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[19470] 【習作・ネタ】ダンジョンに挑戦するいじめられっこの話
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/11 16:59
大豆です。

皆様のダンジョンもの読んでいたら、湧き上がるものがありまして。
ダンジョンものに挑戦です。
チートっていいですよね。

では以下から始まります。








<1>



僕は死んだ。あっけなく。

ゲームをしていたら目がすごく痛くなって、頭痛もしてきて、肩こりとかやばくて、寄生獣とか飛び出してくるんじゃないかってくらい痛くて……

気付けばゲームをしていた時のまんまの格好(ジャージ)で、でっかい机に座る閻魔様の前に立っていた。


「佐藤ハルマサ(18)よ。貴様の人生は誰も幸せにせず、社会に貢献をしたわけでもなく、努力して目標を達成したことも無い。つまりはクソみたいな人生だった。」
「いやあの、のっけから傷つくんですけど。」

閻魔様は女性で、とっても乳がでかい。長い前髪に隠れがちな、ふっくらとした唇と、切れ長の瞳が扇情的である。

「む……そうか。無様な姿を晒すことで、優越感など、他人の暗い欲望を満足させたことはあったな。失敬失敬。」
「いや、ほんとに失礼ですよね!?」
「ふ、ついついやってしまう私の悪い癖だ。許せ。」

むん、と胸を張る閻魔様。思春期の少年としては揺れる胸に目が行っちゃうのはいたしかあるまい。

「さて、私の胸ばっかり見ているハルマサよ。」
「は、はい!」

そういうことは分かってても言わないで欲しかった!
僕の気持ちも知らないまま、閻魔様は真剣な顔をする。
真剣な顔も美しいですね。

「判決は当然『地獄行き』」
「…………ですよね。」
「と言うわけでもない。」
「え!?」

フェイントとかヤラシイなさすが閻魔様!
閻魔様は嫣然と微笑む。

「貴様は何も功を成していないが、これと言って罪も無い。どちらに行くかは私の胸一つ、と言うところだ。」
「……そうですか。」
「そんな貴様にチャンスを与えよう。」
「チャンス?」

閻魔様は机の端から、紙を一枚取り上げると、こちらに渡してきた。細かい字で色々書いてあるが、一番上にポップな字体で目立つ一文があった。

「『ダンジョン探索への参加者募集』……?」
「うむ。」

閻魔様は長い赤髪をサラリと揺らしながら頷く。

「このダンジョンをクリアすれば、貴様を天国に行かせてやろう。」
「ダンジョン……?」
「実は神のジジイの趣味がダンジョン製作でな。」
「神様とかいるんだ……」
「何、閻魔たる私も居るのだ。神が居ても可笑しくはあるまい。全く権限を振りかざしよって忌々しい……。」

ため息を吐きつつ頭を振る閻魔様。その吐息は淡く輝いており、とても綺麗である。
どーなってるんだアレ。

とにかく、閻魔様は確かに威圧感とか存在感とか凄いものがあるから納得できるけど、神様とか言われてもなぁ……ぶっちゃけウソ臭い。

「……で、神様がなんでダンジョンとやらを作るんですか?」
「趣味もあるが、それ以上にすこぶる暇らしくてな。」

神様なにやってんすか。もっと地上に奇跡振り撒いてくださいよ。

「で、新作のダンジョンが出来たばかりらしい。約200年ぶりの新作だが、今度のダンジョンは貴様ら人間の作り上げたものを盛り込んだとか。難易度が非常に高いらしい。」
「はぁ」
「貴様は運が良い。ちょうどダンジョンが出来たところに来るなんてな。ダンジョンに挑めるなど……羨ましい! クソ、私も有給を使い切って居なければ……!」

どうやら閻魔様は雇われらしい。机を叩いて悔しがっている。

「えっとその、ダンジョンができていなかった場合どうなったんですか?」
「その仮定は意味が無い。貴様はダンジョンに挑む事が決定している。」
「いや、あの聞くだけでも。」

閻魔様は、ふん、と鼻を鳴らす。

「天国にも地獄にも適さないものは、面倒くさいので基本的に地獄行きだ。」

あー。地獄行きだったんだ。セーフ!
でも、もしかしたら地獄って大したこと何のかもしれない。
落語でクリーンな地獄が出てくる話もあったし。

「あの、ちなみに地獄ってどんなところですか?」

ん? と閻魔様は右眉を上げる。

「人間が良い感じに酷いところを想像していたんでな。それに則って100年ほど前に大改修した。血の池でおぼれ続けたり、針の山を歩き続けたりできるぞ。行きたいのか?」
「いえいえいえいえいえ。」

ダンジョンあってよかったー!
神様ナイス!
安堵しつつ、僕はもう一度紙を見る。

『ダンジョン探索への参加者募集!』
・全10階層からなるダンジョンを踏破し、最奥にあるお宝を手に入れよう!
・意欲のある人なら誰でも歓迎!
・挑戦者の負傷、死亡、その他に対して、神様は一切の責任を負いません。


こんな感じの事がつらつらと書いてある。
そして最後、枠で囲った中に、奇妙な生物の絵がCGっぽく書いてある。
絵に矢印が引っ張ってあり、こんな魔物が出るよ!と書いてある。

その生物を、僕は見た事があった。

「これ、アイルー……?」
「貴様知っているのか!?」
「わっ!」

唐突に閻魔様が立ち上がり、胸倉を掴んでくる。ふんわりと柑橘系の匂いがする。ドキドキしちゃうよ。

「あ、ええ、知ってますよ。ゲームに出てきました。後ろ足で立って、言葉を喋るネコです。」
「なん……だと……?」

そう言うと、閻魔様は手を離し、顎に手を当てて「バカな…しゃべるだと…?」などとブツブツと一人の世界に入ってしまう。
僕はとても手持ち無沙汰だ。

閻魔様はしばらくブツブツ言っていたが、一つ頷くと、こちらを見る。

「ハルマサよ! 貴様に頼みたい事がある!」
「……何でしょうか。」
「このアイルーとやらを捕獲してきてくれ!」

え、と思った。
何でアイルーを? というのと何で僕が?と言う疑問がわく。

「この絵を一目見た時から心奪われた! そして心底悔やんだ。なぜ、なぜ有給が残ってないのかと……!」

閻魔様は拳を震わせていたが、こちらをギラリと睨みつけると、人差し指で僕を指差す。

「だが、そこにこの魔物の正体を知るお前が現れた! しかもちょうど貴様は、罪も功も無いため、天国にも地獄にも送らなくて良い人材! これは貴様に頼むしかあるまい!」
「そ、そうですね。」

テンションたけーと思いつつ、気圧されてついつい頷いてしまう。
僕なら、僕みたいな貧弱なボウヤには絶対頼まないんだけどな、とも思った。

「さぁ行け! ハルマサ! ダンジョン制覇者に、始めて人類の名を刻んで来い!」



まぁ、なんとなくその時嫌な予感はしたのだけど、何かを言う暇も無く、『ダンジョン探索への参加者募集』の紙を持ったまま、僕は意識を失った。

そして目が覚めたら、地面にぽっかりと開いた穴、『ダンジョンNo.23』と書いてある立て看板、それ以外は見渡す限り草原、という場所に居たのだった。



<つづく>





[19470]
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/11 16:55

<2>





目が覚めたら、草原でした。
すげぇ良い天気。超快晴。
でも僕の心は暗雲立ち込める酷い有様だった。

だって誰もいない。

閻魔様ー!
閻魔サマー!?
もっと説明とかぁー優しさとかぁー!
しっかりたくさん欲しかったぁー!

思い切り叫んでみたが、開けた空間に僕の声はあっという間に拡散して消えた。

寂しい。
寂しくて思わず立て看板(木製)に話しかけてしまいそう。
もしくは立て看板が話しかけてくれないかな。『オッス!オラ看板!』みたいな。見たら分かるよ、ってね。

「それにしても、ここがダンジョン……?」

立て看板に書いてある数字と、自分が持っている探索者募集のビラに書いてある数字は確かに一致している。

しかし。
底の見えない落とし穴にしか見えない。
もしかして飛び降りなければならないのだろうか。
というかもっと説明とかないのだろうか。
いくらなんでもコリャ無茶だ。

むーむー唸りつつウロウロ歩き回っていた僕は、足を滑らせてあっけなく穴に落ちた。





【第一階層・挑戦一回目】





落ちた先は密林だった。

半分意識を失いつつ、また、密かにちょっぴり漏らしつつ。
僕は20秒ほどのフリーフォールの後、叩きつけられてグシャア、とかならず、地表付近で急速に失速。
地面にしっかり立つことが出来ていた。

足が子鹿のように震えているが、まぁその辺はどうでもいい。
生きているって素晴らしい。
一頻り生の実感をした僕は、あらためて辺りを見渡した。

THE・密林とでも言おうか。
鬱蒼と草木が茂り、毒々しい色の花や、キノコが群生していたりする。
虫がほとんど飛んでいないのが救いと言えば救いである。

熱帯気候のようで、蒸し暑い。
ギャアギャアと甲高い声で何かが叫び、そこかしこで草木が揺れ動く。
遠くには潮の音さえした。
落ちてきたはずなのに何故か太陽の光も感じられる。
不思議な場所だったが、神が創ったんならなんでもありかも。

なんだか夢の中のようにも思える。だが、雑多な匂いや音を感じた脳が、いやがおうにも現実なんだと叫んでいた。

「あ、そうだ。モンスター出るんだった。」

ふと思い出した。
モンスターが出るという意識を持てば、この密林の何と怖いこと。
視界を遮る草や葉がそこらに生い茂り、逆に足元の草や枯れかけの枝は、こちらの場所を宣伝するかのように音を出す。

手元でクシャクシャになっていた紙には、階層ごとの大まかなコンセプトが書いてある。

第一階層から第三階層はテーマが『モンハン』だとか。
ちなみに第一階層は下位の村クエ、とかゲームをやりこんだ後が見える分類がしてあった。
同階層の中でも、奥に行くほど手強くなって来るらしい。

モンスターが出てくるんだろうか。

まさか、リアルでモンハンやる嵌めになるとは。
死亡フラグが乱立している気がする。
さっき聞こえた泣き声って、もしかしたらランポスとかかもしれないし、そうであった場合、勝てる気が全くしない。
木に登ったら逃げられるかなァ。そうだと良いなぁ。

急速に不安になってきた。
未だに実感が湧かないが、ここに突っ立っていても不安が増すだけのような気がする。

とにかくまずは何か使えるものを……武器。
そう武器を探そう。
どだい、モヤシの僕が素手でうろつくには、この密林は怖すぎる。

武器に使えそうなもの……どこかにないか……?

目を皿にして、慎重に歩くこと十数分。
ガサリと草が揺れるたびに心臓が縮まる思いがする。
そうしてギャアギャアと叫ぶような声は近づいてきているような。

何といっても今の僕は、手ぶらである。
そして忘れていたけど裸足である。
格闘技のかの字も知らない僕が、今現在肉食のモンスターと出会って、生き残る確率は実に低い。
また、その前に毒っぽい草とか踏んであっけなく死にそうだ。
精神的に酷く疲れる。

すごく帰りたくなってきた。

くそ、何か、何かあって……!

出来るだけ土の部分しか踏まないように歩くこと数十分。
キノコとか、草とか色々あったが、素手で触っても良いものかどうか判断がつかないため放置。
そして大木の下で、半ば土に埋もれるようになっている白いものを見つけた。

「骨?」

手触りは固く艶やか。
祈るような気持ちを込めて引き抜いてみる。
ズル、ズル、と抜けたのは長い骨だった。

「ははは! やった!」

バットくらいある骨だった。
嬉しさのあまり小躍りする。
ゲーム的には『棒状の骨』とかに該当するのではなかろうか。
60センチほどの長さは取り回しに適し、硬質な手触りとズシリとくる手ごたえは力を込めるに申し分ない。
何という安心感。今ならいじめっ子たちにも立ち向かえる気がする。気がするだけだけど。

しかし声を上げたのは失敗だった。

禍福はあざなえる縄の如しとは上手く言ったもので、骨という幸運を手に入れた僕にもさっそく不幸がやってきた。
モンスター襲来である。


ガサガサと茂みが揺れる。
あたりに漂い始める獣臭が、獣の襲来を告げる。

しまったと思ったときにはもう襲い。
思わず喉の奥で小さく悲鳴が漏れる。
いつの間にか10歩も離れぬ位置にモンスターの接近を許していた。

背中にコケを生やした豚。
頭はずんぐりと大きく、体は標準的な豚のサイズ。
短い蹄で地をかきつつ、モンスターはこちらを威嚇する。

「フゴッ、フゴッ」

こいつは――――――

「モスか……焦らせないでよ。」

ふいぃ、と額を拭う。
モンスターハンターの中で、僕が知る限り最弱のモンスター。
何故か怒っているが、それが何だというのか。
足が短いこいつなら、僕は簡単に逃げられる。

目の前で鼻を鳴らしてこちらを威嚇しているモスを見ていると、僕の心にムクムクと湧き上がるものがあった。
それは、こいつくらいなら、と言う気持ちである。

(モスくらいなら、僕にも倒せるんじゃないか?)

何を隠そう、モンハン2Gでは村クエの上位のガノトドス2匹討伐で躓き、攻撃力&防御力32倍のチートプレイに走った僕だが、ハンターのようにモンスターを真っ向勝負で倒したいと言う気持ちは持っているのだ。

そして目の前の最弱を僕は見る。
こいつの攻撃は走って、体当たりするだけ。
しかも足が遅い。体が小さい。

ならばサッと避けて、手に持つ頼もしい骨で殴りつけてやれば良い。

(なんだ、簡単じゃないか!)

僕はニィと笑うと、骨を構え、叫んだ。

「さぁ来い!」

だが、僕は2秒後に驚愕する。

なんとあのモスが! 足の短いあのモスが!

「ピギィイイイイイイイイイ!」
「な―――はや―――?」

すごく足が速かったのだ!

ドパァン! と爆発的なスタートダッシュを切り、突っ込んでくるモス。

地面を抉り返しながら驚異的な加速で瞬く間にこちらとの距離を詰め、対応できない僕へと飛び上がり、

「がふぅ!」

衝突。
体の中でバキバキと骨が折れる音がする。

(こ、こんなのってないよ……)

弾き飛ばされた僕は後ろの大木へと叩きつけられ、気を失った。









そうして。

「おかえり。早かったな。」
「……!?」

目が覚めた僕は、また、机に座る閻魔様の前に立っていたのだった。




<つづく>







[19470] 3(修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/21 15:39




<3>





閻魔様の前に立つ僕は、薄汚れた格好で、手には骨。
どこの浮浪者だと言える格好である。
さっき潰された僕の腹は今はなんとも無い。
ケガとかは無くなっているようだ。

それはさておき、僕は閻魔様に聞きたい事があった。

「あの、なんでまた僕ココに?」
「死んだからだろ。」

閻魔様はこちらを見ずに書類にポンポン判子を押している。

「もう死んでたんじゃ……?」
「ん? ダンジョンは生きている者しか入れないからな、サービスで生き返らせてやってたんだ。またすぐ死んだけど。」

判子を置いて、閻魔様はこっちを見る。

「で、アイルーいたか?」
「いえ、あの、見つける前に僕が死んじゃいまして。」
「………そうか。」

残念そうな顔をする閻魔様に胸が痛くなってくる。

「ま、他の奴とは違って私が協力するお前は、なんと死に放題だ。これは物凄い特権だぞ? 何回でも挑戦できる。そんなの私だって無理だ。羨ましくて仕方が無いな。」
「そ、そうですかね……」

僕は何回挑戦しても、モスに瞬殺される自信があった。
心が重たい。
蹲ってしまいたいが、そうして閻魔様の不況を買った場合、すぐにでも地獄行きな気がする。
ダンジョンも地獄みたいなもんだが、希望がある分マシだろう。
一重に僕が今立っているのは、まだ見ぬ地獄への恐怖からなのだった。

まぁそれはさておき、気になる事がある。

「というかアイルーってどうやって連れてこれば良いんですか?」

今回入ってみて分かったが、ダンジョンの中から戻ってくるのは難しい。
頑張ってイャンクックとか飼いならせばあの落とし穴から脱出できるかもしれないけど、家の飼い犬にも手を噛まれる僕にモンスターテイマーの才能があるとは思えない。

「む? そうか、言ってなかったな。実は神の作るダンジョンには法則性があってな。」

閻魔様が言うには、一階層をクリアするごとにテレポーターがあって、入り口へと帰ってこれるらしい。


僕がダンジョンから出てきたら、閻魔様には分かるそうなので迎えに来てくれるらしい。

「ていうか一層をクリアできそうに無いんですけど……」

言ってて情けなくなるが、これは言っておかねばなるまい。
あそこに放り出されたって即座に死ぬだけだろうし、何かしら対抗手段がほしい。
閻魔様も協力してくれるって言っているし。
僕は、訥々と、最弱のモンスターに一蹴されたことや、それ以上強いであろうモンスターには確実に手も足も出ないであろう事を閻魔様へと伝える。

すると閻魔様はふ、と笑う。

「正直な奴だな。だが、心配はいらん。もともと人間にはダンジョンは荷が重いものだ。それを加味して、貴様には生き返らせるときに特別な術式を組み込んである。」
「術式、ですか?」

なんか嗅ぎなれた匂いがプンプンしてくる。

「その名も、『レベルアップシステム』と『熟練度システム』だ!」

そう、僕の大好きなチートの香りだった。










レベルアップし、強くなる。
色々な技能を取得、熟練し強くなる。
簡単に言うとこのようなシステムである。
とにかく二つのシステムを組み込まれた僕の身体能力は、数値に直すことができるようになっており、閻魔様によって紙に書き起こされた数値は以下の通りである。

レベル:0
耐久力:2
持久力:1
筋力:3
敏捷:3
器用さ:3
精神力:5
経験値:次のレベルまで残り5

熟練度は割愛。
システムを組み込まれたばかりなので、全ては等しくほぼゼロ。
前回生き返るときに組み込まれたため、ひっそりと気配を殺すようにダンジョンを歩いた結果が反映されて、少しだけ穏行スキルと歩行スキルが上がっていたのかもしれないが、デスペナでそれもパァ。


ちなみにステータスの全ての数値は、成人男性の平均を10とした時の値である。

「お前弱いなー。」
「…………。」

一番高い精神力でも成人男性の半分とか。
なんて打たれ弱く、折れやすい僕の体と心。


ちなみに各項目は

耐久力……どのくらいまで我慢できるか、という指標。HPと守備力を合わせた感じだろうか。

持久力……連続して物事を行う際、どれだけパフォーマンスを持続できるか、という指標。

筋力………全身の筋肉の強さの平均を示す指標。量ではなく、質。

敏捷………身軽さ、素早さを示す指標。移動だけでなく腕を振る速度などにも影響する。

器用さ……手先や体の動かし方がどれくらい上手いか、という指標。また、技芸をどれだけ上手くこなせるかという指標。

精神力……心の強さを示す指標。集中力などにも影響する。

こんな感じらしい。



「ていうか僕のレベル0ってなんか新しいですね。普通1から始まるものだと思ってましたけど。」
「ああ、お前死んじゃったからな。一つ下がってんだ。」
「………えっ?」

死んだらレベルが下がるらしい。
今回はレベル1の状態からレベルダウンしてレベルゼロ。
おかげでステータスが残念なことになっている。

ちなみに死ななくても使わなければ、熟練度は下がっていく。
上がる速度とは比べるべくも無いので、ほとんど気にならないそうだ。

「賢さとかはないんですか?」
「賢さとか(笑)。お前、頭の出来は人に頼るもんじゃないだろう。自分で努力しろ。」

そうですけど。なんか納得いかないな。笑われたし。

「それでハルマサ。やる気が出たようだから、もっとやる気が出るようにしてやる。」
「どういうことですか?」
「うむ。お前がアイルーを連れてくる事が出来たら、一つ、お前の願いを叶えてやろう。私の力が及ぶ範囲だがな。」

いつの間にかお前呼ばわりになっているのは、親愛の証か、ただの下僕扱いになったのか。
まぁどっちでも良いんだけどね。

僕は閻魔様に、どうしても、どーーしても気になっていたことを何とかしてもらうことにした。

「それなら、僕の住んでいた家に返していただけませんか?」
「生き返りたいのか? それはちょっとな……」
「いえ、一日でも、半日でも良いんです」

家に帰ってちょっと作業できる時間があれば良い。
何故なら、僕のパソコンのハードディスクをどうしてもクラッシュしたいからである。
そして床下に隠した宝の数々も処分したい。
パソコンにはパスワードをかけてあるし、床下の宝も早々見つからないとは思うが、見つかる可能性は何時だってある。

僕の唯一の気がかりである。
まぁあくまで優先順位は低いが、親とかにも別れを良いたい気持ちも少しはある。

閻魔様は少し意外そうな顔をしていた。

「そんなに現世に執着があったのか?」
「ええ、どうしてもやらなければならないことがありまして。」

力強く言い切ると、閻魔様は興味深い、とでも言うように目を細める。

「罪も功も無いお前のような人間は、現世への執着は無い物と思っていたのだが、そうでもないのだな。」

閻魔様はぎし、と背もたれに身を預ける。

「ふむ。ではこうしよう。貴様が一層クリアするごとに一日、貴様を現世に帰してやる。これでどうだ?」
「え、えと、嬉しいんですけど……」

そう何度も帰されてもする事がなさそうなのだが、どうしよう。
というか死んだはずの人間が度々現れては僕の家族も困るのではないだろうか。

「死んでる人間が何度も帰ったって仕方がないですよ」
「その心配は無い。お前をダンジョンに送った時に、生き返らせたため、肉体はこちらに引っ張られた。今、お前は死亡ではなく失踪扱いだ。」
「し、失踪!?」

別の心配が要りそうな状況である。
僕は間違っても家出するような子どもではないし、多分部屋にはつけっ放しのプレステ2が置いてある。
家族にとって謎過ぎる状況だろう。
心配させてる気がするなァ。
第一層のクリアを早急に目指さなければならない。
閻魔様にアイルーを献上し、家族の混乱を解くために。

確かにやる気は出たのだった。


「じゃ、行って来い。」
「ま、待って下さい!」

閻魔様はあげ掛けていた手を下ろす。

「あの、靴とかもらえません?」
「なんだ。そういうことなら早く言え。」

そう言って閻魔様は指を鳴らす。

「え? ……おお!」

気付けば僕は靴をはいていた。
すごいな閻魔様。本人に気付かせず靴を履かせるなんて。

靴は運動靴だ。
素足で履いてるから違和感あるけど。

「お前の靴っぽいのを持ってきてやった。これで良いか?」
「は、はい!」
「じゃあ行って来い!」

ビューン!
とかそんな感じで閻魔様の手からオレンジ色の波動が飛び出し、僕は意識を失った。

迷宮探索リスタートである。



<つづく>







[19470] 4(修正訂正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/15 16:53
<4>





【第一層・挑戦二回目】






今回は直接穴の上にでも転移してきたのか、気付けばあたりは密林だった。

相変わらず、蒸し暑い。
僕は、遥か頭上に見える入り口の穴確かめた後、少し場所を移動した。

もしかしたら他の探索者が降ってくるかもしれないからだ。

鬱蒼とする密林の中で、少し開けた場所を見つけた。
大木が周りの木を巻き込んで倒れてできたと予想できる、空間である。

僕はそこにたどり着くまでに体力を消耗しつくしていたので、倒れている大木に腰掛けて休憩を取る。
ただ歩いただけなのに、持ち歩いていた骨が重いし、肺も喉も横っ腹も何故か頭も痛い。

さすが持久力1である。幼稚園児以下じゃないだろうか。

一頻り呼吸を整えた僕は、立ち上がり(その際立ちくらみがしたが踏ん張った)、この場所に来た目的を果たすことにした。

目的は、戦いに役立つスキルの熟練。
どうやったら手に入るかわからないので、適当に色々やってみることにしたのだ。
チートは大好きなので、期待が高まり、やる気は満々だ。
ちょっと位の苦しさなら我慢できる気がする。

そして最初に選んだのは簡単な運動。
すなわち素振りである。


「ふん! ふっ!」


ブンブンと野球のバットの持ち方で素振りをする。
こんなモヤシの僕でも、昔は草野球に参加した事がある。
三振して、相手側のピッチャーに自信をつけさせただけだったが、その後悔しくて、バットの持ち方くらいは調べたのである。
まぁ、野球には二度とお呼ばれしなかったので、意味のない行為ではあったが、人生、何処で何が役に立つかは分からないものである。

骨をバットのように持ち、振る。力強く。体重を乗せるように。
しかし、やる気溢れる心と違い、僕の体は貧弱そのもの。
バットを振る度に体は流れてしまう。

二回振ったら息が切れ、三回目には汗が噴出し、四回目には肩が外れそうになる。

もうちょっと頑張れよ僕の体……!

流石、レベルマイナスは伊達じゃない。
モスに瞬殺された時と比べてもさらに弱くなっていると確信できる。

しかし、頑張らなければ、死に続けて弱くなり続けるだけである。
その内筋力が衰えまくって呼吸も出来ずに、死に続けることになるかもしれない。
なんという地獄。
しかし、振り続けることでその地獄スパイラルから逃れ出る事が出来るかもしれないのだ。

それでまぁ、休み休み振り続けていると、突然脳裏にファンファーレが響いた。
聞いた事がある曲だ。
……高校のチャイム代わりに使われていた……えーと、ビヴァルディの「春」の一節か。

頭の中で響くっていうのが気持ち悪いな。

ファンファーレに次いで、頭の中に、聞き取りやすく綺麗な声が響く。ニュース番組のキャスターさんみたいな声。

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪ 長物を一定時間内に一定回数以上強振することにより、スキル「棒術」Lv1を取得しました。取得に伴い筋力にボーナスが発生します。≫

おおお!? 何かキタ!

不意に手に持つ骨の棒が軽くなる。
うお! 何だコレ!
あの、数時間つけていたパワーアンクルを外したような感覚だ!
しかもそれがずっと続くとは!
これが筋力アップの恩恵か!
しかも何だか骨が手に馴染む。
本当にスキルを得たみたいだ。

どうやら当てずっぽうだったけど上手く行ったらしかった。
初心者に優しいシステムだなァ。

にしても初スキルである。
テンションが高くなるのは仕方がないだろう。

ふふふふ! 今なら、素振りが10回連続でいけそうだー!


「ふん!ふん!ふん!……ふんっぐ! ……はぁ、ちょっと、ハァ、休憩……」


ダメだった……。

調子に乗って振っていたが、持久力は変動していないので、すぐにバてる。
記録は変わらず四回である。
おまけに手首をくじきそうになった。

だが、スキルを覚えたことで、テンションが上がっていたのだろう。
僕は集中して骨を振り続け、頭にファンファーレが響くのはそう遠い時間ではなかった。


≪「棒術」の熟練度が2.0を越えました。熟練に伴い筋力にボーナスが発生します。≫













骨バットを振り続けてどのくらい経っただろうか。

「棒術」Lv1スキルが5.0を超えた時に気付いたのだが、自分のステータスの見方を発見した。
なんか、こう自分の頭の中を目で見るような、そんな感じである。

で、まぁ頑張った結果、以下のような状況である。


レベル:0
耐久力:2/3
持久力:3/3
筋力:9
敏捷:3
器用さ:3
精神力:5
経験値:次のレベルまで残り5

スキル
棒術Lv1  :5.03
姿勢制御Lv1:1.12



筋力は「棒術」Lv1スキルが1.0上昇するごとに1あがり、さらに5.0になった時は、耐久力・持久力・筋力・敏捷にボーナスがついたのだ。
また、同じ行動をとり続けたことにより取得したスキル、「姿勢制御」の取得時のボーナスが持久力アップであったのも嬉しい。

一心不乱に振り続けてきたわけだが、なんと筋力は平均に届きかけている。
スゴイ進歩である。
体重を乗せた一撃が放てるようになっているのが自分でも分かる。
まぁそれでも素振りは20回もしたらバてるのだが。

筋力の上昇に伴って発覚したのが、筋力は素振りに使わないところの筋力も上がっているということである。
全体的に筋力が無かったもやしの僕が、今や筋力だけは大人の人とタメ張れる。
見た目が大して変わっておらず、少し筋肉がついたかな、というくらいなのにスゴイ進歩である。

耐久力が落ちているのは手が豆だらけになっていることを反映しているのではないだろうか。
手に豆が出来ただけで、HPの3分の1が減るなんて、流石僕である。
もしかしたらお腹が減って喉が渇いているので、そのせいかもしれないけど。

そしてスキルも見る事が出来るようだ。


■「棒術」
棒を振り回す技術。棒の扱いが上手くなる。熟練に伴い筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、棒や棒に準ずる物を手足の如く扱えるようになる。


■「姿勢制御」
姿勢を保つ技術。行動中または静止中における姿勢の保持が容易になる。熟練に伴い持久力または器用さにプラスの修正。上級スキルに「身体制御」がある。状態異常「よろめき」に弱耐性。



以上のように大まかな内容が分かる。


「棒術」スキルも5.0ときりが良いので、そろそろ違うことをしたい。
というかお腹減った。

しかし、そこらに生えているキノコなんかは食べたくない。
モンハンシリーズには、結構恐ろしい効果を持つキノコがたくさん出てくるので、どうもしり込みしてしまう。

「これとかは多分いけると思うんだけど……」

目の前にあるのは薄っすらと青いキノコ。
おそらく「アオキノコ」であると予想できる。
モンハンシリーズでは薬草と調合することで回復薬になるという、貧乏ハンターには欠かせないキノコである。
でも、怖くて手が出せない。
もしこれが、毒入りでも、僕には判断できないのである。

うーむ、うーむとキノコを見て唸っていたら、頭の中でファンファーレが響いた。

≪一定時間同対象を観察したことによりスキル「観察眼」Lv1を取得しました。≫

「新しいスキルか!」


■「観察眼」Lv1
 対象を観察する技術。注視することにより、様々な情報を得る事が出来る。スキルレベル上昇に伴い、取得情報が増加する。


都合いーなー。助かるけど。

キノコを見てみると早速効果があるようで、なんとなく危険か危険ではないか、という違いが分かる。
さっきまで見ていた青いキノコは大丈夫だが、隣のシイタケみたいなやつはダメ、となんとなく分かる。

とても不思議だが、このダンジョン自体が不思議の塊なのでもう気にしないことにする。
諦めこそが適応への近道なんじゃないかな。多分。

では早速。

青いキノコを毟り取り食べる。

「いただきます!……ムグ………………味がしないな………」

すごく塩がほしい。
網と火があれば最高だ。

キノコを5つほど土を払い落としつつ食べたところで、今度は喉の渇きが気になりだした。

水……どうやって探せば良いんだ?

地面を見ても分からない。
上を見上げても分からない。



観察眼なんて見つめてただけなのにスキルが発生した。
だったら、他にも何か適当にやればスキルが発生しないかと色々試行錯誤する。

雨乞いスキルとか無いかな、と思いつつと祈ったり踊ったりしてみたところ、「祈り」Lv1と「舞踏術」Lv1を得て、精神力と敏捷がそれぞれ上昇したのは美味しかったが、雨乞いは出来なかった。

それどころか、「雨降れやぁ!」と叫んだところ、


≪特技「雨乞い」を使用するには、レベルが全然足りません。魔力が全然足りません。器用さが全然足りません。精神力が全然足りません。スキル「舞踏術」Lv9、スキル「神卸し」Lv9、スキル「水操作」Lv9、スキル「風操作」Lv9を取得する必要があります。触媒「雨の結晶」「雲貝」が不足しています。魔法陣を作成してください。≫


以上のナレーションが頭に響いた。
なんか色々足りないことはよく分かった。
しかし「雨降れや!」って叫ぶだけで発動するなんて。
と言うかスキルじゃなく「雨乞い」って特技だったんだ。
特技って何だろう。
しかも魔力? を900も使う。
魔力って僕には存在しないけど、このステータスの方式だから、大人の平均所持魔力の90倍もの魔力を使って、さらに色々触媒やら何やらを使わないといけないのか。
雨乞いって大変だね。

ため息をつきつつ、そういえば何かここは周りが静かだなァと思い、そして気付く。


「そうか、音だ!」


という訳で、遠くの音に気を配る。
これで、さっきの「観察眼」と同様、音に関する何らかのスキルが出るはず。

さっきから遠くでギャアギャアと甲高い声がしていたのでちょうど良いと思い集中してみた。
そうして3分くらい経っただろうか。

水探しに使えそうなスキルがやっとでた。

≪一定時間、同音源について注意を払ったことにより、スキル「聞き耳」Lv1を取得しました。≫


■「聞き耳」Lv1
 一定範囲から音を拾う技術。効果範囲内の音から様々な情報を得る事が出来る。スキルレベル上昇に伴い、効果範囲、取得情報が増加する。音を用いた攻撃への耐性が低下する。


「これは……使える!」


水探しにも使えるし、何より索敵に使える事が嬉しい。

このスキルは有体に言って耳が良くなるスキルらしい。
聞き流していた音も、はっきりと聞こえるようになった。
今なら後ろからの奇襲にも驚かないだろう。

避けれるかどうかは別にして。


音に集中すると、せせらぎの音こそ拾い上げる事が出来なかったが、前方、後方、左方に動く獣の気配を感じる。

やはり便利だ。

思わずニヤリとしつつ、僕は敵の居ないであろう右に向かっていった。




<つづく>




現在のステータス

佐藤ハルマサ(18歳♂)
レベル:0
耐久力:2/3
持久力:3/3
筋力:9
敏捷:4
器用さ:3
精神力:6
経験値:次のレベルまで残り5



スキル
棒術Lv1  :5.01     ……全ての武器の基本でありながら、極めれば凄いことになる。
舞踏術Lv1 :1.00
姿勢制御Lv1:1.13     ……座っているだけでも背筋を伸ばしていれば熟練度は上昇します。
観察眼Lv1 :1.09
聞き耳Lv1 :1.12
祈りLv1  :1.00


■「棒術」Lv1
棒を振り回す技術。棒の扱いが上手くなる。熟練に伴い筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、棒や棒に準ずる物を手足の如く扱える。

■「舞踏術」Lv1
 踊りの技術。体を動かし喜怒哀楽などを表現できるようになる。熟練に伴い敏捷にプラスの修正。熟練者は、踊りで言葉さえも伝えることが可能である。

■「姿勢制御」Lv1
姿勢を保つ技術。行動中または静止中における姿勢の保持が容易になる。熟練に伴い持久力または器用さにプラスの修正。上級スキルに「身体制御」がある。状態異常「よろめき」に耐性が付く。

■「観察眼」Lv1
 対象を観察する技術。注視することにより、様々な情報を得る事が出来る。スキルレベル上昇に伴い、取得情報が増加する。

■「聞き耳」Lv1
 一定範囲から音を拾う技術。効果範囲内の音から様々な情報を得る事が出来る。スキルレベル上昇に伴い、効果範囲、取得情報が増加する。音を用いた攻撃への耐性が低下する。

■「祈り」Lv1
 神や精霊へと願いを届ける技術。集中し祈ることで、様々な恩恵を得る事が可能となる。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。上級スキルに「神卸し」がある。精神を対象とした攻撃に耐性が付く。


<あとがき>

ご都合主義すぎてハルマサ君は調子乗ってるので、そろそろ死んだらいいと思います。








[19470]
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:aef51c80
Date: 2010/06/12 22:19
<5>




鬱蒼と茂る森の中。

「聞き耳」を立てつつ草を掻き分け歩いていくと、耳にチョロチョロと水が流れる音を捉えた。

(水か!)

思わず走り出しそうになる足を抑えつつ(走ったら即座にスタミナが切れる)、僕は音源へと近づいていく。

そしてバサッと草を掻き分けると――――――

確かに水源はあった。

苔むした岩の間から、細くはあるが、絶え間なく水が流れ出て、小さな水溜りを作り、そして水溜りから溢れ出した水は川の基点となってハルマサの来たほうとは反対側へと流れている。

しかし、その前に存在する障害。
そいつが問題だった。

「またお前か……」

そう。
またモスであった。

今まで寝ていたのか、寝転んでいたモスはハルマサに目を向けつつ、バッと跳ね起きる。
確実に豚の動きじゃない。

「お前は、モスであってモスじゃないんだな。」
「フゴッ!」

モスはトーントーンとその場で盾に何度か飛んでいる、その高さがおかしい。
優に1メートルは飛び上がる。

こんな機敏に動かれたら、きっと大剣は当たらない。
ボウガンだって散弾くらいしか当たらないに決まっている。

小さな的に、素早い動き。
普通に強敵だった。
もうこのダンジョンにモスは、スーパーモスと呼ぼう、と思いつつ、ハルマサは叫ぶ。

「だが、僕も以前の僕じゃない! かかって来い!」

ハルマサには勝算があった。
前回やられたのは、あまりに早い挙動にも原因があったが、なによりの敗因は驚いて体が固まってしまったことだ。

ならば予想している今は負けるはずが無い!


……そう思っている時期が僕にはありました。


モスはグッと体を沈ませると、次の瞬間、


「な――――――はや―――?」


残像すら残る速度で突っ込んできた。遅れたように地面が弾ける。強烈な力で踏み切った証だ。

(そんなバカな! 前は本気じゃなかったとでも!?)

混乱するハルマサ致命的に対応が遅れ。

またもや亜バラが折れる音を聞いたのであった。















そうして気付けばまたもや閻魔様の前である。


「で、また死んでしまったと。」

閻魔様の鋭い視線が非常に痛い。

「はい……」

しょぼくれる僕を、閻魔様は困ったように笑った。

「落ち込むなハルマサ。レベルはマイナスになってしまったけどな。」
「ふふふ、泣きそうですよ……」


デスペナルティによるマイナス修正は以下の二つ。

・レベルダウン。それに伴う全ステータス20パーセントダウン(切り捨て・最低1ダウン)。

・スキル熟練度ダウン。全熟練度の20パーセントダウン(切り捨て・最低1ダウン)。スキルによって修正されていたステータスの再修正。



以上の修正が罹り、ハルマサのステータスは非常に残念なものになっていた。



ハルマサ(18♂)の残念なステータスはこちら。


レベル:-1
耐久力:1/1
持久力:1/1
筋力:7
敏捷:2
器用さ:3
精神力:4
経験値:次のレベルまで残り3


スキル
棒術Lv1  :4.01





スキルが一気に寂しくなった。


「デスペナ厳しすぎません?」

ついに耐久力まで1になってしまった。
今度手の豆を潰したら、それだけで僕は死んでしまうのだろうか。
いや、そんなことはない。
ないと良いなぁ。

「バッカ、お前、生き返れるだけ安いもんだろ?」

閻魔様はいつの間にか非常にフレンドリーな感じである。
その容姿に心臓をわしづかみにされている僕としても嬉しいことこの上ない。
閻魔様はこちらを見る。

「そんで、なんで死んだんだ?」
「…………。」

前回と同じく、予期せぬ遭遇から即殺された、などと言っても良いものか。
閻魔様に見放されるんじゃないだろうか。

「な・ん・で・だ?」
「ヒィ……!」

プレッシャーをかけるのはやめてほしい。
精神力とかもしっかり下がっていて抵抗とかまるで出来ないのだから。

結局洗いざらい喋った結果。

「なんで同じ相手に負けるんだよ。一度食らった攻撃なら華麗に回避しろよ」
「いやそんな、セイント星矢じゃあるまいし」

だいたい、あの豚もどきはずるいのだ。
ぴょんぴょんと縦への視線移動を意識付けて置いてから、突然、最高速で突っ込んでくるのだ。
いや、勝手に引っかかっただけだけど。
ていうか早すぎるよ豚なのに。初見殺しにも程がある。

……未だにモスにすら勝てない僕は何なのだろう。
あいつは最弱なのに。
このまま負け続けて、その内ステータスオール1とかになりそうだ。
そうなったら僕はカス中のカス。キングオブカスになってしまう。

「ふぐうう、ううぅうう…」
「な、泣くなよ」

思わず涙が流れてしまい、閻魔様に心配をかけてしまった。

「す、すみません……グス…こんなカスみたいな人間ですんません…」
「そうネガティブにならんでも」

まぁでもそうだ。
僕の大好きな歌手も歌っているではないか。
泣いたって何も変わらないと。
まぁ実際女性が泣いていれば、心が変わる男はたくさんいると思うけど、男の僕は泣くだけ時間の無駄なのだ。

しかも閻魔様に迷惑をかけている。
無駄どころか害でしかない。
僕の涙って、僕の存在と同じくクソだな。

僕は唇を噛み締め涙を拭くと、へへ、と無理やり笑いを浮かべる。

「泣いてる場合じゃないですよね。送ってください。何、モス如き、今度は軽く倒して見せますよ」

完全に強がりだったが、そんな僕を見て閻魔様は微笑んでくれた。

「まぁ確かにお前はカスだが、それでも前向きな良いカスだ。お前の姿勢を私は好ましく思うぞ。それじゃあ、行ってこい!」

閻魔様に褒められ(?)て有頂天なっている僕は、閻魔様の細く長い指から放たれるオレンジ色の波動で、またもやダンジョンへと飛ばされるのだった。

バビューン!

「アイルー頼んだぞー! って聞こえてないか。」















さて、ダンジョンの入り口である。

周りは相変わらず一面の草原。
そよそよと優しく風が吹き、空は呆れるほど良い天気である。

今回は穴の上に転移されなかったのか、ダンジョンに入るまで僕は安全なココでいろいろ出来る。
手に豆はない。
相変わらず傷はリセットされているようだ。
ついでに言えば喉も渇いていない。




何が必要か考えて、とりあえず以前取得していた技能を取り直すことにした。


まず素振りから。
2回の死亡の際、決して離さなかった骨を振りかぶり、一回、二回、と振りはじめる。
まぁ四回で当然の如く限界が来て、座って休む間は木製の立て看板を凝視する。


≪一定時間同対象を観察したことによりスキル「観察眼」Lv1を取得しました。≫


まずは一つ。

息を吐くと、ハルマサは骨を手に取り立ち上がった。



<つづく>





[19470]
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Date: 2010/06/12 22:19

<6>


骨を振り終えた瞬間、頭の中にファンファーレが響き渡る。曲はもちろんビヴァルディの「春」だ。


≪スキル「棒術」の熟練度が5.0を越えました。耐久力、持久力、筋力、敏捷にボーナスが発生します。≫

「ふう……」

結構時間がかかったが、これで以前とっていたスキルは全て取り直した。
おまけに遠くを眺めていた時にスキル「鷹の目」Lv1を取得している。これは単純に目が良くなるスキルのようだ。


■「鷹の目」Lv1
 遠くの対象に焦点を合わせる技術。遠くのものをはっきりと見る事が可能となる。スキルレベル上昇に伴い、焦点距離が延長する。投擲、射撃時の命中率にプラス修正。



現在の状況はこんな感じ。


レベル:-1
耐久力:2/2
持久力:3/3
筋力:8
敏捷:4
器用さ:3
精神力:5
経験値:次のレベルまで残り3


スキル
棒術Lv1  :5.00
舞踏術Lv1 :1.00
姿勢制御Lv1:1.76
観察眼Lv1 :2.51
鷹の目Lv1 :1.31
聞き耳Lv1 :3.83
祈りLv1  :1.00



何だかすごく強くなったように見える。
全部平均以下なんだけどね。
しかしまだまだ、こんなことじゃ満足しないよ!


