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[19555] 俺がデバイスだ(リリなの転生)【ネタ】
Name: おりおんす◆aa00b17c ID:943817da
Date: 2010/06/13 22:47
鈴木直樹はガンダムオタク、通称ガンオタである。

どの位かと言うと、休日にジオンの軍服(姉に頼んで縫ってもらった)を着て公園で、ギレン総帥の演説をしたり。近所からは、子供のやる事だからと生暖かく見守っている。自分の部屋に、ガンダムのプラモデルを飾り、ガンダム系のDVDを積み上げていたり。そんな彼は、機動戦士ガンダムOOにはまり込んでいた。遊びにきた友人が、引く位。それでも、直樹と親友な辺り確かな絆はあるのだろう。時々、シャアとガルマのあるシーンをやらされるのは止めてほしいと思っている。


間近に迫ったガンダムOOの劇場版を期待しつつ、眠りについた彼。その眠りがこの世の別れだった。




不意に眠りから目覚めると、そこは白い空間。


(はて?此処はどこ?)


混乱する彼の前に現われたのは、白髪の老人。


沈黙、老人が口を開く。


「ワシは神じゃ。早速じゃが、お主はワシの手違いで死んだ。悪かったの」


………これは、あれだろうか。姉がよくネットで書いている転生モノの展開。なら、俺もありきたりな行動を取らせてもらおう。


謝る神と名乗る老人に近づいて、拳を握り殴り飛ばす。吹き飛ぶ神、すぐに体勢を整え、何するんじゃと抗議しようとしたが、血走った目を向ける少年に、何も言えなくなる。


「ふざけんなー!俺を今すぐ、この世へ生き返らせろ!ガンダムOOの映画が見れないじゃないか!」


自分が死んだ事より、ガンダムを優先する少年。さすがは友人から、ガンダムを愛する男、グラハムの名をいじって、ナオハムと言われるだけはある。


冷や汗を垂らした神は、それは出来ないと言い、代わりに転生させてやると言う。これもまた姉の書いている小説の展開どおり。


何処からか取り出された、机に座り渡された紙を見る。どうやら、好きな世界に好きな能力を記入するシステムらしい。


直樹は、さっそく嬉々として記入。ガンダム世界と書かれた紙に、能力を書き込んだ。


身体能力、あらゆる方面の知識。それだけあれば、十分だろう。


あらゆる方面の知識とは何かと、神は尋ね、少年は何でもと答える。具体的には、エイフマン教授とイオリア位の知識。それ位は問題ないだろうと神は許可。


生き返れないなら、せめてOO世界に転生し、ファーストシーズンとセカンドシーズンを生き残り、劇場版を見てやると少年は決意する。


かくて、神は幾つかの注意をして、能力を与えた少年を“ガンダム世界”へと送り出す。


その直後、一人の天使が現われた。


「あのー、神様。ここに置いていた書類に間違いがあったので新しい書類を置いておきますね」


「む、間違いとな?どれどれ……」


「実は、さっきの書類。ガンダム世界じゃなくてリリカル世界なんですよね。じゃ、失礼しましたー」


「なんじゃと……」


神は汗をダラダラと流す、退出した天使を見る事無く、慌てて書類を見る。そこには確かに“リリカル世界”と明記されていた。


身体能力、これはいい。
あらゆる方面の知識、エイフマン教授とイオリア並の知識。これもいい。


ガンダム世界なら生き残れる、だが、リリカル世界なら……あるものがなくては生き延びるのは難しい。

魔力の源、リンカーコア。

なくても生きられるが…三期のレジアスのように。


少年の期待に応えられなかった神、暫らく考えて…


「まぁ、いいか。あれ位の能力なら大丈夫じゃろ」


問題を丸投げした、最低である。その後、この問題が発覚し、神が降格されたのは別の話。




第一管理世界『ミッドチルダ』首都クラナガン。


その片隅で建てられているデバイス専門店の前に、一人の少年が何もない空間から現われ、倒れていた。


夜遅く、営業時間を過ぎたので店仕舞いしようと、ドアを開けた店主は、倒れている少年を見て仰天したが、声を掛けようと揺する。やがて少年は目を覚まし…


覚醒した直樹の前には、茶髪のポニーテールで眼鏡を掛けた女性が心配そうにこちらを見ていた。


(俺は無事にガンダム世界に来たのか?この人は…何となくカタギリさんに似ている……はっ、まさか神が言っていた俺がいることで世界に修正がかかるとは、この事だったのか!どんな修正かと思ったらTSの変化。これ位なら問題ないぜ、男性のカタギリさんが、女性か…なら、グラハムさんも女性に?「抱きしめたいわ、ガンダム!」…うん、問題ないな。ソレスタルビーイングは、現われているのか気になるが、転生できた記念にあの台詞を叫ぶぜ!疑われても切り抜けられる自信はある!)


この思考時間、約三秒。そして直樹は叫んだ。


「俺が、ガンダムだ!」




「……はい?」



女性は目を点にして、少年を見る。


これが、二人の出会い。直樹が勘違いに気付くのは、しばらく後。


今は、クラナガンの夜に少年のガンダム宣言が響くのだった。





[19555] 1話
Name: おりおんす◆aa00b17c ID:bd71945f
Date: 2010/06/14 15:11
直樹のガンダム宣言から一夜明けた日。


デバイス専門店の店主、アルシオーネ・スタリオンは直樹の事情を聞くため、店を一日だけ休みにする。あの後は夜も遅いので、直樹を保護し事情は明日聞くと言う事で落ち着いた。



1話



店にある作業机、整理して向かい合う二人。アルシオーネは、どうしてこんな子供がうちの前で倒れたのか気になっていたので尋ねる。


「え、えーっと…ガンダム君?どうしてうちの前で倒れていたのかな」


「それを説明する前に、カタギリさん。フラッグを見せてください!」


名前を訂正しない直樹、それ程、MSを早く見たいのだろうか。


「カタギリ…?あ、自己紹介が先だったわね。私はアルシオーネ・スタリオンよ。フラッグって何?」


「え?」


アルシオーネの返答に直樹、否、ガンダムは沈黙。思考する。


(名前が違うのは、女性の方だから、いいとしてフラッグを知らない?おかしいな…まだ造られていないのか……まさか、ファーストシーズン開始前?時系列は詳しくないけど…MSが造られたのって何時だっけ?まずは、OO世界の西暦を聞いてみるか)


「今は西暦何年ですか?」


「西暦?新暦の事かしら、だとしたら0064年よ」


「……新暦?」


(年号が違う?そう言えば…カタギリさん、じゃなくてアルシオーネさんはユニオン所属だよな?俺、普通に日本語喋っているのに通じてる…)


年号の違い、言語の伝達。何故か嫌な予感がした、だが聞かなければならない。何としても劇場版を見るために。


「…ここは、何処ですか?」


「クラナガンよ?」


「…MSって知っています?」


「もびるすーつ?何の事?」


(………エイフマン教授、イオリアさん!今こそ貴方達の知識を活用する時!もしかしたら、俺がMS開発の先駆者となれるかもしれない!)


