間違った政策が国民と産業界を苦しめている」−。経済学界の重鎮、浜田宏一・米イェール大教授(74)がかつての教え子である白川方明(まさあき)日銀総裁(60)を公開書簡のなかで叱責し、金融界で話題になっている。浜田氏は「失業や新卒者の就職難で日本経済の活力がますます失われる」と警告したうえで、日銀がとるべき政策をアドバイスしている。

 公開書簡は、浜田氏と若田部昌澄・早稲田大政経学部教授、経済評論家の勝間和代氏による共著『伝説の教授に学べ!本当の経済学がわかる本』(東洋経済新報社刊、今月24日発売)の冒頭に掲載されている。

 浜田氏は東大経済学部の助教授時代の1970年、ゼミ生だった白川氏に経済学を教えた。夕刊フジの取材に対し浜田氏は「国際金融も教えたかもしれません。その年のゼミ生は優秀でしたが、そのなかでも白川君は抜群にできました」と振り返る。

 浜田氏は教え子だった白川氏が「日銀流理論」に染まってしまったことを嘆く。日銀には「金融政策でデフレを脱却することはできない」という考えが根強いが、浜田氏は金融緩和によるデフレ脱却は可能と主張。こうした日銀流の理論は世界の標準的な経済学の理論とかけ離れていると批判する。

 そんな日銀の政策失敗の具体例として浜田氏が挙げるのが、2008年9月のリーマン・ショック後の対応だ。世界各国が金融緩和を進めたのに対し、日銀は金融政策をほとんど変化させなかった。その結果、円高を招いて、デフレはより深刻化し、自動車などの輸出産業だけでなく、輸入品価格の下落で繊維などの産業でも日本製品は価格競争力を失い、失業や新卒者の就職難を生んだと批判している。

 公開書簡では《日本銀行は、金融政策というこれらの課題に十分立ち向かうことのできる政策手段を持っているのです。日本銀行はそれを認めようとせず、使える薬を国民に与えないで、日本銀行が国民と産業界を苦しめていることを自覚していただきたい》と一喝している。

 日銀がとるべき政策として、(1)短期国債の買い上げにとどまらず、長期国債や場合によっては社債、株式などを実質的に買い上げる(2)財務省がドル資産を買う介入を行う際、日銀は国内効果を相殺しない政策をとること−などを挙げ、(1)の対応が現実的としている。

 書簡からは、日本経済などへの強い危機感がうかがえる。そのあたりの理由を浜田氏は次のように明かす。

 「私も戦後のひもじかった時代を覚えていて、失業や倒産も人ごとではありません。サムエルソン、フリードマン、トービンら世界の大経済学者が大不況を体験した世代に生まれたのも偶然ではありません」

 出版元の東洋経済新報社では、公開書簡を掲載した新刊を発売2日前の22日にも白川総裁ら日銀幹部に送付する。

 最後に、浜田氏はこう語った。

 「聡明(そうめい)な(白川)総裁のことですから、デフレと不況に苦しむ国民の立場から、その原因となっている(日銀の)緊縮金融政策を改めてくださることを願っています」

■浜田宏一(はまだ・こういち)氏 1936年1月生まれ、74歳。東大法学部、経済学部卒業。東大経済学部教授をへて、米国の名門、イェール大経済学部教授に。内閣府経済社会総合研究所所長、理論・計量経済学会(現日本経済学会)会長、法と経済学会会長など政府や学界の要職を歴任。国際金融論の分野で世界的な業績がある。

■白川方明(しらかわ・まさあき)氏 1949年9月生まれ、60歳。東大経済学部を卒業後、72年4月日銀に入行し、企画局企画課長、金融研究所参事、審議役、理事(金融政策担当)などを歴任。京大公共政策大学院教授などをへて、2008年3月に日銀副総裁、総裁人事が国会で迷走するなか同4月に副総裁から総裁に就任。

 

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