僕はこの平原で、持久力や敏捷をあげたいと考えている。
筋力は及第点だが、足が遅いのは致命的である。
走ったらすぐ息が切れるのもまた同じく。
最低でも3くらいは持久力がないと足系スキルを上げることは出来ないと思っていたため、今まで必死こいて骨を振りまくっていたのである。
「棒術」の熟練度5.0で色々ステータスが上がるって知っていたしね。

という訳で、この地で少し走っていくことにする。

まずはダッシュだ。
どのくらいの速度でどのくらい走れるか知っておきたい。


「うぉおおおおおおお!」


結果:小学生並の速度で20メートルほど走ったら、足がもつれてこけた。

下が柔らかい土じゃなかったら、また体力が減っていたかもしれない。
草原でよかった。

あと自分で走っていて思ったが、全力で走ってもやっぱり足は遅い。

走り込みが必要だが、高速で動く技能をとる条件を、今の持久力では満たせないと予想する。
よってまずはスローペースで長く走ることを目標とする。

僕は一つ頷くと元気よく走り出した。




「ヒィ……ヒィ……」

まだ!? スキルはまだ!?

歩いているよりは早いかな? という速度でヘロヘロになりながら走り続ける。
持久力はとっくにゼロだ。
モンハン2Gで言えば、スタミナがなくなってもRボタンを押して走り続けている状態かな。

辛くて苦しいです……!


そうなってからどれくらい走ったか分からなくなる頃。

もう思考はまっ白で、頭痛、吐き気、胸の痛み、何故か眼球の痛み、足は鉛を通り越して泥のように感覚が無い、そのような状態となっていた時。

頭の中で音が鳴った。

ファンファーレだ!


≪一定の速度で一定時間走り続けたことにより、「長距離走破術」Lv1を取得しました。取得に伴い持久力にボーナスが付きます。≫

≪持久力が無い状態で一定距離を移動したことにより、「撤退術」Lv1を取得しました。取得に伴い持久力にボーナスが付きます。≫


二つ同時の取得だった。
持久力が上がったことで、体がすっと大分楽になる。
思わず立ち止まった僕がなんとか吐き気をギリギリ堪えられたんだから、大きな変化である。
倒れなかったし。



■「走破術」Lv1
 長い距離を走り抜く技術。一定距離以上の移動をする際、疲れにくくなる。熟練に伴い持久力にプラスの修正。熟練者は七日七晩止まらず走り続ける事が可能となる。


■「撤退術」Lv1
 逃亡する技術。敵対する対象から離れる際、素早く移動できる。熟練に伴い持久力または敏捷にプラスの修正。熟練者は目にも止まらぬ速度で消え去るように居なくなるという。




頼もしいスキル、なのかな?
よく分からないけど持久力も増えたしやっと次のメニューに移れるというもんだ。
次は何にしようか。

反復横跳びかダッシュか……






まぁどっちからやっても一緒だと思い、とにかく頑張ってやってみた。

僕はこんなにも頑張る人間だっただろうかと疑問が湧くが、しかし、結果がすぐに出るという事実が僕の行動を後押しし、僕は必死に足を動かした。


結果、体の中の多大な水分とカロリーを犠牲に、見事ファンファーレが鳴り響き、以下のスキルを得た。



≪一定時間以内に一定速度での移動、停止、方向転換が一定回数以上行われたことにより、スキル「撹乱術」Lv1を取得しました。取得に伴い、敏捷にボーナスが付きます。≫

≪一定時間以内に一定速度以上での移動が一定回数以上行われたことにより、スキル「突進術」Lv1を取得しました。取得に伴い、精神力にボーナスが付きます。≫



■「撹乱術」Lv1
 敵を混乱させる技術。敵対する対象を基点とした効果範囲内で、素早く動けるようになる。熟練に伴い、敏捷にプラスの修正。熟練者は残像を残す速度で動き回り、分身したように見えるという。


■「突進術」Lv1
 敵に向かっていく心のあり方。敵対対象を基点とした一定空間内で、敵対する対象との距離を縮める際、ひるまずに素早く移動する事が出来る。熟練に伴い、敏捷または精神力にプラスの修正。上位スキルに「突撃術」がある。




「突進術」の距離を縮める、というのは結構曖昧だ。
だが、素早く距離を詰められるというのはとても有用である。
何故ならダンジョンでの死因は二回とも、素早く距離を詰められた後の体当たりなのだ。
これを軽視するようでは何で死んだのか分からない。
また、ふたつのスキルは、互いを高めあうためさらに嬉しい。

おまけにもう一つ、反復横とびをしている際に「姿勢制御」の熟練度が2.0を通り越して3.0まで溜まったため、持久力と器用さも一つずつ上がった。
特に器用さは重要だ。
走っている際よく靴紐がほどけてたのだが、結びなおす時間が短縮されて単純に助かったのだ。
というかこんなことすらも満足に出来なかった僕の器用さは本当に低いと思う。
未だに上手く結べないし。



加えて、「聞き耳」や「観察眼」、「鷹の目」も休憩中に使えるため、ぐんぐんと熟練度を伸ばし、中でも「聞き耳」は熟練度が9.0を越えた。
ココまで、特に聴力に変化がない以上、熟練度はスキルに対する経験値のようなものだと判断するのが正しいだろう。
スキルの能力値変化が起こるのはレベルが上がった時だと考えると辻褄が合う。

という訳で10.0を越えた時、スキルのレベルが上がるかどうか少し期待してしまう。






「さて、と……」


いい加減お腹も空いてきた。
まだまだ、やりたいない感はあるが、何か今ならモスに勝てる気がするし、とりあえずダンジョンに突入して腹ごしらえだ!


「トリャー!」


僕は威勢良く穴に飛び込むのだった。



<つづく>





[19470]
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Date: 2010/06/12 22:20

<7>




【第一階層・挑戦三回目】





20秒間の自由落下は、まだ慣れない。
というか、いつか慣れてしまう日が来るんだろうか。
なんかいやだなァ。

緩みそうになる尿道を締めつつ、落ちてきた勢いが嘘のように、僕はふわりと降り立った。
思い出したかのように重力が襲いくるので少し気持ち悪い。


さぁ、まずはキノコを食べよう。
未だに危険かそうじゃないかしか分からないが、それでも食べる分には問題ない。

前は青いキノコしか食べなかったが、今回は新たな味にチャレンジである。

目の前にはオレンジ色、黒色、赤色、黄色、紫色、灰色、など様々なキノコが並んでいる。

特に灰色は何か変なオーラが漂っているように見える。
危険か危険じゃないかよく分からない。

よく見ようと目に力を込めると、脳の裏でポーン、と電子音っぽい音。特技「雨乞い」の時にも聞いた音である。

≪対象の情報を獲得するには、スキル「観察眼」Lv2を取得する必要があります。≫

「観察眼」スキルが不足しているということか。

今、「観察眼」Lv1スキルは8.93。

まだまだ届きそうに無い。10.0になってもLv2になるか分からないし。

それ以外のキノコは、食べられるのはオレンジ色のものだけだった。それ以外は大小あるが危険そうである。

オレンジ色のキノコは鼻を近づければなんとも懐かしいというか芳しい匂いがする。
ニンニクと唐辛子……の匂い?

「………はむ。」

口に入れた途端、舌の上で鮮烈な味が踊り、匂いが鼻へと突き抜ける。

コリャあ……ウメェ!

懐かしくも美味しいキムチ味だった。

何だろうコレ。キノコキムチ? いやあれって加工品だろうし……まぁいいか。ほんと上手いなコレ。

死んでからまだ二日もたってないだろうけど、なんだか、故郷の味を食べているような懐かしい気持ちになる。
あー、家に帰りたくなってくるなァ。
頑張ろう。

その前にもう一つ……ウマイ!













「さーて水、水。」

キムチ味のキノコを食べて、さらに喉が渇いたハルマサは、「聞き耳」を立てつつ移動を開始する。
前以上に集中し、今度は寝息すらも聞き逃さないと、気合を入れての移動である。

そろりそろりと、地面を注意深く観察しながら進んでいく。
ココでこけて耐久が残り1とかになったら泣くに泣けないしね。

そうして10分ほど、ノロノロと進むうちに、まず「聞き耳」、やがて「観察眼」スキルが10.0を突破。
これまで、熟練に伴ってステータス変化を起こさないスキルは熟練度が溜まっても何も怒らなかったが。今度ばかりは違うようだった。

≪「聞き耳」の熟練度が10.0を越えました。「聞き耳」のレベルが上がりました。レベルアップに伴い、効果範囲が増加します。≫

≪「観察眼」の熟練度が10.0を越えました。「観察眼」のレベルが上がりました。レベルアップに伴い、取得情報が増加します。≫


辺りが一気に騒がしくなったようだった。軽く混乱しつつ、目を瞑って集中すると、遠くに水の流れる音を発見する。
そして、また獣の気配がそこに居るのも。

しかし、今度は鉢合わせるような真似はしない。大きく迂回して、中流あたりで喉を潤せば良いのだ。
何も正面切って戦うのだけがダンジョン攻略じゃないしね。

そう思い目を開ける。自然とうつむいていたのだが、地面に見ているとえらいことに気付いてしまった。

「……ッ!!」

カラスの足跡を何十倍も大きくしたような窪みが、植生に隠れるように左のほうから右のほうへ延々と続いている。
しかも通り道にある大木の根が踏み潰されている。
相等重いということか。
どれだけ大きいんだよ。

「観察眼」が告げることは一つ。
ここは大型の魔物の通り道だということだ。
ていうかイャンクックな気がする。
モンハン的に。

急いで離れなければ。
くそう、なんで僕はキムチなんか食ったんだ。
匂いで追いかけられたらどうする。
あの怪鳥も絶対足速いのに!

「聞き耳」全開だ! いや、全開もクソも無いんだけど。集中していかないと!

その時遠くでワッサワッサと翼で空を叩く音がする。
次いでズシーンという音。

何か聞こえたー!

今、絶対怪鳥が着地した音だよね!?
しかもこっちに近づいて気とるがな!

ど、どないしょー! どないしょー! って決まっとるがな、逃げるんじゃイ!
さぁ逃げよう! そら逃げよう!

今こそ「撤退術」を見せる時! 光の速度で走ってやるぜ!

「うぉおおおおおおお!」

僕は用心とかそういうのを全て放り投げて、怪鳥らしきモンスターから全力で距離をとるのだった。
















そうして今。僕は全力で隠れています。
大きな葉っぱの下に、身を伏せて。
多分キムチの匂いのする口を両手で必死に抑え、鼻息も出来るだけしないように、震えながら隠れています。

そのすぐ10メートルほど先。


「ブルフゥ! ブルフゥ!」

(おっとこヌシきた――――――!)


巨大なイノシシが鼻息荒くキノコを食べているのです(涙)。
誰か助けて――――――!

あれ? おっことヌシだっけ?




<つづく>




ステータス


佐藤ハルマサ

耐久力:2/2
持久力:8/8
筋力:8
敏捷:6
器用さ:4
精神力:6


相変わらず打たれ弱いがそれ以外は徐々に上がってきた!
頑張れハルマサ!




所有スキル

スキル
棒術Lv1  :5.00     ……まだ一回も実戦で使われない不遇のスキル。
舞踏術Lv1 :1.00     ……どうやって取得したのか謎。多分パラパラとか、ウマウマとか?
姿勢制御Lv1:3.56
突進術Lv1 :1.00
撹乱術Lv1 :1.00
走破術Lv1 :3.22
撤退術Lv1 :2.74     ……クック先生から逃げたので上昇している。
観察眼Lv2 :10.2
鷹の目Lv1 :7.12     ……某弓兵っぽく。
聞き耳Lv2 :10.3
祈りLv1  :1.00     ……祈っても届かないことは良くある。




装備
ジャージ上下        ……お腹の辺りが少し破れている。
運動靴           ……ナイキ。通気性は良い。
棒状の骨          ……バット的な大きさ。まだ何にも叩いていないので新品(?)同様。




[19470]
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:aef51c80
Date: 2010/06/13 00:13
<8>





怪鳥から逃げ出した佐藤ハルマサは逃げた先で衝撃の出会いを体験する。
そこに居たのは、ハルマサの仇敵・ハイパーモスよりもよっぽど強いモンスター。
茶色い剛毛に身を包み、立派な牙を二本口元に携えたイノシシでした。

(こ、このモンスターは! おっとこヌシ、じゃなくて、ドスファンゴ!?)

いや、もしかしたらブルファンゴかも知れない! けどこんな8メートルもあるようなモンスターがブルファンゴだったら僕は泣く!
現在進行形で泣きそうだけど。

ちなみに体長8メートルくらい、という情報は「観察眼」が教えてくれました。
こうしてみると、一気に便利になったな僕の目。



まぁそんなことはどうでも良いのです。
僕は緊張で暴れ狂う心臓と、荒くなりそうな息を必死に抑えつつ、音がしないようにゆっくり鼻で呼吸して、ドスファンゴの巨大なケツがフリフリ振られるのを見ています。
すごく苦しい。
肺が! 肺が!

どっかから、颯爽とヒーローが現れないかなァ。
そしてドスファンゴをズバッとやっつけておくれよ!


……まぁこれが後に考えればフラグだったんだけどね。





とにかく、気付かれたら即死亡、の未来がはっきりと見える現状である。
もしかしたら逃げられるかもしれないが、出来ればこのままやり過ごしたい。

少し開けた場所で、キノコ食ってるドスファンゴを見つつそう思っている時。
唐突に頭の中でファンファーレの曲である、ビバルディの「春」が流れた。

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪≫
「…………ッ!」

危うく鼻汁噴出すところだった。
全く心臓に悪い。

……しかし、ファンファーレである。
かくれんぼが得意になる系のスキルが手に入ったのかもしれない。
さっきから結構な時間隠れてるしね!
かなり期待しつつナレーションを待っていると、聞きなれたお天気お姉さんッぽいナレーションの声が響く。


≪一定以上の脈拍で一定時間口を開かなかっことより、特性「桃色鼻息」を取得しました。取得に伴うボーナスは特にありません。興奮しまくりの中、鼻息だけのお澄まし顔でよく頑張った! 感動です! そんなあなたにこの特性を送ります。幸せになれよー!≫


なれよー! と叫んでナレーションは途切れた。
いつもとテンションが違うナレーションである。
そして特性というのは初めてだ。
僕はいぶかしみつつスキルを確認する。


□「桃色鼻息」
 異性を魅了する魔性の特性。鼻で息をする時、あなたの体からは異性をとりこにするフェロモンが溢れ出ます。たらしと呼ばれること間違いなし! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません


(いらなぁあああああああああい!)

説明もテンションがおかしい。
なんともふざけた説明と内容だ。

しかし特性について少し理解した。
どうやら体の性質なんだろうな。「特『性』」って言うくらいだし。
説明がハジけているのは……多分ネタだからだよね。そう思いたい。
特性が全部こんなんだったら泣いちゃうかも。

しかし新しく得た特性。
この状況では鬱陶しいことこの上ない。
フェロモンとか、余計に気づかれやすくなってない!?

鼻息で呼気すると、意味不明な化学物質(フェロモン)が体から発せられ、口で呼気すればキムチの香りが飛散する。
絶体絶命である。
取得した特性で無駄に追い詰められる佐藤ハルマサ。

その時、もう一度ビバルディの「春」が脳裏で鳴り響く!

(こ、今度こそ! まともなの! 頼むからまともなの来てくださぁい!)

祈るハルマサに、頭の中でナレーションはかく語る。

≪敵対する対象を基点とした空間の一定範囲内で、一定時間移動せず、また攻撃を受けなかったことより、スキル「穏行術」Lv1を取得しました。取得に伴い、精神力にボーナスが付きます。≫


(き、キタぁあああああああ(泣)!)

涙が出るほどうれしいとはこういうことを言うんだね!
早速確認だ!


■「穏行術」Lv1
 気配を隠す技術。対象による索敵に引っかかりにくくなる。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。上級スキルに「暗殺術」がある。

なんか肌の色が変わったような……若干黒くなった? まさかカメレオン的な技術だろうか。

それにしても、敵の攻撃範囲内だからかもしれないけど、凄い勢いで熟練度が上昇している。
あとまぁ、あのイノシシ、僕より確実に強いしね。そのせいかも。
「観察眼」で詳しく見ようと思ったら≪ポーン≫て弾かれたし。Lv5は必要なんだって。

そんなことを思いつつも、僕は息を潜める。スキルのおかげか、緊張感を受けつつも息がそれほど苦しくならない。
スキルってやっぱりチートだぜぇフゥハハー!
まぁ、浮かれてたら、即☆殺されるんだけどね!

ていうか誰か助けて……






そんな感じで、現実逃避したり、愚痴を零したり、息を潜めたりしながら数十分。


(何時まで食べてんの!? ねぇ!? ドスファンゴさーん!?)

ドスファンゴは、未だにケツを振っていた。
食べているのはキノコからその隣にあった雑草類に変わっている。
モシャモシャと美味しそうに食べちゃって……

しかし、「聞き耳」立てつつ、ドスファンゴを「観察」している上に、息を潜めて「穏行」している状態が続いたおかげか、熟練度がハッピーなことになっていた。

特に前二つは、入り口の草原で使っていた時とは、熟練するスピードが全然違う。
やはり危険な場所でこそ、熟練度は上がるのだろうか……

という訳で現在のスキルたち(抜粋)。

「穏行術」Lv2 :24.3
「観察眼」Lv3 :30.5
「聞き耳」Lv2 :22.1

「穏行術」上がりすぎだよ! レベル上がっちゃってるし! 嬉しいから良いけど!
レベルが上がった「穏行術」は、やっぱり肌の色に現れてるみたい。
さらに黒くなってるんだよね。大きな葉っぱの影に隠れるみたいに。
カメレオンになっちゃったぜ! でもこれって服着てたらあんまり意味なくない……?

まぁそれよりも精神力アップの方が嬉しい。
ステータスのプラス修正は1.0上がるごとに行われるから、いまじゃあ精神力が30とか半端ないことに。
大人3人分ダヨ! 無駄に心臓強くなっちゃったな……
この状況でもドキドキが抑えられてきたよ!
おかげでさっきから呼吸が楽です。
今なら痴漢されても、やめて下さいって言えるかも。
なんか僕やたらと狙われるからな……電車内ではモテモテです。僕の尻が。


それに加えて、観察眼もレベルが上がったみたいです。
30.0越えた瞬間ファンファンーレが鳴ったよ。
よく見えるようになりました。今ドスファンゴが食べてる雑草には、軽い止血の効果があると見た! って具合に。

僕もう野生で生きていける子になってしまったよ。
耐久力2しかないから基本戦略は「命大事に」だけど。

こんなどうでもいいことを考えられるほど、ある意味状況は安定していた。
僕が下手に動かなければ、ドスファンゴはそのまま去っていくんではないか、という期待も大きくなり始めた。



まぁそんなことはなかったんですけどね。



最初に異変を捕らえたのは、僕の耳ではなく、ドスファンゴだった。
不意に頭をあげるドスファンゴに危機を感じた僕は、耳に意識を集中する。
すると、聞こえるではないか。
ワッサワッサと死の羽ばたきが!


あああ、ヒーローに来て欲しいとか言っちゃったから!
いや、言ってないけど思っちゃったから!

とんだダークヒーローが現れたじゃないかァ!

心の中で数十分前の自分に錯乱パンチを食らわせる僕の上に、遥か上空から舞い降りるうす赤い怪鳥。


「ピェエエエエエエエエエエエエ!」



密林の支配者、イャンクック先生が優雅かつ迅速に舞い降りてくるのを、身を隠していた葉を吹き散らされあっけなく穏行を破られた僕は、呆然と眺めているしかないのだった。

あ、これは死んだかな☆



<つづいてー>



ステータス

佐藤ハルマサ

耐久力:2/2
持久力:8/8
筋力:8
敏捷:6
器用さ:4
精神力:30


特性

桃色鼻息


スキル          ……すごい増えてきた。見辛いので変動しないスキルは記載しない方式にするかも。

棒術Lv1  :5.00
舞踏術Lv1 :1.00
姿勢制御Lv1:3.56
穏行術Lv2 :24.8
突進術Lv1 :1.00
撹乱術Lv1 :1.00
走破術Lv1 :3.22
撤退術Lv1 :2.74
観察眼Lv3 :30.7
鷹の目Lv1 :7.12
聞き耳Lv2 :22.6
祈りLv1  :1.00    ……使おうとすらされないスキル。主人公に忘れ去られた不憫な子。祈りが通じれば凄いのにね。



<あとがき>
止まったときが死ぬ(更新停止する)ときだー!(挨拶)

相変わらず勢い九割の作品です。

感想を5件ももらったので、もうあなたたちのために書く勢いです!


00uturoさん、サンクス!
他にも誤字とかあるかも知れないっす。すいませぬ。
ハルマサを晴彦と書いているかもしれません。どうしても混ざるのじゃよ……

あ、明日も多分更新するッス。



[19470] 9(修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/14 21:10

<9>



視界を埋め尽くす怪鳥の大きな翼。
それを見上げながら僕は体が震えるのを感じていた。
ちなみに、まだ這い蹲ってます。
クック先生の強大な敵意とプレシャーの前に、体が硬直しちゃってて動かないんだ。

精神力が30もあるのにそれはないだろうって?

たかが大人三人分じゃ、クック先生には不十分だったってことさ☆
「穏行術」で精神力が増幅されているかもしれないけど、それでも状況に変化なし。

という訳で、蛇に睨まれたかえるの如く見事に体が動きません。

「フンゴー! フゴォオ!」

ああ、ドスファンゴさんも忘れてませんから、そんなに興奮しないで!
そっちに割く余裕がないだけなんだ!

ズシ・・・ン!

イャンクックは地響きと共に着地する。
うお、胃に来る!
ぶわわ、と土や葉っぱが舞い上がり、地面が揺れて、「姿勢制御」によるよろめき耐性を持つはずなのに体が揺れる。
風も来たけど伏せていたから大丈夫だった。

三者の位置は、僕とイノシシと怪鳥で一辺10メートルの正三角形を作っているという状況である。
10メートルとか目と鼻の先なんだけどね。

イャンクックは立派な顎(クチバシ)と襟巻きみたいな耳が特徴的な、鳥のような竜のようなモンスター。
聴覚が優れる反面、大きな音にはめっぽう弱い。
確か、飛竜の中では小柄っていう設定があったと思うんだけど……

でかい。

「観察眼」によれば、体長は12メートル。翼の先から翼の先までが12メートル。
頭の位置は地面から3~5メートルのところにあるような、絶望的な大きさである。
クチバシの中に僕がすっぽり入りそうだよ。
詳しく見ようと思ったら案の定≪ポーン≫と弾かれる。「観察眼」のレベルが7は必要らしい。

で、僕が硬直している間に、状況は推移する。

「ギョワァアアアアア!」
「フンゴォオオオ!」

ドカーン! ドカーン!

怪鳥(12m)とイノシシ(8m)による怪獣大決戦が始まっちゃったんだ(泣)。




最初イャンクックはこっち振り向いて、僕は\(オワタ)/って思ったんだけど、この少し開けた場所そんなに広くないんだよね。
あと僕以外の2匹が異常に大きいから、クック先生の広げた翼がドスファンゴを叩いちゃったみたいで……

ドスファンゴが行き成り、イャンクックにぶちかましを食らわせたんだよね。
12メートルもあるクック先生がぶっ飛ぶような威力で。
それに対してイャンクックもすぐさま起き上がり火を吐き返したりして……余波で、余波で僕が死ぬから!
と言うか二匹とも挙動が素早すぎるよ!
モスがアレだからって、強いモンスターたちの身体能力、インフレ起こってない!?
クック先生のクビの動きとか、残像のこってますからー!
そしてドスファンゴさんの突撃で、衝撃は起こってますから! 音速!?

咆哮と敵意と暴力が溢れる空間。
以前の僕なら不用意に動き出して、怪獣たちの注意を引いてしまったかもしれない。
しかし僕は叫びだしたりせず、その場に伏せ続けていた。

「穏行術」のおかげだった。正確には「穏行術」の熟練度上昇ボーナスによる、精神力上昇のおかげだ。

「穏行術」の取得条件を覚えているだろうか。
モンスターにある程度近いところで、一定時間移動せずに、攻撃を食らわない、というものだったんだけど、スキルの熟練度は取得条件のような行動をとっている時、上がりやすいんだ。(それだけでもないみたいだけど)
僕は今、ドスファンゴにビビッていたときから場所を一度も動いていない。
もちろん攻撃も受けていない。

そして先ほど、危険な場所ほど、熟練度は上昇するという仮定を思いついたんだけど、多分それは正しいと思う。

この2大怪獣が暴れていて危険が倍倍に膨れ上がっているこの状況!
「穏行術」が凄いことになってるんだよ!

あ、またファンファーレ。

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪「穏行術」の熟練度が75.0を越えました。熟練に伴い、精神力にボーナスが付きます。≫

おおう、ファンファーレが鳴りっぱなしだよ。
上がり過ぎだよ! またまた嬉しいから構わないけど!
精神力はこれで81。なんか三桁も夢じゃないって思えてくるね。
そのおかげで、非常に心臓に良くないこの状況でも何とか冷静で居られるよ。
あわてて飛び出したら巻き込まれて死ぬのが分かるくらいは冷静。

そういえば「穏行術」、熟練が30と70を超えたときレベル上がった。
レベルが上がるごとにカメレオン能力がドンドンパワーアップしていくよ……
僕の肌とか、下草の色と同化して真緑色だよ。正直キモイ……

ついでに「観察眼」の熟練度も上がって50越えたけど、それは今どうでも良い。
「聞き耳」のレベルも上がってるけど、それでどうしろと……?

いや、そろそろ逃げなきゃ!
クック先生の吐く火がところ構わず燃え移って、辺りが火の海になりつつあるし!

よーし! よよよよよよーし!
あの大木の陰とかから逃げると良い感じかな!
ちょうど怪獣たちはがっぷり組み合っているし!

その時頭の中で、またファンファーレ。

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪ 一定以上の脈拍で一定時間目を閉じなかったことより、特性「桃色ウインク」を取得しました。取得に伴うボーナスはやっぱりありません。興奮しながらそんなにガン見、しちゃイヤン! 時には相手の目を見てウインクだ! がっつき過ぎなあなたにこの特性を送ります。幸せになれよー!≫


(またかぁあああああああああッ!)

なれよー! といって切れたナレーションはまたもやテンションがおかしかった。

さっきも思ったんだけど、なんか違う状況と勘違いしてない!?
キャッキャウフフな状況だと思ってない!?
確かに怪獣決戦を凝視してたけど、それは目を離したら死んじゃうからだよ!
おっぱいの魔力に惹き付けられていたとかじゃないんだよ!

だが、怒りすら感じる特性の取得で弾みがついた。

(………それッ!)

跳ね起きると、足にグッと力を込め、後ろに跳ぶ。
タン、タン! と二度ステップして大木の後ろに回りこむ。
その時感じた思わぬからだの軽さは、僕の予想を超えていた。
というかこんなに体が軽いとか、なんか感動! 今なら世界が獲れる!

体のキレは先ほどイャンクックから逃げた時の比ではない。

「撤退術」スキルはもちろん、「撹乱術」が発動する条件も満たしているのだろう。

(よ、よし! うぉおおおおおおおおおおおおお! 逃げろぉオオオオオ!)

僕は先ほどの失敗を繰り返さないためにも、「聞き耳」で手に入る情報をしっかりと認識しながら、怪獣たちに背を向け駆け出した。
ドスファンゴが飛んできて背後の大木に直撃したりしていたけど、そのせいで大木(幹の直径が1m以上)がメキメキ倒れてきてたりするけど!

何とか逃げ切ってやるぜぇええええ!

て、うわ近い!
あつぅ!

火の塊が近くを通って、余波で耐久力が減ったため、僕はさらに必死になって走るのだった。



<つづく>


ステータス

耐久力:1/2
持久力:減少中/11 ……3 up
筋力:8
敏捷:10      ……4 up
器用さ:5      ……1 up
精神力:81     ……51 up!

特性
桃色鼻息
桃色ウインク


変動したスキル:熟練度(少数点以下省略)

姿勢制御Lv1 :5     ……1.64 up
穏行術Lv4  :75    ……51.0 up Level up!
撹乱術Lv1  :3     ……2.91 up
撤退術Lv1  :6     ……2.74 up
観察眼Lv3  :58    ……28.2 up
聞き耳Lv3  :36    ……14.0 up Level up!


□「桃色ウインク」
 異性を魅了する魔性の特性。異性の目を見つめてウインクすることで、異性に好感を与えます。わざとらしくても大丈夫! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。


<atogaki>

死んでばっかりだと話が進まないんで生き残らせてみたけど、予想以上に強化されてしまった。
やっぱり殺すべきだったか……?



[19470] 10
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/13 21:37

<10>


サァアァァ………

目の前を清らかな小川が流れている。


「平和、だなぁ……」


苔むした岩が敷き詰められている湿った場所で、僕は休憩していた。
頭上を覆う枝や葉の間から木漏れ日が覗き、水面に反射してキラキラ輝いている。


イャンクックとドスファンゴからどうにか逃げ切った僕は、耳をそば立てながらもリラックスしていた。
ていうかこのフィールドすごく広いよね。
僕、「走破術」(長い距離を走りきるスキル)の助けを借りて結構移動したんだけど、相変わらず森の中だよ。

そして、あえて言おう。

「水、うまッ!」

水場を探していたことを思い出して、川の水を飲んだ時、僕の脳髄に電流が走ったようだった。
……まぁそれは言い過ぎだけど、それくらい美味しかった。

考えてみれば「穏行」していた時もダラダラ汗出ていたし、そりゃあ喉渇くよね。

もう一度両手に水を掬ってみる。
透明な水は、当たり前だけど不純物も結構混じっている。
大きいものが沈むのを待ってから、細かいものは気にせず飲む。

「ング…ング……」

ふぃい……満足だ。
そういえばモンハンでハンターって肉食べてるけど水飲んでないよね。
まさか回復薬だけで喉を潤しているのだろうか。
塩分過多で小便とか茶色になるんじゃない?(←なりません)
思った以上に過酷な職業かもしれない。

ていうか僕完全に生水飲んじゃってるんだけど、エキノコックスとかいたら悲惨だよね。
凄まじいまでにお腹を下しそうだよ。
僕は胃腸も弱いからなァ……。
耐久力低いから、毒とか、そういう継続ダメージで攻められるとすぐに死にそうだね。
ちなみに耐久力は、「観察術」で見つけた薬草を食べたことで治っている。

そうか、お腹に優しい薬草を食べれば良いのか!

という訳で、近くに生えていたそれっぽいものをモッシャモシャ。
まずい! もういらんね!



うーん、と伸びをする。
ふと、服の汚れが気になった。
少しニオイもする。
そういえば、閻魔様のところに死に戻るとケガとか体の汚れは消えるけど、服の汚れはそのままなんだよね。
近くにモンスター居なさそうだし、服洗おうか。





「~♪」

僕は鼻歌を歌いながら、ジャブジャブとジャージの上着を水につけてこねくり回していた。
表面に付いた、草の擦れた後や土なんかを軽く落とせれば良いからそんなに一生懸命やるのも何なんだけど、精神力上がったおかげかチマチマした行為が苦にならなくなってるから、ついつい本格的にやってしまう。
器用さが低いから手付きはぞんざいな感じだけどね。

結果としてスキルを得た。


■「洗浄術」Lv1
 汚れを落とす技術。掃除、洗濯を素早く丁寧にこなせるようになる。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。熟練者は、どんなにしつこい汚れも素手で取り除く事が可能となる。


クリーニングスキルきた―――!

なんとも実生活に役立ちそうなスキルである。
現代では、洗濯機とかあるから、よっぽど熟練させないと使う意味がなさそうな気もするけど、今はとてもありがたい。
とりあえず上着を乾かすついでにシャツも……………誰も見てないし全部洗おうか。

順次洗って、一つずつ枝にかける。
ついでに靴も洗って干した。
もちろん下着(ボクサーパンツ)も干しているので、僕はこの大自然の中、全裸。


―――凄い開放感だッッッ!


今、まさに束縛されない心と体ッ!
少し感じる羞恥心が、ほどよいスパイスとなって心を盛り上げる。

「ヒャッッッッハァアアアアアア!」

奇声を上げつつヤッタヤッタと葉っぱ踊りをかましていたら「舞踏術」の熟練度が上がった。

≪「舞踏術」の熟練度が(以下略)≫

熟練度が2.0になり敏捷がアップしたらしい。
敏捷はコレで11である。
ついに大人の平均を越えてしまった。
やっぱりチートだなァ……。死に戻った時はたったの2しかなかったのに。
あの時の5倍動けるようになった僕。
この調子で行けば、今日中に人間の限界を超える事が出来そうじゃない!?


そして、ふと、冷静になった。
今日中って……最初に来たときから太陽の光の強さあんまり変わってないんだよね。
夜とかないかも。

で、太陽の光で思い至ったこと。
よく考えたら、木漏れ日しかないような森で、衣服が乾くわけがない。
僕は全裸で頭を捻る。

「うーん。」

とりあえず服を持ってバサバサと振ることにした。
もしかしたら、布を乾かす的なスキルを取得するかもしれないし。
上着の肩を持って振ってみる。

ワッサワッサ。

何か暇だな。
そうだ、この振る事で生まれた風を、枝にかけた服に当てるのはどうだろう。
どっちも乾いてグッドな感じだ!
今日は冴えてるな僕。

早速シャツに向かって強めにバサバサと振っていると、例のチャンチャラ鳴るファンファーレが響いた。

(ええ!? 布を乾かすスキルとか本当にあったの!?)

と思っているとナレーション。

≪一定時間内に一定面積以上の布を強振したことにより、スキル「布闘術」Lv1を取得しました。習得に伴い、器用さにボーナスが付きます。≫

布闘術? 布?
何だろう。
どうやって闘うのか見当が付かないな。
まぁいいか。
布を振るのが何か楽になったし。
コツっていうの?
まぁ器用さの上昇もあるだろうけど。
微妙な効果だけどないよりはあった方が良いよね。

バッサバッサ。

火があれば楽なんだけど……起こしたらモンスター寄ってきそうだよねぇ。
早く乾かないかなァー。

バッサバッサ。

こうやってバサバサやっている間にも出来ることないかなァ。とりあえず「観察眼」と「聞き耳」は使ってるんだけど。
口笛とか吹いてみようか。いや、吹けないんだけど。

バッサバッサ。

あ、「布闘術」の熟練度上がった。
おめでとう僕。
器用さもこれで11か。
いつの間にか強くなったね僕も。

バッサバッサ。

そろそろレベルあげたいな。
何時までもマイナスじゃぁなぁ。
あ、耐久力もなんとかしたい。

バサー、ブワサァー。

おっと強く振りすぎた。
パンツが飛んで行ったよ。
ああ、あんな高いところに引っかかっちゃって!


そんな感じでノンビリ服を乾かしたり器用さを上げていたりする僕は、背後に迫る危険にも気付かないのだった。
「聞き耳」に頼りすぎるのも考え物だ。





<つづく>




ステータス

耐久力:2/2
持久力:12/12 ……1 up
筋力 :8
敏捷 :10
器用さ:11    ……6 up
精神力:81


変動スキル :熟練度(小数点以下省略)
布闘術Lv1 :3      ……3.28 up New!
姿勢制御Lv1:7      ……2.87 up
観察眼Lv3 :63     ……5.81 up
聞き耳Lv3 :41     ……5.22 up
洗浄術Lv1 :2      ……2.84 up New!



■布闘術
 布を用いて闘う技術。布を凶器として扱うことが出来る。熟練に伴い器用さまたはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、布を用いて鉄を断つ。

■「洗浄術」Lv1
 汚れを落とす技術。掃除、洗濯を素早く丁寧にこなせるようになる。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。熟練者は、どんなにしつこい汚れも素手で取り除く事が可能となる。



<あとがきー>

今回の話洗濯してパンツふっ飛ばしただけだ……







[19470] 11(修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/14 21:08
<11>




どうも。
なんかずっと一人で居るから寂しくて、テンションがおかしくなっている佐藤ハルマサです。

パンツが吹っ飛んでいったので回収したらパンツは結構乾いている事が分かりました。


「……下着だけでも履いておこうかな。」


という訳で、プット・オン!

シャキーン!
ハルマサは下着を装備した!
胸中に安心感が広がった!


いやぁ、確かに全裸で居るのも悪くはないけど、やっぱり急所を丸出しにしておくのは良くないよね。

それに対して、このボクサーパンツ!
黒のポリエステルで出来た安物だけど、このフィット感!
ユニク○もバカには出来ないよね!
というか僕は大好きだよユニク○! 肌着しか買わないけど。

そんな訳で少し防御力を上げた僕はさらに身につける衣服を増やすため、もう一度上着を持とうとして、

(――――――――!?)

その場を飛びすさった。

(この身軽さ! 「撹乱術」が発動してるの!?)

直後、地面から飛び出す突起。僕の胴体ほどもあるような赤と白のまだら模様のそれは、数瞬前まで僕が居た場所を貫いている。
「聞き耳」で地面から響く不穏な音を捉えなければ、ケツの穴が増えるところだった。
というか確実に即死だった。
でもこんな避け方が出来るようになった僕って、すごくない?(自画自賛)

というかまた、モンスターなのか。
僕は急いで放り出してあった骨棒を拾い上げる。
僕の目の前で、地面からさらにもう一本突起が突き出す。

(いや、あれは突起じゃない――――――)

「鋏(ハサミ)?……あのカニみたいな奴か!」


マズイマズイマズイ!
あのでっかい盾のカニ(ダイミョウザザミです)だったら……

モコモコモコ!

ドロを跳ね飛ばしながら、白い甲殻を背負ったカニ(?)が現れる。

――――――でかい!

僕の身長(165cm)以上あるよ!?
まさかほんとにあのボス級の盾蟹モンスター!?

いや、「観察眼」がそれに異を唱える。
ついに「観察眼」がモンスターの名前を読み取ったのだ!


≪モンスター情報の取得に成功しました。
【ヤオザミ】:硬く厚い甲羅を持つ小型の甲殻種。弱点部位、弱点属性その他の情報を得るには、スキル「観察眼」Lv5が必要です。≫

まぁ弱点とかは良いにして……
小型の甲殻種……?

(どこが小型なのッ!? 人より背が高いんだけど!?)

ヤオザミは飛び出した黒い目をクルクルと動かしながら。両手の鋏を掲げてこちらを威嚇する。
ヒィィ! なんという絶望的な大きさ!

僕は、ヤオザミをモンハンのゲームにおいて、ガンナー装備でクエに行った時に、鬱陶しい敵だと言うくらいにしか認識していなかった。
しかしその認識は改めた方がよさそうだ。

だって見なよ! この圧迫感!

両の鋏を広げるとその感覚は3メートルを越え、一本一本がこちらの太ももよりも太い多脚が圧倒的な機動力を想像させる。
プレッシャーが体に纏わりついてくるようだ!

(くう……!)

骨を握り締め、唇を噛む。
いや、これは跳ね返せるプレッシャーだ!
さっきのイャンクックに比べれば何てことないはずだ!
そうだそのはずなんだ!
僕は強い! 僕は強ぉおおおおい!(自己暗示)

「観察眼」で名前が読み取れたと言うことは、こちらと実力が近い証拠!(←別にそんなことはない)

僕は気合を入れて叫ぶ。

「負けるかぁああ、ってうぉおお!?」

走り出そうとしたところで、ヤオザミが動き出す。
カニという特性か、回り込むように近づいてくる――――――疾ぁああ!?

(ひぃいいい!)

鋏を振り上げながら弧を描きつつ走り寄ってきたヤオザミが(いや走るというより最早滑っているように見える速度である)、
振り下ろした死神の鎌を間一髪、跳びすさって避けることに成功。
鋏は恐ろしいことに地面の岩に突き刺さり、しかしおかげでヤオザミに隙が出来る。
黄色い液体がチョチョ切れそうだよ!

しかし相変わらず会うモンスター会うモンスター強さがおかしい。
今のも、「撤退術」と「撹乱術」がなければ体を両断されているような、恐ろしい勢いの攻撃だった。
きっと耐久力が10あっても即死だね。
なぜなら成人男性は岩より柔らかいカラデス。
僕が食らったら頭がパーン! てなりそう。

だが、避けるだけなら僕にも出来る!
「撤退術」(離れる時スピードアップ)または「突進術」(近づく時スピードアップ)と、「撹乱術」(相手の近くでスピードアップ)。
常に敏捷系のスキルが二つも発揮されている現状、僕はいつもより早く動けている。

この状態なら――――――!

跳び退って空中に居た僕は、着地すると同時にヤオザミが振り切った鋏のほうに回り込み、骨を振りかぶり、

「だぁあああああ!」

強振!――――――ガンッ!

「クッ!」

ヤドに当たった骨は簡単に弾き返される。硬い!

「じゃあこっちだ! でい!」

ヤオザミの飛び出している目を叩く。
バシリと目に直撃し、ヤオザミは叫んだ。

「ギィイイイイイイイ!」

効いて……いるの?
反対側の鋏を振りかざして怒っているようにも見える。
効果があるかは分からないけど反応があったら殴り続け……ってやばい!

またその場を跳び退く。
ヤオザミは鋏が突き刺さったままの岩を持ち上げ振り回してきていた。

そのまま岩はすっぽ抜け、放物線を描きながらどっかに飛んでいって、後ろからバキバキと太い枝か幹が折れる音がした。
岩大きかったからなァ……

強い。
こちらは何発当てれば良いのか分からないのに、向こうは一発当てれば終了だ。
なのに向こうはかなり早い。

ずるいじゃないか! G級クエレベルだよ! 僕は素材収集しかクリアしたことないんだよ!
……ちきしょう!
どうやったら、この状況を変えられるんだ!?