ガンダムは、MSの有効性、スペックを熱く語った。それを聞いた、アルシオーネは真っ青になる。


「そ、それ質量兵器じゃない!どうして君みたいな子供が、そんな知識を持っているの!?」


ガタッと椅子から立ち上がり、ガンダムに詰め寄る。その剣幕に驚いたガンダムは、つい、この世界に来た理由を語ってしまう。


「い、いや…一度死んで神様から能力を貰ったんです」


「はぁ!?一度死んだ?からかっているのかしら、私は真面目に聞いてるんだけど!」


「本当なんです!信じてください!!」


ガンダムの瞳をじっと見るアルシオーネ、二人はそのままでいた。


静寂、アルシオーネはガンダムの瞳を見続ける。汚れのない純粋な目だ、真っすぐ前を見ている。だから、戸惑った。自分が昔、時空管理局で所属していた隊長の言葉を思い出す。



『いいか、アルシオーネ。相手の嘘を見抜く時は目を見るんだ。嘘か真実かは目が教えてくれる』


『どういう意味です?』


『嘘を吐いている奴は、心に疾しい事があると目が揺れ動くんだよ。まっ、中にはポーカーフェイスな奴もいるけどな』


『それじゃあ、意味ないじゃないですか…』


『でもな、真実を告げている奴の目は大抵、純粋で真っすぐな目をしているだろうよ。心に嘘を吐いてない奴は輝いているからな』


『そんなもんですか…よく分かりませんけど……覚えておきます』




ガンダムの瞳は隊長が言った通りに輝いていて…ため息を吐き座る。


「…詳しく説明してくれる?幾ら“魔法”でも死んだ人を生き返らせるなんて出来ないわよ……」


「……魔法?」


どうやら信用してくれたアルシオーネさんだが、昔、聞いたような言葉が出た。
魔法。姉が見ていた魔法使いサリーに出てくるものだろうか?興味がないので詳しくは知らないが。当たり前だが、OO世界に魔法の存在はない。


「ははは…アルシオーネさんも、からかわないでくださいよ。魔法なんて使えるわけないでしょう」


「そう、魔法を見たことがないの?なら、見せてあげるわ」


立ち上がり、近くの棚からデバイスを一つ取り出す。武装局員が使う簡素型だが、構わないだろう。


「起動」


《set up.》


瞬間、アルシオーネの姿が変わる。青い作業服から、黒のバリアジャケットへと。


「これが…ま……ど、どうしたの!?ガンダム君」


アルシオーネは、椅子から離れ床に手を置いたガンダムを見て驚く。


(……聞いたことのない地名、そして魔法…この目で見たからには信じるしかない……ここは…OO世界じゃないのか…俺は…ガンダムには……なれない…神を恨むよりも…二度の間違いを責めるよりも……重要な事がある。それは、OOの劇場版が見れない事。……俺は、どうして…こんな所へ来てしまったんだろう…OO世界は……)


最後の思考部分は、自由の翼の青年のようだが行動は―


「う、うわわわわわぁぁぁぁぁっ!!」


家族を失った紅い瞳の運命の少年のように慟哭。



もう二度と見れない、刹那とダブルオークアンタの活躍とグラハムさんの活躍を想う。


それを見たアルシオーネは、きっと辛い事情があったのだろうと察し、ガンダムの背を優しくさする。


時に新暦0064年、春の出来事。鈴木直樹こと、ガンダム・スタリオンが誕生する幕開けだった。





[19555] 2話
Name: おりおんす◆aa00b17c ID:b3d5fbc5
Date: 2010/06/15 18:40
鈴木直樹改めガンダム・スタリオン、その後、落ち着いたガンダムが神様のやり取りと、この世界に来た理由を詳しく話す。それを聞いたアルシオーネは、頭を抱える羽目になった。


(これは、特異な次元漂流者と云う事になるのかしら?神様云々は、ともかくアニメの世界に行く予定だったって…後、ガンダム君じゃなくて直樹君だったのね。本人が、ガンダムと呼んでくれって言うからいいけど…管理局が、うまく対応してくれるかしらね?)


時空管理局は、人手不足に悩んでいる組織。次元漂流者の保護はしてくれるだろう、リンカーコア持ちなら本人の意思を尊重しつつ勧誘してくる。それが悪いとは言わない、昔、所属していたアルシオーネは、その経緯で入った彼女を知っていたから。今も交流は続いている、問題は、ガンダム。彼にはリンカーコアが無い、保護はしてくれるが、その対応は粗末になるかもしれない。人手不足故に。
また、良くも悪くも魔力持ちが、全ての世界だから。

となると、残る手は…


ちらと、意気消沈しながらもデバイスに興味を持ったガンダムを見る。


(私が引き取るしかない…か。弟が出来たみたいで嬉しいし…何より、この子の知識に興味がある。うん、隊長。貴方の力、借りますね)



2話



アルシオーネ姉さんから養子の誘いを受けた俺は、承諾した。OO世界に未練はないのかと言えば嘘になる。それでも、この魔法世界に来たからには此処で、生きていくしかない。それに、デバイスに興味がある。


アルシオーネ姉さんの店、デバイス専門店は、ストレージデバイスとアームドデバイスを扱っている。インテリジェントデバイスもあるが、高価すぎて誰も手を出したがらないらしい。


俺は、意思があると云うこのインテリジェントデバイスに興味があったのだが…魔力がないので起動させられない。だが、諦めない。今は無理でも、いつか必ず魔力なしで使えるようなデバイスを開発してみせる。


その決意から、アルシオーネ姉さんから渡されたデバイス専門本を読み続けた。


これが、ガンダムの過ごす一日である。


一方、店で客と応対しながら、奥の方で本を一人読むガンダムを時折見るアルシオーネ。


(神様から貰った知識は、伊達じゃない…か。でも寂しそうね、魔力がないから、デバイスも起動させられない。用事で出掛ける時、ガンダム君に店番は任せられるけど、一人でいる……うーん…どうしたらいいかしら…)


