鈴木直樹はガンダムオタク、通称ガンオタである。
どの位かと言うと、休日にジオンの軍服(姉に頼んで縫ってもらった)を着て公園で、ギレン総帥の演説をしたり。近所からは、子供のやる事だからと生暖かく見守っている。自分の部屋に、ガンダムのプラモデルを飾り、ガンダム系のDVDを積み上げていたり。そんな彼は、機動戦士ガンダムOOにはまり込んでいた。遊びにきた友人が、引く位。それでも、直樹と親友な辺り確かな絆はあるのだろう。時々、シャアとガルマのあるシーンをやらされるのは止めてほしいと思っている。
間近に迫ったガンダムOOの劇場版を期待しつつ、眠りについた彼。その眠りがこの世の別れだった。
不意に眠りから目覚めると、そこは白い空間。
(はて?此処はどこ?)
混乱する彼の前に現われたのは、白髪の老人。
沈黙、老人が口を開く。
「ワシは神じゃ。早速じゃが、お主はワシの手違いで死んだ。悪かったの」
………これは、あれだろうか。姉がよくネットで書いている転生モノの展開。なら、俺もありきたりな行動を取らせてもらおう。
謝る神と名乗る老人に近づいて、拳を握り殴り飛ばす。吹き飛ぶ神、すぐに体勢を整え、何するんじゃと抗議しようとしたが、血走った目を向ける少年に、何も言えなくなる。
「ふざけんなー!俺を今すぐ、この世へ生き返らせろ!ガンダムOOの映画が見れないじゃないか!」
自分が死んだ事より、ガンダムを優先する少年。さすがは友人から、ガンダムを愛する男、グラハムの名をいじって、ナオハムと言われるだけはある。
冷や汗を垂らした神は、それは出来ないと言い、代わりに転生させてやると言う。これもまた姉の書いている小説の展開どおり。
何処からか取り出された、机に座り渡された紙を見る。どうやら、好きな世界に好きな能力を記入するシステムらしい。
直樹は、さっそく嬉々として記入。ガンダム世界と書かれた紙に、能力を書き込んだ。
身体能力、あらゆる方面の知識。それだけあれば、十分だろう。
あらゆる方面の知識とは何かと、神は尋ね、少年は何でもと答える。具体的には、エイフマン教授とイオリア位の知識。それ位は問題ないだろうと神は許可。
生き返れないなら、せめてOO世界に転生し、ファーストシーズンとセカンドシーズンを生き残り、劇場版を見てやると少年は決意する。
かくて、神は幾つかの注意をして、能力を与えた少年を“ガンダム世界”へと送り出す。
その直後、一人の天使が現われた。
「あのー、神様。ここに置いていた書類に間違いがあったので新しい書類を置いておきますね」
「む、間違いとな?どれどれ……」
「実は、さっきの書類。ガンダム世界じゃなくてリリカル世界なんですよね。じゃ、失礼しましたー」
「なんじゃと……」
神は汗をダラダラと流す、退出した天使を見る事無く、慌てて書類を見る。そこには確かに“リリカル世界”と明記されていた。
身体能力、これはいい。
あらゆる方面の知識、エイフマン教授とイオリア並の知識。これもいい。
ガンダム世界なら生き残れる、だが、リリカル世界なら……あるものがなくては生き延びるのは難しい。
魔力の源、リンカーコア。
なくても生きられるが…三期のレジアスのように。
少年の期待に応えられなかった神、暫らく考えて…
「まぁ、いいか。あれ位の能力なら大丈夫じゃろ」
問題を丸投げした、最低である。その後、この問題が発覚し、神が降格されたのは別の話。
第一管理世界『ミッドチルダ』首都クラナガン。
その片隅で建てられているデバイス専門店の前に、一人の少年が何もない空間から現われ、倒れていた。
夜遅く、営業時間を過ぎたので店仕舞いしようと、ドアを開けた店主は、倒れている少年を見て仰天したが、声を掛けようと揺する。やがて少年は目を覚まし…
覚醒した直樹の前には、茶髪のポニーテールで眼鏡を掛けた女性が心配そうにこちらを見ていた。
(俺は無事にガンダム世界に来たのか?この人は…何となくカタギリさんに似ている……はっ、まさか神が言っていた俺がいることで世界に修正がかかるとは、この事だったのか!どんな修正かと思ったらTSの変化。これ位なら問題ないぜ、男性のカタギリさんが、女性か…なら、グラハムさんも女性に?「抱きしめたいわ、ガンダム!」…うん、問題ないな。ソレスタルビーイングは、現われているのか気になるが、転生できた記念にあの台詞を叫ぶぜ!疑われても切り抜けられる自信はある!)
この思考時間、約三秒。そして直樹は叫んだ。
「俺が、ガンダムだ!」
「……はい?」
女性は目を点にして、少年を見る。
これが、二人の出会い。直樹が勘違いに気付くのは、しばらく後。
今は、クラナガンの夜に少年のガンダム宣言が響くのだった。