歯噛みする僕の前でヤオザミは、鋏を打ち鳴らして威嚇行動をとっていた。





<つづく>



ステータス変化なし

変動スキル :熟練度
聞き耳Lv3 :42    ……0.22 up
撹乱術Lv1 :3     ……0.90up
撤退術Lv1 :6     ……0.90 up

装備
棒状の骨    ……横方向からの衝撃に耐えるようには出来ていない。
パンツ     ……New! おニューのパンツなわけではない。






[19470] 12(誤字修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/14 21:07
<12>




「……くッ!」

横に転がるように避けた直後、鋏が地面に叩き込まれる。
すぐに起き上がって、また迫った鋏を避ける。

もう何度避けただろうか。
地面は穴ぼこだらけである。
このカニが単純な思考しか持っていないのでかなり助かっている。
攻撃パターンは、走り寄って鋏を振り下ろすのみ。
それでも避けるのはギリギリだ。
フェイントを入れられたら、もうとっくに詰んでいる。


実はもう打開策は思いついている。
スキルのレベルアップを狙うのだ。
「撹乱術」の熟練度アップのファンファーレで思いついた。
まぁ熟練度上がって、少し余裕が出来なかったら思いつきもしなかっただろうけどね。

スキルアップといっても、狙うのは逃げるためのスキルアップではない。
ヤオザミの直線距離の移動スピードははっきり言って越えられる気がしない。
モスの突進よりも速い気がするから。
避けれているのは、一重にヤオザミの旋回性能が低いことを利用しているからだ。
逃げた瞬間追いつかれて脳天唐竹割り確実だ。

よって狙うのは攻撃スキルのレベルアップ!
もういっそ倒してやるぜ!
倒せなくても、足の一本でも奪ったら逃げやすくなるし。

しかしさっき「観察眼」で見たところ、骨バットの耐久値がかなり低い。3/20だった。

二回しか叩いていないのにこれはない。
このカニ、どれだけ硬いの!?
そして低くなった耐久値でも僕の耐久力を上回っているという、ね!
僕ドンだけ柔らかいんだよ……。

という訳で骨バットが攻撃に多用できないことで、何か策を考える必要が出た。

ヤオザミが叫びつつ鋏を振り下ろす。

「ギィイイイイイイ!」

ガツン!

(よし! 上手く行った!)

ギリギリで鋏を避け、髪をかする攻撃に冷や汗を流すハルマサ。
だがそのかいあり、ヤオザミの鋏が岩に刺さるよう誘導するのに成功した。

さっきこれで隙が出来たのなら、また同じ事をすれば良いのだ。
この隙にハルマサは離れていたところに落ちていた50cmくらいの木の枝(腐りかけ、耐久値1/2)を取り、

「でりゃぁあああ!」

ヤオザミに突きを放つ。
当てるのは何処でも良いんだ。
熟練度を上げるのが目的だから。
今回はヤドに当たった。

耐久値が少ない枝は、一回の攻撃でへし折れる。
ダメージも通ってないだろう。
だがこれで良いのだ。

頭の中で、警告とファンファーレが連続して響く。

≪ポーン! 特技「突き」を使用するには、スキル「棒術」Lv2、または他のスキルを習得する必要があります。≫
≪チャラ(中略)ーン♪ 「棒術」の熟練度が7.0を越えました。筋力にボーナスが付きます。≫

相手に攻撃することで、「棒術」の熟練度がぐいぐいと溜まっているのだ。
今の攻撃で最初に叩いたのを含め八回攻撃した。
一回で約0.25の熟練度が溜まっていると見て良い。

(フフフフ! この完璧な策! スキルレベルが上昇した時こそ、この骨バットを使ってあのカニに目に物見せてやる!)

全くダメージを与えられない戦闘でも、ハルマサの心は燃え盛っている。
鋏を引き抜いて襲い掛かってくるヤオザミ相手に、枝を投げ捨て、また回避行動をとるのだった。


ところで、避け続けるうちにハルマサはまたスキルを手に入れていた。

≪チャラチャ(略)ーン♪ 一定時間内で、自己の耐久力を上回る攻撃を一定回数避けたことにより、スキル「回避眼」Lv1を取得しました。取得に伴い、敏捷が上昇します。≫

■「回避眼」Lv1
 攻撃を回避する方法を見出す思考。敵対する対象からの攻撃に対して、確率で回避に成功する道筋が視界に移る。レベル上昇に伴いスキル発動確率上昇。


やはり即死級の攻撃だったのかと、大事な玉が縮む思いがするハルマサ。
ただ、避け続けたかいはあった。
このスキルはかなり役に立ったのだ。
ヤオザミの攻撃が行われる数瞬前、生き残ることのできる範囲が光る道筋として視界に映る。
そこの端っこに滑り込むように体を移動。
ギリギリで避けることが、この「回避眼」のおかげで容易になり、ヤオザミの体勢を崩すように誘導しやすくなったのだ。

このように様々なスキルの助けを借りつつ、木の枝でヤオザミを突付きまくること20回。

≪「棒術」の熟練度が10.0を越えました。「棒術」のレベルが上がりました。耐久力、持久力、筋力、敏捷にボーナスが付きます。≫

(待ってましたぁ―――!)

待ち望んでいた「棒術」のレベルアップが起こった。
途端、手に持つ骨バットが軽くなる。手に馴染み、内部に歪みが生じていること、重心がどの辺にあるということなどが感じ取れた。
こんどのレベルアップはとても分かりやすい。

(これならいける!)

でもその前に、チキンなハルマサとしては練習したかったので、走りざまに木の棒(耐久値1/1)を拾う。

そして死の鎌を避けざまに、足を踏ん張り――――――突き込んだ。

「突きィッッッ!」

瞬間、枝を保持していた手にいつもに倍するほどに力が漲り、片手で持って突き込んだにもかかわらず、恐ろしい勢いで枝が突き出される。

そして今までとは違う感触!
カニのヤドにヒビが入った!
今までかすり傷が精々だったのに!

枝は威力に耐えられないようにバラバラになった。

(凄い!)

スキルの、そして特技の威力を目に焼き付けるハルマサ。
彼はこの時から特技に対して妄信を持つことになり、その足を盛大に掬われることになるのだが、まだそれは先のことである。


突然の反撃に、驚いたように距離をとるヤオザミ。

「ギチギチギチギチッ!」

泡を飛ばして鋏を鳴らし威嚇を繰り返すカニに対して、ハルマサは自分が優位に立ったことを知った。
なぜなら先ほどの攻撃でダメージが通ったことを確信できたからだ。

木の棒であれなら、骨バットの威力はどれほどだろう。

(うぉおおおおおお!)

ハルマサは棒状の骨を両手で腰だめに構えると、正面から突撃する。

正直、彼は調子に乗っていた。
だがこの時、この考えなしの行動派プラスに働く。

「突進術」と特技「突き」。
これらの相乗効果は彼の攻撃の中で、最大威力であり、また最速だったのである。

「ハァッ!」

地面を裸足で凹ませつつ、吶喊。
その時彼の速度はヤオザミの反応速度を凌駕し、振り下ろされる鋏がハルマサの頭をトマトのようにする前に、骨がカニの甲羅を突き破る。

速度と、両腕から湧き上がる力を全て乗せた一撃は、ヤオザミの甲殻を貫き、内部を蹂躙し、ヤドで守られた背中の急所を穿っていた。

ビクリと痙攣するヤオザミからすぐにハルマサは離れようとする。
だが、想定外なことも起こる。

(骨が抜けない!)

ヤオザミの、内部に詰まる筋繊維(?)が骨バットを締め付けているのだ。

ここでぐずぐずしていたら、ヤオザミの反撃で体の上と下とが生き別れになる。

事実、ヤオザミは動き出す。重心を前に動かし、鋏を振り上げようとしている。
ハルマサは慌てて手を離し、その場を飛びのく。

「ギィ……ギィイ………」

しかしヤオザミはそのまま倒れた。

「勝った……の?」

急所を貫いたことを知らないハルマサは、想定外の出来事に少し唖然とする。

その時脳裏で聞き覚えのある音が響いた。
ビヴァルディの「春」ではない。
もっと以前に聞いた―――

(これってドラクエのレベルアップの音じゃん。)

もしやと思っていると、脳内でお天気お姉さんのナレーションが始まる。

≪魔物を撃退したことにより、40の経験値を得ました。レベルが上がりました。レベル上昇に伴い、各ステータスにボーナスが付きます。≫

体の中から力が溢れてくるような感覚。
あの、イャンクックとドスファンゴが暴れていた時は、混乱していた頭が冷えていくことで実感したステータスの上昇。
今度のレベルアップでは、一度に色々な事が起こりすぎて、「力が! 力ががががが!」状態だった。

(おお…………凄い!)

手を開けたり閉めたりだけでなく、垂直跳躍、反復横跳びとかしてしまうハルマサ。
こいつぁチートだぜ! と身体能力の上昇を実感したハルマサはステータスの確認を行う。

その上昇っぷりを見てさらに驚く。
ほとんどの数値が段違いに大きくなっている。
一番低かった耐久値ですら22になっており、もはや彼はただの人間ではなくなっていた。

(これなら……)

「聞き耳」によって拾われる、「フゴフゴ」という鳴き声。
聞こえてくる方向をにらみつけたハルマサは、何度も自分を殺してくれた、因縁の相手に再戦を挑むことを決意した。




<つづけぇー!>


ステータス

佐藤ハルマサ(18♂)
レベル:3       ……4 up レベルアップボーナスは19
耐久力:22/22   ……20 up
持久力:38/38   ……26 up
筋力 :32      ……24 up
敏捷 :39      ……29 up
器用さ:32      ……21 up
精神力:102     ……21 up

経験値:40 次のレベルまであと38


特技

突き

変動スキル :熟練度
棒術Lv2  :10    ……5.13 up Level up!
姿勢制御Lv2:10    ……3.39 up Level up!
突進術Lv1 :5     ……4.57 up
撹乱術Lv2 :14    ……9.32 up Level up!
撤退術Lv2 :12    ……5.81 up Level up!
回避眼Lv1 :6     ……6.48 up New!
観察眼Lv4 :71    ……7.12 up Level up!
聞き耳Lv3 :48    ……6.79 up

◆「突き」
 拳または獲物を用いて、敵対する対象の体の一点に強烈な攻撃を与える。貫通属性。

■「回避眼」Lv1
 攻撃を回避する方法を見出す思考。敵対する対象からの攻撃に対して、確率で回避に成功する道筋が視界に移る。レベル上昇に伴いスキル発動確率上昇。


<あとがきという言い訳>
止まったときが死ぬ(更新停止する)ときだー!(しつこいまでの挨拶)

相変わらずの勢いss。

スキル発動によるステータスのプラス補正は、
(スキルレベル)÷(補正のかかる数値個数)×0.1×(元の数値)
として計算しています。小数点以下は切捨てです。
上手く言葉が浮かばないため分かりにくいと思いますので、一つ例をば。
撤退術Lv1(敵から逃げる時持久力と敏捷にプラス補正)が発動している時、持久力10で敏捷10の人は、持久力と敏捷力に(1)÷(2)×0.1×10=0.5のプラス補正がかかります(そして切り捨てられる)。
さらにこの人に撹乱術Lv1(敵の近くで敏捷に補正)が発動している時、さらに敏捷に1のプラス補正がかかります。
数値低かったらそうでもないけどスキルレベルが上がればアホみたいなチートになっていきます。元の数値が高くなっても同様。

でも精神力0.2倍とかすげぇ説明しにくい。
皆さんの想像力におまかせしたい!………ごめんなさい。

レベルアップボーナスは(レベルアップに用いた経験値)÷2です。

まぁごちゃごちゃ言ったけど、フィーリングでおk


>祈り上がってもいいんじゃないかな?
確かにー!
ああ、でも結構先まで書いてるから今から直すと……うへぇ

あれだよ、ハルマサ君は俗っぽ過ぎる神様に期待していないんだよ!
ということでどうかひとつ。

>風操作は、手や葉などで扇ぐなどで出るだろうな。水操作は、泳いだり水をかいたり水をたらしたりなどで、出るだろうな。
なるほど!いや、どうやって覚えさせようかと……


明日も更新するよ!


どうでもいいけど、いなくなっている12番目の人の感想がすごく気になるんだ……
あの、厳しい意見とかでもぜんぜん構わないんでいっちょしごいてやってください。
あと誤字脱字あればすいません。



[19470] 13
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/14 21:11



<13>



モンスターに対して初白星を挙げたハルマサ。
しかし彼は現在落ち込んでいた。

「な、なんてこったい……」

よろよろピシャンと額を叩きたくなるこの状況。彼は未だにパンツしか穿いておりません。
それもそのはず。

なんということでしょう。彼の服は無惨にも破れ放題穴だらけになっていたのです。

ハルマサがピョンピョン跳ね回り、ヤオザミがそこらを叩き回った結果、彼の服は枝から滑り落ち、そこにカニの爪が、脚が!
結果彼が着れるのは、遠くに落ちていた黒無地の半そでシャツだけなのでした。

(パンツ一丁よりも恥ずかしいな……)

着てみた感想がこれ。
靴は辛うじて無事だったが、履くべきか履かないべきか……
履いたらさらに珍妙な格好に鳴ること間違いない。

(まあ誰にも見られないしいいか。)

いそいそと靴を履き始めるハルマサ。
精神力のおかげか、彼はさばさばした性格となっていた。

(あ、そうだ。骨は?)

そう思って先ほど倒したヤオザミを見ると、そこには2枚のきらめく硬貨と折れ曲がった骨、そしてカニの脚以外何も無かった。
さっきまでハルマサが死闘を繰り広げた相手は跡形もない。
カニの脚も一本だけだ。


(まさか……死んでなかった?)

起き上がって去っていったのだろうか。

それにしては、脚があるのは変だ。
脚には攻撃していないから、落としていく理由がない。
経験値を貰ったことから、生きていることは考えにくいのだ。
ゲームでの古龍戦のように追い返すだけで経験値がもらえたのだろうか?
そうとは思えないな。
多分雑魚だったんだろうし。

考えていると、不自然に落ちている金色の硬貨が目に入る。
ピカピカと木漏れ日を照り返す美しい硬貨。
さっきまでは確実になかった。
いくらハルマサがぼんやりしても見逃していたと言うことは絶対無い。

(もしかして……ドロップ品?)

ハルマサがその考えにいたったのはしばらく経ってからだった。
ここはダンジョンである。
今まで色々リアルすぎて忘れていたが、モンスターはポップして、死んだらドロップ品を落として消えていくとしても、おかしくはない。
色々と不思議ではあるが、納得できないことはない。

なるほど、だとすればあの脚もドロップ品か。
脚は二つの節があり、伸ばしたら150センチ近くある。
ゴツゴツとした硬質な手触りだ。

骨は……もう使えない。
半分どころか二箇所も折れている。ここに置いていこう。

武器ならカニの脚がある。
節があるので折角覚えた「突き」は使えないが、150cmものリーチと堅さなら強力な武器になるに違いない。

「観察眼」で見れば、耐久値は50/50もある。
パワーアップしたハルマサよりも堅いとは、頼もしい限りである。
結構重いが、ハルマサの筋力(51)ならば問題ない。
片手で振り回せるだろう。

ついでに美しい女性の意匠が施された金貨も「観察」する。

≪ポーン! 対象の情報を取得するには、スキル「観察眼」Lv5 を習得する必要があります。≫

弾かれた。
しかしレベル5で良いならすぐにでも分かるかもしれない。
それにしてもスキルのレベルアップの法則はどうなっているのだろうか。

レベル2になったのは、熟練度10.0の時。
レベル3になったのは、えーと30.0だったっけ。
で、未だ到達したスキルは二つしかないけど、レベル4になったのは熟練度70.0になった時。

その法則性。分かる人には分かるのだが、ハルマサはお世辞にも頭が良い人物ではなかった。

(まぁ良いか。法則なんかないかもしれないし。)

レベルが上がれば分かると、彼は考えを放り出し金貨と脚を拾う。
突発的な事態に対応するために、脚は手で持つ事が望ましいが、金貨は手持っていても投げつけるくらいしか使い道がないし、正直邪魔である。

ハルマサは、しばし考えたあと、ジャージの残骸を使って、袋を作ることにした。
上着のほうにはポケットという、千切りとって紐を通すなどすればすぐに小物入れになるようなものがあったが、彼はこの機械に大きな袋を作っておくべきだと考えていた。

この先、持ち運びたいと思うものが出てくるかもしれない。
金貨をたくさん手に入れるかもしれない。
その時、小さな袋だけでは選択肢が限られてしまうのだ。

一番期待していた上着の背中には大きな穴が空いていた。
だが、次に期待していた、ズボンは、比較的無事である。

(やった!)

右足の部分は酷い有様で、腰紐の部分や股間にも穴が開いているが、左足の部分は丸々無事である。
これなら、足首の部分を縛れば、長い筒状にして多くのものが入るだろう。

ハルマサは足首を固く肩結びにすると、中に金貨を放り込み、少し考えて上着の残骸も放り込んだ。

(なんに使えるか分からないしね。)

あとは、辺りにある目ぼしい薬草とかを突っ込む。一応キノコも入れておいた。
だぼだぼのジャージだったから結構入ったけどこれくらいにしておこう。

あとは……

一応素振りもしていくことにした。
武器に少しは慣れておきたいのだ。

「フッ!」

ヒュオン!

「棒術」で得た体重移動のコツとかを上手く転用できるようだ。
尋常ではない膂力もあいまって、先のほうの速度は凄いことになっているのではないだろうか。
残念ながら棒とはに見なされないようで、「棒術」の熟練度は0.01も上昇しないが、それならそれで違うスキルが熟練していくだろう。

何が熟練するのだろう。「多節棍術」とか? 語呂悪ッ!

ヒュオ!

後ろに跳ぶと同時に薙ぎ払い。着地と同時に斜め上への振り上げ。

こんな長いものを自在に使えることに、だんだんテンションの上がってきたハルマサは、適当にそこらの葉っぱとかを攻撃しだす。

脚の先のほうは杭のように尖っており、葉やつるなどはすっぱりと切断される。
上手くしならせ、あたる瞬間に手を引けば、尖った部分が突き刺さる。
ふふふ、何とも良い気分ですな。

「だりゃあ!」

さらに、試しに幹の細い(直径20cmほど)木に叩きつけてみたところ見事にへし折った。

「おお……!」

かなりの勢いで叩きつけたのだが、耐久値が減っていない。
なんとも頼もしい武器である。

身体能力も上がり、武器も良いものを手に入れた。

「ふっふっふ……」

思わず気味の悪い顔になっても仕方がないよね!

(待ってろよモス!)

ハルマサは静かに闘志を燃やしつつ、モスが居るであろう方向へと移動していくのだった。


<つづく>

ステータス変化なし。
スキルは観察眼と聞き耳、姿勢制御がほんの少しだけ上がった。

手に入れたもの
・金貨(多分)2枚
・盾蟹の小脚
・ボロボロの袋(中)
・薬草(止血効果、整腸効果)
・あおいキノコ3つ





[19470] 14
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/14 21:11


<14>


草を踏み分け歩いていると、進行方向から不吉な音が聞こえた。

ブーンブーン!


「聞き耳」スキルはいまやレベル3になっており、僕の聴力は半端なく強化されている。
その耳に、ブンブンと僕のトラウマを刺激して止まない音が聞こえるのだ。

これは間違いない……蜂だ。
僕は蜂の事が大嫌いである。

僕のトラウマランキングでかなり上位に、蜂関連の出来事が位置しているのだ。

小学校の遠足の時のことだ。
遠足は最高学年のお兄さんお姉さんと手を繋いで近くの山へと赴く、嬉し恥ずかしドキドキイベントである。
そこで僕はお兄さんに手を引かれながら、遠足を満喫していた。
話下手であった僕に、お兄さんは気さくに話しかけてくれ、憧れが半端ない速度で上昇して行ったのを覚えている。
それだけでおわれば幸せな思い出なのだが、そうではない。
事件は、お昼時に起こった。
弁当を広げていた僕たちの周りに蜂が飛んできたのだ。
スズメバチだった。
腰を並べていたお兄さんは突然恐慌し、僕を蜂に向かって突き飛ばすと一目散に逃げ出した。
見事な裏切りに唖然としていた僕は蜂に見事にロックオンされ、執拗に狙われ、僕は泣きながら転げまわって逃げた。
……他の人のお弁当を踏み荒らしながら。
その時クラスの中心に居た女の子の弁当を蹴っ飛ばしたのが全ての運のつきだったのかもしれない。
結局蜂には刺されたし。

思えば、あれが僕の人生を決定づけたのかなァ……
お兄さんは結局謝ってくれないし、僕は次の日から目の敵にされてネチネチいびられるし、関係無い子まで便乗してくるしで最悪だったよ。

思い出したら、嫌な気分になった。
火が吹けたら丸ごと焼いてやるのに。

避けるのも癪なので、僕はそのまま歩いていく。
以前は怒りよりも恐怖が勝ったものだったが、今の僕は精神すらも強化された人間だ。
僕は今までのティキンじゃないぞ!

僕は気炎を上げつつ低い木や背の高い草なんかを掻き分け、さらに進んでいくのだった。




ブーン、ブーン!
ブーン! ブーン!

蜂の巣に近づいていくと音はドンドン大きくなる。
そして「鷹の目」によって強化された目に、蜂の巣が見えた。

(……普通だ)

巣は大きい。
大きいが、常識的な大きさだった。
木の枝から釣り下がる巣は、楕円球型で縦の長さは80センチほどか。
周りにたかる蜂も、少し大きいかもしれないが、それでも3センチから5センチくらいだ
5メートルも有るような巣とか、蜂がネコくらいでかいとかじゃなくて良かった。

で、なんでネコを引き合いに出したかと言うと、

「ニャァアアアアア!」

無数の蜂にネコが襲われているんだ。

そのネコは棒の先に牙みたいな白い骨をくくり付けたものを持っていた。
腰には大きなどんぐりを加工したカバンを備えている。

あれアイルーじゃない?
「観察眼」もそう言っている。

ネコは大きな目から涙を流しつつ、白い毛に包まれた体を縮込ませて蹲っていた。

僕はその姿に非常に心を動かされた。
いや、惚れたとかではなく、助けなくては、という気持ちが溢れたのだ。

あのように蜂に苦しむ人(ネコ)を放っておけるはずも無い。
なぜなら、僕もその気持ちは痛いほど分かるからです。
手に持ったカニの脚を強く握る。

「うぉおおおおおおお!」

荷物を投げ捨て、僕は叫ぶと、蜂に向かって突っ込んだ。
高くなった敏捷が、一瞬にして距離を飛び越えさせる。
(ちなみに彼の敏捷は常人の約4倍。常人が15秒で100mを走れるとしたら、彼は約4秒しか要りません。まぁそんな単純計算にはならないだろうけど、「突進術」もあるので20mくらいなら一秒かかりません。)

風を切りながら走った僕は、蜂たちに向かって振りかぶった脚を横に振り払った。

「だりゃあああ!」

バチバチバチバチ!

十匹近い蜂が空中で叩き潰され、体液が飛び散る。
うへぇ、気持ち悪!
一瞬散った蜂たちが、一拍の間をおいて、こっちに群がってくる。

「逃げるんだ!」

僕はアイルーに向かって叫ぶと、さらにカニ脚を振り回す。
ヒーローな僕カッコイイ! とか思っていた。
自己犠牲って尊いよね。

とにかく僕は、振りぬくたびに蜂を潰し、羽根をもいで、幾多の蜂を撃墜していった。




「……ニャ?」

蜂の攻撃が無くなったことに気付き、アイルーは恐る恐る顔を上げる。
するとそこには初めてみる生物が居た。

「うぉおおおお!」

長い、貧弱そうな4本の脚を持ち、アイルーやメラルーと同じように二本足で立ち上がって居る。
体毛は少なく、特に下半身を盛大に晒している理解が難しい生物である。
だが、何処と無くこの密林に生息する桃色の牙獣に、その姿が似ているのだった。

「逃げるんだ!」

アイルーにも分かる言葉で、奇妙な生物は叫ぶ。
助けてくれるのだろうか。
しかし、アイルーは逃げようとはしなかった。
その必要も感じられなかったのだ。

無双状態だったのだ。
霞むような速度で手にもつ獲物を振り回し、制空権を保っている。
蜂は無数に群がるが、全て近づくことも出来ず叩き落されている。もしくは潰されている。
その強さは、この密林で最弱の魔物であるアイルーにはとても計り知れないものだった。

まぁぶっちゃけこの密林に居る魔物は大概強さが突き抜けているのだが、この見たことない生物もその例に漏れないようだった。

だが、他の生物と違ってアイルーはこの生物に強い興味を持った。
話が通じること。
自分を助けてくれたこと。

この二つを同時に満たす魔物は、このアイルーにとって、一寸先も見えない闇における一筋の光明にも等しいものなのだった



ハルマサは自分の状態に驚いていた。

(僕ってこんなに強くなっていたのか。)

脚を適当に振り回すだけで、あの怖くて憎くて仕方なかった蜂が、全く近寄ってこれない。
振りまくるうちにスキル「鞭術」を習得したことで、攻撃と攻撃の間が縮まり、蜂が入ってこれない空間はさらに広がった。
もうモスとかに拘っているのがバカらしく思える成長である。

だけどキリが無いんだよね。
視界はびっしりと蜂に覆われて、どれだけ叩き落しても壁がなくならないし。
80cmの巣は、飾りではないようで、後から後から蜂が出てくる。

アイルーに目を移せば、こちらを呆然と見つめている。

(逃げてくれれば僕も即座に逃げるのにッ!)

ハルマサだけなら逃げるのは容易だ。
蜂たちの動く速度を見てみてもそれは間違いない。
だが逃げた瞬間この視界を埋め尽くす蜂たちは、アイルーをまた襲うだろう。
そうなってはハルマサが来た意味が無い。
ジリジリと減るスタミナも焦りを煽る。
ハルマサは歯噛みしていたが、ふと思いついた。

(……僕はバカか―――! 一緒に逃げれば良いんじゃん!)

ハルマサは自分を罵倒する。
こんな簡単なことに気付かない自分に失望さえ覚える。

とにかく気付けば簡単である。
ハルマサは無理に蜂の壁を突っ切ると、ぼんやりしているアイルーの首を引っつかみ、ついでになんとなく蜂の巣を叩き落してから、地面を蹴ってその場から逃げ出したのだった。



<つづく>


ステータス

耐久力:22/22
持久力:15/39  ……1 up
筋力 :32
敏捷 :44
器用さ:34     ……2 up
精神力:102

変動スキル :熟練度
鞭術Lv1  :2   ……2.02 up New!
姿勢制御Lv2:11  ……0.85 up
その他色々、少しづつ上がった。


■「鞭術」Lv1
 鞭を操る技術。鞭の扱いが上手くなる。熟練に伴い敏捷及びその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、相手の弱点を正確に貫く。クリティカル率にプラスの修正。










[19470] 15
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/14 21:12



<15>


「もう、追ってこないよね。」


蜂が追ってこないか後ろを振り返りつつ。
荷物を拾ってから、しばらく走り続けて止まった時、ふと左手に柔らかいものがポフポフ押し付けられるのを感じた。

見下ろすと、ネコが青い顔をして必死にタップしていた。
首をつかむ左手に力を込めすぎていたようだ。

「あわわ! ごめん!」
「ゲホハッ!ヒュー…ヒュー………死ぬかと思ったニャ……」

手を離した途端アイルーは蹲って咳き込む。
本当に語尾に「ニャ」ってつくんだ。
生ファンタジーを見ちゃった気分。
ネコが喋るって、違和感が凄いね。

「でも、助かったニャ。ありがとうニャ。」
「そ、そう?」

スッと立ち上がったネコに唐突にお礼を言われて、ハルマサは戸惑う。
感謝の念を伝えられたのはすごく久しぶりなのだ。
誰かを自分から助けたことも。

(僕が誰かを助けるなんてなぁ……)

今までは、困る人を見ても見て見ぬフリが多かった。
自分に何が出来るか、と言う心と、本当に助けてほしいのか?迷惑じゃないのか?と躊躇ってしまう事が多かったのだ。
自分はやはり弱かったのだ。
体も、心も。
だが、さっきは力があり、心は揺れなかった。

たとえチートによって手に入れた物とは言っても、自分の成長を嬉しく感じるハルマサだった。

「やっぱり言葉は通じるんだニャ……!」

アイルーが何か呟き、こちらの手を掴んで来た。

「……?」
「あの! 助けてもらったばっかりであつかましいとは思うんニャけど、あんたの力を見込んで頼みがあるんだニャ!」

こちらの居住まいが正されるほど、必死な顔である。
死んでからよく頼み事をされるものだと思う。
それも今度は、力を見込んで、ときた。

「ええと……?」
「ボクたちを助けてほしいんだニャッ!」

ネコは茶色い瞳で見上げてくる。
その色は、ハルマサが生まれてこの方見たことのないほど、深い色であり、意志の炎が燃えていた。
彼に向けられるのはこれまで嘲笑の表情、侮蔑の瞳、興味の無いものを見る視線、これらが大半を占めていた。

「と、とりあえず話を聞かせて……?」

だからこそ、戸惑いはするものの、その瞳に答えたい、とハルマサは思ったのだった。
それが、力を持つ者の責任だと思ったのだ。



アイルーやメラルーはこの第一層において、もっとも力を持たない魔物であり、被食者であるらしい。(魔物=モンスターであるとハルマサは認識した。)
生身ではただの虫である蜂にさえ遅れを取るネコたちは、この現実に必死に抗った。
発達した知能によって武器を作り、防具を作り、道具を用い、罠に嵌め、なんとか生き残り、個体数を増やしてきた。
魔物が単体で行動しがちなのに対して、彼らは集団行動をとっていたことも大きかった。
現在では十にも及ぶ集落を作り上げることができた。
だが。彼らの種族は、今壊滅の危機に瀕していると言う。

「原因は雪山からやってきて密林を侵食しつつある魔物、白毛の牙獣たちの軍勢だニャ。」

組織だって襲ってくる恐ろしい強さの魔物の前に、彼らの集落は一つまた一つと蹂躙されているらしい。
位置関係からして、次に襲われるのは、自分たちの村なのだと、目の前のアイルーは震えながら語った。

「お礼はするニャ! 出来ることは何でもするから、助けてほしいんだニャ!」

ネコは語らなかったが、実はこの魔物は他の村に同盟を頼みに行く使者だった。
しかし、ネコはいくら集まろうとも所詮ネコ。
蹴散らされる時期が早いか遅いかの違いにしかならないだろう。
それならば、この強者を信じてみたい。
これがもう最後のチャンス。
そう思っていた。

果たして、ハルマサはその頼みに頷いた。

「うんわかった。できるだけやらせてもらうよ。」

こんなに頼まれたら怖いとか言ってられないよね、とハルマサは心を決めた。




「あっちだニャ!」

そうと決まれば急いだほうが良い。
アイルーは駆け出し、ハルマサも駆け出し、やがてハルマサが走ったほうが速いということで、アイルーを頭に乗せて走り出す。

そうして走ること10分ほどか。
彼は持久も敏捷も常人の6倍程度はある。さらに「走破術」スキルの発動も手伝い、かなりの距離を移動していた。

「ニャ!? 村の方が騒がしいニャ!」
「うん聞こえる……襲われてるかも。」

二人は耳に聞こえた異変に、反応する。
ネコであるアイルーは当然聴力も高い。それに追随するハルマサの聴力の方が異常である。

この先で複数の獣が騒々しく動き回っているのが聞こえる。
咆哮。咆哮。なぜか爆発音。
ハルマサはさらに足の回転を上げる。

「ニャ!?」

ドンッ!

土を蹴れば地が抉れ、岩を蹴ればヒビが入る。
一歩一歩とグングン加速しながらも、「姿勢制御」によって体勢は地を這うように低く、空気抵抗を減らしながら、脚は動き続けている。

右肩に担いだカニの脚は地面と平行になり、頭上のネコは、振り落とされないようにか頭皮に爪を立ててくる。
靴が磨り減り、バラバラになってどこかに飛んでいく。
そうなってもスピードを落とさず走り続け。

目的地はすぐに見えてきた。



ガサ、と葉を掻き分けるとハルマサは崖の上に居た。
慌てて急ブレーキをかける。
そうして眼下の光景を目に入れて、ハルマサは息を呑む。

「城…?」

走るハルマサが零した言葉が、まさにアイルーの集落を表す言葉だった。
アイルーが集落、村などと呼称していたため、自然、木や藁で作った家が並んでいる集落を想像していたハルマサの衝撃は凄いものだった。

周りの木は伐採され、一面が草原となっている小高い丘。
巨岩を用いた石造り外壁が、延々ぐるりと建物の周りを取り囲み、その上に載った無数のアイルーがボウガンを持って打ち続けている。
内側からは絶え間なく大樽が飛び出し、地面に着弾、爆発が起こっている。
爆発音はこれか。

背後に切り立った崖を持ち、前面と側面を堅固な壁で固めた城塞。
壁の近くに高くそびえる塔からは、バリスタと呼ばれる大きな弓が巨大な矢を吐き出している。
知恵ある魔物が作り上げた集落が、ただの村のはずが無かったのだ。

そしてそれを攻める魔物の群れ。
いやこの数は軍隊だ。
白色の体毛に筋繊維の詰まったごつい体型。手足は物を掴むように発達しており、青い毛でふちどった猿のような赤い顔を持つ。
ブランゴと呼ばれるモンスターはびっしりと城砦の下の草原を埋め尽くしていた。

『グ・ォ・オ・オ・オ・オ・オ・オ・オ・オ!!!!!!!』

「なんて数いるんだ……」
「ニャァァ…」

咆え、駆け、跳ね回る白、白、白。

草原にある無数の罠、落とし穴、トラバサミ、毒の針、etc
「観察眼」で明らかになったそれらを、軽々と無視、粉砕しながら、ブランゴたちは城砦へと吶喊する。
迎撃するアイルーたちの爆弾、弾丸、バリスタの巨矢をあるいは弾き、あるいは身に受けながらもひるまずに、意志の壁に体当たりを繰り返すブランゴたち。
何も考えていない力押し。

しかし、それでも劣勢なのは城塞都市のアイルーたちだった。
彼らが知恵を絞り、技巧を凝らし、時間をかけて作り上げた対抗策は、ただただ、身体能力に蹂躙されていた。
唸るほど押し寄せる城の群れは、10メートルもあるような壁の前に肉の階段を作り上げ、アイルーたちが慌てて爆弾を落とす。
石の壁にバカみたいな速度で突っ込む度に、壁は揺れ、アイルーたちは必死に壁にしがみ付く。
もはや抵抗など、風前の灯。
蹂躙される一歩前であった。


「無理ニャ……こんなの無理ニャ……」

頭の上のアイルーがそう思っても無理は無い状況だった。
一体何匹居るんだろう。
百匹は確実に居る。

ハルマサも一度は怖気づいた。
確かにこのネコたちは可哀相だ。
理不尽な暴力によって蹂躙される弱者。
しかし、その弱者を助けられるほど僕は強いのか?

だが、頭の上の絶望する声を聞いたとき決意は固まった。

(ボクは死んでも大丈夫だしね! 出来るところまでやって、死んでから後悔する! これでいこう!)

いつも理不尽な暴力に屈する側であった僕。
力がないといつも諦めていた。
反抗することから逃げ、生きることすらどうでも良くなっていた。
だが、閻魔様のくれたチートで強くなった今なら、何とかなるかも知れないのだ。

(いや、する!)

ハルマサは無理だと怖気ずく心を震え立たせ、決意を固める。
前向きになれた全ての要因は、精神力の多さにあるだろう。
彼の精神力はレベル5の水準に届かんとするほどの物であり、彼は逆境でも前向きで居られるようになったのだ。

この事態において、まだマシだと言えることがあるとすれば「観察眼」によってレベルとともにブランゴの弱点部位、弱点属性が判明しているということだ。
猿の生態とほぼ同じであると言うことは見れば分かるので、弱点部位が分かると言うことにあまり利は無い。
ただ、「観察眼」によって判明するという事が重要なのだ。
現在の「観察眼」のレベルはヤオザミの時から変わらない!(※ 変わってます)

(つまりこいつらはヤオザミより弱いって言うことさッ! あいつを倒した僕なら、なんてこと無いんだ!)

自分に活を入れ、ハルマサはネコと荷物を下ろす。
ここなら魔物の集団には気付かれまい。

「よし! 行ってくるね!」
「ニャ! だめニャ!」

こちらを心配してくれているのだろうか。
アイルーにぎこちない笑みを返し、ハルマサはカニの脚を強く握り、助走を付け、跳んだ。

ハルマサは今、なりゆきで絶望的な戦いに身を投じようとしていた。




<つづく>

ステータス変化

姿勢制御と走破術が上がって、その影響で持久力と器用さが上がりました。


<あとがきという言い訳>

展開がゴーウィンなのは仕様です。
心の動きとかつらつら書いても面白くないんじゃない?と思った私が全ての原因だー!
勢いssだしね。
そしてあえて触れなかったけどハルマサ君、下半身はパンツ・素足と言うスタイルなんだ。






[19470] 16
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/14 21:31

<16>


うわぁ……!
高い高い高い!


崖を飛び出したハルマサは、瞬間的に後悔した。
ちょっと格好つけすぎた!
僕そんなキャラじゃ無いのに!
その結果がこれだよ!

風圧で頬の肉をブルブルされながら、ハルマサはゆるいカーブの放物線を描きながら群れの真ん中に飛んで行き、

ドゥン!

腹に響く音と共にブランゴの上に斜め上から降り立った。

へ、へへへ。
死んだかと……死んだかと思ったァ!
あ、涙出そう。

ちなみに今ので耐久力一気に半分になりましたー。
死亡に向かって一直線☆

膝をカクカクさせながら立ち上がった僕の脳裏にナレーションが響く。

≪魔物を撃退したことにより、20の経験値を得ました。≫

レベルが上がらないときはドラクエ式ファンファーレが無いらしい。
どうやら30メートルの滑空ライダーキックは、ブランゴの耐久力を削りきったみたい。
経験値20っていうことは、あと一体倒したらレベルアップじゃないか!

と、ここでファンファーレ。

≪跳躍後に一定距離以上空中を移動したことにより、スキル「跳躍術」Lv1を習得しました。習得に伴い敏捷にボーナスが付きます。≫

今は確認している場合ではない。
一時硬直していたブランゴたちだが、新たな獲物として、こちらに向かってきたのだ。

ちょ、一気に来すぎw 死ぬるw

前後左右、さらにジャンプしながら上からくるもの、合わせて6匹。
はわわ、あわわとテンパリそうな心を押しつぶし、正面から突撃しようとするブランゴにカニの脚を叩きつける。
機先を制されて怯んだブランゴの上にキラキラ光る逃げる道が出現――――――「回避眼」だ!
早速ブランゴを足蹴に乗り越え包囲網から脱出する。

だがその先にあるのも――――――包囲網。

思ってた以上にキツイよこれぇ!
ちょ、お前らこっちクンな!
せめて、一匹ずつでお願いしまぁす!

「ぬぁああああああああ!」

テンパリながらも僕は動き続ける。
手を、足を止めちゃだめだ!
なんか止まったら死ぬって言うのが直感的に分かっちゃうんだよ!
止まって無くてもしにそうだけどね☆

なんでこんなとこに降りたんだ僕! もっと端から攻めろよ!

全方位から突撃してくるブランゴ。
その威力は石の壁を揺らすほど。
当たったらダメージはでかい。上がった耐久力(22)でも即死する可能性は高い。
何故なら「観察眼」によって判明した敵の筋力は―――90前後だから(涙)。
救いはそんなに素早くないことだね。

「ガオッ!」
「―――うわッ!」

鋭い爪が背後から。
「聞き耳」で危機一髪察した背面への攻撃を前へ跳ぶことで避ける。

「グォア!」
「ヒィ!」

そこに突っ込んできたブランゴをさらに飛び越える。

「ガアッ!」
「やられるか!」

着地地点で爪を振り上げるブランゴにカニ脚を叩きつけ、反動で左に。

「うおりゃあ!」

目の前に居るブランゴの顔を踏んでさらに逆へ。

「跳躍術」の効果はすぐに現れていた。
跳躍後の挙動がグッと早くなったのだ。
着地した直後は「跳躍術」「撹乱術」「突進術」「撤退術」の4つが重なり、驚異的な回避が可能になった。
無理な姿勢でも「姿勢制御」によってバランスは保たれ、周囲の状況を「聞き耳」によって把握する。
さらに「回避眼」が攻撃を避け、生き残るための道筋を指し示す。

これらが重なり、常人なら100回は死んでいる状況を、僕は辛くも切り抜けているのだった。
まさにチート様様。
生き残ったら閻魔様を奉った祠でも作ろうかな。

だけど、「回避眼」は発動しないもある。
思ったとおりに行動できないこともある。
その対価に削れるのは耐久力で。
何度も攻撃がかすり、シャツはボロボロ。パンツもボロボロ。ポロリはまだだよ!
爪による切り傷も少なくない。

あ、やばい!
なんか耐久力下がっちゃってるっていうか、もともと半分しかなかったのに、さらに半分になったような気がする!
ふふ、今の僕ならパンチ一発で死ぬぞぉ!

至近距離での咆哮。唸りを上げて目の前を通過する鋭い爪。
後一歩横に居れば、肺腑を抉っていた獣の突進。
獣臭が鼻をつき、ブランゴの敵意で体が鈍る。
何より、避けることに集中しなければいけない状況で、攻撃が出来ない。敵が減らない。
予断を許さない状況が、持久力を、集中力をガリガリ削って行く。

だが、極限の状況だからこそ、得られる対価は大きいものだ。

頭の中ではひっきりなしに熟練度アップ、新スキルの取得を知らせるファンファーレが鳴り響く。
徐々に洗練されていく動き。
それはスキルを自分のものにした動きでもあった。
もうどれほど避けたか。
何度直感により回避を行い、絶望的な死中での「生」を拾ったか。


(ここまで来たら死んでたまるカァアアアアアアア!)


ハルマサの自意識は、今こそ極限。

彼は、確かにここで生きていた。



≪チャラチャンチャンチャン(中略)チャーン♪ 一定範囲内に敵対す――――――
≪チャラチャン(ry 「鞭術」の熟練d――――――
≪チャ(ry 「回避眼」の熟練度が24.0を――――――
≪チ(ry 一定時間内に脚による――――――
≪t(ry 「撹乱術」「跳躍術」のレベルがともに3を越えたことにより――――――


雑多な情報が頭の中で氾濫する。
使えない特技と判断された行動に対する警告も鳴り止まない。
その中で、僕は待っていた。
僕の耐久力が、持久力が、カニ脚の耐久値が削れて行く中で。
僕の、避けるための攻撃が、どれか一匹に蓄積することを!
そして、クリティカルが発生し、ブランゴの耐久値を削りきることを!

なぜなら!
あと一匹倒せばレベルアップするからさ!

彼が左右からの同時攻撃に対して、右のブランゴにカニ脚を振りながら吶喊。
腕を弾き飛ばして顔面にスキル「拳闘術」Lv3による特技「突き」を打つ。
めぎゃあ、と結構良い手ごたえ!
スカッとしている暇も無く、左に体を倒し、跳躍。
その時脳裏に響くファンファーレは、彼が待ち望んだドラクエのものだった。


≪魔物を撃退したことにより、20の経験値を得ました。レベルアップしました。全ステータスにボーナスが発生します。≫


(レベル4キタ――――――!)