マルチタスクで考える中、ふと思いついた。インテリジェントデバイス、魔力がなくても会話くらいは出来るはず。これだ!と閃き、店の営業が終わったら組んでみようとするのだった。


ガンダムの話相手兼暴走もとい勘違いの抑止力になってくれると期待して。


その理由は、ガンダムにこの世界の事情を説明した時。また、神様関連なら聖王教会で調べて見ようかなと定休日に、ガンダムと行った時。


その時のことを回想してみる。


まずは、事情説明。


「ここは、第一管理世界ミッドチルダ。首都クラナガン、魔法が発達している世界ね。後、時空管理局の地上本部がある所」


「時空管理局?」


「次元世界を纏めて管理する…分かりやすく言えば、警察と裁判所が一つになった組織よ」


その説明に、ガンダムは考え込んだ。


(これは…!名前は違うけど、その役目、理念は正しくソレスタルビーイング!!ならば、必ず時空管理局の中には世界の歪みがいる!くっ、俺に力があれば、否、ここは仲間を集って結託すべきか?ガンダムマイスター的に!)


何故か、時空管理局をソレスタルビーイングと認定し、ガンダムは叫ぶ。


「アルシオーネ姉さん!俺も時空管理局に入れますか!?そして、世界の歪みを倒してみせます!」


「ちょっ…何か勘違いしてない?ガンダム君」


その勘違いは、何とか正したが、まさか本当にいるとはアルシオーネも知らない。それを知るのは十一年後である。


聖王教会を尋ねた時。


案内役の金髪の少女と従うシスターに色々と説明を受ける中、


ガンダムがポツリ呟いた。


「この世界に神はいない…」


周囲の空気が凍る、金髪の少女は顔を引きつらせ、付き添いのシスターは今にも殴り掛かりそうな気配。周りの目も険悪に。


慌てたアルシオーネは、ガンダムの頭を下げさせて謝罪し脱兎の如くその場を離脱。二度と、ベルカ自治領には入れないと涙した。


ガンダムに理由を聞くと、


「すみません…何か説明を受けていたら、この世界に来る原因になった神の事を思い出して…やるせない気持ちになったんです…」


きつく叱れなかった。むしろ同情して二人で泣いた。姉弟の絆が深まった日である。




その日の夜、アルシオーネ姉さんから、話があると言われ店の作業机へ。


そこで、笑顔の姉さんから剣型のペンダントを渡された。


「これは…?」


「ガンダム君専用のデバイスよ、最も会話しか出来ないけど…」


「っ!ありがとう、姉さん!」


感激するガンダム、アルシオーネは続けた。


「それでね、この子は生まれたばかり。だから、名前を付けて呼んであげて」


その言葉に、ガンダムは名前を考える。


(これは、剣型のペンダント…待機状態か。エクシア?……いや、ここはあえて…)


「お前の名前は、イナクトだ!宜しくな」


役を演じる意味、Enactの名を借りた。


イナクトが感謝の意を込めて言葉を発しようとしたが…その前に、


「そして、俺がデバイスだ!」


ガンダムの宣言。


「《………はい?》」


奇しくも、アルシオーネとイナクトの言葉が重なる。


これが、クラナガンにある意味で名を残すコンビの始まりだった。





[19555] 3話
Name: おりおんす◆aa00b17c ID:5e3e0056
Date: 2010/06/16 22:35
ガンダムとイナクトの、劇的なファーストコンタクトから数日後。

仲は良好になりつつあるようだ。彼らの会話からも伺える。


《名前を付けてくれた時、マスターは意味不明な発言をしたが、理由はあるのか?》


「俺とお前は一心同体、友達であり相棒でもある!だから、俺もデバイスなんだよ」


《……そうか、私を友と呼んでくれるのか。それは嬉しい、だが、マスターもデバイスと言うのは理解できない。少しずつ、その考えを理解していこうと思う。宜しく頼む》


「ああ!」


微笑ましい光景だ、イナクトもガンダムの良き相棒となってくれるだろう。アルシオーネの判断は正しい。
後に、苦悩することになるが。それは、イナクトが完全にガンダムを理解した時。彼の同類になる可能性があると云う事、とはいえ、それが数年後のクラナガンを救う事になるので、細やかな苦悩ではある。



3話



今日もイナクトと話し、デバイスの専門本を読んでいる時に、アルシオーネから持ちかけられた。


「ねぇ、ガンダム君。デバイスマイスターの資格を習得してみない?あなたの知識なら十分通用すると思う」


《そうだな、私もそう思う。未成年でも取れる資格だ、マスターなら出来る》


イナクトの後押しに、ガンダムは考え込み、頷いた。


(これで、俺もガンダムマイスターじゃないデバイスマイスターになれるのか。必ず習得して、二人の期待に応えてみせる!やってやるぜ!)


熱い思い、その情熱。勉強に打ち込み、イナクトとアルシオーネの助言も聞いて試験に望んだ。


ガンダムの知識は、エイフマン教授とイオリア並。加えて、転生する前から記憶力も良かった。ただし、ガンダム専門の知識限定で。両親は、その能力を勉強に使ってほしいと嘆いたが、姉と親友だけは応援してくれた。


そんな彼だからこそ、デバイスマイスターの検定試験は容易に突破。資格を習得し、スタリオン家はお祝い騒ぎ。


時空管理局が、驚愕していたのにも知らず。


魔力なしで習得に驚いたのではなく、その試験結果に驚いていた。最年少にも関わらず、全問正解。パーフェクトな解答、空いた空白欄に、ガンダムが試しに書いたデバイス開発案。とても子供とは思えない発想に、天才の誕生かと試験担当官は噂を広めた。


その噂は、二人の人物に届く。一人は、本局第四技術部の主任である女性。もう一人は、本局に滞在していた時空管理局・巡航L級8番艦アースラの艦長。


この二人が、ガンダムと出会うのは暫らく後の話。



デバイスマイスター資格習得から翌日、アルシオーネの用事で店番を任せられたガンダムとイナクト。


そこへ、一人の客が来訪。長い紫の髪をポニーテールにし黒いサングラスを掛けた男性。何故か白衣を着ていた。


イナクトは、少し警戒し、ガンダムはじーっとその客を見る。男は興味なさげにデバイスを一通り見た後、爪型デバイスを手に取りガンダムの元へ勘定しにきた。


「これを買い取りたい」


懐から財布を出し、代金を払おうとするが…


「お客さん……失礼ですが、ドクターですか?」


ガンダムの問いに男は、代金を払おうとした体勢で停止。図星だった、その態度にガンダムは確信する。


「な、何の事かな。それよりも代金を……」


動揺しながら、勘定を催促。だが、ガンダムには通じないし、逃がす気もない。


「もしかして、ロボットとか造ったりしてますか!」


《マスター、この場合は医者だろう。何故、ロボットなんだ》


イナクトのツッコミは無視、ガンダムはアルシオーネ曰く純粋な目で男を見る。


動揺から持ち直し、男はガンダムに興味を抱く。


男は上からの要求にウンザリしていた。変わらずに開発と研究を続ける日々、違法にも手を染めた。疲れから倒れたこともある、見兼ねた秘書の娘から、休養を薦められ変装してクラナガンの街へ。偶々、目に入ったデバイス専門店に入り、自分用のデバイス作成の参考になるかと思ったのだが…


自分の正体を一目で見抜く子供に出会った。


面白いと思う、向けられる尊敬の眼差しは自分が、かつて欲したもの。だから答えた。


「その通りだよ、ロボットに近いものを造ったりするね」


「やっぱり!俺、ガンダムといいます。こっちは友達のイナクト」


《よろしく、頼む》


デバイスを友と云う、道具にその感情を持つとは。男、否、ドクターはガンダムに益々関心を寄せた。娘達に会わせたらどうなるだろう。その場合、ガンダムは感激する。特に四番の娘、名前的に。


ドクターは、自分が開発してるロボットを紙に書き、ガンダムに見せた。卵型の機械に、ガンダムはダメだし。機能性も向上するとして、『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』のガンダム小型版五機を提案。

あれ程、アルシオーネから質量兵器について注意されたのだが忘却の彼方。

止める立場の、イナクトも白熱して論理を展開。

故に、その場を止める者はいない。


満足したドクターは、完成したら娘を通じて報告をすると言い、勘定して帰った。


ガンダムは、必ずですよと約束し手を振って見送る。


仮定の話だが、この場に原作知識持ちの転生者がいたら絶叫しながら、突っこむだろう。


何てことをしてくれたんだーっ!と。


残念ながら、ガンダムにその原作知識はない。


ただ、ガンダムの脳裏には白衣のドクター=ガンダムWのドクターJの図式がある。彼から、ロボット開発の雰囲気を感じ取ったのも決め手になった。



こうして、十一年後。新暦0075年、クラナガン激突戦の賽は投げられる。今は知らないガンダム、いつまでも、ドクターの背を見続けた。


時に新暦0064年、夏が訪れる前の出来事である。



[19555] 4話
Name: おりおんす◆aa00b17c ID:b3d5fbc5
Date: 2010/06/17 17:28
ガンダム達が、ドクターと意気投合した日の夜。

自室で、ガンダムは頭を抱えていた。


「あの時は、ドクターを尊敬して、ついGの情報を教えたけど……もし、ドクターが世界の歪みだったらどうすればいいんだ!」


我に返り、少し後悔したガンダム。用事から帰ってきたアルシオーネが心配そうに声をかけてくれたが、誤魔化しておいた。言えない、調子に乗ってMSの情報を語り合いました!などと。
止める立場だったイナクトも同罪、何とか、ガンダムを励まそうとするが言葉が出ない。


ガンダムが危惧してるのは、ただ一つ。もし、あのドクターが、ガンダムWのドクターJに似た立場ならば、教えたG五機を制作し『真なるオペレーション・メテオ』を発動させるのではないか。
そうなれば、クラナガンが戦場になる。


(ヤバい、これはミスったかも……今度、娘さんが来た時にドクターともう一度、話し合ってみよう。まだ、世界の歪みだと決まったわけじゃないし……)


そう納得して、イナクトにその旨を伝え眠りについた。


もう手遅れである。既に、ドクターは上からの要求をこなしながら制作に入った。上機嫌になったドクターを見て、秘書の娘は良い休養を送れたのねと満足。

二人の会合は、どうなるのか分からない。だが、その時はガンダム達にとって良い収穫と悪い収穫を得る日となるだろう。



4話



世話になっているアルシオーネ姉さんに、プレゼントを贈ろうと、ガンダムはイナクトと街を歩いていた。

今まで貰った小遣いは、このために貯めている。


《マスター、何を買うのだ?アルシオーネ殿から聞いたのは、機械部品専用店だろう》


「買うんじゃなくて、造るんだよ!イナクトも手伝ってもらうぜ」


《それはいいが…手作りのプレゼントか。きっと、アルシオーネ殿は喜ぶ》


「喜んでくれるといいけど……うん?」


ガンダムは足を止める、その目はクラナガンにある公園の光景を見ていた。そこには、橙色の髪をした兄妹らしい人物。兄の手には銃型デバイス、どうやら公園に設定された目標を撃ち続ける訓練をしているようだった。妹はそれを見て応援している。


《どうした、マスター?あの二人に何かあるのか》


イナクトから見ても不審な点はない、安全に配慮した訓練で周囲も微笑ましそうに見ている。ガンダムは答えない、兄が持つ銃型デバイスを凝視。そして、駆け出した。


訓練していた兄は、物凄い足音がしたので手を止める。妹も首を傾げ周囲を見回していた、やがて後ろからする事に気付いた兄は振り返る。そこには、街道を駆け抜けこちらに向かってくる黒髪の子供が一人。


「な……」


驚くが、辿り着いた子供の第一声を聞いて気が抜けた。


「貴方はもしかして、ロックオン兄さんですか!?是非、狙い撃つぜって言ってください!!」


ガンダムには、銃を使う男性全てがロックオン・ストラトスに見えるのだろうか?否、この魔法世界に来て初めて出会った銃使いの男性、何となく雰囲気が似ていたから声をかけただけである。多分。イナクトは止める暇もなかった。


余談だが、ロックオンに似合いそうなもう一人の男性は、ガンダムと反対の街道を歩いていた。最も、彼の場合はある人物が似合う。


いきなり意味不明な事を言われた兄が、答えようとする前に妹が答える。


「ちょっと!いきなり何言ってるんですか、あなたの兄さんじゃありません。私だけの兄さんなんです!」


妹の発言に、聞いていた一部の人間が反応。何故か兄を睨み付けていた。


「お、落ち着け……ティアナ。えーっと、人違いだよ。僕はティーダ・ランスター」


何故か命の危機を悟ったティーダは、ガンダムの勘違いを直す。


「あ……す、すみませんでした!」


《私からも謝罪する。本当にすまない、マスターは時々、暴走する癖が……直そうとはしているが難しい》


謝るガンダムとイナクトに、ティーダは気にしなくていいと許す。ティアナはガンダムを睨み付けたまま、許す気はないらしい。年上のガンダムに対して物怖じしない態度は、さすがというべきか。