流血によって重くなっていた体が、ぐん、とくなる。
体のうちにはエネルギーが溢れ、切れかけていた息が持ち直す。

そして何より――――――今までレベル制限で使えなかった特技が使えるようになる!
なんかいろんな行動が特技とみなされて≪ポーン!≫ってなったんだけど、その中でレベル4になったら使える奴あったんだよね!

一瞬の思考の隙があったか。
飛び掛ってきたブランゴの下から突進してきたブランゴに、対応が遅れる。
咄嗟にカニの脚で受け止める。
猛烈な勢いに、しかしレベルが上がったハルマサは耐え切った。
だが、武器は耐え切れなかった。
手元に近いほうの節がもげ、50センチの棒になってしまったカニの脚。

(あああああああ!?)

相棒が! 臨時だけど!
くそう!
貴様には取って置きを食らわせてやる! さっき偶然発見した、かっこいい名前の特技を!
でもその前に、

「突きィ!」

突進を避けざまに、わき腹へ「棒術」の特技「突き」を放ち、突き込んだそれを無理やり引き戻す。
筋力が上がったのか、さっきまでよりもブランゴが柔らかく感じるよ!
口を限界まで開け、衝撃に体を揺らすブランゴ。

――――――行くぞ!

僕は瞬時に重心を沈め、地面を踏み抜くような踏み込みと共に、腰だめに構えていた拳【弾丸】を放つ【発射する】!

「―――崩拳!!!!!」

熟練度ではなく、レベルで制限のかかっていた特技「崩拳」。
もう名前からして強そうな特技は、予想通り強かった。
何の制限もなくなった今、彼の劇的に上昇した筋力によって放たれる拳は、爆発的な威力!

顔面に攻撃を受けたブランゴは瞬時に骨が砕け、次の瞬間、背中が内側から爆発。
周囲に血が飛びちり、赤い雨が降る。


◆「崩拳」
 踏み込みと同時に対象の体に拍打を打ち、体の内部に衝撃を置く。下位の装甲を必ず貫通。


一撃で相手を沈黙させられる特技である。
これは使える!
カニ脚はもう役に立たないけど、「突き」「崩拳」さえあれば戦える!
まだまだ状況は油断できないけど。

(反撃は、ここからだぁああああああああ!)

血に濡れたハルマサの顔は、常には無く、生気が溢れるものとなっていた。





<つづくといい>




ステータス(読み飛ばしてもあんまり問題ないよ!)

佐藤ハルマサ(18♂)  ……Level up!
レベル:4        ……1 up レベルアップボーナスは20
状態 :流血(継続ダメージ小)
耐久力:40/57    ……35 up
持久力:91/141   ……98 up
筋力 :126      ……94 up
敏捷 :268      ……222 up
器用さ:122      ……89 up
精神力:166      ……64 up
経験値:80 次のレベルまであと78


あたらしい特技

崩拳


変動スキル :熟練度

拳闘術Lv3 :36   ……36.2 up New! Level up!
蹴脚術Lv3 :30   ……30.4 up New! Level up!
棒術Lv2  :10   ……0.03 up
鞭術Lv3  :45   ……43.7 up Level up!
姿勢制御Lv3:67   ……53.5 up Level up! 
突進術Lv3 :65   ……60.1 up Level up!
撹乱術Lv4 :74   ……60.1 up Level up!
跳躍術Lv3 :61   ……61.3 up New! Level up!
撤退術Lv4 :72   ……60.1 up Level up!
防御術Lv1 :2    ……2.88 up New!
戦術思考Lv2:14   ……14.3 up New! Level up!
回避眼Lv4 :92   ……86.3 up Level up!
的中術Lv2 :29   ……29.0 up New! Level up!
空間把握Lv2:18   ……18.1 up New! Level up!
聞き耳Lv4 :73   ……23.4 up Level up!


◆「崩拳」
 対象の体に踏み込みと同時に拍打を打ち、体の内部に衝撃を置く。下位の装甲を必ず貫通。

■「拳闘術」Lv3
 拳で攻撃する技術。拳で攻撃する際、威力が上がる。熟練に伴い筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は拳で大地を割る。
(一定時間内に一定回数以上拳による攻撃を繰り出したことにより、習得。)

■「蹴脚術」Lv3
 蹴りを繰り出し攻撃する技術。足で攻撃を放つ際、蹴りの速度が上がる。熟練に伴い敏捷またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は蹴りで衝撃波を放つ。
(一定時間内に一定回数以上足を強振したことにより、習得。)

■「跳躍術」Lv3
 跳躍後、上手く着地する技術。着地後、素早く動くことが可能となる。熟練に伴い敏捷にプラスの修正。上級スキルに「空中着地」がある。

■「防御術」Lv1
 攻撃を防御する技術。攻撃を防御する際、被害を軽減する。熟練に伴い、耐久値にプラスの修正。熟練者は、魔法による攻撃を無効化する。
(耐久力以上の攻撃を防御したことにより、習得。(カニの脚で防御した時に習得。))

■「戦術思考」Lv2
 戦闘中において思考する技術。戦闘中、冷静になる。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。熟練者は、死の間際でさえ慌てない。
(一定時間以上、戦闘行為を継続したことにより、習得。)

■「的中術」Lv2
 攻撃を命中させる技術。攻撃が当たる度、確率でクリティカルが出る。スキルレベル上昇に伴い、スキル発動確率が増加する。
(一定時間内に一定回数以上攻撃を命中させたことにより、習得。)

■「空間把握」Lv2
 戦闘時、自分の周りの事象を把握する技術。自分を基点とした一定範囲内の事象を把握できる。スキルレベル上昇に伴い効果範囲が増加する。
(「撹乱術」「跳躍術」のレベルがともに3を越えたことにより、習得。)



<あとがき>

段々インフレしてきた13~16話の更新でした。
特に敏捷が面白可笑しいことに。
これでも自重したつもりだったけど、全然そんなことは無かったぜ。
一晩寝て起きてみたら、これはドイヒー。
多分、足系のスキルが多すぎるんだよね。
でも直さない。これから、こんなのでも足りない敵がもろんもろん出てくるから。

今回<つづく>を書いてから<あとがき>を書くまですごく時間がかかりました……。
新スキル7つとかやりすぎたよ。疲れたー!
もう次からスキルの小数点以下書くの止める!

あと、現在のステータス的なの晒しとくね。
流し読みして、文字の多さに辟易するが良い!

明日も更新するよ!



サインさん、ヤマヤマヤーさん、ありがとう!
今回にも誤字あったらごめんなさい!

>火操作、土操作
その辺は何とかしたいけど、今のところそのきっかけが……。
特に火種がないんですな。
でも魔法(?)はその内出てくるよ!

>DQ6
実はもう3回ほど強さを整えていたり。
前回の誤字、42→22はその名残りなのです。
でもうまくバランス取れてないかも知れん……



[19470] ステータスとか(16話時点)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/14 21:21
誰得! ステータス&スキル!(と特技)

佐藤ハルマサ(18♂)
レベル:4
耐久力:57
持久力:141
筋力 :126
敏捷 :268
器用さ:122
精神力:166
経験値:80 次のレベルまであと78

特性

桃色鼻息
桃色ウインク

特技

突き
崩拳

スキル
拳闘術Lv3 :36(筋力ほか)
蹴脚術Lv3 :30(敏捷ほか)
棒術Lv2  :10(筋力ほか)
鞭術Lv3  :45(器用さほか)
布闘術Lv1 :3(器用さほか)
舞踏術Lv1 :1(敏捷)
姿勢制御Lv3:67(持久力・器用)
穏行術Lv4 :75(精神力)
突進術Lv3 :65(敏捷・精神力)
撹乱術Lv4 :74(敏捷)
跳躍術Lv3 :61(敏捷)
走破術Lv1 :6(持久力)
撤退術Lv4 :72(持久力・敏捷)
防御術Lv1 :2(耐久力)
戦術思考Lv2:14(精神力)
回避眼Lv4 :92
観察眼Lv4 :72
鷹の目Lv1 :7
聞き耳Lv3 :73
的中術Lv2 :29
空間把握Lv2:18
洗浄術Lv1 :2(器用さ)
祈りLv1  :1(精神力)



□「桃色鼻息」
異性を魅了する魔性の特性。鼻で息をする時、あなたの体からは異性をとりこにするフェロモンが溢れ出ます。たらしと呼ばれること間違いなし! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません

□「桃色ウインク」
異性を魅了する魔性の特性。異性の目を見つめて一度ウインクすることで、異性に好感を与えます。わざとらしくても大丈夫! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。

◆「突き」
拳または獲物を用いて、敵対する対象の体の一点に強烈な攻撃を与える。貫通属性。

◆「崩拳」
対象の体に踏み込みと同時に拍打を打ち、体の内部に衝撃を置く。下位の装甲を必ず貫通。

■「拳闘術」
拳で攻撃する技術。拳で攻撃する際、威力が上がる。熟練に伴い筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は拳で大地を割る。

■「蹴脚術」
蹴りを繰り出し攻撃する技術。足で攻撃を放つ際、蹴りの速度が上がる。熟練に伴い敏捷またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は蹴りで衝撃波を放つ。

■「棒術」
棒を振り回す技術。棒の扱いが上手くなる。熟練に伴い筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、棒や棒に準ずる物を手足の如く扱える。

■「鞭術」
鞭を操る技術。鞭の扱いが上手くなる。熟練に伴い敏捷及びその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、相手の弱点を正確に貫く。クリティカル率にプラスの修正。

■「布闘術」
布を用いて闘う技術。布を凶器として扱うことが出来る。熟練に伴い器用さまたはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、布を用いて鉄を断つ。

■「舞踏術」
踊りの技術。体を動かし喜怒哀楽など感情を表現できるようになる。熟練に伴い敏捷にプラスの修正。熟練者は、踊りで言葉さえも伝えることが可能である。

■「姿勢制御」
姿勢を保つ技術。行動中または静止中における姿勢の保持が容易になる。熟練に伴い持久力または器用さにプラスの修正。熟練に伴い上級スキルに「身体制御」がある。状態異常「よろめき」に耐性が付く。

■「穏行術」
気配を隠す技術。対象による索敵に引っかかりにくくなる。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。上級スキルに「暗殺術」がある。

■「突進術」
敵に向かっていく心のあり方。敵対対象を基点とした一定空間内で、敵対する対象との距離を縮める際、ひるまずに素早く移動する事が出来る。熟練に伴い、敏捷または精神力にプラスの修正。上位スキルに「突撃術」がある。

■「撹乱術」
敵を混乱させる技術。敵対する対象を基点とした効果範囲内で、素早く動けるようになる。熟練に伴い、敏捷にプラスの修正。熟練者は残像を残す速度で動き回り、分身したように見えるという。

■「跳躍術」
跳躍後、上手く着地する技術。着地後、素早く動くことが可能となる。熟練に伴い敏捷にプラスの修正。上級スキルに「空中着地」がある。

■「走破術」
長い距離を走り抜く技術。一定距離以上の移動をする際、疲れにくくなる。熟練に伴い持久力にプラスの修正。熟練者は七日七晩止まらず走り続ける事が可能となる。


■「撤退術」
逃亡する技術。敵対する対象から離れる際、素早く移動できる。熟練に伴い持久力または敏捷にプラスの修正。熟練者は目にも止まらぬ速度で消え去るように居なくなるという。

■「防御術」
攻撃を防御する技術。攻撃を防御する際、被害を軽減する。熟練に伴い、耐久値にプラスの修正。熟練者は、魔法による攻撃を無効化する。

■「戦術思考」
戦闘中において思考する技術。戦闘中、冷静になる。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。熟練者は、死の間際でさえ慌てない。

■「回避眼」
攻撃を回避する方法を見出す思考。敵対する対象からの攻撃に対して、確率で回避に成功する道筋が視界に移る。スキルレベル上昇に伴いスキル発動確率上昇。

■「観察眼」
対象を観察する技術。注視することにより、様々な情報を得る事が出来る。スキルレベル上昇に伴い、取得情報が増加する。

■「鷹の目」
遠くの対象に焦点を合わせる技術。遠くのものをはっきりと見る事が可能となる。スキルレベル上昇に伴い焦点距離が延長。投擲、射撃時の命中率にプラス修正。

■「聞き耳」
一定範囲から音を拾う技術。効果範囲内の音から様々な情報を得る事が出来る。レベル上昇に伴い、効果範囲、取得情報が増加する。音を用いた攻撃への耐性が低下する。

■「的中術」
攻撃を命中させる技術。攻撃が当たる度、確率でクリティカルが出る。スキルレベル上昇に伴い、スキル発動確率が増加する。

■「空間把握」
戦闘時、自分の周りの事象を把握する技術。自分を基点とした一定範囲内の事象を把握できる。スキルレベル上昇に伴い効果範囲が増加する。

■「祈り」
神や精霊へと願いを届ける技術。集中し祈ることで、様々な恩恵を得る事が可能となる。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。上級スキルに「神卸し」がある。精神を対象とした攻撃に耐性が付く。


重ねて言うけど、明日も更新するんだぜ! 見に来てくれよな!




[19470] 17
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/06/15 16:55
<17>


アイルーたちの村の名は、『ココット』と言う。
その村の村長は代々ココットの名を継ぎ、村の発展に力を尽くす。
そして今代のココットの頭脳は一級品だった。
彼は今までの村の概念を覆した。
隠れ怯える村から、守る村へ。
それが最も顕著に現れるのは、石を積み上げた壁だろう。
さらに、迎撃のためのバリスタ。
侵入を阻む罠をしかけ。
周りの木を切り払い、虫型の魔物が近づかないように。

これによってアイルーたちは安全な生活を勝ち取った。
だが、それは空しい努力だったのか。

ダンダンダン! ダンダンダン!

「――――――クッ!」

(効いてないだと……!)

渾身で作り上げた武器は、相手の勢いを少し削ぐだけ。
ココットは、雪崩のように襲い来る牙獣たちに必死に速射型のボウガンの弾を打ち込みながらも、歯軋りをせずには居られなかった。

だが――――――

「おい、ココット! あれを見ろ!」
「なんだ! ――――――何? 何だあれは………?」

ココットの視線の先、ボウガンも届かないような場所で、周囲を白の獣に囲まれて、一人で戦う戦士が居た。
単身で群れに挑むなど、正気の沙汰ではない、無いが――――――

「翻弄している……だと……!」

この世界は100匹の弱者と一匹の強者であれば後者に軍配が上がる世界。

後ろにも目があるような身のこなし。霞むような移動。重い攻撃。
縦横無尽に走り回り、群れをかき回している戦士は紛う事なき強者だった。

一体また一体と、確実に牙獣は沈んでいき、戦士は動きをどんどん加速させていく。
いずれ、群れの全てを倒してしまうほどの勢いだった。

必然、防衛をしていたアイルーたちへの負担が減少していく。
今まさに落ちんとしていたアイルーの村は、少し持ち直しているのだった。

ココットは心を決める。
名も知らぬ戦士よ。今はあなたを利用させてもらう!

「皆のものよ! 援軍だ! 援軍が来たぞッ!!!!」

声を張り上げると、周りがざわめきだす。

「援軍?あいつか?」
「凄い!」
「一人で!?」

ココットは、さらに声を出す。

「守りきれ! 時間を稼げば我らの勝ちだ! この戦い、勝てるぞ! 気合を入れろぉおおおおお!」
『おおおおおおおおおッ!』

今、アイルーたちは折れかけた心を持ち直し、強大な敵に向き直った。





敢えて言おう。
レベルアップ、ハンパネェ!
さっきまで脅威の塊だったブランゴたちが、案山子の群れに見えるよ!

「はははははっは――――!」

僕、今絶対、サラマンダーよりはやーい!
THE・有頂天状態になっているハルマサは、もう何も怖くない、とばかりに走り回って、手当たり次第にブランゴを蹴散らしていた。

「ふ、どうやら強くなりすぎてしまったようだね!」

などと、野菜王子の真似をするくらい余裕である。(でも怖いのでパンチをわざと食らったりはしない。)

「崩拳!」

どぐぁ、びちゃあ、とまた血の雨を降らせて、僕はその場を離脱。

「ガァアアアアアアア!」
「甘い!」

飛び掛ってこようとしたブランゴを蹴り上げる。
何が甘いのかよく分からなかったが、とりあえず。
この動きの特技はないようだったが、関係なく威力は高い。

もう一度崩拳を使おうとしたが、どうやら特技には再使用までの冷却期間があるようで、ただのパンチになった。
連続使用は出来ないみたいだ。
だがそれでも全く問題ない。

ただのパンチでもブランゴはぶっ飛んでいる。

彼の有頂天に火をつけたのは、さらにもう一つレベルが上がったことだった。
レベルが上がって4になった後、ブランゴを倒した時の経験値は半分になった。
しかし、それでも十匹近く倒すとレベルアップが起こったのだ。
よって今の彼のレベルは5。

もう、誰も追いつけない! そんな気がする!

腕を振れば数メートルも吹っ飛ばされて、足を振れば頭が割れる。
瞬く間に仲間の死体を量産されて、ブランゴたちはビビッてしまっているようだった。
レベル5になってからさらに取得経験値が減ったため、次のレベルまでは遠そうだ。
だが、これでもう十分。

ハルマサはもう脅威を感じていなかった。




それから十数分。
ハルマサは賢者タイムに入っていた。

目の前には死屍累々。
思わず、城壁に取り付いているものはおろか、逃げようとする奴まで屠ってしまった。
殺りも殺ったり132匹。
レベルは6になっていた。

ふぅ……。
何やってるんだろうな、僕。
自分より弱い生き物を倒して喜んでるなんて。

ハルマサが賢者タイムに入った理由は、ある特性の取得だった。

□「殺害精神」
 殺害を許容する精神構造。精神のリミッターが外れ、殺害に対する忌避感が薄れる。殺害に関して理論的に考えられるようになる。

ハルマサは血に塗れた手を見る。
あんなに血を浴びたというのに、何も、胸に湧き上がらない。
ニオイも臭いと思うだけ。
小説だと、こういうときに吐き気とかもよおすものなのに。
手には確かに頭蓋を叩き潰し、肺腑を貫いた感触が残っているが……正直それが何? といった具合。

テンションが下がった後でも生き物を殺した忌避感が沸かないのはおかしな気分だった。

この特性。今まで得た特性と比べて、遥かにまともなはずなのに心は晴れない。
僕はもう、人ではないんだね……

思わずため息が漏れる。
ハルマサは、忌避観を感じないことに強烈な寂しさを感じているのだった。


ブランゴたちの死体は消え去り、金貨一枚と尖った爪やくるくると丸められた布?(皮です)が残された。
それをぼーっと眺めていると、声が聞こえた。

「もし、言葉は通じるというのは本当か?」
「……ん?」

見れば、蜂に襲われていたアイルーと、彼よりも体格の良いアイルーが僕を見ていた。

「えっと……誰?」
「おお、本当に話が通じるのか。いや、すまん。私はこの村の村長。ココットだ。」

体格の良い、ココット?さんが軽く目を見開きつつも自己紹介をしてきた。

「あ、僕は佐藤ハルマサです。それで、何か用ですか?」

うむ、とココットは頷いた。

「まずは我らの村を助けていただいたことの感謝をしたい。我らの宴に参加してもらえないか? 貴殿を歓待したいのだ。」
「え、いやそれほどのことでも……」

いや、あるかも。
普通に死んじゃうと思ったし、感謝されてもいいのかな。むずがゆいけど。
あと、お腹もすいたからご飯はすごくほしい。

「じゃ、じゃあご馳走になります。お腹すいちゃって。」
「ふ、そうか。ならばウチのネコどもの腕を堪能してくれ。さ、こっちだ。」
「その前にお風呂はどうだニャ? ドロドロだニャ。」

それはすごくありがたかった。



「いてて……」

お風呂は、気持ちよさを感じる前に、傷に凄い沁みました。
切り傷とか沢山あるなァ……。
もう血は止まってるけど、ヒリヒリするよ。

ネコ用にだろうか底の浅い、木製のお風呂に入らせてもらった後、猫たちが速攻で織り上げたローブを借りて、宴の席に着いた。
ちなみにノーパンです。……ドキドキしちゃう!

宴は野外で行われるようだった。丸いテーブルがそこかしこに並べられ、50を越えるようなアイルーたちが好き勝手に座っている。
こんな集落が他にもあるって言うんだから驚きだなぁ。

ココットが咳払いをして口を開く。

「では、諸君! 我らの勝利と我らを救ってくれた英雄に! 乾杯!」
『ガシャン!』

皆が杯を打ち付けあい、各々杯を呷ったり、料理をつまんだり、肩を叩きあい、談笑する。
ハルマサはこのような雰囲気は初めてであり、なんか良いなぁ、と思った。
ネコが代わる代わる話しかけてきてくれて、ハルマサも何とか場の空気に混じる事が出来ていた。
どうでも良いが、語尾に「ニャ」とつけるアイルーは半分も居ない。
年を取ると付けなくなるそうだ。

「ふむぅ、それにしても貴殿は謙虚だな。もっと英雄らしくしても良いのだぞ。」
「そうですニャん。ささ、もう一杯。」
「あ、ありがとう。って英雄!? いやそんな。」

ハルマサは、ココットに感嘆され、それに村一番美しいと言われる毛並みの綺麗なネコにお酌され、非常にむずがゆい思いをしていた。
だが、悪くない。
好意的に接してもらえるのはやはり、嬉しい。
ハルマサの顔にも自然と笑顔が浮かぶのだった。


そして宴もたけなわ。
ハルマサを連れて来たアイルー(ヨシツネと名乗った)が、他のネコと共に、布で巻かれた長いものを重そうにしながら持ってきた。

ココットは言う。

「ハルマサ殿。貴殿のしてくれたことに対して、見合うとは到底思えないが、これは我々の気持ちだ。どうか受け取ってほしい。」

ココットが、バサァ、と布を剥ぐと、そこにあったのは―――

煌く黄金色の巨剣だった。
幅広の刃は大胆かつ鋭角に切れ込みが入っており、刀身全体でまるでネコが牙を剥いているように見える。
日の光を照りかえしてキラキラと輝く様は、英雄の聖剣のようだった。

「ビーナス・オブ・キャット。この大剣の名だ。」
「そう、ですか。」

ていうかモンハンに有りましたよねコレ。
大剣で、ネコの紅玉とか使って作るやつだ、確か。
ネコの紅玉なかなか出なくてイライラした記憶あるもん。

大剣を手に取ってみる。
ひやりとした金属の感触。
ズシリと来る重さだ。
まぁ僕の筋力ちょっとアレだから簡単に持てるけど。
刀を触ると、パチッ、と静電気が走り、指先にシビレを感じる。
そういえばゲームでは麻痺属性あったっけ。
これで切ったら、敵がアばばばばば!ってなるんだね。

「ふ、どうやら気に入ってもらえたようだな。何よりだ。」

いや、こんな目立ちまくる装備貰っても。
「穏行」するとき邪魔なんですけど……
というのが本心だったが、すごく嬉しそうにしているココットさんに悪いので言い出せない。
まぁいいか。

あ、そうだ。閻魔様の頼みがあったっけ。
誰かついてきてくれないかなァ……?
これの代わりに、とかどうだろう。
でも、今連れて行っても、ボスとかいたらちょっと邪魔になりそうだし……。
第一層クリア出来てから考えようか。
ココに来たらアイルー居るのはわかったんだし。

「ありがとうございます。ありがたくいただきます。」

こうして。
ハルマサは、武器を手に入れたのだった。




<つづく>


ステータス

レベル:6      ……2 up レベルアップボーナスは120(40+80)
耐久力:180/180 ……123 up
持久力:263/263 ……122 up
魔力 :120     ……120 up New!
筋力 :252     ……126 up
敏捷 :406     ……138 up
器用さ:244     ……122 up
精神力:292     ……126 up
経験値:500 次のレベルまであと138

あたらしい特性

殺害精神

スキル

拳闘術Lv3 :42   ……6 up
蹴脚術Lv3 :34   ……4 up
姿勢制御Lv4:71   ……4 up Level up!
突進術Lv4 :70   ……5 up Level up!
撹乱術Lv4 :79   ……5 up
跳躍術Lv3 :66   ……5 up
撤退術Lv4 :73   ……1 up
防御術Lv1 :5    ……3 up
戦術志向Lv2:18   ……4 up
回避眼Lv1 :94   ……2 up
観察眼Lv4 :73   ……1 up
的中術Lv3 :33   ……4 up Level up!
空間把握Lv2:22   ……4 up


□「殺害精神」
 殺害を許容する精神構造。精神のリミッターが外れ、殺害に対する忌避感がなくなる。殺害に関して理論的に考えられるようになる。


<あとがき>
敵が格下になって脅威がなくなったので得られる熟練度はガクッと下がりました。
格下or格上は、レベルで判断。
ちなみにブランゴたちはレベル4に相当します。
観察眼で筋力とかを判別できたのも観察眼がレベル4だったからと言うわけです。
今回、取得経験値は、レベル3の時20、レベル4の時10、レベルが5の時は5、レベル6だと2でした。




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Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/06/15 16:57


<18>

太陽が沈まないので分からないけど、多分一晩くらい眠ってから、僕はここを発つことにした。
なんか居心地良すぎて住み着いちゃいそうだけど、それじゃやっぱりダメだよね。

結構な数のアイルーが見送ってくれる中、僕は旅立つ。

ところでアイルーたちの好意により、装備が整いまくりました。
ありがてぇ。

まず装備一つ目!「ナップザック」!
僕がジャージで作っていた形を真似てくれたのか上の面が無い円柱型で、上のほうに紐が通してあり、引っ張ると口をすぼめる事が出来る構造だ。
中には食料やら水やらが入っている。

次に「剣帯」!
あんな大きい剣を引っさげていくのもなんか嫌だったので、お願いしたところ作ってくれました。たすき掛けにした革帯に剣を引っ掛ける鋲がついています。

そして「秘密のポーチ」!
何が秘密かは秘密ですが、中には大事なものを入れておけ、とのこと。金貨でも入れておこうかな。

最後にこれが最も重要だけど、「着る物一式」!
白を基調とした上着にズボンにインナー(下着)も! 靴も作ってくれて完璧です。
これで珍妙な格好とはオサラバダゼぇー!

で、着る物なんだけど、かなり丈夫です。
ブランゴの皮とか毛とか骨とかを使って猫達が一晩でやってくれました。
ただ強いだけの僕よりよっぽど社会に貢献できそうなネコたちだと思う。

盾もほしいな、と思ったけどココには魔物の攻撃に耐えられるような素材は無いんだって。
あっても加工が出来ないらしい。
まぁそこまで欲しいものでもないし、まぁ良いや。
あ、そんな「すいません」とか言って頭下げないで! こっちがよっぽど、すみませんなんだから。
こんな良いもの頂いちゃって……

ちなみに作ってもらったもの全て、メイドbyネコって分かるようになっています。
具体的には剣帯は鋲にネコの顔が彫刻してあるし、布製のものにはネコのアップリケがついています。
服にもよく見れば胸のところで逆立ちしているネコの絵がある。
やたらポーズがカッコいいんだけどもしかしてコレ、ブランド?

まぁ良いものには違いない。僕はホクホクしながら装備を整える。
ブランゴがドロップした金貨とかも持って行けって言われたけど、今のところ使い道ないし、服のお礼として猫たちに引き取ってもらった。

「それじゃあ。」
「ああ、ぜひまた寄ってくれ。」

ココットさんに挨拶をして、僕は出発した。



ココットさんたちはこの世界をダンジョンだと認識しては居ないらしい。
死んだ時死体が消えるような魔物を疑問に思わないかと問うと、「魔物だし」の一言で終了した。
そういえばアイルーも魔物だったね。自分の存在に疑問なんて持ったりしないか。
で、彼ら曰く、密林は東と南と西が海に面しており、北は平原というか草の短い山々があり、さらに北に行けば雪山があるのだそうだ。
南北に伸びる楕円の大陸で、北に行くほど寒いと言うわけだ。
平原や北山に、何があるかはネコたちは知らないらしい。
北は魔物活動が活発なんだって。

という訳で僕も北に進むことにした。
密林に落とされたなら、そこから一番遠いところに下に行く道がありそうじゃない?
ふ、余のビーナスオブキャットも血に飢えておるわッ!
……名前長いなー。これから縮めてビーナスって呼ぼ。

で、密林が深すぎて、どっちが北か分からなくなりそうだと言ったら、木に登って確かめてみればどうか、と提案された。
そりゃそうですね。すいません。
何で今まで気付かなかったんだろう。僕は本格的に僕の頭が心配だよ。

え? モス?
いや、あんなのもうどうでも良いよ。
楽勝だろうし。
弱いものいじめする趣味は無いって。
殺されたことももうどうでも良いって言うか……これも「殺害精神」の効果なのかなァ。


と、思った矢先にモスに会った。というか進路上に居たんでそのまま進んだんだけど……。

「フゴォ、フゴォ!」

足で地面を引っかき、なぜかヤル気満々である。
そんなに張り切っちゃって……
一応「観察眼」で見ておこうかな。

≪対象の情報を取得することに成功しました。
【モス】:体に苔などの繁殖しているブタ。弱点部位は額など、多数。弱点属性はなし。攻撃パターンは突進だけ。避けたら勝手に死ぬ最速の突撃ブタ。
耐久力:1 持久力:1 魔力:0 筋力:56 敏捷:500 器用さ:1 精神力:1≫

「極端すぎる―――ッ!」

思わず叫んでしまった。
勝手に死ぬって凄いな。
それに筋力60近くも有ったのか……。そりゃ耐久力が一桁の時にこんなんくらったら即死するよね。
最速の突撃ブタとかカッコいい二つ名までつけちゃって…………。

………………あれ?
……敏捷高くない!? 500!? 50じゃなくて!?

これって絶対避けれな――――――

「ピギィイイイイイイイイ!」

ブタが凄い勢いで突っ込んでくる。目がやっと終えるかどうか。
この野郎、前の時は手を抜いていたんだな!?

「オフゥ!」

あまりの出来事に動揺していた僕は見事に吹き飛ばされ、後ろの木に叩きつけられた。
お腹が抉り取られた感触がする。

は、腹! 僕の腹はあるか!? あ、あった良かった……。

あまりの衝撃に木が折れた。
幹は僕の胴くらいはあったんだけど……。
ああ、スピード×体重=威力なんだね。納得です。

お腹をさすりながら最速のブタを見れば、奴は満足そうに一鳴きしつつ消えていくところだった。
あとには金貨一枚とキノコが残るのみである。ちなみに奴の自爆なので経験値は入らなかったようだ。

「や、やられたよ……」

ステータスを見ると、耐久力が100近くも下がっていた。
吹っ飛ばされて木に当たったから?
確かにお腹も背中も痛いけど。
というか背中は剣が刺さって血が出てるんだよね。
しかも痺れて少し体が動かしにくい。

へへ、へ。これが、モンスターを舐めた代償って奴かな。
手痛い授業料をありがとう。
もう、どんな奴でも舐めたりしないよ。
次ぎ見かけたら「崩拳」叩き込んで内側からパーン! ッてしてやるよ!

そう決意しつつ、よろよろと立ち上がったときだった。
最初にモスが居た場所に、不自然なもやが、モヤモヤと発生した。

「……? なに?」

モヤはやがて形を成し――――――モスになった。

(そんな! リポップだって!?)

リポップ。
MMOなどで、フィールドにモンスターが湧き出る現象である。
この現象、ダンジョンならではと言えるが、何もこんなところでそれらしくしなくても……。
ていうか早すぎだよモンスター補充されるの。

「ピギィイイイイイイ!」

まぁちょいと痺れた僕に奴の突進を避けれるはずもなく。
僕の記憶に、奴の、心なしか嬉しそうな鳴き声が響き――――――





気付けば閻魔様の前に居た。

「おかえり。」
「は、はい。」
「今回の敗因は何だ。」
「敵を、侮ったことです……」

フフ、泣きたいですよ……


さてお待ちかね(誰が)!
今回の下がりっぷりを見てみよう!

デスペナは
ステータスの全20パーセントダウン。
スキル熟練度のダウンとそれ伴うステータスのダウン。
さらに今回判明したのだが、そのレベルに上がった際のボーナスも引かれるという。つまり、
3.死亡前に得たレベルアップボーナスを高いほうから一つ、再修正。(今回はマイナス80ポイント)

これが上から順番に起こる。そうするとどうなるか?

レベル:(6→)5
耐久力:(180→)63
持久力:(263→)116
魔力 :(120→)16
筋力 :(252→)112
敏捷 :(406→)196
器用さ:(244→)98
精神力:(292→)128
経験値:(500→)158 次のレベルまであと160

こうなるのである。

「なにか感想はあるか?」
「一気に上がって、一気に下がったからよく分からないですね。」

と言うのが率直な印象である。つまり精神的なダメージはあんまり無かったです。
でも実はレベル4の時よりも弱くなってるんだよね。
デスペナ厳しすぎるのは相変わらずです。

「というか一気に装備が整ってるな。なんか有ったのか?」

女神様が、あ、間違えて女神様とか言っちゃった。
閻魔様が僕の服を見ながら尋ねてきた。
特に、刺繍してある猫の絵が大変気になるみたいだ。
きっとネコがお好きでいらっしゃるんだろうな。
ていうかナップザック置いてきちゃった。
ゴメンねネコさん。
ポーチはあるから金貨は持ってるけど。

「実は、件の魔物、アイルーに会いまして。」
「なんだとぉ!?」

うお、そんな寄らんでください。
相変わらず悩ましいおっぱいをしておられる……興奮してしまうよ。
ちなみに観察眼でサイズを測ろうとしたら当然のように弾かれた。
≪「観察眼」Lv134を習得する必要があります。≫
(無理だッッッ!)

桁が違ぇ……流石ですね閻魔様。
は! 違う、閻魔様の魔乳を鑑賞している場合ではなかった。
報告をしないと。

「実は云々かんぬんで……」
「ほうほう。えらいな。よくぞあの愛らしい生き物を守った。撫でてやろう、よしよし。」

お褒め頂いた!
触れていただいた頭がとろけそうだよ!
フンハー!

「おかしいな……お前みたいな貧弱な坊主が良い男に見えてきた。フッ……仕事のし過ぎか。」

閻魔様はニヒルに笑いながら離れていった。
残念。
閻魔様はギ、と椅子に座ると、こちらを見てきた。

「それでお前はボスが居るかもしれないからアイルーを連れ歩かない、と言ったな?」
「はい。」
「それは大正解だ。」

大正解らしい。

「まぁ連れて行ってたらモスに潰されていたでしょうから、そうかもしれませんね。」
「いや、そうではない。慎重になったのが正解なんだ。何しろ、神が創ったダンジョンのフロアボスは強さの桁が違うからな。」

そういえば神様っていっぱいダンジョン作ってるんだっけ。
幾多のダンジョンに(恐らく)挑戦してきた閻魔様が言うんだから間違いは無いだろう。
そうだな、と閻魔様は顎に手をやる。

「お前にやったレベルシステムがあるだろう? あれで換算すると、フロアに居るザコとはレベルが5は違う。」
「?????」

5違うとそんなに違うのだろうか。
確かにレベルアップするごとに僕もすごく強くなっているけど。

「分かってないような顔をしているな。お前に与えたシステムでは、レベルが一つ上がるごとに、強さがおおよそ2倍になるんだぞ? レベルが5違うということは、もうなんだ。アホみたいに強くなる。」
「ははぁ……」

えーと、1つで2倍なら、2つ違えば4倍で、3つで……8倍、4つで16倍、5つで32倍!?

「さ、32倍も違うんですか……?」
「おお、足りない頭で頑張ったな。」
「フフン! そんなに褒めないで下さいよ!」
「いや、褒めてないんだがな。あと、なんだかお前がさらに良い男に見えてきた……何だこれは……? まさか……いやバカな……」

閻魔様がブツブツ言っていたが、僕はそろそろダンジョンに行くべきではないか、と思い始めた。
蟲惑的かつ扇情的な閻魔様を見ていると、家に残してきたエ○本の事がどうしても思い出されてしまうのだ。
早く一層をクリアして処理しに帰らなきゃ!

「閻魔様! そろそろ僕をダンジョンに送ってください!」
「おお? もう行くのか? その前に茶でも、いや何を言っているんだ……忘れてくれ。」
「あの、嬉しいんですけどやめときます。生アイルーを早く閻魔様に届けたいですし。」
「う、うむ。そうか。私のためにな……フフフ。」

閻魔様は嬉しそうに笑っていた唇を引き締めると、言い難そうに言葉を発した。

「まぁ張り切るのは結構だが、その…なんだ。無理はするなよ。」
「は、はい!」
「…よし。行ってこい。」

ビューン!

僕はまたもや怪しい光に包まれるのだった。


<つづく>



レベル5
耐久力:63   ……117 down!
持久力:116  ……147 down!
魔力 :16   ……104 down!
筋力 :112  ……140 down!
敏捷 :196  ……210 down!
器用さ:98   ……146 down!
精神力:128  ……164 down!
経験値:158 次のレベルまであと160 ……342 down!

スキル

拳闘術Lv3 :34 ……8 down
蹴脚術Lv2 :28 ……6 down  Level down!
棒術Lv1  :8  ……2 down
鞭術Lv3  :36 ……9 down
布闘術Lv1 :2  ……1 down
舞踏術Lv1 :1  ……1 down
姿勢制御Lv3:57 ……14 down Level down!
穏行術Lv3 :60 ……15 down Level down!
突進術Lv3 :56 ……14 down Level down!
撹乱術Lv3 :64 ……15 down Level down!
跳躍術Lv3 :53 ……13 down
走破術Lv1 :5  ……1 down
撤退術Lv3 :59 ……14 down Level down!
防御術Lv1 :4  ……1 down
戦術志向Lv2:15 ……3 down
回避眼Lv4 :76 ……18 down
観察眼Lv3 :59 ……14 down Level down!
鷹の目Lv1 :6  ……1 down
聞き耳Lv3 :59 ……14 down Level down!
的中術Lv2 :27 ……6 down  Level down!
空間把握Lv2:18 ……4 down
洗浄術Lv1 :1  ……1 down
祈りLv0  :0  ……1 downリストから削除されました。


<あとがキ!>
うん。すまない。
つい殺っちゃったんだ。
そんでデスペナ増やしてステータス半分以下にしてやったぜヒャッハー!

で、またモスかよ、っていう罵倒が聞こえてきそうだけど、やってしまったものは仕方ないと寛大な目で見ていただけると嬉しかったり。
今回二匹目のブタで意識を飛ばされてますけど、止めを刺されたのは三匹目だったりします(どうでもいい?)。

あと閻魔様はレベル136相当の猛者。レベル1の人の2の136乗倍強いです。第一層のフロアボスなんざ一ひねりですね。

ちなみに。
xレベル相当の人のステータスは、平均して10×2^(x-1)となります。
よってレベル2相当の魔物だったら平均として耐久力20持久力20魔力20……となります。
モス(レベル4相当)の場合は、平均的に振り分けず極振りしたため、あの様になっています。
「ステータスの項目数」×「レベル4の分」=7×80=560 を極振り。





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Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/06/15 17:03
<19>


さて、バビューんと飛んできて、またいつもの平原にきた。
ほら、あれだよ。ダンジョンの入り口(穴)のあたりに広がる平原さ。

ここに来るのももう四回目(内、一回は気絶していた)。
この人ッ気の無い空間にもそろそろ慣れが出始めるところである。

「ハイ! キャシー! 相変わらず綺麗な年輪! 元気にやってた!?」

ついつい立て看板(キャシー)に話しかけてしまうほどだ。
いや、別に寂しいんじゃなくてね。

それにしても、今回のレベルダウンで気付いたのだが、僕にいつの間にか魔力が備わっているんだ。
ビックリしたよ。
今回のデスペナで10分の一くらいになっちゃってるけど、まぁあるだけでなんだかテンションが上がるよね。

今回もなんかスキル手に入れていこうかな……。
魔法とか。
それに魔法とかさ!

と言いつつ、まずはこの背中に乗っている大剣を使えるようにしておこう。
目標は……体力有り余ってるしレベルが上がるまで行こうか!




≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪ 「両手剣術」の熟練度が10.0を越えました。スキルのレベルが上がりました。レベルアップに伴い、耐久力・持久(ry ≫

「ふぅ……」

超高速で振りまくってたら、意外と早く溜まった。
体のスペックの成長を感じるなァ。
最初なんか棒を四回振っただけでバててたのにね。
今回は一度も休憩しなくて良かったよ。

持久力高いもんね。三桁だよ三桁!
大人10人分かー。
ファンタジー漫画の主人公たちのようにはいかないけど、十分超人のレベルだよね。
モンハン風に言うなら、スタミナゲージが10本あるようなもんかな。
違う。それじゃ画面が見えなくなっちゃう。
10倍減りにくいということで納得しておこう。5倍ランナー!

ところで、大剣を持ったら試してみたい事がある。
モンハン2Gでの、あの技である。

足を開き、ビーナスを掲げる。
右肩に担ぎ上げ、体を反らし、背の真後ろに刀身が来るほどギリギリと体を捻る。
確かこんな格好だったよね。
振り下ろそうとしつつもそれを無理やり止める感じで力を決める。

すると剣がピカッ!と光りだした。
やっぱりあったみたい。
そう。
「溜め斬り」である。

さらに待つともう一回ピカッ!
どうでもいいけどコレ何だかすごく疲れる。

そして3回目が光ると同時に、自然と腕に力が、今までにない力が篭る。
上半身の筋肉が血管を浮き上がらせながら膨張し、

「うぉおお!?」

――――――どごん!

「うわっ!」

腹に響く重い衝撃と共に、勝手に振り下ろされた剣がクレーターを作ってしまった。
周りの土地がぐらぐらと揺れる。
草の生えた土の表層がめくれ上がる。
姿勢制御が無ければこけていたかも知れない。


◆「溜め斬り」
 大剣に力を溜め、解放しつつ切りかかる。溜めは三段階あり、一段階ごとに威力が倍増する。確率で、命中した対象を怯ませる。


凄い威力だなァ……。
遠くに差してある立て看板が、抜けて、穴に落ちるくらい。
……立て看板?

「ってそれはまずいよ!」

僕は駆け出した。
目の前では今まさに落ちんとするキャシー。
穴の中に飛び込んだ僕は空中のキャシーを掴むと、振り向きざまに穴の外に投げる。

全然興味なくて、言葉をかけてられても無視していた男。
だけど、私の命の危機に、身を挺して庇ってくれて……!
私、あれからあの人のこと……なんだか気になっちゃう……!でも素直になれないの……!