その後、ティーダと銃型デバイスについて熱く語り合い、ガンダムがデバイスマイスターだと告げた時は、天才少年の噂を知っていたらしくティーダは驚いていた。ティアナも若干、態度を改める。

迷惑かけたお詫びにと、ガンダムは持ち歩いていたアルシオーネ特製のデバイス整備セットで、ティーダの銃型デバイス整備と改造をした。


これが、ティーダの命を救う事になる。


目的を思い出したガンダムは、ランスター兄妹と別れ店へと急いだ。


「これだけ買えば十分かな」


機械部品の入った袋を持ち、帰り道を歩くガンダム。イナクトは問い掛けた。


《ティアナ嬢とは、嫌われたままでマスター、気にしてないか?》


「……俺が全面的に悪いんだよ。何とかしたいけどな……」


《そうか、そうだな……アルシオーネ殿に相談してみては?》


「……怒られそうな気がする」


《それに関しては、諦めろ。潔く怒られるといい》


「はぁ……」


今回ばかりは、自分が悪い。ガンダムは憂欝そうに溜め息を吐いた。手作りプレゼントを渡す日は遠そうである。


案の定、家に帰り事情を説明し、アルシオーネから叱られた後、アドバイスをくれた。


夕飯を食べた後、ガンダムは自室に籠もる。
今日買った部品を広げ、制作に取り掛かった。


《所で、マスター。何を造るのか、まだ聞いてないが》


「ハロを造るんだよ。制作図は書いてあるから、イナクトはチェックしてくれ」


制作図を、イナクトの前に広げる。


《了解した》


そこには、丸い小型ロボットが描かれていた。


魔法世界に、ガンダムとイナクト特製のハロが誕生する日である。




[19555] 5話
Name: おりおんす◆aa00b17c ID:cc47e12d
Date: 2010/06/18 16:28
アルシオーネが、ある用事から時空管理局本局内を歩いていると、後ろから声をかけられた。


「あら、アルシオーネじゃない?久しぶりね」


振り向くと、翡翠の髪の女性。アルシオーネの世話になった恩人である。


「リンディさん、お久しぶりです」


リンディ・ハラオウン、次元空間航行艦船アースラの艦長であり、一人の魔導師としても優秀な人物。
近況を語り合い、話題は噂のデバイスマイスターの話へ。


「そう言えば、貴女が引き取った子。優秀な成績を残したそうね、一度クロノと会ってみたいんだけど……どうかしら?」


「それは構いませんが……時間はよろしいんですか?」


「アースラは今、整備中で時間は少しだけあるの。クロノも、空いた時間を取れると思うわ」


「分かりました、いつでも来てください。」


アルシオーネは承諾、会釈して去ろうとする。そこに躊躇いがちな声、立ち止まった。


「……もう、管理局に戻るつもりはないの?」


アルシオーネは振り向かない、微かに肩が震えている。その背に何かを感じ取ったリンディは、過去の傷に触れた事を悟る。


「ごめんなさい……貴女も辛かったのに……時間が取れたら伺うわね」


謝罪して、リンディは去る。その足音を、背を向けたままアルシオーネは聞いて…歩みを再開。時空管理局、人を助けるための組織。そう信じて駆け抜けた日々、その想いが砕けたのは……あの事件。自分は何も出来なかった、モニターで見ているだけだった。リンディは「貴女も……」と言ったが、本当なら彼女が一番辛いはずなのだ。


闇の書事件で、愛する人を失ったのだから。

アルシオーネもまた、尊敬する人を失った。

そこから、歩みを止めなかったリンディ、歩みを止めたアルシオーネ。二人の道は別れる。管理局を辞めて、デバイス専門店を開いた時。クロノに言われた言葉……もう忘れかけていた。



5話



新暦0064年、七月。ガンダムは自室から歓声を上げた。


「出来たぁぁぁっっ!」


机から立ち上がり両手を挙げる、まるで何処かのブルーコスモスの盟主のように。


《……長い道程だったな、マスター。我々は、ようやく手にすることが出来た》


答えるイナクトも感慨深く呟く、ちなみに制作期間は二日。全然、長くない。むしろ、早いほうだ。


二人が見つめる机の上には、七体の丸い小型ロボット―ハロ。


《ハロ・ハロ!》

《ネライウツゼ!》

《ナンダヨ、ナンダヨ》

《問題ナシ、問題ナシ》


残り三体は、部屋の中を跳ね回る。


「さて、アルシオーネ姉さんにはピンクのハロ。ドクターには紫のHARO、ティアナには、オレンジのハロでいいよな」


《マスターが決めた通りでいいと思う、ネコ耳に尻尾つきのハロは…マスターの……か?どういう意図があるんだ》


「こいつは、特別製。悪いけどイナクトには、まだ話せない。いつか話すよ!」


《……その日を待とう》


アルシオーネとティアナには、プレゼントとして。ドクターには監視つきとして渡す方針。各ハロのAIは高く設定され、ハロ同士のネットワークもある。

ハロを造り上げた勢いで、ガンダムは小型版ヴェーダを制作しようとしたが、その性能を知ったイナクトが必死に止めた。完成し悪用されたら、大変なことになるためである。


その場は諦めたガンダムだが、いつか造ると決意。
それに、小型版ヴェーダがあれば色々役に立つ。悪用されないように、仕掛けを施せばいいと自らを納得させた。


用事から帰ったアルシオーネに、プレゼントとしてハロを渡した時は、大喜びで抱きしめられた。
ティアナを見付け、渡した時は、若干揉めたが受け取ってくれた。


ドクターには、まだ娘さんが来てないため渡していない。


「……Gの完成は楽しみだけど、何か喜べない気がする…」


《こればかりは仕方ない、ドクターと会ってから考えればいいだろう》


「それしかないか……」


そして、数日後。アルシオーネの店に、二人の人物が来訪した。


その日、店番をしていたのはガンダム。アルシオーネは奥の方で、イナクトと客から依頼されたデバイスの整備。ピンクのハロは、邪魔にならないように跳ね回り、二体のハロが整備を手伝っていた。