こんな感じで、キャシーが人間だったらすれ違いまくる感じの切ないラブストーリーが始まるところなのに、残念ながら彼女は立て看板。
こっちの気持ちには応えてくれないんだよね。
いや、何の気持ちも無いけど。流石に看板に発情するほどアホでもバカでも変態でもないよ。

という訳で、魔法の練習も出来ずに、僕はダンジョンへと落ちていくのだった。
あ、剣は持ってるよ。




【第一層・挑戦四回目】




さて、前二回は怖さのあまり足元ばっかり見ていたけど、実はこの落下中って上空からこの大陸を俯瞰できるチャンスだ。

ははぁ、白い山が確かに見えるよ。あっちに行ったらいいんだね。
それと……、やっぱり見えた。

アイルーたちが作っているであろう集落がちらほら見える。
密林ってアホみたいに広いけど、「鷹の目」のおかげで結構見える。
ココット村も見える。ココから見て東にある。相変わらず城みたい。

やがて地表に近づき、ふわり、と勢いが殺される。

選択肢は二つある。
一つココット村によって、装備を整えてから、北に向かう。
もう一つは、このまんま北に向かう。

ココット村に行くと、また美味しいネコ飯が食べれる。
でも、閻魔様に僕やるよ!的なことを言って出てきた手前、寄り道するのはナンカなァ……
大剣で遊んどいて言うのもあれだけど、ここは北へ直進しよう!

そうと決まればランニングだ!
いや、待てよ?
戦闘で使えるスキルを熟練するためにジャンプしつついくか?
いや、むしろ新たなスキルを狙ってバク転しつつ行くとか、枝の上を飛び移りつつ行くとか……

むむぅ。持久力が豊富だから選択肢が増えて困っちゃうな。
……よし決まった!
枝から枝へジャンプしつつ、剣を振りながら行こう!

大丈夫、今の僕なら出来る!

「うららららら!」

こうして僕はビーナスを振って枝葉を切り飛ばしつつ、木の上を跳ねて進むのだった。

「聞き耳」を発動させつつ、数十分もそうやっていただろうか。
ついに密林の終わりが見えてきた。

ちなみに別に新しいスキルは出ませんでした。



<つづく>


ステータス

耐久力:63→67
持久力:116→139
魔力 :16
筋力 :112→140
敏捷 :196→211
器用さ:98→100
精神力:128
経験値:158 あと160


新しい特技

溜め斬り

スキル
両手剣術Lv2:28  ……28 up New! Level up!
姿勢制御Lv3:62  ……5 up
跳躍術Lv3 :64  ……11 up
走破術Lv2 :21  ……16 up Level up!
観察眼Lv3 :63  ……4 up
鷹の目Lv2 :10  ……4 up  Level up!
聞き耳Lv3 :68  ……9 up


◆「溜め斬り」
 大剣に力を溜め、解放しつつ切りかかる。溜めは三段階あり、一段階ごとに威力が倍増する。確率で、命中した対象を怯ませる。

■「両手剣術」
 両手剣を扱う技術。両手剣で攻撃する際、力を込めやすくなる。熟練に従い、筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者はどんな固い守りも叩き割る。






[19470] 20
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/06/15 17:09



<20>


シュパン、と枝を切り飛ばし、進路を曲げずに突っ切った先は、延々と広がる丘陵地帯だった。
まばらに木が生え、一面に生えた短い草がそよそよと風に揺れている。
密林から流れ出した幅の広い川が緩やかに流れていた。
ちなみに川の水は飲める様だ。
レベルアップした「観察眼」は本当に卑怯だね。
遠くのほうに雪山も見える。
このフィールドにも山があるため、雪山の頭くらいしか見えないけど。


えー改めましてどうも。ついに3死してしまったハルマサです。
レベル5なのにレベル4の時よりも弱くなってしまったんですけど、それでも僕は元気です。
レベル3の時よりは格段に強いんで、問題ないんです!

それはさておき、今目の前には初めて遭遇したモンスターが居る。

モシャモシャと草を食んでいる恐竜みたいなモンスターで、こいつはアプトノスだったっけ。
近くでみると大きいなァ……。動物園で見た象より大きいんですけど……
眺めるだけではなんなので、「観察」EYE! 発動!

≪対象の情報を取得することに成功しました。
【アプトノス】:草食でおとなしい魔物。気弱ですぐに逃げるが、時には反撃してくる個体もいる。意外と強い。
耐久力:242持久力141魔力6筋力100敏捷34器用さ21精神力18≫

なんだかんだでこのモンスターも極端だった。
モスみたいに地雷が無いだけマシだろうか。
あの突撃ブタ式多段ロケットは、恐ろしかった……。
ナップザックは惜しいけど、もう会いたくないな。
せめてこっちの敏捷が500超えてからにしてもらいたい。
それにしても……
このアプトノスも、攻撃が当たったら僕即死するんだね。
思えば、僕がヤオザミに勝てたのも、ブランゴに勝てたのも、すごく運が良かったんだな。
僕の方が小回りが効くとか、敏捷が勝っているとかで切り抜けてきたけど、一歩間違えば今でもレベルマイナスのどん底状態だったかも知れない。
モンスターが平均的に強すぎるんだよね……。

いつまでも黄昏ては居られないので、先に進むことにする。
密林と逆に向かって進めばいいから分かりやすい。

先ほどのアプトノスを見て思ったが、ここはモンハンで言う「森丘」のマップに相当するのかもしれない。
で、森丘といえば、僕はもう一つ思い浮かべるモンスターがある。
飛竜戦の時とかにやたらとじゃれ付いてきて迷惑するあいつ。

「ギャア! ギャアッ!」
「ランポスか!」

そうランポスである。青と黒の縞々皮に茶色いトサカ。鋭い牙を長い口にそろえ、両足には鋭い爪を持つ、小型の肉食恐竜のようなモンスター。
分類は鳥竜種だっけ。
もう何処が竜か全然分からないよね。
あ、恐竜か。
こいつも意外と大きい。こっちの身長くらいは余裕である。
もう驚かないよ……!

凄い勢いで接近してきたので、「聞き耳」で捕らえた時はもう遅かったんだ。

「ギャア!ギャア!」
「ギャア! ギャア!」
「ギャア! ギャア!ギャア!」

そしていつの間にか増えていた。
五匹も居るよ……?
クッ!「観察」EYE!

≪対象の(ry
【ランポス】:小型の肉食モンスター。集団で狩りを行うため、囲まれたら危険。
これ以上の情報を取得するには、「観察眼」Lv5が必要です。≫

な、なんだって! 今まさに囲まれているじゃないか!
しかも、この「観察眼」Lv5ってヤオザミと同等……?

「ギャース!」
「うわッ!」

ガキン!

ブランゴ戦で手に入れた「空間把握」の範囲外から、姿がぶれる様な速度で突っ込んでくるランポス。
モスほど素早くも無いが、今の僕では回避は間に合わない。
ビーナスで防御しなければ死んでいた……
軽く吹っ飛ばされながらも思考する。

こんな奴が5体。
ブランゴとは違いこれは僕のせいじゃないのにきつい戦いばっかりだよ!

上手く着地すると同時に横に跳ぶ。「跳躍術」と「撹乱術」、「撤退術」のなせる早業だったが、そこまでして、ようやくランポスの攻撃をギリギリ避けられた。
これはかなりきつい!

(でも、僕はブランゴ戦でも生き残った男! これくらい、何てこと無いさ!)

でも! 攻撃は! 当たると! 即死しちゃうんだろうな! いい加減、攻撃重いよ!

ガッキンガッキンとビーナスで攻撃を受け止める。

おちおち考え事も出来ない怒涛の攻めである。
防御に構えた大剣の向こうで、また「回避眼」の命じるまま体を反らせたすぐそばで、牙を打ち合わせる音がバッツンバッツン!するもんだから寿命が一秒ごとに縮まる思いである。

油断してたら跳び上がって上から攻撃してくるし、同時に他の奴まで攻撃してきた時なんてもう……

(死ぬわ! でりゃぁああああああ!)

僕はビーナスを盾に、目の前のランポスに突撃。軽くサイドステップで避けられたが包囲網からは脱出する事が出来た。

「ギャア!」

レベルアップにより拡張した「空間把握」で知覚した、追いすがり飛び掛ってくるランポスにすぐ向き直りざまに剣を放つ。
向こうもこっちも移動中なら、そんなに早くは感じない。
当てるのは難しくない!

(何時までもやられてると思わないでよ!)

「ふんむ!」

回転そのままに大剣を叩きつける。
こんな無茶な行動も「姿勢制御」でしっかりと体重の乗った攻撃となる。
攻撃はランポスの鱗を抜いたようで、血を散らしながら、ランポスは弾き飛ばされた。
ランポスはすぐに立ち上がったようだが、血は流れたまま。

(よし! こいつら、そんなに堅くない!)

こっちの攻撃は通じる!

噛み付いてくるギアノスを「回避眼」による攻撃予知線の外に間一髪跳んで避けながら、空中でバランスを取った僕は剣を振り下ろす。
ランポスの首をしたたかに打ち据えた大剣は、このランポスにもケガを与える。
血が飛び散って、白い服に斑点が出来る。

こうなると、この剣の麻痺属性のありがたさがよく分かる。
その威力は、計らずしも自分で確認済み。
斬りつけるごとに相手の動きは鈍くなり、こっちは熟練度アップで動きが素早くなっていく。
一撃で倒せなくてもいい、着実に避けながら当たる時だけ攻撃する!

ガツン! と牙をむき出して向かってきたギアノスに、腰を落として大剣を構え、攻撃を凌ぎきる。
「防御術」もレベルが上がった。
もう体勢が崩れない!
食らえば即死する攻撃だからだろうか、受けるたびに熟練度アップのファンファーレがなる。

そして敵が首を引いた一瞬の隙に、剣を支えていた右手を握りこみ、踏み込みと共に突き出す!
システム補助による不思議な力が体中に漲り、腕を通して相手の体で爆発する。

――――――「崩拳」!

拳に残った感触は、「堅い」、である。
大剣で切り裂けたとしても拳で破壊できるとは限らない。
ブランゴを爆発させた攻撃は、しかし、ランポスには致命打たり得なかった。
だが、隙を作る効果はあったようだ。

僕はランポスの横をすり抜けるように飛び込み前転、横から来ていたランポスを回避する。

「空間把握」と「聞き耳」、ともに良好! 周囲の状況が手に取るようだ!

そして起き上がりざまに、先ほど拳を突き込んだランポスに、剣の一撃。
当たると同時に、雷っぽいエネルギーが迸り、剣の効果が発揮されていることを確信する。

この調子! この調子だ!





そうして、息が切れ始めた頃、ようやく一体を絶命させることに成功する。
だが、僕は膝が砕けそうになった。

≪魔物を撃退したことにより、20の経験値を得ました。≫

20!? たったの!?

この、ブランゴたちよりよほど強いモンスターたちでも、その経験値はそれほど大きく変わらない。
あわよくば、レベルアップしてくれと、淡い望みをかけていたハルマサの期待はもろくも崩れ去る。
そこで膝を突かないのは、精神力のおかげだろう。

(う、ぉおおおおおおお!)

荒い息をつきながら、ハルマサはランポスに突撃するのだった。



<つづく>


気になるあの子のステータス

ランポス
耐久力140持久力180魔力20筋力150敏捷350器用さ120精神力160

ブランゴ
耐久力110 持久力110 魔力80 筋力90 敏捷30 器用さ30 精神力110

各項目は10~20位の個体差があります。

ちなみに。

??????(第一層ボス)
耐久力:1万
持久力:8千
魔力 :1万
筋力 :1万5千
敏捷 :9千
器用さ:8千
精神力:1万1千

こんなんです。
ラオシャンではないとだけ言っておこうか!


ハルマサのステ
レベル:5
耐久力:67→116
持久力:139→169
魔力 :16
筋力 :140→178
敏捷 :211→287
器用さ:100→111
精神力:128→152
経験値:178 あと140

変動スキル

拳闘術Lv3 :42  ……8 up
両手剣術Lv3:58  ……30 up Level up!
姿勢制御Lv4:83  ……21 up Level up!
突進術Lv4 :72  ……16 up Level up!
撹乱術Lv4 :97  ……33 up Level up!
跳躍術Lv4 :78  ……14 up Level up!
撤退術Lv4 :85  ……26 up Level up!
防御術Lv3 :46  ……42 up Level up!
戦術思考Lv3:39  ……24 up Level up!
回避眼Lv4 :102 ……26 up
観察眼Lv4 :74  ……11 up Level up!
鷹の目Lv2 :14  ……4 up
聞き耳Lv4 :88  ……20 up Level up!
的中術Lv3 :41  ……14 up Level up!
空間把握Lv3:55  ……37 up Level up!



<あとがき>
止まった時が死ぬときなんだー!(挨拶)
ちなみに止まったら止まったらって何のことかと言うと書く勢いのことです。
勢いssゆえに。

弱くなったり強くなったり変動の激しい17~20話の更新でした。
諸事情により強化が急ぎ足かも。
30話までには一層クリアしたいし!(無理くさい)

そういえば<4>の改定を忘れていたので、改定しました。
「雨乞い」に関する必要スキルのレベルの変更です。
「Lv75必要」とかになってて吹いた。絶対無理w


明日も更新!



>桃色はゴミ
まさにそう!ですね。まぁネタですし。

>経験値8
そこの辺ちゃんと書いてなくてわかりづらかったと思います。すいません。
それで合ってますよ。

誤字とかあったらすいません!



[19470] 21
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/06/16 16:04

<21>


「はぁ…はぁ……」

息が途切れ、体の動きは鈍い。
その背には大きな爪あとが傷を開いており、ハルマサはすでに青息吐息である。
血が出すぎた。
耐久力はほぼ限界である。
持久力はもう無い。

だが、敵も残るは一体のみ。
ビーナスオブキャットで何度も切りつけたので、痺れまくって動きは遅い。
本当にビーナスには助けられている。

敵と僕。
弱り具合では同等。
二人は同時に地を蹴った。

「ギャァアアアアアスッ!」
「だぁああああああ!」

ランポスとハルマサは、二人の中間点、とは言わず、かなりハルマサよりの位置で衝突。
二つの影はもつれ、ランポスの勢いそのままに、転がっていく。

決着は付いた。
上になっているのはランポスではあるが、その背からは大剣が突き出していた。

「ぐ、はぁあああ……」

ランポスの死体を押しのけハルマサは顔を出す。

≪魔物を撃退したことにより、20の経験値を取得しました。≫

し、しんどい……。
思わずその場に座り込む。
とにかく止血が必要だと、密林から持ってきていた薬草をポーチから出し、背中に刷り込む。
器用さが体の柔らかさも上げているのか、そこまで窮屈な作業ではなかった。
とは言え、それで最後の気力も振り絞ってしまい、草の上に倒れた。

(はは……ちょっと疲れたよ…。少し休もう。)

死亡フラグっぽいセリフを思い浮かべつつ、ハルマサは意識を落とすのだった。




――――――のしっ。

振動を腹に感じて、ハルマサは目を覚ました。
ハルマサの上に何かが、のっているのを感じる。

(重いな……何が……ってえぇええええええええええええ!?)

大きな足だった。
爪は凶悪に曲がり、指は4本に分かれている。
色は青。
トカゲのような体は「観察」すれば実に9m30cm!
長いアギトと頭には立派な赤いトサカ。

十中八九でドスランポス。さっき死ぬほど頑張って倒したモンスターの上位種だった。
「観察」すると≪レベル5習得しなさい≫と弾かれた。
ならば強いのだ。
少なくとも、イャンクックをぶっ飛ばしたドスファンゴと同じくらいには。

(ひ、ひぃいいいいいいいいい!)

仰向けに寝る僕。
その腹に足を乗せ、辺りをキョロキョロ見渡すオオトカゲ。
このまま、内臓を食いちぎりながら食べられる想像がありありと浮かぶ構図である。

ああ、閻魔様。今そちらに行きますんで、などと涙を零すハルマサだったが、いつまで経っても噛み付かれない。
それどころか足ものけられた。

(……?)

まさか、アイルーのように話が通じるとか!?などと妄想が頭をよぎるが、次の瞬間間違いだと分かった。


≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪ 「穏行術」の熟練度が143.0を越えました。熟練に伴い精神力にボーナスが付きます。≫

(あ、穏行スキルか…………143!? ええッ!?)

「穏行術」が発動していたのだ。
僕の体も、ある程度なら攻撃と認識しないような耐久力もあるから、踏まれても「穏行」し続けていたんだろう。
筋肉とか意識して力を抜かないとカッチカチだぜ!
ランポスは僕のことなんか目に入らないように、辺りをキョロキョロと見回している。
何かを探して歩き回っているのだが、その中心に有るのは、ランポスたちのドロップ品。金貨や皮や鱗など。

自分の配下?を殺したものを探しているのだろうか。
よく見つからなかったものだ。
「穏行術」は敵と近づかなければ発動しなかったはずだ。
効果が出る前にボロクソにやられてゲームオーバーになるのが道理だと思える。
もしかして効果範囲が広がったとか?

とにかく、こんな満身創痍で立ち向かえるはずも無い。
このままに横になっておくのが正しいだろう。

だが、「穏行術」は肌の色が変わるだけなのではなかっただろうか。
白い服は緑色の草原に溶け込むとはいえない。

すぐ分かってしまうだろうに。
そう思い、自分の格好を見てみると、地面が透けて見えた。

(僕の服までカメレオンになってる!)

正しくは透けて見えるようにスキルが迷彩を施しているみたいだった。
そんな服をどうなって居るのかとまじまじと見ていると「観察眼」が発動。
≪「穏行術」Lv4のスキルが発動しています。≫
とのこと。

何時の間に、こんな使えるスキルになったんだい!?
いや、クック先生の時は気付かなかっただけかもしれないけど!

あ、またファンファーレ。
またファンファーレだ。
またまたファンファーレだ。
またまたまた……
すごい上がってるなぁ……って近! ドスランポス近! 顔の横を大きい脚が! ところでその爪おっきいですね!

どうやらドスランポスとの距離で熟練度のたまり具合が違うらしい。
今頭の上に脚があるんだけど、熟練度が唸るように上がっている。
ガスメーターとかあるでしょ? あの数字のところが高速で回転してる感じ。
さっき踏まれてた時もすごかったんだろうな……。

≪チャラ(中略)ーン♪「穏行術」のスキルが150.0を越えました。スキルのレベルが上がりました。熟練に伴い精神力にボーナスが付きます。≫

というわけでレベルアップです。
イヤッフー! レベル5だぜー!
カメレオン能力がパワーアップというか、何だか服ごと体が透けてる。
なんというステルス。でもこのスキルって動いたら体見えちゃうから、待ち伏せにしか使えないよね……
いや、上位スキルに「暗殺術」があるのか。もしやこれを習得したら恐ろしいことになるんじゃ……!

ともあれ。
やっぱりスキルは凄い!
僕の原点はスキルによるチートだったんだ!
忘れるところだったよ。
よし、この機会だ、穏行だけではもったいない! 色々上げていこう!

「観察眼」「聞き耳」に……あれ?それだけ使えない?

むぅぅ、この際だ! 目、耳ときたから鼻もいけるはず!
匂いをたくさん嗅ぐんだ!
なんか犬的なスキルが出るはず!
そうと決まれば、早速!

スゥウウウウウウ……!

ウホォ! くッサァ! 獣くさぁ! ドスランポス超くせぇ!
しかし我慢だ!

スゥウウウウウウウウウ……!

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪≫

(計算通りぃいいいいい!ほるぅあ(巻き舌気味に)!キタでしょコレ!)

≪一定レベル以上の臭気を一定量以上体内に取り込んだことにより、特性「臭気排除」を取得しました。あなたの周りは臭いものでいっぱいです。臭いものには蓋、なんていってられない! 消してしまいたい! そんなあなたにこの特性を送ります。良い匂いになれよー!≫

(あれ!? 予定と違う!? こんなネタ的なのじゃなくて! そしてこのナレーション、テンション高いな!)

□「臭気排除」
 周りの異臭を消し去る特性。あなたの体から発せられる素敵な波動が、周りのニオイを分子レベルで破壊します。紳士淑女のエチケット! 香水をつければ完ッ璧だぜぇー! ※良い匂いは消しません。

波動って何? 僕は一体どうなったの!?
いや、まぁいいか!
臭くなくなってさらに気付かれにくくなったみたいだし!
次は、どうしよう! 呼吸でも止めてみようか!

その時、僕の横に放り出してあったビーナスにドスランポスの魔の手が!

――――――ガジガジ!

ああ、やめろぉ!
僕のビーナスに噛み付くなよぉ!(半泣き)
ク、くそう、ドスアギノスめ! 僕が手出しできないのをいいことに!
なんか! なんかあいつに天罰こーい!

【いぃいいだろぉオオオオオ!】

(なんか頭に野太い声が!?)

【おぬしの願い、聞き届けたりぃいいい!】

ピシャァアアアアアアアン! バチバチバチッ!

(ええええええええ!? 雷!?)

≪天に祈りを捧げたことにより、スキル「天罰招来」Lv1を習得しました。また、スキルの発動に成功しました。「天罰招来」の熟練度が20.0を越えました。スキルのレベルが上がりました。熟練に伴い魔力にボーナスが――――――

「ギシャァアアアアアアアア!」

ああ!? 怒ってる! 雷的な何かを食らった、ドスアギノスが怒ってるよ!

≪チャラ(中略)チャーン♪≪チャラチャ(中略)ャーン♪ ≪チャラ(中略)ーン♪ ≪チャラチャ(中略)ャーン♪「穏行術」の熟練度が200.0を――――――

(いい加減さっきからチャラチャラチャラチャラうるさいわぁああああああああああああ!)


その後『天罰! 天罰ぅ!』と百回くらい願っていたら、2、3回雷が落ちて、ドスランポスはビビッて帰りました。

得たものは多く、とても有意義な時間を過ごせたと思いました。


<つづく>


ハルマサのステ
レベル5
耐久力:116→172
持久力:169→214
魔力 :16 →78
筋力 :178→253
敏捷 :287→392
器用さ:111→126
精神力:152→367
経験値:258 あと60


新しい特性

臭気排除

スキル

拳闘術Lv3 :42→62   ……Level up!
両手剣術Lv4:28→83   ……Level up!
姿勢制御Lv4:83→114  ……Level up!
穏行術Lv5 :60→232  ……Level up!
突進術Lv4 :72→115
撹乱術Lv4 :97→126
跳躍術Lv4 :78→104
撤退術Lv4 :85→113
防御術Lv4 :46→87   ……Level up!
天罰招来Lv3:0→62    ……New! Level up!
戦術思考Lv3:46→67
回避眼Lv5 :102→151 ……Level up!
観察眼Lv5 :74→161  ……Level up!
聞き耳Lv5 :88→187  ……Level up!
的中術Lv4 :41→72   ……Level up!
空間把握Lv4:55→84   ……Level up!

□「臭気排除」
 周りの異臭を消し去る特性。あなたの体から発せられる素敵な波動が、周りのニオイを分子レベルで破壊します。紳士淑女のエチケット! 香水をつければ完ッ璧だぜぇー! ※良い匂いは消しません。

■「天罰招来」
 天に願い罰を落とす技術。天に願うことで、確率で対象に厄災が降りかかる。熟練に伴い魔力にプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、スキル発動確率が上昇。熟練者は自在に天罰を呼び出す。


<言い訳コーナー>
天罰と祈りの違いは、相手のことを呪うか、自分のことを願うかの違いですな。
どっちも祈ってるだろとか言う人はキライです。嘘です。







[19470] 22
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/06/16 16:06


<22>




「あの木に天罰を!」
【ことわるぅうううう!】
「ちょ、そんなこと言わずに! あの木に天罰を!」
【…………。】
「ああ!? 聞こえてない!? あのぉー! あの木に天罰を落としてくれません!?」
【いやじゃぁあああああああ!】
「ク、じゃああの岩に!」
【ことわるぅうううううう!】
「チキショー! それじゃあなんだったらいいの!? 僕!?」
【いよぉおおし! いぃいいだろ―――――
「あ、ウソウソウソウソ!」
【おぬしの願い聞き届けたりぃいいいいいいい!】
「嘘って言ってるのにぃいいいい!」

ピシャァアアアアアアアン! バチバチバチ!

≪「天罰招来」スキルの発動に成功しました。「天罰招来」の熟練度が70.0を越えました。レベルが上がりました。また、熟練度が82.0を越えました。熟練に伴い、魔力にボーナスが付きます。≫

「………かふッ。」

す、凄い威力だ……。
魔力は10しか減ってないのに、寝て結構回復していた耐久力(150/172)が一瞬でレッドゾーン(2/172)に突入だよ……。
ドスランポスはこれを3発も……。やはり強さが違うな……。
ていうか死ななくてよかった……。死んでも全然おかしくなかった……!
耐久力2とか、今だから言うけどほんの誤差だよ。
僕、よく生き抜いて来たなァホント。

僕は口から煙を吐きつつ、倒れ付す。
折角作ってもらった服も、ケバケバになってしまった。ごめんねネコさん。

僕はさっき手に入れたスキルを試していた。
木への天罰を30回連続で願ってもだめだったけど、何故か僕には初回で天罰。
確率がランダムすぎるよ……。
でもこれは……使える!
「穏行術」と合わせたら最強じゃないか!

さっきドスランポスが離れていったんだけど、その時、奴がかなり遠くに行くまで「穏行術」は発動し続けていたんだ。
だから、なんかモンスターを呼びつけるスキルさえ覚えたら、モンスターがこっちにやってくる頃には僕の姿は既になく、何処からか雷が落ちまくる!
もうスキルレベル上げ放題じゃない?

でもその前に。

僕は、まだ一度の発動したことの無いスキルのことを思い出していた。

それは「祈り」スキル。神や精霊に祈りを捧げることでいろんな恩恵を得られる、だったかな?
レベルダウンで消えちゃってるけど。

今回と同じように、天に「雨を降らせて」と願った時に手に入れたスキルだった。
なんか罵詈雑言が帰ってきて心が折れそうになった記憶があるんだよね。
だけど今考えたら、「天罰招来」と同じように魔術スキルなのかも。
だとしたら効果は期待できるよね。

という訳で、この今にも死んでしまいそうな状態を何とかしてもらうことにした。

(僕の体を癒してください!)
【いやじゃ!!!!!】

甲高い声が即答してきた。

(……? 小さい女の子の声……? 前はしゃがれた声だったのに。)

多分精霊の違いだろう、と考えてもう一度。

(僕の体を癒してください!)
【うるさいわ! 死ね!】
「……。」

ああ、まずい。心が折れそう。
雨の時よりも直接的な分余計に効くね。
しかし、僕の精神は大人36人分だぁー!

(僕の体を癒してよ!)
【ズウズウしいんじゃ! この、アホゥ!】

………。
ま、負けるかー!

(どうか僕の体を癒して!)
【お断りじゃ! 消え失せろ! この汚らしい下郎めッ!】

…………下郎て。
もういいや。疲れちゃった。あー折れた折れた。心がぽっきり折れましたー。
寝よ寝よ。
モンスター来ても勝手に「穏行」するでしょ。多分。
僕は木の根のところにお尻を押し込んで三角座りで寝ることにした。

でも最後に。

(どうか僕を癒していただけませんか女神様。)

適当なことを言ってみる。

【め、女神だなどと……もう、しょうがない奴じゃのう! よかろう! 聞き届けた!】

なんか通じた――――――!

【癒しよ、あれッ!】

ペキューン!

「おおお!?」

僕の体が輝く緑色の光に包まれて、傷が徐々に耐久力が回復する。
じんわりとした温かい熱が周りから流れこんでくるようだった。
これが生命力って奴か?
ついでに、何故か服も綺麗になっていく。
破れていたところとかが補修され、汚れも落ちる。

【服はサービスなのじゃ。エネルギーが余ったゆえにな。】
(いい人だ――――――!)

その時思い出したかのようにファンファーレが鳴った。

≪天に祈りを捧げたことにより、スキル「祈り」Lv1を習得しました。また、スキルの発動に成功しました。「祈り」の熟練度が80.0を越えました。スキルのレベルが上がりました。熟練に伴い精神力にボーナスが付きます。≫

いきなり80も上がった――――――!?
凄いよ女神さん(仮)!
なんだろう、実はこの女の子って凄い人なのかな?
もしくは祈りを聞いてもらうのに凄く努力が必要だから、成功すると熟練度が凄いとか。
褒めただけですごく簡単にお願い聞いてくれたけど。

あ、回復し終わってる。
しっかり全快。
何処も痛くないっていいなぁ……。

ところで、消費魔力は……全部?
まぁ回復するならアリかな。
とまぁ時間はかかるし魔力はなくなるけど、回復っていいな。
怪我したらまたお願いしよう。
さ、他のスキルの練習を――――――

そう思い、立ち上がって気付いた。

「き、木が!」

僕が背を預けていた木は、みずみずしい葉を広範囲に広げていたはずだ。
そこそこに大きい木であり、僕が座り込んだのも、木陰が大きく日差しが避けられるからだった。

その木が、艶やかで会った照葉が、全部枯れていた。

辛うじてぶら下がっている、という風情の葉が今にも折れそうな朽ちた枝に鈴なりになっている。
少し強い風が吹いたら、この辺りは落ち葉だらけになるだろう。倒木も出現するかも知れない。

つい好奇心に負けて、僕は軽く小突いてみた。

コン――――――ズゥ……ン!

即座に倒れる木。
あたりは枯葉が乱舞している。
非常に申し訳ない気分になる。

何でこんなことになったか。
思い当たることなど一つしかない。

(恐ろしい効果だ……)

さっきの女神様(仮)は「癒し」と言っていたが、その実質はライフドレインなのだろう。
「エネルギーが余った」とは木から命を吸い過ぎたってことだったのか?
使いどころを間違えたら、隣を歩いているアイルーが干物かミイラになって居てもおかしくない。

改めて、「祈り」の強さを知る僕だった。
あと恐ろしさも。


<つづく>

<おまけ>

雨乞いをしようとした際、「祈り」スキルを習得したときのこと。

ハルマサは、敬虔なキリスト教徒が教会で祈るように、膝をつき両手をあわせて握り、天に向かって祈った。

「雨を降らせてください!」

返事は意外なことにすぐ帰ってきた。
高いしわがれ声で。

【あんじゃと!? 黙れダニが! 今すぐそのあさましい口を閉じんと、飛竜のべべを捻じ込むぞ! どだい、全く努力もせずにワシに頼もうなどと、虫が良いにも程があるわ! 貴様の頭の中身はどうなっとるんじゃ! 気分悪いわボケ! いっそ死ね! 死んでワシに詫びろこのド阿呆が! 二度と話しかけるな! 死ねッ!】

「………………….」

≪チャラチャラ(ry 天に祈りを捧げたことによりスキル「祈り」Lv1を――――――

ハルマサの心は一撃で折れたという。



<おまけ終わり>


ステータス

レベル:5
耐久力:172
持久力:214
魔力 :78 →98
筋力 :253
敏捷 :392
器用さ:126
精神力:367→447
経験値:258 あと60


スキル
天罰招来Lv4:62 →82 ……Level up!
祈りLv4  :0  →80 ……New! Level up!

■「祈り」
 神や精霊へと願いを届ける技術。集中し祈ることで、確率で様々な恩恵を得る事が可能となる。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、スキル発動確率上昇。上級スキルに「神卸し」がある。精神を対象とした攻撃に耐性が付く。



<あとがき>
「祈り」を何とかしてみた。






[19470] 23
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/06/16 16:07


<23>


さて、さっきの「祈り」によって空っぽになった魔力だったが、しかしスタミナと同じくじんじわと回復しているようだ。
適当にゆっくり30数える間に1回復している、という戦闘中に回復しきる速度ではないが、連戦でもしない限りは「天罰招来」の使用は問題なさそうである。

ハルマサは先に進むことにした。

レベルが上がったことで「聞き耳」の範囲はさらに広がり、一キロ先で針が落ちた音も聞き取れるのではないかと言うほどだ。
自然と雑多な情報が頭の中で飛び交うが、混乱を避けるために今はとりあえずモンスターの気配のみを拾い上げている。

ていうかこの辺りランポスめっちゃいます。
あっちに3匹後ろに6匹、進行方向にはドスランポス率いる10匹くらいの群れがあるし、ランポス祭りですね。

無効が気付いていないのにこっちが位置を把握しているというのは、優越感がやばい!
今も、ホラ。左側からランポスが4匹くらいで移動してくる。
このまま行けば後いくらかもせずかち合うスピードで。
4匹だったら、強くなってる僕なら問題ない!

これは、待ち伏せしちゃうしかないね!

僕は、ランポスたちの進路上に素早く移動。
上手い具合に風下にいい感じの木があったので、その後ろに身を潜める。
ついでに、

(「溜め斬り」………!)

剣を持った手を肩に担ぎ上げ、体を捻り、力を込める。

「溜め」が始まる前に、「穏行術」が発動する。
すぅ、と透明になっていく僕の体。剣まで透ける。

ピシュン! と剣が光り、力が漲る。一段階目。ランポスはあと、3秒ほどでここにくる。
剣が光るのは見えるから、「穏行」との平行使用は無理そうだ。

ピシュン!

2段階目。剣が光を増し、腕の筋肉が膨張しだす。
ランポスは――――――もう来た!

「ギャア!」
(でりゃぁあああああ!)

地を蹴り飛び出しつつ、木に近い場所を通るランポスに向けて、打ち下ろす。
動けば、攻撃すれば、穏行は解ける。
突然姿を表した僕に驚くランポスを、斬る!

――――――斬! 続けて轟音!

剣はランポスの首を刈り取り、勢いのまま地面を叩く。
クルクルと回るランポスの首が落ちる先は陥没した地面。
デスペナを食らったときから比べて、筋力は倍ほどになっているためか、ダンジョンの入り口で試した時とほぼ同等のクレーターが出来上がる。

ぐらりと地面が揺れる。
はっきりとオーバーキルだ。やりすぎた!
反省しつつ他のランポスを見ると、なんかよろめいていた。
姿勢制御であまり感じなかったが、かなり揺れたらしい。

(ラ、ラッキー!)

というわけで、今がチャンス!

地面に埋まりかけているビーナスオブキャットを引き上げながら、一番後ろを進んでいたランポスに接近。
ビーナスで下から切り上げる。

「おおおおお、りゃ!」

ズパン! とランポスの首が飛ぶ。
首の後ろの鱗が血液と共に飛んで行く。

ビーナスって、実は結構名剣だ。
普通の剣ってどれくらい切れるのか知らないけど、ランポスの鱗を切断できるこのビーナスはかなりの切れ味だと思う。

さっき拾ったランポスの鱗ってかなり硬かったんだよ。
軽いくせに頑丈とか、夢のような素材だよね。

「空間把握」によって後ろからの襲撃を察知。
慌てず、横に跳んで避ける。

僕の方が君たちよりも素早くなったみたいだね!
しかも圧倒的に!

(ハルマサの敏捷は(元の数値)+(撹乱術Lv4の補正)+(撤退術Lv4の補正)=392+(392×0.4)+(392×0.2)≒627 ランポスは350くらい)

そこからは、まさにスーパーハルマサタイム。
小枝を振り回すかの如く軽々とビーナスオブキャットを操り、ランポスたちに襲い掛かる。
襲い掛かってくるランポスに逆に詰め寄り、裁断。
鳴き声を上げようと―――仲間を呼ぼうとしたランポスも横薙ぎの一撃で吹き飛ばす。
そうして瞬く間に残り2体のランポスを屠ってしまう。
3匹目を倒したところでレベルアップが起こり、力が漲ったため最後のランポスは衝撃でエグイ姿になっていた。

≪魔物を撃退したことにより、20の経験値を取得しました。レベルが上がりました。全ステータスにボーナスが付きます。≫

おお、おおおお! 力が! 力が(ry

とにかくパワーアップだ!
今回のレベルアップボーナスは、デスペナでマイナスされた分の80!
これは大きい。
戦闘ごとに強くなってしまって、ランポスの皆さんには申し訳なくなるね!

未だにモスの敏捷を越えられないのは悔しいけど、多分スキルを使えば勝てるよね!
モスなんかもう怖くないぞー!
………もしかして、あの異常に早いリポップが行われるモスのところって、経験値を稼ぐ絶好の場所なんじゃ……?
耐久力1だったし、出現した瞬間に殺し続ければ、最初の頃でもかなり早くレベルが上がるじゃないか!
今なら勝てるけど……戻るの面倒だし、いいや!
僕は常に前へと進む! なんてね!

……ん?

ウキウキとしていたハルマサだが、彼は自分の着ている服が、今の戦闘でかなりお汚れてしまったことに気付いた。
特性「臭気排除」のおかげでニオイこそしないが、女神様(仮)に綺麗にしてもらった服が汚れたままになるのは申し訳ない、と思うハルマサである。

早速聞き耳で水場の場所を探るハルマサ。
この森丘フィールドは意外と水場が多いらしい。
あっちからもこちからも水の音が聞こえる。
池などもあるようだ。
モンスターの気配も探り……今度は寝ている奴の呼吸すら拾う勢いで集中。
安全そうな水辺を見つけ出した。

レベルが上がったことで魔力も増加したし、ちょうどいい。
身奇麗にすると同時に魔法の練習でもしよう!

思い立ったらあとは常人の数十倍の体力を持つハルマサである。
ぴゅッと走れば、すぐに目的地へとたどり着くのだった。


<つづく>

Level up!
レベル:5  →6
耐久力:172→252
持久力:214→302
魔力 :78 →158
筋力 :253→337
敏捷 :392→479
器用さ:126→207
精神力:367→453
経験値:328 あと310

両手剣術Lv4:83 →87
姿勢制御Lv4:114→117
穏行術Lv4 :232→234
突進術Lv4 :115→119
撹乱術Lv4 :126→130
跳躍術Lv4 :104→105
走破術Lv2 :21 →26
撤退術Lv4 :113→114
戦術思考Lv3:67 →69
聞き耳Lv5 :187→190
的中術Lv4 :72 →77
空間把握Lv4:84 →86






[19470] 24
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/06/16 16:23

<24>


ジャバジャバ。

僕はインナーのみになって、ネコさん作の服を水につけてジャブジャブやっていた。

「アイ○ァナビィヨアジェン○ゥマァ~ン♪ 上手く○ぎれ、てぇ~♪」

大声で歌いながらの洗濯である。
別に静か過ぎて寂しいわけじゃないよ!

ここはまわりを木に囲まれた池である。
太陽が水面に反射して少しまぶしい。
清涼な空気が気持ち良かった。

手元では水につけて擦り合わせているだけで、汚れが落ちていく服がある。
血液って落ちにくい汚れのはずなのだが、Lv1とは言え洗浄術スキルをもつハルマサにかかればこんなもんである。
このスキルを上げれば、いずれデコピンで染み抜きが出来るようになるかも。

『ふん! 染み抜きデコピン!』『スパァーン!』『まぁ! 生地から醤油の汚れが吹き飛んでいったわ!』
なんちゃって。

ちょっと妄想してしまうハルマサであった。


「~♪ スット○ンジカメレオ~ン♪ よーし終わり!」

テンションが上がってきたのでしっかり一曲歌いきってから、服をパン、と広げる。
水滴がその一発でほとんど生地から吹き飛んでいく。
なんて便利なスキルなんだ「洗浄術」。ちなみにLv2になっている。
まぁ洗い通しだったしね。
この服、丈夫な分だけ洗いにくいようで時間だけはかかったのだ。
洗っている間中歌い通して、非常に気分が晴れたのは内緒だ。

その時ファンファーレ、ビヴァルディの「春」が鳴った。

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪≫

お? また「洗浄術」かな?

≪一定以上の声量で、一定範囲内に同種の生物がいない状態で一定時間以上歌い続けたことにより、特性「寂寞(セキバク)の歌声」を取得しました。あなたの境遇は寂しくて、思わず同情して泣いちゃいそう! そんなあなたにこの特性を送ります――――――

「そっち!? 歌の方なの!? しかも同情とか余計なお世話だよ!」

―――友達作れよー!≫

「うるさいよッ!」

まさかの歌関連であった。しかもまたネタ系特性。調子に乗って歌ったことをなんとなく後悔するハルマサである。


□「寂寞の歌声」
 寂しさがこめられた歌声。あなたの歌は同種の生物の心に染み入り同情を誘います。どんな歌でも関係ない! 聴衆は涙でベッタベタだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。


「また無駄な特性を手に入れてしまった……」

ネタ系特性はほんとに苛立たせてくれるな!
友達なんか、友達なんか……一人もおらんわ! 悪かったなぁ!

ハルマサは無駄に精神的なダメージを負いつつ、服を木に干す。
ここは太陽の光も豊富で、すぐに乾くだろう。

「さて、と。次は……お待ちかねの魔法だぜ!」

テンションを上げるハルマサ。
重ねて言うけど、寂しいわけじゃないよ!?



ハルマサは腕を突き出しつつ叫ぶ。

「いでよ! ファイヤーボォオオオオオル!」

広げた手から炎は出ない。代わりに警告音が響いた。

≪ポーン! 特技「超炎弾」を使うには、レベルが1足りません。魔力が442足りません。器用さが393足りません。精神力が147足りません。特性「炎耐性」を取得する必要があります。スキル「魔法放出」Lv5を取得する必要があります。スキル「火操作」Lv7を習得する必要があります。規定のポーズをとる必要があります。≫

(ハードル高――――――い!)

魔法を侮っていた。
思った以上に魔法って厳しいんだね……。
魔力あったら出来るというのは大間違いなんだ……。
ステータスとかはいずれ何とかできるとしても、特性……もなんか適当にやるとして……ポーズ!
ポーズが分からない! 五里夢中すぎる!
あとスキルね! 魔法放出とか……出来たらやっとるわ!

だが、一つ気になる事がある。
それは「火操作」スキルの存在である。

(これは……「雨乞い」の時も足りないって言われた奴の同類だ……。)

火はちょっと火種が無いけど、風とか水なら!
まずは水から。目の前に池があるし。

僕は水に腕を突っ込んでぐるぐる回してみた。5分くらい。
何も起こらない。
水面をパシャパシャ叩いてみた。5分くらい。
やっぱり何も起こりません。
「崩拳」を突っ込んでみた。
体中に水を被ったが、それだけだ。

「何か起これぇえええええええ!」

ズパーン! とビーナスで水面に「溜め切り」三段階目を叩き付ける。
水が飛び散って干していた洗濯物がびちゃびちゃになった。

≪ポーン! 水の精霊の怒りを買いました。「祈り」の熟練度が下がりました。熟練度低下に伴い精神力にマイナスの修正がかかります。≫

「ええッ!?」

確かにちょっとやりすぎたけど、それだけで熟練度下げなくてもよくない!?
踏んだり蹴ったりだよ精霊さん!

ステータスを確認すると、熟練度は5も下がって75になっている。
もう、水いじりは止めとこうか!

なんか風やっても意味あるのか分からないよね……
まぁちょっとやって見るけども!

手のひらを振ってみた。
僕の今の敏捷力なら、風を巻き起こすことなんてわけないよ!