偶然にも、またガンダムの暴走を止める者がいない。


だから、彼が犠牲になった。


店に入ったハラオウン親子、リンディは私服で、クロノは何故かバリアジャケットを展開したまま。恐らく外で事件があり、そのままで来たのだろう。

ガンダムは、クロノのバリアジャケットを見る。

黒で統一され、肩にはトゲ付き。バリアジャケットは、人それぞれの個性がある。だが、ガンダムの目から見れば、クロノのバリアジャケットはどうしてもアレにしか見えない。


だからこそ立ち上がり、リンディが声をかける前よりも、クロノがバリアジャケットを解除する前よりも駆け出した。


「見つけたぞ、お前が世界の歪みだな!!」


驚きに固まるクロノに突撃、ガンダムの蹴が炸裂した。この世界に来る時、神から貰った力。身体能力は十分に発揮され、クロノは対処できず吹き飛ぶ。

とても子供とは思えない力に、リンディは目を丸くし、奥から出てきたアルシオーネは、その惨状を見て頭を抱える。


ピンクのハロが、跳ね回る音。店内に静かに響いた。

これが、ガンダムとクロノの出会いである。




[19555] 6話
Name: おりおんす◆aa00b17c ID:66fcc4ff
Date: 2010/06/20 20:22
クロノ・ハラオウンは、ため息を吐きながら目の前で土下座するアルシオーネとガンダムを見る。


「ごめんなさい!」


「本当に申し訳ありませんでした!」


《マスターが迷惑をかけた、すまない》


ガンダムの頭は、アルシオーネが押さえ付けていた。剣型のデバイスは、コアを点滅させている。

ちらと隣の母を見ると、頷かれた。判断は自分に任せると云う事だろう。執務官として、謝るスタリオン家の二人に声を掛けた。


「本来なら、暴行罪で連行するべきかもしれないが…理由があるなら聞こう、ガンダムだったか。子供だからって許されるものじゃないからな」


その言葉に、アルシオーネはうなだれ、ガンダムは真っ青になる。自分が悪い事をした事を自覚しつつ、口を開いた。


「すみません、クロノ執務官さんのバリアジャケットが……いえ、個性だって事は分かってるんです。でも、どうしても肩にあるトゲが……せめて服が蒼と白だったらかんげ……じゃなくて悪役っぽく見えたんです……俺の思い込みで、蹴を入れた事は悪いと反省しています」


ガンダムの弁明の一部に、クロノは反応。


「悪役っぽい……?肩のトゲが……」


「はい、そのトゲでタックルしながら人を襲うのかと勘違いしました!申し訳ありません!!」


「な!?僕は執務官だ、そんな事はしない!!」


「落ち着きなさい、クロノ」


立ち上がるクロノを宥めるリンディ。アルシオーネは、そんな勘違いをしていたのかとガンダムの頭を叩く。イナクトは呆れながら、マスターをしっかり教育しなければと決意した。



6話



「それにしても、クロノ。ガンダム君の蹴で吹き飛んだのは何故?バリアジャケットは展開されていたんでしょう」


リンディの疑問に、ガンダムの悪役発言から落ち着いたクロノは答えた。


「バリアジャケットで、ガンダムの蹴は防げました。ただ、蹴の勢いが強く……その衝撃で吹き飛んだんです、とんだ馬鹿力ですよ」


「そう、勘違いの元はそのバリアジャケットね。クロノも店に入る前に解除すれば、こんな事は起きなかったんじゃないかしら」


「それに関しては、自分の落ち度です。そうするべきでした……それにしても……」


クロノは、アルシオーネとイナクトに常識や道徳を説きながら説教されるガンダムを見る。

その説教も終わり、アルシオーネが改めてリンディとクロノに謝罪した。その謝罪を聞いた後、クロノは反省中のガンダムに近づいて聞いてみた。


「ガンダム、聞きたい事があるんだが」


「何でしょうか、クロノ執務官さん」


「……普通にしてくれていい、見たところ同い年の様だしな。償いについては、母さんと話す。それよりも……バリアジャケット、そんなに悪役みたいなのか?さっき言い掛けたのは何だったんだ」


それを聞いたガンダムは、手元の紙にバリアジャケット案を書き、クロノに見せた。

そこに書かれていたのは、蒼と白で統一されたバリアジャケット、肩のトゲは丸みを帯びていて刺々しさがない。

クロノは知らないが、どう見ても、ダブルオーガンダムに酷似している。


「これなら、俺は感激していた。いや、誰であろうと蹴を入れた事は反省している……」


「……気にするな、こちらも勘違いさせた要因はあった。もう謝らなくていい、反省したのなら次に活かせばいいだろう。このバリアジャケットは……形成してみるか」


そう言ってS2Uを起動、ガンダムの提案したものを形成。そこには、蒼と白で統一され肩には丸みのあるトゲ。ダブルオークロノがいた。


感激したガンダムは、思わずクロノに抱きつく。


「これこそが、ガンダムの在るべき姿!!」


「おい、いきなり抱きつくな。本当に反省しているのか、後、ガンダムは君だろう!」


《……マスターの暴走は、成長すれば無くなっていく。そう信じたいが……》


抱きつかれ離そうとするクロノ、ガンダムを見てイナクトは呟く。その周囲を、ピンクのハロが元気よく跳ねていた。

結局、落ち着いたガンダムに懇願され、クロノ自身も気に入った為、そのダブルオーバリアジャケットは採用された。以後、クロノは艦長の職に就くまで使い続ける事になる。


リンディとアルシオーネに呼ばれ、クロノとガンダムはそれぞれ隣の席につく。口火は、リンディが開いた。


「さて、ガンダム君には反省と償いを含めて時空管理局本局の第四技術部で、勤労奉仕してもらいます」


「第四技術部、デバイス開発関連の部署ですか」


「そこなら、ガンダム君もいい経験になれるわ。しっかり働いて学んできなさい!」


アルシオーネの叱咤激励に、ガンダムは頷く。


「分かりました、そして時空管理局に巣食う世界の歪みを見つけてきます!」


「「「《……え?》」」」


反省しながらも使命に燃えるガンダム、他の四人はまた何か勘違いしてるのかと脱力した。たが、ガンダムから世界の歪みの概要を聞き出し、リンディとクロノ、アルシオーネの顔色が変わる。