ブォオオオ!
ザワザワザワ……

木々が揺れた。でもそれだけだった。

(い、一回じゃ足りないのかも!)

ブゥン!ブゥン!
ザワザワ~。ザワザワ~。

≪チャラチ(中略)ャーン♪ 新鮮な空気を森に送り込んだことにより、木の精霊が歓喜しました。「祈り」の熟練度が80.0を越えました。熟練に伴い精神力にボーナスが発生します。≫

も、戻ったー! やったー!
って、嬉しくねぇエエエエエエエ!
「風操作」出ろよぉおおおぉおおおおお!

ハルマサは悔しさで地面を叩くのだった。

さて、ずっと同じ場所で、バチャバチャバサバサ音を出していると何が起こるでしょうか。
答え:モンスターが寄ってきます。

必死にやりすぎていたツケだろう。
地下から忍び寄る奴に気付かなかった。
地面にorzしてドンドン叩いていたハルマサに、地を割って飛び出してきたのは、見覚えのある突起。いや鋏(ハサミ)だ。

「ぐふッ!」

鋏はハルマサを殴りとばす。
一メートルは上空へ飛ばされるハルマサ。

「や、ヤオザミか!」

ショックを受けつつも体をコントロールして足から着地。一足飛びにその場から離れる。
地面を掘り返して現れたのは、果たしてヤオザミだった。

ギチギチギチギチ!

鋏を打ち鳴らすヤオザミの、攻撃力はやはり高い!
200以上あったハルマサの耐久力は一撃で50ほどになっている。
いや、土の中からの攻撃だったから、大分威力は削がれていたはずだ。
直撃を貰うと、非常にまずい。
とりあえず「観察眼」!
Lv5だから詳しいところまでばっちりです!

≪対象の情報を取得しました。
【ヤオザミ】:硬く厚い甲羅を持つ小型の甲殻種。足は遅く、不器用。ヤドに守られた部位に即死部位あり。弱点属性は雷、炎。
耐久力:133持久力:202魔力:100筋力:435敏捷:38器用さ:2精神力215≫

足遅かったのかー! まぁ、じゃないと勝てませんよね! そうですよね!
ちょっと勝てたからって、俺強いとか調子乗ってた過去の僕を殴りたい!
ってヤオザミの筋力高いよ!
普通に即死するよ!

だが、あの時倒せたのだから、今の僕が倒せないはずは無い!
だってあいつの動きなんて止まっているようなものだ! 僕はあいつの10倍早い!
後ろに回りこんで「突き」を使おうか!
いや、弱点属性があるんだ、そっちを使おう!

という訳で「天罰招来」!

【いぃいいだろぉおおおおおおお!】

野太い声が聞こえる。
一撃で成功するとは! やはり僕の時代か! いや、レベル上がったおかげだろうけど!

【お主の願い、聞き届けたりぃいいいいいッ!】
(やっちゃってくださいッ!)

ピシャァアアアアアアアアアン! バチバチバチッ!

「ギャバババッ!」

雷が落ちても、ヤオザミはピンピンしている。
何故なら雷が落ちたのは……僕のビーナスだから!

【ぬぅうう! 避雷針があったかァあああああ!】
(ふ、ふざけんなぁああああああ!)

「カハッ……!」

痺れまくっている僕は、怒鳴ることも出来ないのだった。
だけど、ビーナスを通電したため「天罰」の威力は減少していたらしい。
耐久力はまた2だけ残ったぜ!
僕ってよくよくしぶといネ!

≪「天罰招来」スキルの発動に成功しました――――――

自爆による熟練度上げを行うハルマサの目の前では、ヤオザミがビックリしたのか少し距離をとっていた。

<つづく>


レベル:6
耐久力:252
持久力:302
魔力 :158→178
筋力 :337
敏捷 :479
器用さ:207→217
精神力:453

新らしい特性

寂寞の歌声

スキル

天罰招来Lv4:82→102
洗浄術Lv2 :1 →11  Level up!

□「寂寞の歌声」
 寂しさがこめられた歌声。あなたの歌は同種の生物の心に染み入り同情を誘います。どんな歌でも関係ない! 聴衆は涙でベッタベタだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。


<あとがき>

止まった時こそ、死ぬ時!(挨拶)
初心に戻って(?)変な特性を2つと新たなスキルを手に入れた21~24話の更新でした。
戦うシーンよりこっちのが書いていてよっぽど楽しいと言うね!救いが無いね!
ところで「~操作」系スキルの習得方法はもう決めているんだ。
話によっては手に入れるのは大分後になるかも知れんけど。

明日も、更新!
28話を読んだ時、あなたは桃色特性を見直すこと間違いなし!



>やっぱりデスペナ20%はきつい
こうしないと死んでレベルアップした時、死ぬ前より強くなってしまうんで…
……あれ?それでよくないか?まさか、やってしまったのか……!?
………いや、そんなにポコポコ殺したくないって言うかね。ぶっちゃけ殺すと計算がメンド(ry

>乱数
数値は一定なんですよ



[19470] 25
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/17 18:01


<25>


ふ、ウフフフ。天罰の精霊さんったらお茶目なんだから♪

危うく……危うく死ぬところだっただろオオオオ!?

この精霊は何度僕を死にかけにすれば気がすむの!?
武器を掲げていたらダメとか、使用上の注意がありすぎるよ!

ちなみに、「天罰招来」、「祈り」、ともに精霊さんと会話が出来るわけではないようだ。
こっちが願い、あっちが答える。
基本的に、言って帰ってくるだけで終了だ。
文句なんか聞いてないんだろうなぁ……


ギチギチギチ!

お、ヤオザミが再起動したみたいだ。
そりゃあ行き成り自分に雷を落とす奴なんて「少し様子見るか」ってなるよね。
しかしヤオザミはもうこちらの行動は虚仮脅しと見切った! とばかりに攻撃してくるようだ。

シャカシャカと足を動かし、弓なりの軌跡を描いて詰め寄ってくるヤオザミ。
いくら痺れていると言っても、この程度避けれないほどではないんだよ!
サッと避けると、ヤオザミは地面を鋏で穿っていた。

敏捷高くなったから分かるけど、こいつの動きってとても直線的だよね。しかも振り向きとか極端に遅いし。
付け込む隙はたくさんあるな。
流石不器用モンスター。

という訳で、

「てい!」

ザクーン! とヤドを攻撃する。
ビーナスオブキャットの切れ味が凄いのか、僕の筋力が大きいのか、ヤドは一発で砕けた。

「ギィ!?」

そしてそのまま返す刃で弱点部位であろうコブをズバーンと攻撃。

「ギィイイイイ………」

ヤオザミはあっさり崩れ落ちる。
こんなに弱いのか……

≪魔物を撃退したことにより、経験値を10取得しました。≫

前倒した時と比べて、4分の一の経験値になっている。
こっちのレベルが高くなるたびに2分の一になってるのかな?
ブランゴ戦とか思い出しても、正しいような気がする。

これってレベル上げるには上のレベルの敵を倒すのが手っ取り早いってことだよね。
まぁその分だけ強いんだから、手っ取り早く行くかは分からないけど。

ところで、ヤオザミの死体の後には、今度は鋏(ハサミ)と金貨が残された。
鋏は50センチほどの腕も付いている。

あ、そうだ。
金貨はもう観察できるかも。
「観察眼」Lv5、発動!
と言っても手にとってよく見てるだけなんだけど。

≪対象の情報を取得することに成功しました。
【神金貨】:神様のダンジョンの中だけで使える、女神の顔を浮き彫りにした美しい金貨。持っておくと役に立つ。純金製。≫

ほほぅ。
集めておいて、損は無いってことだね?
純金製って、集めて現世に持って帰ったら左団扇で暮らせそうだ。
まぁ現世で暮らせるわけでもないから意味のない仮定だけど。

そして鋏。
持って行って武器に使ってもいいんだけど(その場合、鈍器扱い)、僕お腹空いてきてるんだよね。
この体ってエネルギー使うのか、やたらお腹が減るんだよね。

食べれるかな?

カニの鋏に拳落として割ってから、中にびっちり詰まっている身を取り出す。
薄茶色い身だ。
食欲がちょっぴり無くなるが、とりあえず一口。

うーむ。微妙。不味くはないかな。決して美味しいわけでもないけど。

でもまぁお腹は膨れるでしょう!
こんなに大きい(ハルマサの胴体くらいある)し。

ムシャームシャー! と食べてから、まだ少し湿っている服を着て、場所を移動することにした。
何時までも留まっているわけにはいかないんだ!

で、雪山に向けて、行軍を再開します。

サクサクと短い草原を踏み歩きながら、僕はこれからの敵について考える。
僕が今まで会った中で、一番強いのは(閻魔様除いて)恐らくイャンクックだ。
「観察眼」で名前を確認できるようになるのが、「観察眼」のレベルが対象のレベルマイナス2以上の時だということには気付いている。
詳しい情報が見れるのは、対象のレベルと同じ時だ。
という訳で、ヤオザミはレベル5。ランポスもレベル5。
ブランゴはレベル4で、ドスランポスやドスファンゴはレベル7。
イヤンクックは≪レベル7の「観察眼」もってこい≫って言われたから、レベル9だと予想できる。

レベルアップのシステムから、ドスランポスはランポスたちの4倍強い。
クック先生はなんと16倍。
実はクック先生がボスなのかな。あんなフラフラと飛び回ってたからそれはないか。

閻魔様は雑魚に比べて5レベル強いとおっしゃってたけど、どっちから5高いのか。
イャンクックからだと、もう絶望するしかないよ。
短期のクリアは諦めて、ドス系を狩りまくるしかないだろうね。

いずれにしても、これからの方針は、会うモンスター会うモンスター、倒して倒して倒しまくる!
これだね。
ボスに向かって少しでも自分を鍛えなきゃ。

殲滅者に、僕はなる!

という訳で「聞き耳」でモンスターを探索。強襲or待ち伏せ。殲滅!
出来る! 今、強くなった僕ならできる!
でもクック先生だけは勘弁な! 死んじゃうから!

と、その前に回復できるかな。
「祈り」を使ってみる。

(可愛らしい女神様! 回復していただけませんか!?)
【ふふ、貴様分かっておるのぅ! よかろう! 聞き届けてやる!】

女の子の声がとても上機嫌に答えてくれた。

【癒しよ、あれ!】

声と同時に、周りの草とかが一瞬にしてゴソッと枯れ果てて、僕の周囲はまるで放射能でも撒き散らされたみたいになった。
相変わらず自然に優しくない能力である。

【服の乾燥はサービスなのじゃ。】
(うぉおおおおお! 風が!)

ついでにまわりから風が吹き付けてきて、服が瞬く間に乾いていく。
この女の子多芸だなァ……。

≪――――――スキルの熟練度が180.0を越えました。レベルが上がりました。熟練に伴い精神力が上昇します。≫

なんかさっきより熟練度の上がり方が大きい。いや、減るよりはいいんだけど、不思議だな……。

そして精神力が500を越えてしまった。恐ろしい成長。
チートとかそういう次元を超えていない?
精神力を使う……魔法とかあったら威力高いだろうになぁ……

いや、待てよ! 精神力って集中力とかにも関係してるんじゃないだろうか。
集中しまくれば、思考が加速したりしないかな。
例えば……クロックアップとかかっこいいよね!
オメガトライブ読んでから憧れが半端なかったんだ。
なんか仮面ライダーも使える人がいるみたいだし!

超人的な精神力を持つ僕なら、出来てもおかしくないぜ!
正直何に集中すればいいか分からないけど、取りあえず叫んでみるよ!

「クロックア―――ップ!」

≪ポーン! 特技「加速」を使うには、耐久力が159,748足りません。持久力が159,698足りません。精神力が159,447足りません。スキル「風操作」Lv15「雷操作」Lv15を習得する必要があります。≫

(絶対無理だ――――――ッ!)

前の時はこんな露骨な言い方ではなかった。
「全然足りない」。そう言ってくれていたはずだ。だが今回の露骨な発言。
きっとシステムはこう言いたいのだろう。精神力500くらいで調子のんな、と。
マジでごめんなさい。
しかし、あと15万以上必要って、凄いな!
いつかそんなに高くなるのかな! 僕のステータス!
あと、やっぱり空気抵抗とかあるんだろうね。「風操作」がいるみたいだ。でも、レベル15って……。
これもまた最近分かったんだけど、スキルレベルって、僕の体自体のレベルと同じように、レベルが一つ上がると、レベルアップに必要な熟練度(経験値)が2倍になるんだよね。
すなわちレベル15ってすごく時間がかかると思われるわけですよ。数値とか計算したくないくらい。
「風操作」Lv1すら習得できていない僕には遠い話しすぎて、鬼が笑うどころか屁で茶が沸くよ。あ、違うヘソだ。

仕方ない、今はおいておこう。
取りあえず、今は目の前に出てきたモンスターを倒すだけだ!
むむッ! あっちにモンスターの、ランポスの反応ハケーン!
早速殲滅任務に移ります!

ハルマサは調子に乗りまくりながらモンスターの群れへと走った。


<つづけ>


レベル:6
耐久力:252
持久力:302
魔力 :178
筋力 :337→338
敏捷 :479
器用さ:217
精神力:453→554
経験値:338 あと300


スキル
両手剣術Lv4:87 →88
祈りLv5  :80 →180 ……Level up!
戦術思考Lv4:69 →70  ……Level up!
観察眼Lv5 :161→163






[19470] 26(修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/18 14:23



<26>

次のレベルアップに必要な経験値は、300。
ランポスを倒して得られる経験値は、10。
30匹も何処にいるんだよ!と色々噴出しそうになった僕だったが、聞き耳の範囲(半径2キロくらい)に20匹は居るんだし、しかもリポップするであろうことを考えると、それほど悲観することでもなかった。
まぁ、モスみたいな速度でリポップすることはないだろうけど(あれは恐らく悪辣な罠だ)、少し待てばわらわら湧いてくるでしょ。
別に雪山に進んでもいいしね。

と、楽観しつつ、僕はランポスを狩っていた。
最早作業になりつつある。
モンハンでもランポス20匹討伐とかあったなァ……あれは面倒くさかった……
今? 今はどちらかと言うと爽快です。僕TUEEEE状態だからね。

「はッ!」
「ギャバア!」

体を切断することはまだ出来ず、弾き飛ばすようにランポスを切り捨てる。
返り血を浴びない倒し方すらマスターしつつあるハルマサである。
後ろに下がりつつ横薙ぎに振るとか、突きとか、「太刀」の技なんかを有効に使い、次々とランポスを屠っていく。
突きの時は特技が発動して、ランポスが酷いことになった。
プリンにフォーク刺すぐらいの感蝕しか感じなかった割に、大剣は硬いランポスの鱗を切断し、幅広の大剣だからランポスは真っ二つ。
貫通属性って馬鹿にできないと強く感じた。
でも、いつかこんな特技に頼らず通り過ぎた後で、モンスターの上半身と下半身がズルリとずれて、血が噴出す、とかかっこいい倒し方をしてみたいもんだね。
今は完全に力任せの戦い方だからまだまだ遠いけど。
でも、上手く斬ろうと努力すると、熟練度の上がりは少し早くなる。
もうちょっとで両手剣術の熟練度が100超えそうだよ。

ちなみに筋力が上がった今、崩拳を使ったら食らわせたランポスが何故かその場で上空に飛び上がってパーンってなりました。
横から殴ったのに意味不明。
物理学とか分からないから何ともいえないけど、リアル「キタネェ花火だぜ」になってしまい被害は甚大だった。
顔も体も血でベッタベタ。
なんで体は消えるのに、奴らの血糊は消えないんだろう。
神様がものぐさだから、というのに僕は一票だね。
ランポスの皮など、残った素材は使い道がないのでほとんど放置。
金貨のみしっかり確保する。
ポーチにはまだ余裕があるからいいけど、これ以上拾ったら溢れちゃう。
どうしようか。

最初に遭遇したランポスを速攻で撃破し、次の群れへと向けて移動している最中につらつらと考えにふけっていたハルマサは、不意に足を止めた。

(雪山の方から……なんか来る!)

「聞き耳」が拾うのは、大勢の獣の足音である。
ハルマサはこの足音に記憶があった。

「……そうか。リポップしたんだね。ブランゴが。」


ドドドドドドド――――――!
ブランゴたちは一心不乱に走っている。
一時期大幅に数を減らした獣たちは、一匹また一匹と何処からともなく姿を表し、瞬く間に50を越える大群となった。
ダンジョンのシステムがモンスター間のバランスが崩れると判断した結果、ブランゴたちはにわかに数が増えたのだ。
数が増えたブランゴたちは、わずかな時間でイノシシの群れに奪われていた雪山での支配権を取り返し、次に森丘へと繰り出してきたのだ。
ブランゴの群れの先頭には、一際大きな獣が走っている。
その姿は威風堂々。10メートルを越える巨体をしなやかに動かし群れを率いるモンスターは、ドドブランゴと呼ばれるブランゴの上位種だった。
白い体毛に包まれる体には、先ほど行われたドスファンゴとの死闘で傷を負っていたが驚異的な回復力で流血は既に治まりつつある。
ドドブランゴは口元を彩る豊かなヒゲを震わせ、牙を剥いて走る。
獣は怒っていた。
傷つき、眠っている間に自分の眷属が大量に数を減らされたことを。そのため雪山の支配すら奪われかけた。
憎き敵は、密林にいる。
何故かこの地域を支配していた青い魔物が減っていることは、獣にとって幸運だった。
彼は全ての眷属を率い、森丘を通過しようとしていた。

――――――とかだったら、良いのになァ……)

樹の上に上り、「鷹の目」で明らかに起こりながら走っているハルマサは一人ごちる。
あ、長々と妄想してすいませんでした。
そうだったら、このままやり過ごせるかなとか考えていただけで他意はないです。
ブランゴが50匹くらいで群れているのと、それをドドブランゴが率いているのは本当です。
ドドがケガをしているのも本当です。
ドドブランゴ大きいよね。
普通に強そうだし。「観察眼」だと……≪Lv8が必要です。≫……ですよねー。
………レベル10なの!?
勝てるかーッ!
ボスじゃない!? ねぇあいつボスじゃない!?
僕の(だいたい)16倍強いボスじゃない!?
ていうかあいつがボスじゃなかったら、僕は……!

僕が戸惑っているうちに、ブランゴの群れはすぐ近くまでやってきている。
僕は動けない。逃げる機を逃したともいえるが、何より「穏行術」が発動し始めたので、そのまま隠れることにしたのだ。
何故なら、今居る場所は大樹の上、地上12メートルくらい。
ドドブランゴが腕を振り上げたら余裕で攻撃されるが、比較的安全でしかも敵に近いというこれから行うステルス作戦には欠かせない場所なのだ。
そして安全な場所にいる僕は願う。

(ドドブランゴに天罰いっちゃってー!)

そう、これぞ鉄板のステルスアタック!
敵はこっちの姿が見えないのに、こっちは好き勝手攻撃し放題という素晴らしい戦法なのだ!!!!
ちなみに願いを捧げたのは五回目である。精霊さんは四回連続で拒否ってくれた。
早くしないと群れがここを通り過ぎちゃうんだけど。
だが今回こそは―――

【いぃいいいだろぉおおおおおお!】
(よしキタ!)

野太い声が諾の返事を返してくれる。

【天罰ぅ、てきめぇえええええええん!】

なんか掛け声変わってるけど、何でもいいからやっちゃって!

ヒィィィィン――――――どぶぉおおおおッ!!

(あれ? 火の玉!?)

なぜか天から高速で炎の塊が落下して、ブランゴを直撃した。ドドブランゴではなくその後ろのブランゴにである。

「グぉあああああああ!」
「ガゥ!?」
「グぉ!?」
(ちょ、外れてません!?)
【ぬぅううう! すばしっこいのぅううう!】

今そんなに早く動いていないでしょう……。天罰なのに誤爆が多すぎると思うんだ。
……あ、でもめっちゃ効いてる。他の奴にも飛び火してるし。さらに群れは先頭に火の玉が落ちたことで、団子になってるし。
でも、後数秒天罰が発動するの遅かったら、ブランゴたちがこの木の下に来ていて、僕も確実に火達磨だよね?
そういうのってどうなの!? 毎回スキルに殺されそうになる僕って何なの!?

悲しむハルマサはさておき、「天罰」の効果は劇的だった。
着弾直後に、榴弾のように四方八方に炎を撒き散らしたのだ。
中心にいたブランゴは火達磨になり、カチカチ山状態になったブランゴは多数。
弱点属性であった火属性の攻撃であったことも大きいだろう。
ちなみにケツに火が飛んだドドブランゴは、驚異的な身のこなしで回避した。
やはり直接狙わないと難しそうだ。

と、そこでファンファーレ。

≪「天罰招来」スキルの発動に成功しました。熟練度が122.0を越えました。熟練に伴い魔力にボーナスが付きます。≫

よし、こうやって魔力が回復するから、「天罰」スキルって使い放題で本当にチート!
ちなみに消費魔力は発動成功時に10。
成功すればするほど、ドンドン魔力が増えていくというチートなスキルだよ!

(とにかくまだまだァ! さらに天罰を!)
【ことわるぅううううううう!】
(ちょ、空気読んで!? ドドブランゴに天罰をぉおおお!)
【こォォとォォわァァるゥううううう!】
(うわぁムカつく言い回し! そういうのいいから、ホントお願いしまぁあす! ドドブランゴに雷をぉおおおお!)
【………。いぃいいだろおおおおおおおお! お主の願い聞き届けたりぃいいいいいい!】

ゴロゴロゴロ……

(え、なに? 雲!?)

やっと聞いてもらえたと喜んでいたハルマサだったが、にわかに曇り始めた空に驚く。
遠くからすべるように雲が集まり、一気に天は曇り空へ。
雲間に眩い雷光が集まり、ついに天罰が下される。

【死ねぇええええええええええええええ!】

(死ねってw ……って、すげぇ嫌な予感がする――――――トーゥッ!)

ビシャアアアアアアアアアアン! バリバリバリバリッ!

天罰は下った。
その威力は絶大。
天地を繋いだ黄色い閃光は、対象を一瞬にして焼き尽くす。
対象になったのはこの辺りで一番高かった―――つまりハルマサが潜んでいた―――大樹だったが。

【ぬぅうううう、避雷針があったかぁあああああ! ざぁんねんじゃあああああ!】
(う、嘘つけぇええええ! 声が若干満足そうなんだよぉおおおおお!)

間一髪、空中へ飛び出したハルマサはまさにファインプレーだった。
危険察知能力がスキルとは別に成長しているのかもしれない。
穏行は解け、雷を受けた大木を背景にハリウッドダイブする姿はすごく目立ったが、攻撃を余波だけしか食らわなかったのは大きい。
ただし、今回の天罰の威力は馬鹿みたいに高く、余波だけでハルマサは死にそうになっていた。

そして、当然だが、ハルマサの姿は、最強の敵ドドブランゴにも丸見えになっているのだ。
ハルマサは今、最強の敵と向き合うこととなった。
耐久力が2の状態で。



<つづく>

今回はステなし。

代わりにドドブランゴの。

レベル:10
耐久力:12192
持久力:3217
魔力 :1288
筋力 :6721
敏捷 :3030
器用さ:2963
精神力:3801

攻撃パターン

咆哮
かがやくいき(?)
岩投げ
突進
眷属召喚



イェーイ全部4ケター! あ、耐久力は違うか。
ちなみに敏捷3000がどれくらいかと言うと
大人の100mのタイムが15秒だとした時、ドドブランゴは0.05秒で100m走りきる! もしくは15秒で30000m≒30km走るッ!(秒速2000m≒マッハ3)







[19470] 27
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/17 18:03


<27>



花は桜木、人は武士。
未練のない潔さこそが最上であるという格言である。

しかし、ハルマサはそうは思わない。
例え死んでしまうとしても、最後の最後まで足掻いてやる!
泥を啜ろうとも生き残り、一秒でも早く現世に戻ってエ○本を処分してやる!
ぶっちゃけ死んでも○ロ本処理が遅れるだけって言っちゃダメダヨ!? 頑張る気が薄れちゃうからね!

「グゥオオオオオオオオオオオ!」

ヒゲをワサワサ震わせながら、ドドブランゴはこちらを威嚇する。
正直、かなり恐ろしい。
目の前にしてみると、その威風堂々たる大きさと威圧感に心胆から震え上がるようだ。
白い毛を汚す赤い血が、歴戦の勇士を連想させる。
まさに戦士。まさに王。

その威容に比べて僕はどうか。
威厳なんてかけらもない。
精神も体も借り物の力で強化された、システムにおんぶ抱っこのくだらない人間!

でも、今ハルマサは蹲っていない。
借り物の力とは言え、彼はそれを用い、死線を潜り抜けてきたのだ。
その力は既に彼の物となりつつある。

(だから、恐れるな! 立ち向かうんだ!)

歯の根の合わない奥歯を噛み締め、ハルマサはビーナスオブキャットを握る。
耐久力は2。
例え攻撃を避けても、ドドブランゴが攻撃した地面から弾き飛ばされた飛礫ですら、ハルマサにとっては致命打になりうる。
まさに絶体絶命だった。

だが、ハルマサの中で、唸りを上げつつ変わるものもある。
スキルの熟練度が、上がるのだ。

≪「天罰招来」スキルの発動に成功しまし―――(略)―――魔力にボーナスが付きます。≫
≪「姿勢制御」の熟練度が――――――
≪「跳躍術」の熟練度が――――――
≪「撹乱術」の熟練度が――――――
持久力が、魔力が、敏捷が、器用さが上昇し、

≪雷属性の攻撃を、一定量以上受けたことにより、スキル「雷操作」を習得しました。「雷操作」の熟練度が218.0を越えました。レベルが上がりました。熟練に伴い器用さにボーナスが付きます。≫

新しいスキルが―――――――

(って、操作系スキルこうやって手に入れるんか―――――――い!)

まさか属性攻撃を受けることだったなんて。
というか218て。
なに? そんなにドドブランゴが脅威なの? それともさっきギリギリ避けた雷の威力が半端なかったって言うの!?
それに「器用さ」って僕のステータスの中で一番低い数値だったのに、アホみたいに上がってない!?
いや、嬉しいんだけどさ!
……待って、今上がったの、全部「天罰」のせいじゃない!?
もちろんドドブランゴに近いからもあるけどさ!

それよりどうする? この状況で僕に何ができる!? 生き残るために、何が!

ドドブランゴの後ろには未だ火に苦しむブランゴや、雷の衝撃に距離をとっているブランゴ、こいつらは無視していい!
目の前の王に集中しろ!

今目の前では、ドドブランゴが―――体を沈め―――地を蹴り―――飛び掛ってきた!
その一連の動作、実に0.05秒(くらい。もっと短いかも)!

だめだ! 考えが浮かばな――――――

その時ハルマサの頭に電撃のようなものが走った。
一瞬に凝縮された映像の群れ。
それは走馬灯と呼ばれる物。生き残りの手段を記憶をさらうことで見つけ出す、人間の体の神秘。

最後の希望として、ある手段が浮かんだのは幸運以外の何物でもなかっただろう。
何しろ、行動をしていては間に合わない状況なのだから。

「グゥオオ――――!」

ドドブランゴの凶悪に尖った爪が、ハルマサに届こうとする一瞬前、ハルマサは願う。
天への祈りを―――敵を退ける力を!

(―――――――――――女神様ッ!!)

果たして。

【仕方ないのう。】

願いは届いた。

一瞬にして彼我の距離を詰めたドドブランゴの、凶悪な爪が振り切られる。
ハルマサの体に触れんとした爪は、その1cm前で生じた壁に阻まれ――――――壁ごとハルマサを弾き飛ばした。

ガキィイイイイイン!

爪と壁がぶつかり、硬質な音が響く。
ハルマサは地面と平行に後ろに吹っ飛び、雷が落ちてボロボロの大樹をへし折った。
大樹を突き破った後もさらに20メートルもの距離を転がったハルマサだが、体に傷はなかった。

(これは……シールド!?)

体がぼんやりと緑色の膜に包まれている。そしてハルマサの立っている地面は見る見る荒廃していく。

【ふん。植物が少なくて10秒しか持たんぞ。いいか、普通ならこんなことはせんのじゃぞ? 特別なんじゃからな!?】
(10秒……きついけど、助かります女神様!)

女神なる少女(顔は知らないが)のことがすごくいい女に思えて仕方がない!
ありがとう女神様! 戦いが終わったら祠を作るよ! 崇め奉るよ!

≪「祈り」スキルの発動に成功しました。熟練度が300.0を越えました。熟練度が150.0を越えたことによりレベルが上がります。熟練に伴い精神力にボーナスが付きます。≫

ぐ、と体に力を入れて、立ち上がる。いや飛び退く。
一瞬前まで居た場所に、轟音と共に岩が突き立つ。
破片が飛び散るのを咄嗟にビーナスで防御する。シールドで勝手に阻まれるが、「防御術」は上がった!

≪「姿勢制御」の熟練度が――――――
≪「撤退術」の熟練度が――――――
≪「跳躍術」の――――――
≪「撹乱術」の熟練―――
≪「防御術」の熟練が――――――レベルが上がり――――――

行動するたびに凄い勢いでスキルは上がる。
でもまるで勝てる気がしない!逃げるのだって無理だ! 動きが速過ぎる!
違う、単純なステータスで勝てるわけがないんだ!
考え方を変えろ! からめ手を考えるんだ!
姿を隠すとか――――――「穏行」だ!
ドドブランゴの意識をこっちから離れさせることが出来れば―――

(天罰を!)
【ことわるぅうううううう!】
「くッ!」
「グォアアアアアアアアア!」

またしても霞むような速度で、突撃してきた雪山の王に叩き飛ばされる。ガードすら間に合わない!

バキィイイイイイイン!

またシールドが金属音を響かせる。
サッカーボールのように吹っ飛んで、さらに転がる。
そうそう上手く行かないか! っていうかいい加減イラつくなあの精霊!
く、もう10秒か、シールドが……!

待てよ、この精霊が必ず天罰を落とす時はなかったか!?
例えば何だかやたらと僕に雷を落としたがって――――――そうか! 今なら!

(僕に雷の天罰を!)
【いいぃいだろぉおおおおおお!】

目の前で、ドドブランゴは息を大きく吸い――――――ゲームで知っている、これは雪を吐き出す前動作!?
数秒続くであろう攻撃はガードなんか確実に吹き飛ばし、必ず僕を殺すだろう。
「回避眼」に映る攻撃予知線、いや線じゃない、バカみたいに広い範囲の攻撃だ。
必死に横に跳ぶが、僕の敏捷で避けるなんて、出来るとも思わない。
だが、死の奔流が吐き出される一瞬前!

【お主の願い聞き届けたりぃいいいいいい!】
(間に合った――――――「雷操作」ぁッ!)

何度雷を受けたと思う! タイミングなんか知り尽くしているとも!
「雷操作」を使う。
そう思った僕の体は自然と腕を挙げ、指の先から熱を持つ透明な波動を放出する。
上空から瞬間的に降り注ぐ雷は、僕の体から流れ出る波動――――なんだこれは魔力か?―――に導かれ、僕に向かう途中で軌跡を変更し、一瞬にしてドドブランゴに到達する。
雷は雪山の王の動きを一挙動、止めることに成功した。

成功すると思っていたよ! 雷の痺れる感じは強烈だからね!

そうして稼いだ一瞬で、僕は何とか「回避眼」に示されていた攻撃予知戦を超える。
直後ドドブランゴから吐き出される、白の暴力。
まわりの空気が瞬時に冷え、草木が凍りつくような絶対零度の中、跳びながら僕は熟練度アップの音を聞く。
「姿勢制御」「跳躍術」「撤退術」「撹乱術」「戦術思考」「回避眼」「観察眼」「空間把握」etc……
スキルの熟練度がグイグイと上がる。
しかし、全然足りない! 今は、避け続けろ!

よく見るんだ! ドドブランゴがかすかに示す、投擲の前の腕の引きを、突進の前の重心の移動を! 「回避眼」を使いこなせ!

(僕に天罰をおとして! 今すぐに!)
【天罰ぅうううううう!】

雷操作――――――コツは掴んだ!
指先から流れる魔力が雪山の王へと黄色の奔流を運ぶ。

バチバチバチバチィ!

「グ、ゥウオオオオオオ!」

電撃が当たっても行動が止まるのはほんの一瞬。
こわばりをすぐにいなし、ドドブランゴは跳びかかってくる。
体の横を通りすぎる豪腕の一撃一撃が、掠っただけで僕を殺す威力を持つ。

しかし、僕は死んでない。
まだ生きている!

ハルマサはギリギリのところで、死地を生き抜く事が出来ているのだった。

≪「雷操作」が規定のレベルに達したことにより、スキル「魔力放出」Lv1を習得しました――――――


<続く>


あとがき

引っ張りすぎだろうか?
ドドブランゴ戦もそうだが、ダッシュ線も引っ張りすぎてしまったような気がするよ。

ステは28で纏めます。






[19470] 28
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/17 18:22
<28>

死地の中で、ファンファーレがなる。
引っ切り無しに頭で述べられるナレーションの中で、僕の直感が一つのナレーションを拾い上げる。

≪「姿勢制御」の熟練度が310.0を超えました。レベルが上がりました。「姿勢制御」が規定のレベルに達したことにより、スキル「姿勢制御」はスキル「身体制御」に昇華します。熟練に伴い持久力、器用さにボーナスが付きます。昇華に伴い、器用さにボーナスが付きます。≫

――――――「戦術思考」が言う。考えろ。冷静に、生き残る道を考えろ!

どこか引っかかったのだ。もちろんただの直感だ。だけどそれを無視するほど、僕には余裕がないんだ。

――――――考えろ!

「身体制御」自体は、体をより効率的に動かせるようになるという、こう言ってはなんだが、大したことの無いスキルだ。
では何に引っかかった? このスキルは、「姿勢制御」から昇華して――――――そう昇華!
レベル6にスキルを持っていけば、上位スキルがあるスキルは昇華する!

直後、さらにもう一つのスキルが昇華する。僕は考えながらも動き続けている。そうでなければ死んでいる。

≪スキル「跳躍術」はスキル「空中着地」に昇華しま――――――

求めていたのは「空中着地」か? いや違う。避ける際の選択肢は増えたが、これでは状況を打開できない。
昇華させたいのは――――――そうだ、「穏行術」!
上位スキルは「暗殺術」だ!
姿を消したまま、移動できそうな雰囲気がプンプンするだろ!?

(だとすれば、どうにか相手の動きを止めたい! あ、やばッ! 雷を落としてくれ、僕に!)
【天罰ぅうううううう!】
(操作ァアアアア!)

バチィ!

ドドブランゴの猛攻はこちらが動かなければ、避けられない。しかも雷の痺れを利用した上でだ。
だが、雷で動きは一瞬止まる。

「穏行術」を昇華させるには……?

――――――足を止めて「天罰招来」と「雷操作」の連続使用。

これしか思いつかない。
「天罰招来」の熟練度アップのファンファーレがなる前に、魔力が切れるかもしれない。
雷に痺れながらも、ドドブランゴは僕を叩き潰すかもしれない。
だが、やらなくても、このままだとジリ貧だ。
こちらの持久力が切れるほうが早い!
行くぞ!

「僕に雷を落とせぇえええええええええええ!」
【いぃいいいいいいだろぉオオオオオ!!!!!】

足を止めて、手をドドブランゴに向けた僕に、巨大な獣は駆けてくる。
戦いの中、上昇した敏捷が何とか奴の足元には届いているようで姿を見失うことはないが、やはり疾い!
ここからが勝負、大博打だ!

「天罰招来!天罰招来! 招来!招来!招来!しょう、ライッ!」
【ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!】
「グ、ォ、オ、オ、オ、オ、オ、オ、オ、オ……!」

バチバチバチバチバチバチバチバチッ!

天から出でて、宙を滑り、視界を埋める黄金の輝き。
止まることのない電流は、ドドブランゴの毛を逆立てる。
その中で、ドドブランゴの腕は、脚は、体はガクンガクンと動き続ける。
表情は烈火の如く噴出す怒りに歪められている。
やがて、「穏行術」が発動。僕の体がすぅ……と透明になっていく。
次の瞬間、

≪チャラチャ―― ≪チャラチ―― ≪チャラ― ≪チャ― ≪チャ――― ≪チャラチャンチャ―― ≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン! 「穏行術」の熟練度が――――――

凄まじい速度で熟練度が上がりだす。ドスランポスの時と比べて数倍疾い上昇速度。
しかし間に合うか!? 僕は血を吐く思いで、必死に一つの言葉を繰り返す。
バカみたい? バカで結構! 生き残れればそれでいいッ!

「招来、招来、招来、招来招来招来招来招来招来招来招来招来ッ!」
「グ、オ、オ、オ、オ、オ、オ……!」

ドドブランゴは僕の位置を見失っていない!
ジリジリと詰め寄り、高く、12メートルも上に掲げられたその豪腕は、振り下ろせばもう僕の位置!
やがて限界はやってくる。

「―――――――しょうらぃいいいッ!」
≪ポーン! スキル「天罰招来」を使用するには魔力が――――――
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

――――――魔力……切れ?
間に合わなかったのか!?
最後の足掻きとビーナスを掲げようとし――――――
ゴォ、と空を裂き、迫る死の豪腕。
だが、またもやその一瞬前。死を前にして、奇妙なほどにゆっくりとそのナレーションは流れた。

≪――――――スキル「穏行術」はスキル「暗殺術」に昇華――――――≫
≪スキル「暗殺術」が発動――――――スキルが切れるまで――――――残り18秒です。≫

――――――ッ!!

(うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!)

即座に後ろに向かって全力で跳ぶ。
間に合うわけがない、すぐに―――あいつの爪が―――――防御しろ!

――――――ガギャン!

ビーナスが、体の前に掲げていた唯一の盾が、剛爪の前に一瞬で砕け散る。
真っ二つに折れ、飛び散る黄金の飛沫。
ビーナスはその身を用い、黄金にも勝る一瞬を稼いでくれた。
腕を震わせる衝撃を「身体制御」で上手く吸収し、ビーナスを破壊することで少し速度の鈍った、振り下ろされる爪を蹴る。
そして僕は空中へと飛び上がる。

姿が見えない僕の行方を、爪に感じた反動で知ったのか、ドドブランゴは逆の腕を振り上げる。
怒涛の連撃。どうやったって僕の敏捷では避けれない。だが――――――

「天罰招来!」
【おぉおおおおおおおおお!】

ファンファーレが追いついた! 僕の魔力は回復している!

バチィ!

一瞬止まる腕、だが、またもやその一瞬で僕にとっては十分だった。
何故なら僕には、――――――「空中着地」がある!

僕は『空』を蹴り、斜め下へと急降下する。頭上で、豪腕が暴風を巻き起こす。
地面をへこませないよう軽やかに着地、次いで、すぐさま走り出す。

もちろんドドブランゴとは逆に!

(に、げ、ろォオオオオオオオオオ!)

僕は脱兎の如く、その場を去るのだった。






18秒。それは長く、そして酷く短い。
結局僕は密林まで逃げ切れなかった。
潜んだのは森丘フィールドの森の中だ。
だが、ドドブランゴの鼻や耳から逃れることは出来たらしい。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

よく、生きていた。
死んでも全然おかしくなかった。
スキルを限界まで行使し、何度も分の悪い賭けを打ち、その結果何とか生を拾った。

「はぁ……はぁ……。はは……今さら……はぁ……震えが……ははは。」

膝には力が抜けて力が入らない。
いや、全身から力が抜けていた。
もう、立つことなんかできそうにない。

「疲れちゃった……。」

少し、眠りたい。

その時ファンファーレが鳴る。
今さら何? と思うハルマサの頭に響いたのは――――――

≪一定以上の脈拍を一定時間以上維持し、直後に睡眠に入ろうとしたことにより、特性「桃色トーク」を―――

桃色特性の取得を知らせるナレーションだった。

「桃、色………。」

桃色、桃色ねぇ………何もこんな時に、ねぇ?

「ふ…………ふふ。ッフフ、アハハッ」

何とも力が抜ける。こんな脱力感、今までなかった。 ダメだ。もう無理。
相変わらずの雰囲気台無しなナレーションが、可笑しくて、可笑しくて仕方がない。
ハルマサはこみ上げてくる笑いを我慢できなかった。

「……フゥ、涙出てきたよ。フフフ。」

涙を拭っていると、ナレーションはちょうど終わるところだったようだ。


―――送ります。幸せになれよー!≫

ナレーションのお姉さんの声は、とても陽気。
じんわりと、心に染み入るものがある。


―――うん。ありがとう。


自然と感謝が口からこぼれた。

どうもありがとう。

ハルマサはどこか幸せな気持ちで、眠りに付くのだった。






<つづく>


ステータス


ステータス
佐藤ハルマサ(18♂)
レベル:6
耐久力:252→367
持久力:302→616
魔力 :178→1,414
筋力 :337→344
敏捷 :479→1,091
器用さ:217→1,012
精神力:453→856
経験値:388 あと250

特性

桃色トーク


昇華スキル

姿勢制御Lv4:117 →身体制御Lv6:362……New!
穏行術Lv5 :234 →暗殺術Lv6 :389……New!
跳躍術Lv4 :105 →空中着地Lv6:377……New!

スキル

両手剣術Lv4:87 →94
突進術Lv4 :119→121
撹乱術Lv6 :130→382  ……Level up!
走破術Lv3 :26 →77   ……Level up!
撤退術Lv5 :114→287
防御術Lv5 :87 →201
天罰招来Lv7:102→1072 ……Level up!
祈りLv5  :180→300  ……Level up!
雷操作Lv7 :0  →646  ……New! Level up!
魔法放出Lv5:0  →266  ……New! Level up!
戦術思考Lv5:69 →275  ……Level up!
回避眼Lv6 :151→424  ……Level up!
観察眼Lv5 :161→302
鷹の目Lv3 :14 →32   ……Level up!
聞き耳Lv5 :190→299
的中術Lv4 :77 →82
空間把握Lv6:86 →334  ……Level up!


□「桃色トーク」
 異性を魅了する語り口。あなたが語る物語は、異性の興味を引き付けます。くだらない話でも問題なし! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。

(一定以上の脈拍を一定時間以上維持し、直後に睡眠に入ろうとしたことにより、特性「桃色トーク」を取得しました。終わった後、すぐ寝るなんて許しません! イチャイチャしながら素敵な話をして欲しい! 寝付きの良すぎるあなたにこの特性を送ります。幸せになれよー!)
※色々台無しなので本文ではボカしたんだぜ!