取り敢えず、クロノが、ガンダムを本局へ案内。リンディとアルシオーネが、その場に残った。


「あの年頃の子は元気がいいわね、アルシオーネ。いい子よ、ガンダム君と仲良くやれそう?」


「そうですね、弟が出来たみたいで嬉しいです。暴走に関しては、これから直していくようにしますよ。それより……リンディさん」


世間話から、気を引き締めて本題に入る。ガンダムが言った事、世界の歪み。薄々は、二人とも感じ取っていた。地上本部と本局の黒い噂。


「あながち、間違いではないのよね……あの子、以外と本質を見極めている気がするわ」


リンディの感心に、アルシオーネは心当たりがありながらも頷く。


(神様から貰った知識なのか、ガンダム君が元から持っていた鋭さなのか、判断は付かないけどね……)


所属していた組織の疑念、それは、二人の心に宿る。

これが、変革の始まりだった。ガンダムは覚えているだろうか、神が注意した世界の修正。今は小さな変化でも、いつか大きく変わる事になる。ミッドチルダでも、第九十七管理外世界『地球』でも例外はない。


今はただ、


「これが、アースラ!まるで、ミーティアに似ている。ミサイル全弾発射、ありますか!?名前的には、アーガマかも。メガ粒子砲も搭載されているんですか!?」


「あるわけないだろう!」


ガンダムの償いと日常があるだけである。




[19555] 7話
Name: おりおんす◆aa00b17c ID:50ed2e16
Date: 2010/06/20 21:15
時空管理局本局第四技術部、クロノに案内されガンダムとイナクトの担当は眼鏡を掛けた翠髪の女性に任されることになった。


「マリエル・アテンザです、よろしくね」


「ガンダム・スタリオンです、こっちが友達のイナクトです。よろしくお願いします」


《よろしく、頼む。マスターが色々、迷惑をかけるかもしれないが……》


自己紹介の後、クロノはマリエルに事情を説明。ここの主任からは、許可を貰っている事を告げた。


「いいか、ガンダム。くれぐれも、迷惑をかけないようにするんだぞ」


「はい!」


後は任せましたと、クロノはマリエルに一礼して去る。ガンダムの勤労奉仕が始まった。



7話



マリエルと他の職員は、呆然とその光景を見ていた。最年少デバイスマイスターの噂は聞いていた、どんな子なんだろうと想像していた。彼の知識に興味を持っていたが、まさかここまでとは思わなかった。


「イナクト、ここはこうした方が出力も安定するんじゃないか」


《いや、安定する代わりにデバイスのフレームが耐えられない。もう少し、出力を抑えるべきだ》


「それなら、足りない分はカートリッジシステムで……いや、逆に負担が掛かる。これは後で考えるか」


《そうだな……システム搭載は見送るべきだろう、他に見落としがあるかもしれない》


次々とデータに打ち込まれるデバイス設計図。ちなみに、開発コードネームの中には、エクシア、フリーダム、ターンエー、GP02等。全てガンダムを参考にしている。


「マ、マリーさん……あの子供は一体何者なんですか!?」


問い掛けられたマリエルは答える術を持たない、否、答えられなかった。あの後、クロノ執務官から、ガンダム達を紹介され、ここの仕事内容を話し見学させる。初日は、こんなもんかなとマリエルは思っていた。

試しにデバイス設計図を提案してみると誘ってみれば数分後、そこには、沢山のデバイス設計図をデータに打ち込むガンダム達の姿があった。理解能力が早すぎる。


「よし、イナクト!ここの技術力なら小型版ヴェーダを開発できるかもしれない。その時は手伝ってくれ」


《だから、ソレは開発するなってあれ程言っただろう!!悪用されたら、どうするんだ》


「大丈夫だって!仕掛けを施せば問題ない、いいだろ?」


《それなら……いや、やはり危険すぎる!》


言い争う二人に、マリエルは我に返り、ガンダム達の元へ駆け寄る。


「凄い、凄いよ!ガンダム君。ねぇ、ここに就職してみない?君がいれば、助かるんだけど……」


「え……俺、まだ未成年ですが……」


「大丈夫!子供でも実力があれば働けるから、どうかな!?」


「は、はぁ……考えてみます」


眼鏡を光らせ迫るマリエルに、ガンダムは少し引いた。よく見れば、彼女の後ろにいる職員達も頷いていた。

その問答に、イナクトは安心する。小型版ヴェーダ開発案を阻止できたため。ガンダムは、まだ諦めていないようだが。


「ガンダム、迎えにきたぞ……って、何だ!このデバイス設計図のデータは!?」


仕事が終わり、ガンダムの迎えに来たクロノは、かなり打ち込まれたデバイス設計図のデータに驚く。


マリエル達に見送られ、本局を後にしたクロノとガンダム。今日の内容を聞いたクロノは呆れる。


「それで、デバイス設計図を作成していたのか。まぁ、悪い事じゃないし咎めはしないが……やり過ぎだろう」


「そうですか、熱中すると止まらなくなるみたいですね……自覚はあるんですが」


「……前にも言ったが普通に喋ってくれていい。同い年だろう?その口調は、疲れないか」


「クロノも十一歳なのか?やっぱり、子供でも実力があれば働ける……元の世界とは違うんだな……」


ガンダムの言葉に足を止めるクロノ、最後の元の世界云々は聞こえなかった。それよりも―


「十一歳……?僕よりも二歳下……その身長で……」


身長の事でショックを受けたが、すぐに立ち直る。成長期だから伸びていくと納得、ガンダムを送り届けた。


「ただいまー」


アルシオーネの店のドアを開けると、


「可愛い!ねぇ、ガンダム君のお友達!?」


「い、いや……そう言うわけじゃ……ご、御婦人、離してくれないか?」


アルシオーネが、銀髪の少女を抱きしめていた。リンディは帰ったらしく、いない。


「アルシオーネ姉さん?」


ガンダムの声に、アルシオーネは銀髪の少女を抱きしめたまま、こちらを向く。


「こんな可愛い友達が居るなら、紹介してくれてもいいじゃない!ガンダム君!!」


「え、えっと君は……」


《アルシオーネ殿は、可愛いものに弱いからな……ハロの時も大変だった》


この状態のアルシオーネには、何を言っても無駄と知っているガンダムは、銀髪の少女に問い掛けた。

アルシオーネに抱きしめられたままで答える少女。


「ド、ドクターの使いの者だ……それより助けてくれないか、少し苦しいんだ。御婦人に悪気はないのは、解っているが……」


その少女の言葉に、ガンダムとイナクトは来るべき時が来た事を悟る。


(もう、Gが完成したのか。早いよ、ドクター!?)