■「雷操作」
 雷を制御する技術。魔力を用いて、外界の雷を制御する。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、制御可能量(規模)が増加する。

■「魔法放出」
 魔法を体外へと送り出す技術。全ての魔術特技に通じる基礎。熟練に伴い、魔力にプラスの修正。熟練者は、手足など末端から魔力を放出することで、体の動きを加速、減速する事が可能となる。

■「身体制御」
 「姿勢制御」の上位スキル。体の動きの制御に加え、衝撃の吸収を行える。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、一定時間に衝撃を吸収できる量が増加する。状態異常「よろめき」に耐性が付く。

■「暗殺術」
 「穏行術」の上位スキル。持久力を消費することで移動時にも透明化を保つことが可能となる。非移動時でも持久力を消費する。熟練に伴い、持久力にプラスの修正。[持久力/(30-(スキルレベル))]秒、スキルは持続する。発動していた時間に応じた持久力が消費される。※発動継続時間は(持久力の数値)秒以上にはならない。

■「空中着地」
 「跳躍術」の上位スキル。気体に対して任意の場所を、一度踏むまで足場にする事が可能となる。熟練に伴い、敏捷にプラスの修正。レベルの数だけ空中に足場を作れる。






<あとがき>
招来招来鬱陶しいよ!(挨拶)
昨日、桃色を見直すこと間違いなし!とかあとがきで予告したけど、大豆の筆力では、書きたい事が上手く表現できないんだ―――!
という訳で、ホラ吹きになってしまった。反省。

あと、感想マジありがたいッス! 元気出ます
このペースで書き続けられるのも、感想のお陰……って言うのは過言でもなんでもない、真実なのだぁああああ!

明日も更新するよ!


>セーブシステム
セーブ……だと……?
いやそれはちょっと……しかし……いやいやいや。
惑わされるな私!



[19470] 29(修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/19 17:26
<29>

どうも、ハルマサです。
目が覚めて、ステータスを確認してみたら、吹いてしまいました。
4ケタいっとる――――――!
敏捷もついに常人100人分!
100倍の速度で動けるとして、100メートルを何と0.15秒(くらい)で走れるのだ――――――!(秒速600m以上、マッハ2くらい?)
って流石に無理っぽいですけどね。そんな単純な話じゃないだろうし。
とにかくもう刃牙レベルは越えてしまったかも知れんね……。現在はH×Hレベルくらいか?
あと、魔力がフィーバーしてます。なんと1400!「天罰」使いまくったからなァ……。
これ、一回の使用で熟練度が20上がるとして………50回近く雷を使ったことになる。
それでも大して効いていなかったドドブランゴって一体、耐久力いくらなのか。よく生き残ったなァ……。
あ、ドドブランゴはもう近くにいません。
真っ先に確認しましたとも。

死闘を生き抜いたハルマサ。
目が覚めて、ある程度体のダメージが抜けていることを確認した後は石を拾い集めていた。
まずは戦いの最中に最高のフォローをしてくれた、女神様(仮)なる精霊少女を奉る祠を作ろうと思い立ったのだ。
この辺りハルマサは律儀であった。

(どんな祠がいいんだろ? 小さな洞窟型? ストーンサークル?)
【そんなもの要らんわッ!】

なんか反応返ってきた――――――!

≪神または精霊からの干渉により、「祈り」スキルが発動しました。≫

ちょ、この子フリーダム。

≪「祈り」の熟練度が320.0を越えました。スキルのレベルが上がりました。「祈り」が規定のレベルに達したことにより、スキル「祈り」はスキル「神降ろし」に昇華します。熟練に伴い、精神力にボーナスが付きます。≫

しかも昇華した!

■「神降ろし」
 「祈り」の上位スキル。魔力を用いることで、精霊や神を自分の体に憑依させる事が出来る。恩恵を願うこととは別に、時間当たりで魔力を消費する。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。[魔力/(30-(スキルレベル))]秒、スキルは持続する。※発動していた時間に応じた魔力が消費される。※発動継続時間は(魔力の数値)秒以上にはならない。

ほほぅ。
スキルに対する情報が少なすぎる現状では、意見をもらえる精霊と会話できるのはすごく助かるかも。
今僕の魔力1272/1400で、スキルはレベル6だから、1272÷24でえーと……53秒しか話せないけど。

早速行くよ! お礼も言いたいしね。

「えーと……神降ろし!」

心に女神様(仮)の声を思い浮かべながら呼んでみたが、違う人が来る可能性もあるんだろうか。
空から、緑色の光が流星のように落ちてきて、ズギャーンと僕に直撃した。

【よくぞ我を呼んだ! 褒めてやる!】

頭の中で声が響く。ああ、女神様だ。良かった良かった。相変わらず綺麗な声ですね。

【き、綺麗などと……言うでないッ!】

僕の体を包む緑色の光が強くなる。照れ屋さんだなァ……。
あれ? 何か傷が治っているような。

【ふッ、我を憑依させれば、それくらい当たり前なのじゃッ!】

へ、へえぇ……。凄いんですね。まわりの木とか悲惨なことになってるけど。
もののけ姫のあのなんちゃら神状態だよ。歩くだけで通り道の草が枯れていく……!
常時周囲からライフドレインとか流石ですね……そういえば名前教えてもらえませんか? 何時までも女神様じゃなんなので。

【きさ、ぐぅ……! わ、我は女神じゃ! 女神なのじゃ! 黙って女神と呼べぇ!】

は、はい。すんません。

こんな感じで、お礼を言ったりとか、短い間だけど精霊の女神様と心温まる触れあいをした。
大した情報は得ることは出来なかったが女神様は最後に、

【祠なぞいらん。代わりにこれを体に刻んで置け。我が貴様の体に留まりやすくなるのじゃ。ではさらばじゃ! また呼ぶが良い!】

そう言い、緑の光を操って、僕の左手の甲に刺青のようにマークを残して去っていった。
左手のマークは、黒い鎌がしゃれこうべを脳天から突き刺している構図である。
何かアメリカンチンピラの刺青っぽい。アメリカンチンピラって何だ。
ともかくこの絵から連想する像は、僕としては一つしかない。

「……死神?」

女神と呼ばれることに何か思うことがあるんだろうなァとは思っていたけど、何となく理由が分かるような分からないような……
もしかしてライフドレインの方が本業なの?
というか精霊じゃなくてリアルに神様なのかも。神様っていっぱいいることになっちゃうけど。
まぁ僕にとっての、二人目の女神様であることは間違いない。もちろん一人目は閻魔様ね。
という訳で、これからも女神様と呼ぶことにしよう。

ちなみに女神様憑依中は、結構な速度で熟練度が上がっていた。精神力が1000近くになっている。
やっぱり色々規格外な方だなァ。

さて、魔力が空になったのだが、以前よりも魔力の回復が早くなっているような気がする。
以前は30秒くらいで1回復だったけど、今は10秒くらいで1回復している。
結構すぐに回復しそうだ。
僕は回復するまですることを考えて……そういえば武器が砕け散ったことを思い出した。

あああ……ビーナス!
ビーナスカムバ――――――ックッ!

と嘆いていても始まらない。どうするか考えなければ。
これから武器無しでやっていく?
NON!
ドドブランゴとかに素手で殴りかかれと? 死ぬわッ!
加工技術的なスキルを上げる?
NON!
材料のある位置とか知らないし、奴らに通じるような武器を作るまで何時までかかるか分からない。
雪山で、伝説の武器とかを探す?
NON!
武器を見つける前にドドブランゴに会ったらどうするんだ。
じゃあ……

「アイルーさんたちに頼ってみようか。」

ビーナスみたいな規格外な武器がまだあるとは思わないが、アイルーのところで加工技術を学べば、加速度的にスキルが上がるだろう。
また密林に逆戻りだが、仕方ない。

マッハの速度で駆けつけます!
ビューン!

空気の壁を越えたような、そんな感じがした。
意外と硬かったです空気の壁。耐久力減っちゃったぜ!





そしてたどり着いたココット村。

「グオオ!」
「ガァ!」
「グゥオオオオ!」

どかーん! ぼかーん!

「負けるな! 押し返せッ!」
『にゃぁああああああああああ!』

また攻められとるよこの村。
そして村を攻めるブランゴ50匹くらいとは別に、違う場所で、モンスター同士が争っている音が聞こえます。

「グォオオオオオオオオッ!」
「ピェエエエエエエエエエエッ!」

ドカーン! ズガーン!

密林の一部から上空に木が吹っ飛んだり、炎の塊が噴出したりしているのが見えます。
怪獣決戦がまた勃発しているようです。
今度の怪獣はサルとトリ。イノシシはやられてしまったのか?
どっちにしても巻き込まれたら即死である。

「と、取りあえず……ブランゴ倒しとこうか。」

幸い、怪獣決戦場はかなり遠いようで、今はこのブランゴどもを倒すことにした。






「だぁあああッ!」
『グギャァアアアアア!』

今のハルマサなら、ブランゴは何匹いようと脅威ではない。
短時間でブランゴは42匹全て消えた。



ココット村でハルマサを迎えたココットは暗い顔をしていた。

「……助かった。英雄殿、感謝する。」
「あ、いえ。」
「悪いが、謝礼は後で。」
「いえ、そんな。」

ココットはすぐに踵を返そうとして、しかしこちらに向き直った。

「…………。よければ、英雄殿も我らの仲間の最後を看取ってくれないか。」
「……え?」
「一人の戦士だ。貴殿に看取られるとすれば、あれも喜ぶ。頼む。」

こっちだ、とココットは先に歩いて言ってしまう。
その先には大きな丸い岩を重ね、中をくりぬいた建物があった。
赤いペイントで何かの文字が書いてある。
あとで聞いたが、アイルーたちにとってのご神体だということだった。

ココットに次いで入り口をくぐると、日の差し込まない建物の中は、とても暗かった。
そして闇に浮かび上がるように、びっしりと白いネコがいるのだった。
中心には体中に包帯を巻かれたネコが横たわっている。
包帯の巻かれた右腕は左腕と比べれば短い。腕が千切れてしまっていた。
血も止まっていないのか、包帯は白いところの方が少なかった。

「……。 はる、まさ、ニャ?」

こっちに気付いた用で横たわっているネコは声を出す。
頭にも包帯が巻かれ片目しか見えなかったが、その目は見たことのある意志の強い瞳だ。
いくらケガを負おうと、陰りのない光が宿っている目だった。

「まさか………ヨシムネなの……?」

僕をここに連れて来たアイルーだ。
思わず近くに寄っていた。
そばで手を握って、目に涙を溜めていた美しい毛並みのネコが、場所を譲ってくれる。
感謝を言う余裕もなく、ハルマサは膝を突く。
両手で包んだネコの手は、とても小さく、熱かった。
まだ、生きていると伝えるように。そして最後に命を燃えあがらせるように。

「来て……くれ、たん……ニャ?」
「うん。あいつらは全部倒したよ。」

アイルーの小さな肉球がハルマサの指を握る。

(……この、このネコを癒して……!)
【…………すまんが、無理じゃ。貴様以外は無理なのじゃ。】

祈りは叶わず、

「最後に、こんな……が、あるニャん、て………………最高、だニャ…………」

ネコの瞳は、一筋涙を流した後、光を失った。ハルマサの指を握っていた肉球から力が抜ける。

(死んだ……)

あっけないと思った。
大きな激情も沸かず、その様を見つめるハルマサ。
「殺害精神」によって、こんな状況でも何の感情も湧かない自分に反吐が出そうだった。

「英雄殿を呼んで来ると言ってな。……無謀なオスだ。だが、我らの中で一番の勇気を持っていた。」

気付けばココットが隣にいる。
ヨシムネは僕を呼びに行くために、死んだ?
やはり、何も浮かばない。僕が早く来ていれば。つまりはそうなのだろうか。
やがてヨシムネの死体は薄れていく。
アイルーも魔物であり、その遺体は残らないのだ。
全てが消え去った後には、赤い球体が残された。「ネコ毛の紅玉」だ。
コロン、と転がったそれを見て、毛並みの綺麗なネコが涙を零す。他のネコに抱きついて毛皮に顔を埋めて体を震わせていた。

ありがとう。
何故か、ココットに感謝の言葉をかけられた。
「ネコ毛の紅玉」は、自分の死に満足したネコの魂が、形を成したものである。そうココットは言うのだった。
ヨシムネは最後に、満足して死んでいったと。
ヨシムネは僕なんかに看取られて、満足できたのだろうか。こんな僕なんかに。とても、不思議だ。


ココットは「ネコ毛の紅玉」を手に取る。

「この「紅玉」を使って英雄殿の武器を作ろう。……この者は貴殿を好いていた。どうか貴殿のそばに、この者を置いてやってほしい。」

ココット村の村長は瞳を赤くしつつ、頭を下げた。





ソウル・オブ・キャット。
出来上がった武器は、ネコの魂という名の、黒塗りの大剣だった。
刃には切った相手を麻痺させる紫電が煌く。
ビーナスよりも力を感じる、とてもよい武器。
背中に背負うと、ズシリと、とても重かった。

自分のことで精一杯の僕に、ヨシムネの魂など背負えるのだろうか。
僕はそのことをとても疑問に思う。

外はいつの間にか曇り、空は泣きそうになっていた。

<つづく>



ステータス
レベル:6
耐久力:367 →371
持久力:616 →622
魔力 :1414
筋力 :344 →355
敏捷 :1091→1100
器用さ:1012→1013
精神力:856 →977
経験値:388 →598 あと40

昇華スキル
祈りLv5  :300→神降ろしLv6:418 ……New!

拳闘術Lv4 :62 →71  ……Level up!
蹴脚術Lv3 :28 →32  ……Level up!
身体制御Lv6:362→363
突進術Lv4 :121→123
撹乱術Lv6 :382→384
走破術Lv4 :77 →79
戦術思考Lv5:275→277
聞き耳Lv5 :299→323 ……Level up!
的中術Lv4 :82 →94
空間把握Lv6:334→336

■「神降ろし」
 「祈り」の上位スキル。魔力を用いることで、精霊や神を第二人格として自分の体に憑依させる事が出来る。恩恵を願うこととは別に、時間当たりで魔力を消費する。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。[魔力/(30-(スキルレベル))]秒、スキルは持続する。※発動していた時間に応じた魔力が消費される。※発動継続時間は(魔力の数値)秒以上にはならない。



<あとがき>

今回の話の見所は前半と後半のギャ――――――ップ!




[19470] 30
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/18 14:12


<30>

「我が村の守りは堅牢でな。」

もう夜、という時間だった。
外は薄暗い。空模様は崩れ、雨が止め処なく降っている。
ネコのご神体の中で、ゆらゆらと揺れる炎を見ながら、ココットはため息を吐く。

「同属が死ぬのは本当に久しぶりで……ダメだな。いつもどおり振舞うのが、少し辛い。」

座っているハルマサに、槌が鉄を打つ甲高い音が微かに聞こえる。
違う場所にある鍛冶場では、アイルーたちが武器を作っている。
やりきれない気持ちを、ブランゴへの怨嗟を槌に込め、赤熱した金属を叩いているのだろう。
やがて、勇気の塊であったネコの「紅玉」も溶かし込まれ、鉱石の塊は一段階上のモノになる。

荒ぶる息が。振るう槌が。怨嗟に濡れて黒くなる。
悲しみの血涙が炉の中へ流れ込み、上がる蒸気が赤くなる。

やがて出来上がるのは、漆黒の大剣。ネコの魂、ソウル・オブ・キャット。

「百匹の弱者でも、一匹の強者には敵わない大陸だ。ひどい世界だここは。」

ココットの瞳には炎が踊る。横に並んで座るハルマサの影も、壁で踊っている。

「だが、百で足りなければ五百でどうだ。千匹でもそろえてやる。既に他に村には同盟の使者を向かわせたよ。」

左手で、右手を握りこむココット。

「我らの種族は、子が多く、増えるのは速い。今を乗り切れば、やがて数の力で安寧を勝ち取れるはずだ。牙獣どもに、屈してたまるか。」

牙をむき出してココットは、言い切った。
ハルマサも炎を見つつ、声を出す。

「あの、アイルーたちが皆避難できるような、安全な場所があるとしたらどうしますか?」

ココットはハルマサを、探るように見てきた。

「……。恐らく、誰も行かないだろうな。」
「…………何故か聞いても、いいですか?」

また火に向き直り、ココットは傍らに置いていたボウガンを撫でる。

「……我らは、ここに生を受けた時から苦労しながら生きている。その中で、知力を振り絞り、力をあわせ、生き抜いてきたことに誇りを持つものばかりだ。ここで逃げ出せば、これまでを全て否定することになる。それを良しとする者たちは恐らくおるまい。」
「……そうですか……。」
「そのような場所があれば、私としてはさっさと皆を送ってしまいたいのだがな。皆が行かないのだ。私が行ける筈もない。」

これは閻魔様に、アイルーを諦めてもらわないといけないな、と思った。


僕は村を出る。

「君の……夫だったんだよね。ヨシムネって。僕が……こんな僕が連れて行っていいの?」

美しい毛並みのネコは、真っ赤な瞳で僕を見る。

「あの人は、村のために全部を捧げたのニャん。だから、死んだ後くらいは…………好きにさせてあげたいのニャん。」

そして頭を下げられた。地面に涙がほたほた落ちる。

「どうか、どうかあの人をよろしくお願いしますニャん。」


僕に出来ることはないだろうか。この高潔で、誇り高い猫たちに。そして勇気を示した偉大なオスに。






外では、今だイャンクックとドドブランゴの戦いが続いていた。
呆れるほどに体力の高いモンスター二匹は、どちらが倒れることもなく、一昼夜を戦い続けている。
レベルで勝っているのはドドブランゴであり、純粋な体力ではドドブランゴの圧勝であった。
だが、形成が悪いと見たイャンクックは、空に飛び立ち、炎を吐き落とす作戦に切り替えたのだ。

いくらドドブランゴが強かろうと空は飛べない。
岩や木を投げるが、攻撃としては弱い。
ここに戦いの趨勢は逆転し、ドドブランゴは弱点属性の炎に苦しんだ。
だが、さらにもう一度、事態は転がった。
豪雨が降り始めたのだ。

雨は火の勢いを弱め、飛び続けるイャンクックの羽根を打つ。
イャンクックの体力は加速度的に減り、やがて下から飛んで来る投擲物を避け損ね始める。
もう、落ちるのも時間の問題だと思えた。



それを遠くから見ていたハルマサは、今が機だと走り出す。
音速を超える速度で、空気の壁を突き破り、自分の体力を減らしながらも一直線に二匹の怪物に近寄っていく。

(暗殺術……)

雨に隠れていたハルマサの体は、スキル発動によって完全に消え、足跡が波紋となって泥を散らすだけである。
走りつつ、ネコの魂が込められた大剣を構えて力を込める。
ハルマサの「両手剣術」スキルは成長し、特技「溜め斬り」を使いこなすことを可能にしていた。
すなわち、走りながらの「溜め」が可能となっていた。
十数秒で二匹の獣に近づいたハルマサは、地面を蹴り、空に飛び上がる。

(空中着地…一歩……)

空を蹴り、瞬く間に上空へと飛翔していくハルマサ。

(三歩……四歩……)

イャンクックまで、あと一歩の距離。「溜め」は……最終段階になった。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

光が一直線に自分に近づこうとしていることに、イャンクックが気付いた時にはもう遅い。
空を裂いて進む赤い光は、最後の一瞬霞むような速度で振り切られ、イヤンクックに叩きつけられた。

次の瞬間、周りの雨粒が弾け飛ぶような衝撃――――――轟音!

頭に信じられないような斬撃を受けたイヤンクックは急所の耳から血を吹いて、ドドブランゴとの戦いで減っていた耐久力を削りきられた。
すなわち、死んだ。たったの一撃で。

衝撃で逆方向に弾き飛ばされたハルマサは、これまでにない手応えを感じた腕を見て、その先に持つ剣を見る。
イャンクックに思い切り叩きつけたというのに、刃こぼれすらない剣は、何とも頼もしい。

その時脳裏でレベルアップ音。イャンクックを倒せたことを知るハルマサ。
これで、猫たちを脅かすモンスターが一つ減った。
またリポップするかもしれないが、少なくともすぐではあるまい。
猫たちが一秒でも長く、戦いに対して準備を整えられるように。

レベルアップボーナスによって全ステータスにボーナスが160付いたハルマサだったが、まだまだ、正面切ってドドブランゴを相手にするのは厳しい。
万全な状態のイャンクックだって怪しいところだ。
だが、このチャンスを逃せば、体力を回復したドドブランゴへ立ち向かわなければならないだろう。
それなら、今の方が有利じゃないか?

だから――――――ここで倒す!




「暗殺術」を解除したハルマサの目の先には、獲物を掻っ攫われて、怒りの咆哮を上げるドドブランゴがいた。



<つづく>


ステータス
Level up!
レベル:7  ……レベルアップボーナスは160
耐久力:371 →541
持久力:622 →838
魔力 :1414→1574
筋力 :355 →463
敏捷 :1100→1379
器用さ:1013→1211
精神力:977 →1181
経験値:598 →1238 あと40


両手剣術Lv5:94 →152  ……Level up!
身体制御Lv6:363→401
暗殺術Lv6 :389→435
突進術Lv5 :123→177  ……Level up!
撹乱術Lv6 :384→402
空中着地Lv6:377→441
戦術思考Lv5:277→294
観察眼Lv6 :302→329  ……Level up!
鷹の目Lv3 :32 →54
聞き耳Lv6 :323→342
的中術Lv4 :94 →132
空間把握Lv6:336→366



<あとがき>
ドドブランゴは空を飛べないのです! 飛べないといったら飛べないんだー!
でも試しにモンハンをプレイしてみると、オロロロロロロロロ……って言いながら飛んで行った。あれってどうなってんですかね?
しかしこのssでは飛べません。






[19470] 31(さらに修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/20 19:04
<31>

30mほど先にいるドドブランゴを見つつ、ハルマサは感慨を覚えていた。

不思議なものである。
数時間前まで、畏怖の対照でしかなかった体長10メートルのモンスターと、今はしっかりと向き合えているのだ。
精神力の向上のお陰だろうか。足は震えない。

「グォオオオオオオオオオオオオ!」

ドドブランゴが両手を挙げて叫ぶ。
同時、地面から泥を割って、ハルマサの周囲に見慣れたモンスターが飛び出してくる。
ブランゴである。
その数、一度に10匹。
泥の下で生息しているはずも無いブランゴたちを見て、ハルマサは納得する。

(なるほど、あの群れはドドブランゴが召喚していたのか。)

ドドブランゴは以前のハルマサの動きを覚えていて、数で足止めに来たのだろう。

(だけど、それはあまり意味が無いよ。)

クックを倒しレベルが上がったハルマサの動きは、スキルによって加速され、既にドドブランゴを凌駕するほどなのだ。
ブランゴに遅れを取るはずも無い。
それにいいことも分かった。ブランゴの大群がリポップによるものでないならば、ドドブランゴを倒すことでしばらく猫たちに平穏がもたらされるのだ。

(ふっ!)

常人からすれば瞬き一つの間に、まず一匹。通り過ぎざまに切り捨てる。
すぐに切り返し、もう一匹。早すぎる攻撃が通り過ぎた後に血を噴出させる。
これでもまだ、全力じゃない。
全力で動いたら、ソニックブームが発生する。
敏捷はスキルを発動せずとも1000を超えるが、耐久力は550程度しかない。
動いて生じる圧力に、体が耐えられないのだ。
自らの体を傷つけるため、空気の壁に当たらないギリギリのラインを、ハルマサは加減しつつ動いている。
しかしそれは、秒速300m前後という、脅威の速さなのだった。
ブランゴたちは一方的に蹂躙されていった。



ビ、と剣を払い、刀身に付いた血糊を飛ばす。10匹倒したことで、得た経験値は20。
レベル上昇に伴い、獲得経験値は本当に少なくなっている。
半分の、しかも切捨て。次レベルが上がればブランゴからの経験値は1になる。
もう一つ上がった時、切り捨てられず、1のまま保持される可能性はある。
だが、そこまで甘い世界でないことを、ハルマサは肌で感じ取っていた。

戦いの最中、常に警戒していたのだが、ドドブランゴは動きを見せなかった。
気にしすぎて損をした、と思った直後、重大なことに気付く。

(そうか!体を休めていたのか!)

体力の回復、そのための足止めか。
ならば、速攻で倒されて、きっと歯噛みしていることだろう。

畳み掛けるなら、今。
全力で、仕留める。
今の僕と、この魂の剣なら、きっとできる!
ソニックブームで体力が減らされるなら……常に回復すれば良い!

(魔力がきれる前に、決める! ……「神降ろし」!)

上空から飛来する緑色の女神が、僕の体に乗り移る。

【ふふん。なにやら面白い状況じゃの。】
(女神様。何秒もちますか?)
【うむ……この感じじゃと、60秒くらいじゃな。】
(一分。それだけあれば――――――)



――――――十分だ!



ドォン! と空気の分子を叩く音がする。
地を蹴った途端、視界がとんでもなく早く流れ、ドドブランゴに一瞬で接近する。
奴の反応より、僕の動きの方が、やや速い!
跳びかかり、横に跳躍し、空中に飛び上がりながら、針金の如き剛毛に包まれた皮膚を切り裂き続ける。
魂の剣はその切れ味をいささかも減させず、それどころかますます切れ味を増すように、ドドブランゴの体を切り裂いていく。

その間にも、速さによって破壊されたハルマサの額から。目から。鼻から。口から。筋肉から。体中から血が流れ、ライフドレインの緑の光が補修する。

服は既に泥と血液に黒く塗れ、手に持つ剣はもとより黒き怨嗟の体現だ。
斬るたびに、跳躍するたびに、獣の反撃を避けるたびに、スキルは上がり、攻撃は重く、動きはますます早くなっていく。
逆に、ドドブランゴは剣の付与効果、「麻痺蓄積」によってどんどん体が重くなる。

「グォオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「あぁあああああああああああああああああッ!」

雨の中、血を振り散らし、身を削りながら巨獣に挑む、神速の黒鬼がそこにいた。


【あと10秒しかないぞ。どうするのじゃ?】
「――――――じゃあ、一気に決める!」

「暗殺術」を発動。ハルマサの姿は透き通る。
姿を消して獣の姿を切り刻みながら獣の巨躯を駆け上るハルマサ。
そしてそのまま空へ。ドドブランゴは突然消えたハルマサの姿を見失っている。
そのまま、オロオロしとけばいい!
一歩、二歩、三歩、四歩!
空を踏み、ロケットのように飛び上がったハルマサは、ヨシムネの魂がこもった剣を頭上に掲げて力を込める。

一段階、二段階!

緩やかに惰性で空へと上っていたハルマサは、空を蹴る。行き先は、もちろん下。

ドゥン! 音速を超えた感触! これで五歩!

≪――――規定のレベルに達しました。スキル「突進術」はスキル「突撃術」に昇華――――――≫

重力加速度を加えて、真下に向かうハルマサ。その体が、昇華したスキルの効果で青く輝く。
体内で生じた強烈な力が爆発しそうに荒れ狂う。空気抵抗で血を噴出しつつ赤く光る巨剣を構えたハルマサは、輝く一筋の彗星のように巨獣へと迫る。
轟々とうねる風の中、悪鬼は地上へと向かう最後の一歩を踏み込んだ。

三・段・階・目ッ! 踏み込みと同時に振り下ろされる漆黒の剣!

「ぁあああああああああああああああああああッ!」

カッ――――――!

解放された力は、ドドブランゴの脳天を一瞬にして突き破り、骨を、肉を切り裂きながら地面へと到達。
轟音が響かせながら地面が爆砕する。
ハルマサは、「身体制御」で衝撃を吸収するも、全ていなすこと叶わず、紙切れのように吹き飛ばされた。

そして落下。
ハルマサの体は限界を超えていた。内臓は軋み、骨は折れ、肉は切れ。
仰向けになったハルマサは動くことが出来なかった。

【無茶をするのぅ。我が守りの壁をつくらんかったら、体がバラバラになっておったぞ?】

周りの草木が急激に枯れ果てている。
ハルマサは口にたまった血を吐いて、体の力を抜いた。
雨が気持ち良い。

【治しきれなんだが、時間じゃ。】
(ありがとうね。)
【ふん……また呼ぶが良い。貴様の体は居心地がいいゆえな……】

女神様はモニョモニョ言いながら消えて行った。
本当に、彼女には感謝仕切りである。




フゥ、と息をつく。
湿度飽和状態の雨の下では、吐いた息が暖かければ、それは白い蒸気となる。
それを見ながら、ハルマサはなんでこんなに無茶しちゃったのかな、と考えていた。

別にここまでやらなくても、勝てていた。
「天罰」スキルを使えば、隙を作るのは簡単だし、今の敏捷ならその隙を突く事も容易かっただろう。
だけど、ガムシャラにやってしまった。
いや、やりたかったんだ。

(……そうか。)

ハルマサは得心がいったよう瞳を開けると、右の手に持つ剣を見る。

(ヨシムネの仇を取りたかったんだね、僕は。)

「殺害精神」のせいで何も思わなかったなんて、嘘だ。
ホントは悲しい。
ヨシムネが死んだ時、何も感じなかったなんて、嘘だ。
だってこんなに胸が痛い。
だいたい説明に書いてあるじゃないか。
「薄れる」だけだって。

それに、君が死んでしまったって、君との記憶は変わらない。
楽しくって温かかった記憶は忘れたくても忘れられないみたいなんだ。

君が死んでしまって、寂しいよ。
だから、今、君を想って泣いても変じゃないよね。


「―――――、――――ッ! ――――!―――――ッ!」


雨音に全てはかき消され、情けない声は自分にすら聞こえない。
涙は雨で分からない。

だから僕は、勝手に死んだヨシムネに、勝手に怒って、勝手に謝って、そして勝手に泣いた。



<つづく>





<おまけ>

ココット村でハルマサは体の汚れを落としていた。


「ハルマサ、湯加減はどうニャ?」
「ん? あぁ、いいよ? ちょっと傷にしみるけど。」

ハルマサは苦笑しつつ、五右衛門風呂の下で、筒を咥え、火に息を吹き込んでいたアイルーを見る。
アイルーは汗を拭うように額を擦ると、こっちを見上げてきていた。
その顔を見てつい笑ってしまう。

「顔、煤で黒くなってるよ。」
「んニャ!?」

顔を手で擦る様が愛らしくて、ネコってほのぼのするなァ、とまた笑ってしまうハルマサである。

「ねぇヨシムネ。」
「何ニャ?」

こちらを向くアイルーに僕はなんでもない風に言った。

「あのね、僕は多分ここを直ぐに出て行くんだけど、僕が君に付いて来て欲しいって言ったら、ヨシムネはどうする?」

瞳に石を滾らせる猫。それって僕に多分一番足りないものだ。
だから一緒に行けたらな、と少し思った。閻魔様のとは別にね。
ネコはきょとんとした後、思案顔でヒゲを撫でる。

「ニャ……。すごく魅力的な提案ニャけど……遠慮しておくニャ。」

まぁそうだよね、と思った。

「ゴメン、無茶言って。」
「あ、そうじゃないのニャ。すごく行きたい気持ちもあるのニャ。だけど……」
「だけど?」

アイルーは肩をすくめる。やたらこなれた仕草だった。

「ここには愛する妻がいるニャ。かなりの美ネコだから放っておけないのニャ。」
「ええ!? 結婚してたの!?」
「あ、何ニャ? 信じてないのニャ? 本当なのにニャ。」
「いや、別に信じてないわけじゃなくて……。結婚ってどういうのか想像つかないから。僕って女、じゃなくてメスと付き合ったことも無いし。」

アイルーは驚いた後、ひどく可哀相なものを見る顔をする。

「なんか不憫なのニャー……。今日の宴、僕の妻でよければお酌してもらうと良いニャ。」
「いや、なんか余計に傷つく気遣いだよ、それ。」
「ふふん。あまりの美しさに、腰を抜かしても知らないニャ?」
「ふふ、なんだよ、それ。」

あの毛並みの美しさはマタタビを越えてるニャ、と力説するアイルーを見つつハルマサは微笑む。
彼との語らいはとても楽しかった。
そういえば、初めて出来た友達なのかもしれない。ネコが初めてとか、僕スゴイなァ……。
あれ?友達って思ってていいのかな?

「あの、ヨシムネ?」
「何ニャ。改まって。というか早く出ないと茹で上がっちゃうニャ?」
「あ、うん。いや、そうじゃなくて…………僕たちって、友達かな?」

アイルーは、何を言ってるんだという顔をする。

「そういうことは聞いちゃダメニャ。言葉にするもんじゃないんだニャ。」
「そういうもんかな。」

相槌を打つハルマサに、まぁ、とアイルーはトコトコと風呂の出口のほうに向かいながら言った。

「友達ニャんて付き合っていくうちに、勝手になるもんだニャ。」

その時アイルーは背を向けていたのだが、恐らく照れていたのではないか、とハルマサは思うのだった。



ヨシムネとの、初めての友達との、記憶だ。


<おまけ終わり>







ステータス

レベル:7→8  ……レベルアップボーナスは320
耐久力:541 →1005
持久力:838 →1734
魔力 :1574→1894
筋力 :463 →1641
敏捷 :1379→3175
器用さ:1211→1851
精神力:1181→2248
経験値:1248→2548 あと10

昇華スキル
突進術Lv5 :177→突撃術Lv6:585 ……New!


両手剣術Lv7:152→872 ……Level up!
身体制御Lv7:401→721 ……Level up!
暗殺術Lv7 :435→792 ……Level up!
撹乱術Lv7 :402→1023……Level up!
空中着地Lv7:441→874 ……Level up!
撤退術Lv6 :287→437 ……Level up!
神降ろしLv7 :418→982 ……Level up!
戦術思考Lv6:294→411 ……Level up!
回避眼Lv7 :424→729 ……Level up!
観察眼Lv6 :329→487
鷹の目Lv5 :54 →276 ……Level up!
的中術Lv7 :132→637 ……Level up!
空間把握Lv6:366→575


■「突撃術」
 「突進術」の上位スキル。敵対する対象に向かって移動する際、筋力と敏捷にプラス補正。助走を一定距離以上とった攻撃時に、さらに筋力にプラス補正。熟練に伴い筋力と敏捷にプラスの修正。スキルレベルの上昇に伴い、二度目の筋力補正が発動する助走距離が短くなる。[(20-(スキルレベル))×10]m以上の助走距離でスキル発生。※10m以下にはならない。


<あとがき>
必殺、後だしエピソードッ!(あとづけとも言う)

「ズルい、これはズルいですね大豆(1)さん。」
「そうですね大豆(2)さん。おまけを読ませといて、もう一度本編を読み直させようという魂胆が透けて見えますよ。」
「これはヒドイ。作者は爆発すればいい。腕とか。」
「いえ、こんな駄作者のssでも、楽しんでくれている読者の方がいるそうですよ?」
「なるほど。それでは、寝食省いて書き続けろ、って感じですかね。」
「読んでいただけるだけありがたいと思うべきですよ。」

ホント読んでいただいてありがたいですッ!




[19470] 32(修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/19 17:06

<32>



条件は揃った。
最高神が設定した第一層の仕掛けは簡単なもの。
プレーヤーがダンジョンに入ると同時に活動を始める、ドスランポス、ドスファンゴ、イャンクック、ドドブランゴの四匹の魔物を消滅させること。
前二匹は魔物同士の争いで消滅。後者二匹はプレーヤーが討伐した。
今、神の仕掛けたスイッチが、第一層最後の魔物の目を覚ます。




ピシリ。

小さいながらも不吉な音が雪山の頂上で、微かに響く。
何かが割れる音。

ピシリ。ピシリ。ビシッ! ビシビシビシ!

岩のように灰色の塊の表面に、無数にヒビが入る。
そして開いた隙間からは、ヒュウヒュウと風が吹き出してくるのだ。

バキバキと音をたて、灰色の塊の頭から尻まで、一直線にヒビが入る。
そうして硬質の殻を割り裂いて出てくるのは、まず背中。
そして長く細い首。いや、細いと言っても、それは全体を見ているからこそだ。
単体で見れば、そこらの木のよりは断然太い。
続いて引き抜かれるのは大小さまざまな角が後ろに向かって生えている頭だ。
顔は前後に長く、鰐のような長い口がずらりと鋭利な牙を揃えている。
それは龍の顎そのまま、色だけがくすんだ灰色の頭である。

目が覚めた第一層の守護者は、身を包んでいた邪魔な殻をはね飛ばし、大きく羽根を広げる。
蝙蝠のような翼は、しかし鈍色に硬質な輝きを放つ。
守護者は久しく動かしていなかった口を開く。パキパキと硬化していた鱗が剥がれ落ち、煌く金属質の鱗が顔を出す。
さぁ、叫ぼうか。大地を竦ませる、龍の咆哮を。

守護者の名をクシャダオラ。嵐を呼び寄せる古代の龍である。





雨がようやく収まってきたという頃。
友との別れを悼んで下がっていたハルマサのテンションも、どうにか盛り返してダンジョンクリアに目が向き始めた。
ドドブランゴ戦の疲れを癒し、何か新たなスキルを習得するか、このまま雪山に吶喊するか悩んでいた時である。


「――――――――――ォァァァァァァァァ―――――」


遠くから、相当に遠くから、身を竦ませるような声が届いたのだ。

(なに? 何だ!?)

猛烈な悪寒。
ハルマサは、たまらず「聞き耳」を全力で行使しつつ、高い木に登る。
「鷹の目」はレベルが上がっており、密林にいながら、雪山を見通せるまでになっていた。

「あれは……嵐?」

視界の先、焦点をあわせた先では、雪山の頂上辺りで、暴風が渦巻いている。
その中で、何か大きなものが蠢いているのが見えた。

まって! あれ、かなり大きいんですけど!
楽勝で10メートル越えてるし≪20m83cmです。≫あ、ありがとう「観察眼」。絶望をどうも。

あ、待てよ名前くらい≪ポーン!「観察眼」Lv9を習得する必要が≫無理だー!
こいつこそ真のボスだよ! なんか分かるもん!
ドドブランゴあんなに強かったのに、僕ってめっちゃチートだと思うんですけど、それでもすんげぇ苦労して倒したのに!
それより強い敵来たー!
ドドブランゴの二倍強い敵来たよー!?

勝てるわけ…………。

いや。諦めるのはやめよう。
僕はこのソウルオブキャットに相応しい人間になりたい!
勇気の塊であった僕の最初の友達に、誇れるような人間になるんだ!

大体考えてもみなよ。レベル15の敵とか来なくて良かったでしょ!?
あの敵なら、何とか……何とか……出来たら良いなァ。

そのためには、まず勝てそうな材料を調えるんだ!
勝負のためのカードをネ!
あ、今チラッと見えたよ! 顔とかちょっと見えちゃった! すぐ隠れちゃったけど!

ねぇ……今のってクシャルダオラじゃない!?
村クエの星4つで出てくるくせに、やたら強かったクシャダオラじゃない!?

クシャルダオラって20メートルもあったのかぁ……勉強になるなァ……知りたくなかったなァ……。
とりあえずまだ僕には気付いていないみたいだし、今の内に出来ることはやっておかなくちゃ。

クシャルダオラの弱点は?
はい!分かりません!

じゃあ弱点属性は?
はい! 知りません!

何か有効な武器は?
はい! ライトボウガンで通常弾撃ったら跳ね返ってきてエライ目にあいました! すぐ3死しました!

何か効くものは?
はい! 毒投げナイフとかが支給されてましたけど、全然当てれませんでした! フワフワ跳びすぎです!


結果。

「毒が効くかも!」

まぁそれ以外がさっぱり分からなかったって言うのが本音だね。
ていうか過去の僕はもうちょっと頑張るべきだったんじゃないだろうか。

攻撃力守備力32倍のチート使って倒したことはあるけど、あの時も風で吹き飛ばされまくって大変だった。
今の僕は何が出来るんだろうなァ。
吹き飛ばされてオウフ! ッてなったら即死だよね多分。
あ、オウフ! ッて言うのは地面に叩きつけられたときに出す予定の声ね。
そんなん出す間もなく逝っちゃう可能性の方が高いけど。

正直毒とかどうやって使えば良いのか分からないし、何か勝てそうな要素ないかなァ……。
とステータスを見ていた時、僕は気付いた。

(そういえばもう少しでレベル上がるんじゃン!)

こいつぁ上げとかねぇと後悔するぜ! ッて具合にテンションの上がった僕は、モンスターを索敵する。
森丘の……あっちと……あっちとあっちに、ランポスがいる!

少しでも経験値を得るため、レベルが高くて群れているランポスをターゲットに据えて、ハルマサは動き始めるのだった。



<つづく>


今回ステ変化は些細なものなので、なし。


<あとがき>
止まった時が…ゴホゴホ…か、風邪引いたー!? 喉イテェ……!
ちょっと張り切りすぎた結果がこれだよ!な29~32話の更新でした。
お粥旨いッス。


雰囲気が違って戸惑った方も多いと思います。
作者自身どうしてこうなったのかよく分からんのんです。
もしや風邪で頭が……


そして四の五の言う前に、
こいつ(↓)を見てくれ。

耐久力:10209
持久力:7809
魔力 :9985
筋力 :14283
敏捷 :8534
器用さ:8321
精神力:11272

Q:だーれだ!
A:クシャルダオラー!(ポケモン風)


明日も更新!

感想いっぱい来てやばいうれしい。
>隠形術が正しい
ですよねー! でもそれ言うなら、「跳躍術」とかもっとほじっていいとこあるんですよ。落ち着いたら直したいぜ……!

>×ドドファンゴ
ひでぇwww ヤマヤマヤーさんサンクス!

>走りつつ発動すると16秒よりも短くなる
これ、使っているうちに熟練度あがっちゃうんでほんの目安にしかならないんです。今回の「神卸し」はそうでもないんですけどね。




[19470] 33
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/06/19 17:31


<33>



ハルマサは、焦っていた。

(モンスターが足りない!)

森丘中を回っても、ランポスは3匹しかいなかった。
通りすがりに、アプトノスを倒しているが、アプトノスに至っては、経験値はたったの1。

(あと、たったの2でレベルが上がるのに!)

やがてアプトノスの気配も絶え、ハルマサは歯噛みする。
クシャルダオラは、今この瞬間に動き出してもおかしくない。
くそう、早くリポップしろ! …………リポップ?

(異常に早くリポップする奴がいたじゃないか!)

僕を何度も何度も殺してくれた最速のブタが!
あいつのレベルは……4?5?
まぁ3ではなかったと思う。
だから、いずれにしても経験値は貰えるだろう。

(よし! 急げ!)

ハルマサは走りだした。








いまだ、クシャルダオラは雪山の頂上にいた。
彼はこの階層の最終関門。
渦巻く暴風の守護龍は、最も高き頂きにて地上を睥睨し、挑戦者を待つ。








「聞き耳」によって獲物を見つけ出したハルマサは、猛然と迫り、通り抜けざまに一閃。まさに鎧袖一触。
モスに何もさせないまま、速やかにその命を絶った。

(あと1!)