驚愕するガンダムだが、人のことは言えない。短時間で、デバイス設計図を作成したガンダムと短期間でGを開発したドクターは、ある意味で似ている。

銀髪の少女を救出しながら、これからの会合をどうすればいいか、ガンダムは頭を悩ませる。


似たような天才の二人が再会する日が来た。




[19555] 8話
Name: おりおんす◆aa00b17c ID:ee4dc9b7
Date: 2010/06/21 18:21
銀髪の少女の名前はチンクと云う。ドクターの娘さんらしいけど、外見上は俺と同じ位だ。

(もしかして、ドクターは結構年なんだろうか?見た目は若かったんだけどな)

あの後は、夜も遅いのでアルシオーネがチンクに泊まるよう薦めた。チンクもドクターに連絡を取り許可されたらしい、大喜びするアルシオーネは、夕食後、早速チンクを風呂まで引っ張っていた。


あの可愛がり様は止まらないなと、チンクの助けを求める目線を俺は黙殺。


ちなみに、ガンダムも当初アルシオーネに可愛がられた事がある。チンク程ではなかったが。

自室で、イナクトとドクターの対応について話し合う。

翌日、アルシオーネに見送られガンダムとチンクは、ドクターの家に行くのだった。

勤労奉仕については、クロノから今日はいいと言われている。理由は、ガンダムが設計したデバイス開発に第四技術部が働いているため。俺も同行した方がいいんじゃないかと進言したが、何故か上からの命令で、今日はいいと言われたそうだ。

そう通信で告げるクロノの顔は、何かを考え込んでいるようだった。



8話



「ここが、ドクターの家……まるで隠れ家みたいだ」


チンクに案内されたのは、人目の付きにくい場所。


《まるでじゃなく、隠れ家じゃないのか?首都クラナガンから離れすぎている。まぁ、ドクターには色んな事情があるんだろう》


その会話に、チンクは何も言わなかった。事実その通りである。


「ここを真っすぐ行けば、ドクターの部屋に着く。私は用があるから、一緒には行けない。すまないな」


そう言って立ち去るチンク、手に袋を持ちながらガンダムは真っすぐ歩いた。

ドアが目に入ったのでノックする、返事を聞いてから入室。


そこには―


ウィングガンダムゼロカスタム。

アルトロンガンダムカスタム。

ガンダムサンドロックカスタム。

ガンダムデスサイズヘルカスタム。

ガンダムヘビーアームズカスタム。


小型版Gが勢揃い、ドクターと紫の髪の女性がいた。


「やぁ、ガンダム君!隣にいるのは娘のウーノだ。それよりも、どうかね?AIはまだ積んでないが、素晴らしい出来だろう!!」


ウーノが、ガンダムに礼をするが目に入らない。ずっと、Gを見続けていた。ウーノも気にした様子はない。


「凄いです、ドクター!!」


《あぁ、称賛に値する》


絶賛の言葉を二人から聞いた、ドクターは満足気に頷いた。

その後、改良するべき所を話し、搭載するAIには紫のHAROをプレゼントし参考にしてはどうかと提案。ガンダムの能力に、ウーノは若干驚いたがドクターは面白そうに頷き、ガンダムの案を採用した。


ガンダムとしては、AIにヒイロ達ガンダムパイロットの思考パターン。DVDを頼りに組んで積みたかったが、さすがに止めた。昨日、話し合った時、イナクトに反対されガンダムも引き下がる。


もし、それを提案していたら大惨事になっていた。HAROでも変わらない気はするが、ハロ同士のネットワーク通信があるので多少はマシな方である。


改造案を語り合い、ウーノが持ってきてくれた紅茶と茶菓子を食べ、家を見学してきていいとドクターから言われ、ガンダムとイナクトは部屋を後にした。


「よろしかったのですか?ドクター」


「構わないさ、ガンダム君には是非、私達を知ってほしい。これを知って彼がどうするかは彼次第だ。立ち向かうなら面白そうになるし、手を取り合うなら歓迎する。実に楽しみだよ!」


「……そうですか」


両手を広げ演説するドクターに、ウーノは従う。自分達はドクターに付いていくだけなのだから。


広い廊下を歩くガンダムとイナクト。


「ドクターってお金持ちだったんだな……」


《そうだな、結局は聞き出せなかったが》


「話し掛けづらいんだよ、クロノさんで失敗したばかりだし……ドクターはいい人みたいだろ」


《判断は、まだしない方がいい》


「……あれ、あの人は……」


ドクターの疑いは晴れないまま、ガンダムは訓練室らしき部屋で砲を構える茶髪の少女を見た。


近づいて窓を叩く、その音に気付いたのか少女はこちらを向いた。


「……君は、ドクターから聞いていた……」


「それよりも、その砲はサテライトキャノンにピッタリですね!!」


「え……サテライトキャノン?これは、イーメスカノンだけど……」


興奮するガンダムを、茶髪の少女ディエチは落ち着かせる。イナクトは、呆れたのかコアを点滅させた。蹴を入れるよりはいい、少しは成長したのだろうと納得した。


「これは、私達の武装。ドクターのために造られたんだ」


ディエチから、インヒューレントスキルを説明されたガンダム。事前に、ガンダムが聞いてきた事には答えてほしいとドクターから言われた為、ディエチは教えた。


「そうなんですか……ありがとうございます」


肩を落とし、ディエチに礼を言ってガンダムは退出。その様子に、ディエチは首を傾げた。

長い廊下を歩くガンダム、イナクトは様子がおかしいガンダムに声を掛ける。


《どうした、マスター?元気がないぞ》


「……イナクト、俺は確信したよ。ディエチさん達は、超兵に近い存在だ。雰囲気と武装から感じ取れた。ドクターの事は信じたかっんだけどな……」


《待て!超兵とは何だ!?マスターは、また勘違いしてないか!?》


焦るイナクトだが、ガンダムは止まらない。長い廊下を駆け出す。


「俺は見つけた!ドクター達こそが戦いを生み出す存在、世界の歪みだ!!」


《落ち着け、マスター!》


勤労奉仕期間中に問題を起こすのは不味いと、イナクトはガンダムを説得する。

だが、今回ばかりはガンダムに間違いはない。ドクタージェイル・スカリエッテイ、彼の存在は正しく世界の歪みと言える。


二人の道が、交わる時は来るのだろうか。今は対決する時、ガンダムとドクターの論理の戦いが始まる。



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