ハルマサの見ている前で、立ち上るもや。
もやが形を作る前にハルマサは近寄り、ソウルオブキャットを振り下ろす。
ズン、と地面にめり込む漆黒の刃は、生まれたばかりのブタを両断していた。
今や全力で剣を振れば、スキルや特技によるプラスや補正が無くとも、容易く地を割るハルマサである。
耐久力が1しかないモスは、彼にとって豆腐と同じであった。

≪チャラチャラチャーチャッチャー! 魔物を撃退したことにより、経験値を1取得しました。レベルが上がりました。全ステータスにボーナスが付きます。≫

今回のレベルアップボーナスは640。
加速度的に取得ボーナスは大きくなっている。
ステータスで確認すれば、持久力・魔力・筋力・器用さが2000ポイントを越え、敏捷などは4000ポイントに届こうとしている。
これで、何とか戦えるだろうか。
……分からない。敵の強さは霞の向こうにあるように見通す事が出来ない。
ならば、「観察眼」の熟練度を上げて、強さを確認してから行くのか?
そんな悠長なことをしている暇があれば良いけど。

フゥ、と息をつく。
とりあえず「観察眼」を発動させつつ、辺りを見渡す。
熟練度はほとんどと言って良いほど上昇しない。
五分で、1上がるか否か。

ハルマサのレベルが9に上がる時、必要とした経験値は1000を越える。
スキルのレベルアップがほぼ同じ形式であることを鑑みれば、一日かけても200程度しか上がらない現状、レベル11のクシャルダオラを「観察」することはいつまで経っても無理だ。

(何時までもウダウダ言ってられないね!)

ハルマサは魂の剣を背中に背負うと、密林の地を蹴り、駆け出した。





――――――敵が接近しているッ!
守護者は、その長大な体を歓喜に震わせる。
守護龍の目は千里を見通す眼球でできている。
その目に映る、小さく、しかし疾い生き物。
草の短い土地を走る魔物ではない『強者』を認め、龍はゴォオと風を吸う。
そして放たれる無色のブレス。
額に生える角を起点として風を制御するこの龍にとって、風の制御は呼吸よりたやすい。
その吐息は何処までも、拡散せずに届くのだ。

龍の口から放たれる圧縮された風の奔流は、わずかな時間で大陸の空を渡り、ハルマサへと襲い掛かった。






森丘を走っていたハルマサは目を疑った。
煌く視界。この光景は疑うべくも無い「回避眼」が発動したモノだ。
だが、視界を占める攻撃予知範囲の広さが異常。
見渡す限り全て攻撃範囲。前後左右、上空も!
そして攻撃距離も異常。
攻撃元は、雪山にいる!

(な!? 30キロあるのにッ! ふざけてるッ!)

膨大な風が周囲の空気を飲み込みつつ、迫る。こんなの、出来ることは一つしかない。
ハルマサは、攻撃範囲を離脱しようと左に飛びつつ、思考で「神降ろし」を発動する。

(女神さん! 何とかしてくださいッ!)

ズギャーン! 風の奔流に勝る高速で、緑の女神が身に宿る。

【また斯様な状況か。まったく貴様は退屈させんの。しかしまた10秒しかもたんぞ?】
(く、その時間内に攻撃範囲を離脱します!)

ヒィン! と体が、濃い緑色に包まれる。ドドブランゴ戦で命を救ってくれた、周囲の植物に優しくないバリアーだ。

【ふむ、まぁ場所を移ればもう少しは持つからの。精々足掻くが良い、人間。】

直後、風の奔流が地を抉り、ハルマサを枯葉のように吹き飛ばす。

(じょ、冗談じゃない!)

ハルマサと一緒に巻き上げられた、土つきの大木が、何かで――――――恐らく圧縮されて生じた真空刃で真っ二つになる。
何とか「身体制御」「空中着地」で態勢を立て直そうとするハルマサ。
だが、永遠に続くと思われるような風の奔流、その内部で断続的に発生する真空の刃がバリアーの上からハルマサの体を翻弄する。
もしバリアーが無かったら、すでにハルマサは細切れだ。そう、隣に浮かぶ元大木、現木片のように。
木片は直ぐにすりつぶされて塵になった。

【あと5秒じゃ。】
(く…………ッ!)

地上数十メートルに巻き上げられたハルマサは突風に舞う木の葉のように、振り回される。
耳は絶えずビョウビョウと荒れ狂う風の音に占有され、視界はあちらこちらへと揺らされる。
その時、必死すぎて気付いていなかったナレーションを、偶然認識した。
結果的に言うと――――――それはハルマサの命を救う。

≪「風操作」の熟練度が698.0を越えました。レベルが上がりました。熟練に伴い器用さに――――――≫

操作系のスキルは、その系統の攻撃に晒されることで習得できる。
先ほどから足掻きまくっていて、聞こえるファンファーレは「空中着地」「身体制御」「空間把握」など既存のものだとばかり、ハルマサは思っていた。
だいたい、連続で鳴り過ぎて、しかも重なって鳴るものだから違う曲にすら聞こえるのだ。

だが、操作系スキルの習得条件を楽勝で満たす現状下ゆえ、何時の間にか「風操作」を習得していたらしい。

(しかも熟練度700!?)

この状況が、どれだけシステムに危機的状況だと認識されているのかよく分かる。
10秒以下でそんなに上がるとか。
つまりバリアーが無ければ一瞬で死ぬような状況なのだ。

(って別に今までと大して変わらないね。すぐ死ぬ状況っていうの。)

そう思うと余裕すら出てくる。
ハッハッハー! 違うスキルすら発動させて、熟練度を稼いでやるぜー!

【あと二秒……一秒……終わりじゃ。……じゃあの。死んでも達者でな。】
(ああ!? 調子乗ってる場合じゃなかったぁああああああああああ! か、「風操作」ぁああああああああ!)

明らかにこれから死ぬと見なしている女神が、ハルマサの体から出て行くその瞬間、ハルマサは体から魔力を放射する。
頭に描くのはハルマサの体を包み込む球形。
風を弾く魔力の結界だ。

(うぉおおおおおおおおお!)

前に掲げた腕から前に向かって進み、ある一点で放射状に広がる透明な波動―――魔力はそのまま弧を描きハルマサの体の後ろまで包み込む。
当たり前だが、「雷操作」の時とは消費魔力の桁が違う。
体から一瞬ごとに大量に減って行く何か―――すまわち魔力に、ハルマサは顔を青くする。
さらに「風操作」を使っている状況でも、濁流に飲み込まれた空き缶状態は変わらない。
このままでは直ぐに―――

その状況から救ってくれたのもまたスキルだった。

≪「魔法放射」の熟練度が1507.0を越えました。レベルが上がりました。熟練度上昇に伴い魔力に―――――≫

何時の間にか体中から魔力を出せるようになっていた。
何時の間にか魔力を効率的に使用し、循環させることさえ出来始めていた。
何時の間にか――――――熟練度上昇で魔力がアホみたいな数値になっていたッ!

この、いい加減長すぎだろうと叫びたくなるほど途切れない風の奔流は、既にハルマサにとってそよ風と何ら変わりないものになったのだ。

(お前は、僕に時間を与えすぎたんだッ!)

前後左右上下から来る真空刃を「風操作」で体の後ろ側に逸らし、その反動を利用して前に進みすらする。
吹き飛んでくる木の破片も「魔力放出」で柔らかく跳ね返す。

雪山との境まで進んでいたはずが、風によって森丘の端から端まで吹き飛ばされて密林の近くまで移動させられていた。
だが、これなら直ぐに距離を詰めることが出来るだろう。
ハルマサは、鯉の滝登りの如く、驚異的な速度で奔流の中を登っていくのだった。

その先にいるのはもちろん――――――クシャルダオラ。



<つづく>


佐藤ハルマサ(18♂)
レベル:8   →9 ……レベルアップボーナスは640
耐久力:1005→1645
持久力:1734→2374
魔力 :1894→7056
筋力 :1641→2283
敏捷 :3175→7795
器用さ:1851→7735
精神力:2248→4455
経験値:2548→2558 あと2560



変動スキル
両手剣術Lv7:872→874
身体制御Lv9:721→4459 ……Level up!
空中着地Lv8:874→2116 ……Level up!
風操作Lv9 :0  →4244 ……New! Level up!
魔法放出Lv9:266→4738 ……Level up!
神降ろしLv8:982→2087 ……Level up!
戦術思考Lv7:411→873  ……Level up!
回避眼Lv8 :729→1609 ……Level up!
観察眼Lv7 :487→973  ……Level up!
鷹の目Lv8 :276→1871 ……Level up!
的中術Lv7 :637→638
空間把握Lv7:575→1055 ……Level up!



<あとがき>
ハルマサ君がピンチになったかと思ったら、全然そんなことは無かった。
レベルが2つ上の敵から即死攻撃をくらい続けたらこんなことになってしまったんだぜ。





[19470] 34
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/06/19 17:30



<34>

「風操作」「雷操作」など、操作系スキルは、「魔力放出」とは切っても切れないスキルだが、本質的には違う。
操作系スキルは、操る物体の通り道を魔力で示してあげる技術だ。それに対し「魔力放出」は、本当に魔力を操る技術である。今回のクシャルダオラの「風の息吹」を「魔力放出」のみで、防ぐことも可能といえば可能である。ただしその場合、体の全部位から魔力を放出する必要があり、必要魔力は10倍~1000倍になったと思われる。






龍は5分間ほど風を吐き続け、その結果を見て満足する。龍の風を受けても、挑戦者は生き残ったのだ。
久々に歯応えのある敵だ。
胸の内に湧くのは歓喜。

「キュォオオオオオオオオオオオオオオッ!」

守護者は、人の頭ほどもある牙が生え揃う口を開け、咆哮する。
雪山はブルリと振るえ、雪崩が巻き起こる。





空中遊泳楽しー!
風操れるとか、クシャ戦余裕じゃなーい?
熟練度アップのボーナスでなんだか体も異常に軽いしね!
よーし!このままクシャのいる山にとッつげきだぜぇー!

とか思っていた過去の僕を殴りたい。

(み、耳が……!)

足に力が入らない。立っていられず、ハルマサは蹲っていた。

この状況になる数秒前。
雪を散らしながら走り、クシャルダオラの座す山の麓に達した時。
空を引き裂くような咆哮が聞こえたのだ。

(これはクシャの!? う・ぁ・あ・あああああああああああああ!)

脳をかき回されるような痛みが、耳から侵入してくる。いや、これは音だ。
ビリビリと雪山を揺らし、雪崩すら誘発させるような暴力的な咆哮だ。
瞬時に耳を手で覆ったが、音は容易く手の平を貫通し、パン、とハルマサの耳から血が吹き出る。
「聞き耳」が強力になった代償が、今払われた。
鼓膜を破壊されたハルマサは前後不覚に陥ったいた。

モンスターの咆哮―――攻撃としての咆哮を初めて受けたのも災いした。
そうでなければ、何らかの対策を取れたのに。
通じるかどうかは別にして。

鼓膜の破れた耳では、ズ―――……と一定の低い音しか聞こえない。

痺れたように思考がまとまらなかった。
音の無い奇妙な光景の中、雪山の上から雪の大波が押し寄せてくる。
まるでテレビの中のような。
現実感の無いハルマサは対策を打つという選択肢すら浮かばなかった。
彼の体は、あっけなく雪に呑まれた。



ォオオオオ…………

一面の雪原と成り果てた雪山の麓で、ハルマサは戸惑っていた。

(ど、どっちが上!?)

視界いっぱいまっ白で、どうやら雪に閉じ込められている。
ハルマサが超人的な耐久力を持っていなかったら、死んでいただろう。
耐久力は半分ほどになっているが、これはどちらかと言うと龍の咆哮のせいである。
口の中にも雪が入っており、それを飲み下しながらハルマサは混乱していた。

……このままだと酸素なくなるんじゃない!?
って言うか音聞こえないんだけど、これって何も音がしてないの?
それとも鼓膜がイかれてるの!?(鼓膜がイかれて周囲が無音です)

そ、そうだ!困った時には頼れるあの人!

(助けて女神えも――――――ん!)
【誰が女神えもんかッ!……また珍妙な状況じゃな。たまには何でもないところで呼んでも良いと思うのじゃが。】

バビュンと参上してくれた女神様は、不満そうに言ってくる。ちなみに頭の中で会話しているので、耳が潰れていても関係ない。

【それにしても……よく生きて追ったのぅ。確実に逝ったと思ったのじゃが。】
(ふふふ、まぁね! 何時までも君におんぶに抱っこじゃないってことかな!)
【ふ、生意気な口を。まぁ近くに弱っっちいが図体の大きな魔物も居るようじゃし、その言葉が嘘でないか見せてもらうとしようかの。】

気安く話しかけてしまったが、結構好意的な反応である。
嬉しくなる。
ていうかあのレベルの魔物って弱いんだ。驚きだね。
それにしても耳が痛い。女神の少女を憑依させたことで、オートドレイン(植物限定)が発動して回復するはずなのに全然痛みが引いていかないような……?

(女神ちゃん。耳治らないの?)
【ちゃ、ちゃんづけじゃとぉおお!? 貴様……、ま、まぁよい! 特別に許してやる!】
(あ、うん。ありがとう。じゃなくて、耳が痛いから何とかできない?)

うむ。と頭の中で、頷いている気配がする。

【植物がないから無理じゃな。】

ダメなのか!

(女神ちゃん……植物ないと何も出来ないの?)
【う……】
「う?」
【うるさいわ―――――――――ッ! 我は役立たずなんぞではないのじゃッ!】

突然怒り出してしまった。何か気にしている事があるのだろうか。

【凄いんじゃぞ!? 我はかなり凄いんじゃぞ!?】
(うん。そうだね。なんかゴメン。)

とりあえず、女神ちゃんは置いといて、何とかしようと、手を動かす。
なんか今向いてる方が上っぽいね。
ふん! ……お、結構簡単に動けるな。かなり重いと思っていたんだけど。そういえば筋力も高いんだった。

【き、聞いておらぬな!? 良いだろう見せてくれる! 腰を抜かすな……】
(え!? 何か嫌な予感がするよ女神ちゃん! 聞いてる!?)

女神ちゃんは僕の声を無視して叫ぶ。凄い嫌な予感がするけど、雪のせいで直ぐには動けない!

【『――――――』ッ!】

高音すぎて聞き取れない言葉を女神ちゃんが叫ぶ。
体の下から、ミシミシと嫌な音が聞こえ、次の瞬間。

ボゴォオオオオオオオ!

体の下から硬いものが出て、体が上へと突上げられる。

「あぶぶぶぶb……!」

雪が、雪が鼻に! 口に! そして目が――――――ッ!
雪の層を突きぬけ、飛び出した先は、ピーカンのお天気な空だった。

「わぁ……良い天気……」

相変わらず何も聞こえないし、やたら体が痛いけど、僕はとても良い気分だ。
なんか、空中に放り出される感覚って病み付きになるんだよね。この開放感!

ハルマサは空中でゆるい速度で回転しながら放物線を描き、落下する。そして雪に突き刺さった。

「オウフ!」

後頭部から……だと……。
僕が丈夫じゃなければ死んでいる……! 「空中着地」はもう使い切っちゃってるからどうにも出来なかった。

【どうじゃ!】

頭の中で元気な声が響いたので、奇妙なオブジェ状態になっていた体を腕の力で引き抜いて、さっき飛び出してきたところを見る。
大木が生えていた。いや、巨木か?

(え? あんなの生えてなかった……もしかして、女神ちゃん?)
【そうじゃ! 我は、実技の試験ではいつも一番なのじゃ!】

非常に気になる物言いがあったが、とりあえずスルーして、雪原に突き立つ巨大な樹木を見る。
いくつもの木が寄り集まり、無理やり絡まって上空へと伸びたような……桂の木を思い浮かべてしまった。
規模は全然違うけど。
なんというか……

(世界樹?)
【おお、よく分かったのぅ! 貴様の体力を呼び水に召喚してやったわ! まぁ貴様の体力がゴミみたいに少なかったゆえあの程度じゃがな。】
(へ、へぇええ……凄いね。)
【そうじゃろう、そうじゃろう! もっと褒めろ!】

そうか。体が痛いのはそのせいだったんだね。
800くらいあった耐久力がもう23しか残ってないよ。明らかにやりすぎです女神さん。

【そういえば、耳が聞こえんのか知らんが、後ろから魔物が来ておるのに気付いておるか?】
(―――――え?)

女神様の言葉と同時、空間把握に感じる風の乱流。
雪を身に纏う風で巻き上げつつ、ノシノシと歩いてくるのは鈍色の龍だった。
改めて近くにいると威圧感が凄い。

40メートルほどに接近した、金属質な外皮を持つ龍が翼を広げて顎を開く。

「―――――――――――――!!!!」

なんか咆哮してるみたいだけど、顔とかにビリビリ来るだけで何を言っているのか分からない。
耳が聞こえないと困ることも多そうだけど、今はこれで良いかなァ。

【我はあと2分ほどしか居れん。その間に倒してみよ!】


女神様がわりと無茶なことを言っているのを聞き流しつつ、僕はソウルオブキャットを構えながら、クシャルダオラと対峙するのだった。



<つづく>

現在のダメージッぷり。

耐久力:  23/1645
持久力:2374/2374
魔力 :3411/7056(減少中)

インフレ過ぎて誰もついてこれないのではと思いつつ。
次の話をどうぞ。



[19470] 35
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/06/19 17:30
<35>


いやぁ、音が聞こえないと変な感じだね。
クシャルダオラが僕の体より太くて長い腕を振り下ろして、雪原を盛大に掘り返しても、何も聞こえないよ。

僕はといえば、スキル発動してクシャより速く動けているから結構余裕です。
こうして対峙しているだけで、またスキルがチャランチャラン上がっているし。
相変わらず耐久力は低いけど。

でも、クシャルダオラって風を纏わせて攻撃範囲を増やしたり、風を使って早く動いたり、風を使って範囲攻撃をしてきたりと、風しか使ってないのに、かなり厄介です。
近寄れないんだ。
現在進行形で「風操作」を使って体を守っているんだけど、かなりの量の魔力を常時噴出さないとクシャが叩きつけてくる風を裁けない。
拮抗しても気を付けないと風にもみくちゃにされて吹っ飛ばされそうなんだよ。
しかも近寄るにつれて風の勢いが強くなって、剣で攻撃するなんてとてもとても。
敵のリーチってこちらの10倍くらいあるし。
近づく前に、風で動きの鈍った僕を、クシャルダオラが叩き潰すだろうね。
その内スキルが上がっていけるようになるかもしれないけど、2分以内はちょっと無理かも……

【なんじゃ。大口を叩いた割にはその程度か。失望したわぃ。】

と思ったけど、そんなことはないんだよ!
女の子に罵られる僕はもう死んだんだ!
ソウルオブキャットに誇れる男は、女の子に罵られたりはしない! 僕はやるよヨシムネ!

(いや、ここからが本番だよ! 奥の手の一つ!「天罰招来」を使う! ……あのモンスターに天罰をッ!)

「天罰」の精霊さん僕のこと嫌いっぽいからあんまり使いたくないんだけどね。
この状況を何とかできるのは彼だけなんだよ。
ちなみに奥の手のもう一つは「暗殺術」によるステルスアタック。
でもこの状況では、もみくちゃにされて持久力切れて終了です。

「天罰」の精霊は、こちらの声に反応した。

【ことわるぅううううううう!】

野太い声で帰ってくるのはやはり否定。
まぁそうですよね。さぁてやっぱり僕を経由して――――――

【おんどれぇええ! 断るとはどういう事じゃぁアああああああああ!】

「雷操作」のコンボでいこうと思ったら女神ちゃんがかなり口悪くキレた。

【え、な、何でカロンさんがそこに居るんッスか――――――!?】
【そんなことはどうでも良いじゃろうが! それより、ハルマサの頼みを断るとはどういうことじゃと聞いておるのじゃ!】
(いや、そんな女神ちゃん。別に僕は―――――)
【はぁあ!? 女神ィ!? カロンさんが女神だとぉ!? てめぇふざけんなよ!? カロンさんはなァ―――――】
【だまれぇええええッ! ハスタァ、貴様それ以上言うとどうなるか分かっとるんじゃろうなァ!?】
【ヒィ!】

頭の中でコントみたいな事が起こっている。
女神ちゃんってカロンって言う名前なんだ。今度からカロンちゃんって呼ぼうかな。

【――――――分かったか! 貴様は願われたことを黙って叶えておればよいのじゃッ!】
【はい、それはもう。誠心誠意やらせて頂きますッ!】

なんか話が纏まったみたいだ。
「天罰」の精霊、ハスターさんだっけ。立場が低い人っぽくて、逆らえない気持ちは良く分かる。
共感しちゃうなァ。

「―――――――!」
「と!」

クシャルダオラの尻尾が雪面を叩いて、また爆発させる。
舞い上がった雪は風で吹き暴れ、雲もないのに暴風雪状態だ。
尻尾長すぎ! 攻撃範囲の広さがふざけてる!
クシャルダオラから、一足飛びで距離をとった僕の頭に咳払いが響く。

【う、オホン! それでは、ゆくぞぉおおおおおおおおおおッ!】
(あ、よろしくお願いします。)
【ぬぅうおおおおおおおおおお!】

野太い唸り声と共に、天が突如として暗くなる。
何もない空に染み出してくるように雲が出来、雷光が雲間を走る。

【天ばt――――――】
「―――――――――――!」

今まさに雷が落ちようとした時、クシャルダオラが空に向かって風を吐く。
流石はボス。
異変を感じて潰しにきたか。
雲に大きく穴が開き、電撃は空中に拡散していこうとする。

【なにやっとんじゃい! しっかりせんか!】
【いや、でもあれは仕方ないって言いますか――――――】
(それなら――――――)

僕はクシャルダオラに向かって走っていく。

(僕がひきつけている間にお願い!)
【お主……ふッ…。よかろぉおおおおおお!】

僕のときだけ声を変えて応じてくるハスターに、僕は苦笑しつつ、雪面を疾走する。
倒すことは出来ないけど、足を止めるくらいなら!
雪を蹴り、走る。
本来なら、脚は容易く雪を踏み抜くが、足を下ろすあまりの速度に、雪は鋼のような感触を返す。水の上を走れるあの原理だね!

「だぁりゃぁあああああああ!」

「風操作」を覚えてから良いことはたくさんあったが、一番嬉しいのは本気で走ってもダメージを食らわなくなったことである。
自分から空気にぶつかって自爆していたため今まで「風操作」を覚えることはできなかったが、覚えた今なら風の通り道を示してやれる。
すなわち空気を掻き分け走る事が出来る!逆に真空状態を利用して速く走ることすら可能だ!

クシャルダオラの動きを上回る最高速度で、一気に距離を詰める。
「突撃術」が発動し、体が青く発光する。
空気の壁をいくつも破り、体は加速。
その姿は霞み、0.001秒以下というインフレのし過ぎな時間で二者の間を0にし、そのままの速度でハルマサはクシャルダオラに突っ込む!

ガ、キン!

渾身の力で振り下ろした剣は暴風のせいで勢いを削られて、しかしそのクシャルダオラの頭の鱗を叩き割る。
そのような感触を手に持った。
でもやはり硬い。見た目から何となく分かってたけど。これでは予想通り攻め切れない。

「キュアアアアアアアアアアアアア!」

直後、龍の巻き起こす突風に吹き飛ばされるハルマサだったが、彼の役目はまだまだこれから。
「風操作」「魔力放出」「身体制御」その全てを使って体勢を立て直し、直ぐに突っ込む。
剣を打ちつけ、すぐに風で跳ね飛ばされ、しかしまた突っ込む。
その攻防の中、ハルマサは手ごたえを感じた。

クシャルダオラ、どうやらほとんど反応できていないねッ!?

「だぁあああああああああ!」

着地の瞬間直ぐに走り出すため、着地した態勢の残像すら残して、ハルマサは攻め続ける。
クシャルダオラの体は硬い。
鱗を抜いたのは最初の、「突撃術」を使った一撃だけだ。
ソウルオブキャットは攻撃の度に刃が毀れ、すでにナマクラ状態だ。
だが、まだまだ!

ギギギギギギギギギギギギギギンッ!!!!!!

10秒に渡って行われたクシャへの斬撃は実に800を超える。
超高速で行われるヒットアンドアウェイはハルマサの持久力を著しく削るも、クシャルダオラの意識をひきつけることに成功した。
そして、ついに準備が整った。

【離れろォオオオオオオオオオ!】

ああ、ちゃんと言ってくれるのか!
かなり感動しながらハルマサは即座に距離をとる。

次の瞬間、ハルマサの体からゴソッと魔力が流れ出し、
代わりに天から黄金色の瀑布が流れ落ちる。

―――――――――!

音のしない中、視界を埋め尽くす電流がクシャルダオラの体を丸ごと包み込み、衝撃が周囲を震わせた。
中心の雪は一瞬で蒸発し、放射円状に雪が吹き飛ばされていく。

「風操作」「魔力放出」でそれらを防ぎながら、僕は薄目を開けていた。

クシャルダオラは――――――

「キュ、オ、オオオオオオオオオオオオオ!」

生きている。
完全に雪が消えうせた円状の空き地の中心で、体中に電流の残滓を纏い、焦げて剥がれた鱗を落としつつも、暴風の龍は動いていた。
だが、その動きは鈍い。
体力を削られ、しかも雷で痺れている!

(決めるなら――――――今!)

彼我の距離はおよそ120m。
「突撃術」が発揮される距離だ。

剣を構え、力を込める。ピカリと赤い光がネコの黒剣を包みこむ。
「溜め斬り」なら、龍の防御を抜けるだろう。
しかしこれで、この剣は折れてしまうかもしれない。
でもヨシムネなら笑って許してくれそうな、そんな気がする。
「全く、しょうがない奴だニャ」などと、こなれた仕草で肩をすくめそう。

二段階。赤く光る黒い剣を掲げ、タイミングを計りながら走り出す。

「お、り、ゃああああああああああああああ!」

踏み切った地面は爆発。
背後に砂塵を置き去りにし、ハルマサは、走る。
空気の壁をスタート直後に突破し、ハルマサは一筋の赤黒い稲妻となり、直ぐに「突撃術」が発動、青い色も後を引く。

今だ痺れるクシャルダオラに到達し、ハルマサは禍々しく光る剣を振り下ろす。

バキン、と砕ける感触。
ほぼ同瞬、轟音が響き、クシャルダオラの頭は砕かれながら、地面へと叩き込まれる。
ハルマサの腕は止まらず、地面に埋まった龍の頭を両断。
土を抉る感触を覚え、ハルマサは手を止めた。

硬い龍の頭は両断され、それはいくら体力のある龍といえど、致命傷だった。

荒い息を整えつつ、ぐ、と剣を引く。
引っかかった龍の頭から引き抜いた剣は――――――折れていなかった。
刃は幾箇所も毀れ、それどころか亀裂が走り、何で繋がっているのか分からないようなひどい状態だ。
だが、折れていない。
それがヨシムネの心の強さの証明のように思えて、ハルマサは嬉しくなる。
もう一度使えるように、なにかスキルを得ようか、と考えた。

ヨシムネと共に戦い抜いたような奇妙な一体感を覚えたハルマサだった。

≪魔物を撃退したことにより、経験値を2560取得しました。レベルが上がりました――――――




クシャルダオラの体は徐々に薄れ、あとの残ったのは、指輪であった。
キラキラと煌きつつ、ゆるく回転しながら輝く、シンプルな作りの銀の指輪。
外側に一つ、傷のようにも見える小ささで、宝石が埋め込まれている。

ハルマサは指でその指輪をつつく。
『キィ―――ン!』
脳に直接響く、硬質な音をたてるが、指輪は揺れるだけでそれ以外の反応は無い。

恐る恐る手に取ってみると指輪を覆っていた光は消え、ただの目立たない結婚指輪然としたものになった。
まじまじと見てみても何が分かるわけでもない。

≪ポーン!対象の情報を取得するには「観察眼」Lv1280を習得する必要があります。≫

眺めていてもどうしようもない。
ハルマサは覚悟を決めて右の人差し指に嵌め――――――








「……!?」

次の瞬間に、ダンジョンの入り口に居た。
入り口の穴がぽっかりと黒い穴を開け、その近くにハルマサが
穴の外に投げ出したキャシー(立て看板)が倒れており、入り口で間違いない。

(いったい……?)

そう思い、とりあえずキャシーを元々刺さっていたところに突き立てる。その時立て看板に書いてある文字が増えていることに気付いた。

『ダンジョンNo.23
第二層に転移する方は、下の枠内に指輪を触れさせてください。』

文の下には、四角い線で囲まれた、「2」という数字がある。

「えーっと……」

恐る恐る指輪を触れさせようとして――――――肩に柔らかい感触があった。

「――――――。」

振り返ると閻魔様が居た。
艶やかな笑顔の閻魔様を見て、僕はようやくダンジョンの第一層をクリアした実感が湧き始めるのだった。



<つづく>


佐藤ハルマサ(18♂)
レベル:9→10     ……レベルアップボーナスは1280
耐久力:1645→3499
持久力:2374→6049
魔力 :7056→17339
筋力 :2282→8349
敏捷 :7795→25916
器用さ:7735→22176
精神力:4455→12782
経験値:2558→5118 あと5120

スキル
両手剣術Lv9:874 →3609 ……Level up!
身体制御Lv10:3459→8634 ……Level up!
突撃術Lv9 :585 →4690 ……Level up!
撹乱術Lv10 :1023→7711 ……Level up!
空中着地Lv10:2116→8083 ……Level up!
走破術Lv6 :79  →341  ……Level up!
撤退術Lv9 :437 →3555 ……Level up!
天罰招来Lv8:1072→1877 ……Level up!
神降ろしLv10 :2087→5336 ……Level up!
風操作Lv11 :4244→12230 ……Level up!
魔法放出Lv11:4738→12929 ……Level up!
戦術思考Lv9:873 →4671 ……Level up!
回避眼Lv9 :1609→5309 ……Level up!
観察眼Lv7 :973 →1022
的中術Lv9 :638 →2599 ……Level up!
空間把握Lv9:1055→3048 ……Level up!





<あとがき>
これはヒドイ。インフレッぷりもそうだが、飛ばない龍はただの羽付きトカゲじゃん。
簡単に倒しすぎだというそこのアナタ! 苦労させるのはドド戦でもうよくね? あ、ダメ?
次はエピローグだ!





[19470] 36
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/06/19 17:33

<36>



久々に見る閻魔様は、何故だか後光が差すようだった。

「――――――、――――――!」

閻魔様が口をパクパクさせている。
そういえば、鼓膜が吹っ飛んだままだった。
体を治すならこの人、カロンちゃーん!

【女神と呼べぃ!】

素早くやってきた女神ちゃんは、僕の体に乗り移ってライフドレインを発動させてから、僕にぶちぶちと文句を言い始めた。

【なんで、勝負を決める時に我を呼ばんのじゃ! 一番良いところを見逃してしもうたではないか! 全くあの時ハスタァが無駄に魔力を吸い上げなんだら……!】
(あの、ハスタァさんには優しくしてあげてね?)
【…………いやぁ、やっぱりハルマサは良いのぅ。あいつらと来たら、あそこをシメろ、こっちを倒せと我に暴力ばかり強要してきおって……。】
(あの、元気出してね?)
【うぅっ……! 優しさが沁みるのぅ……!】

黙って頭の中でカロンちゃんと話していると、どうやら鼓膜が修復されたようだった。

「何故……何故、こんなに……ありえん…………」

モニョモニョ言う閻魔様の声が聞こえてきたのだ。
閻魔様の声はやっぱり綺麗だなぁ。
馬鹿なことを考えているハルマサに、閻魔様は気付いたようだった。

「お、おお。もう、聞こえるか?」
「はい。ご迷惑おかけしました。もうすっかり聞こえますよ。周りの草とかが犠牲になりましたけど。」

その言葉を聴いた閻魔様は周囲を見たあと、訝りながら聞いてくる。

「おい、そのスキル………もしかしてカロンとか言う奴に力を借りているんじゃないよな?」
「へ? 良く分かりましたね。そうですよ。カロンちゃんです。」

僕の返答を聞いた閻魔様は渋い顔をする。徐々に萎れていく周りの草原を不気味そうに見つつ、僕に言う。

「ちゃん!? ……いや、あいつの評判はあまり良いのを聞かなくてな。何か嫌なことされていないか?」
「いえ、結構良い関係ですよ。」
【なんじゃと!?】

なんで君がそこで驚くの?
疑問に思いつつ閻魔様を見ると、閻魔様は何故か固まっていた。

「あの?」
「い、いや。そうか……良かったな。祝福するよ。」

言葉とは裏腹にすごく辛そうな顔をする閻魔様。

「祝福? あ、いや違います。そういう意味ではないんです。かなり助けられているってことです。」
「そうなのかッ! 全く、紛らわしいんだよ、気をつけろ!」

おお、突如として元気に……。頭をペシペシと叩いてくる。
やっぱり閻魔様は生き生きとしている方が綺麗だね。

【ふふん。勘違いさせて置けばよいものを。あのような脂肪の塊は破裂すればよいのじゃ。】
(えっと……。カロンちゃんは胸部が控えめなの?)
【うるさいわ! 女神と呼べぃ!】

あ、そうだ。アイルーのことを伝えなきゃ。

「あの、閻魔様?」
「……なんだ?」
「アイルーのことなんですけど……どうにも連れてこれなくって。」
「どういうことだ?」
「実は……」

ココット村での出来事を、身振り手振りを加えて話すと、閻魔様は泣きに泣いた。

「ヨシムネぇ―――!」

叫びすらした。

【ハルマサ……お前という、やつはぁ……偉い! 偉いぞぉ!……グスン。あ、時間切れじゃ……】

頭の中でもすごく騒いでいた(すぐに帰っていったが)。
ちょっとヨシムネのことを強調しすぎたかも。
でも彼のことを知る人が増えるのは僕にとっても嬉しい事だから仕方ないね。
それにしても何で「舞踏術」の熟練度が上がったんだろう。謎過ぎる。



とまぁそんな経緯で、何故か閻魔様は僕に小さな袋を持たせ、穴から落とそうとしていた。

「ちょっと行ってそれを渡して来い。中には色々入れといたから。……お前はネコたちを救うべきだ。」

ここにはロープ吊るしといてやるから、という言葉の下、もう一度ダンジョン内へ行くことになった。
閻魔様が5分で用意して持ってきた小さな袋には、見た目と違っていくらでも物が入るそうで、実はかなり高価なものだとか。
それをポンと出す閻魔様ってすごい!

「何が入ってるんですか?」
「うむ。つまりはネコたちが自衛を出来るようにすれば良いんだ。だから、聞いた話の技術レベルに合うような、武器の設計図や、防壁の強化案だな。あとは鉱石なんかも入れてある。重さはそのままだが……持てるようだな。」
「大丈夫そうですね。」
「よし、行って来い!」
「あの、この指輪一度外してつけたらここに戻ってこれるんじゃ……?」
「だめだ。外したら消えるんだそれは。」
「剣握る時に邪魔だなァ……」

ということで、ダンジョンに戻ることになった。






落下ではなく、「風操作」で滑空しながら上空を移動していると、「鷹の目」に映る影がある。

(イャンクック……! もうリポップしたの!?)

速すぎる。
こんなのではネコたちが蹂躙されてしまう。

僕は急いで地面に降り立つと、ココット村に急行した。
こんどは遅れないように。
しかし、現れた僕を、ココット村の人たちはかなり警戒してきた。

ネコにぐるりと囲まれる。ネコの手にはボウガンが持たれていた。

「誰だ! ここに何のようだ!」
「ええっと? ハルマサですけど……」

ココットが厳しい声で詰問してくる。
まるで僕のことなど知らないような声色だ。

「あの、ココットさん?」
「……なぜ私の名を知っている!?」
「だ、誰か知らニャいけど、この村に悪さをするなら出て行ってもらうニャ!」

ココットの横から現れたのは、すごく会いたくても会えなくなったはずの猫だった。
彼も手にボウガンを構えてこちらを狙っている。

僕は嫌な予想をしてしまう。
イャンクックの速すぎるリポップ。
ヨシムネの復活。
ここはダンジョン。

―――――――ボスを倒せば、全てはリセットされるのではないか。

ならば、僕の苦しかったあの旅は、猫たちの涙は、全て何の痕跡も残さず消えるのか。

「答えろニャ!」

いずれにせよ、もうここには用はない。

「以前助けていただいたネコの故郷がここと聞いて、御礼に来ました。ここに置いておくので、お確かめ下さい。必ず役に立つはずです。それでは。」


ハルマサは早口にまくし立ててから袋を地面に置くと、最後にヨシムネをチラリと見て、逃げるようにココット村を立ち去った。








「……何だったのニャ?」
「さぁな。それよりも……」

ココットが袋に手を伸ばす。

「いけませんココット! 何が起こるか……!」
「いや、彼の動きを見ただろう。その気になれば容易く殺せる我々に、回りくどいする真似をする必要はない。」

諌めようとする老ネコに首を振り、ココットは袋を拾おうとして――――――あまりの重さに持ち上げられなかった。

「どういうことだ……? む、なんだ? 中から……」

出るわ出るわ。袋には無限の物資が入っているようだった。

「この本は知らない文字だな……なぜか読めるが。」
「この石を見ろニャ! 信じられない純度だニャ!」

物資に群がる猫たちを見つつ、ココットは考え込んでいるヨシムネを見る。

「どうした?」
「いや……なんかあの生物に見覚えがあったような気がしたんですニャ。それに最後僕の方を見た時の目が……」

なんだかとても悲しそうで。
今にも泣き出しそうだったと、ヨシムネは思って、結局言葉にしなかった。

「……また会うこともあるだろう。その時に問いただせば良い。」
「そうですニャ……。」

でも、二度と会えない。
そんな気がするヨシムネだった。


禍々しさすら持つ漆黒の大剣を背負った少年の来訪は、ココット村へと技術革新という福音をもたらした。
猫たちは、試行錯誤を繰り返し要塞を強化、やがて完全自立式迎撃移動要塞フォゥラを作り上げ、密林における安住を獲得する。
しかし猫たちの記憶に、強烈に焼き付いたはずの少年の姿は、時と共に風化し、跡形もなく忘れ去られていく。
だが、その中で一匹のネコは、胸の痛みと共に少年の姿を記憶し続けた。
やがて、そのネコが丹精込めて打ち上げた最高傑作は、少年の持つ大剣と酷似していたという。
ネコたちはそれを、魂の剣と呼んだ。







しかしそれも、次の第一層クリア者が現れるまでのことである。
4年後にクリア者が出たとき、そこには少年の残滓すら、無くなった。








ロープを登って来たハルマサは無表情だった。

「渡してきました。」
「うむ。……何かあったか?」
「いえ、何も。」
「……そうか。」

言葉の通りには全然見えなかったが、閻魔は流すことにする。
無遠慮に触れないこともまた、時には必要だと長い経験の中で彼女は知っていた。

「では、お前を約束通り、現世へと送る。きっかり24時間。行ったらすぐ時間を確認しとけ。」

ハルマサは頭を振って何かを振り払うと、こちらを見てくる。
随分と深い色を持つ目になった。
色々なことを飲み下し、自分の糧としてきた者だけが持つ目だ。

「わかりました。」
「うむ。では、やり残したこととやらを、やってくるが良い。」

閻魔の手から飛び出した光は、少年の体を包み込み、次の瞬間には跡形もなくなっている。

「まぁ、しっかり楽しんで来い。」

帰ってくれば、またダンジョンに飛び込む運命が待っているのだから。
閻魔は先ほどまで少年がいた場所を一瞥し、哀れんでいるような曖昧な笑みを零すと、執務室に戻るために踵を返す。
久しぶりにタバコが吸いたい、と閻魔は思った。
















第一部・消える足跡:End

Next:閑話・長い一日












<あとがき>
止まった時が死ぬ時だけど、そろそろ現実を見なきゃ生活が!(挨拶)
ここまでお付き合いありがとうございました。
30話で一部が終わるはずだったんですけどねぇ……まぁ許容範囲でしょうか。
次の投稿までは、少し日数が空きます……と思ったが普通に明日投稿できるっぽい。
指が良く動くぜ現世編!

書いた後寝て起きて、「完全自立式迎撃移動要塞フォゥラ」のくだりで爆笑した。絶対作れんwww
頭がどこか沸騰していたとしか思えない。でも面白いから放置。


>なんか強敵が毎回低敏捷→必死に避けてなんとか勝利
ぶっちゃけ敵の方が早かったら勝てな(ry
その課題は第2層に持越しですね。


>神視点を減らしてくれるともっといいかも
うっす!

>主人公が死んでもいい時期
まだだ! まだ死なせんよ!

>『クシャダオラ』ではなく、『クシャルダオラ』/クシャルダオラ、な
しらなんだ……直しとくッス。サンクス!

>神降ろし
その通りだー! サンクス! どこ直せばいいのかアレでちょっと時間かかりそうですね。

>ソウル、ソウルGには紅玉いらん
すんません。その辺適当にやっちゃったぜ。
というかソウルオブキャット、調べたらグレード低いな!
一応ソウルオブキャットGなつもりで書いたんだけど、Gを付けるとかだせぇと思ってそのまんま。一番強い武器なのに紅玉使わないとか舐めてんのかと。



前回分は突っ込みどころが満載でしたが、今回も負けてないのではと思うのです。勢いだけで書くから……。

あと、感想ありがとうございます!



[19470] 37(修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/21 15:40



<37>


朝学校に行ったら、上履きに画鋲が入っていた。
当時「ガラスの仮面」が流行っていたからだろうか。
僕は気付かずに足を入れた。

その時の傷は、今も残っている。









目が覚めると、自分の部屋に立っていた。
えっと……?

背中に感じる重さ。
振り返れば、漆黒の剣があった。

ああ、僕は佐藤ハルマサ。
第一回層をクリアし、地上に戻ってきた……人間だ。
最近ちょっと人間か怪しいけど。
そして現役だった高校3年生。

(そうだ。時計!)

閻魔様の言葉を思い出し、時計を見る。
時間は6時45分。
普通なら。僕はまだ寝ている時間だ。
それはさて置き、とても不思議に思った事がある。

「まだ5日しか経ってないの!?」

僕が死んだ日は、日差しの暑かった19日。
そして僕が帰ってきたのは、同年同月の、23日。
正確に言えば4日しか経ってなかった。
ダンジョンの第一層では、基本的に太陽の位置が変わらなかった。

あの濃密な時間がたったの4日。
信じられない思いではあったが、まぁそれはいいとして、やることはやってしまわないと。
その時、玄関が開く音が聞こえる。

「ただいまぁ~。」

母さんの声だ。
夜勤から戻ってきたらしい。毎回思うが、看護士は大変だ。
僕は取りあえず声をかけようとして、自分の格好に思い至る。
元は白かったネコ作の服。今は泥と血と雨に打たれて、黒ずんでボロボロだ。
その服で、またしんみりとしてしまうが、未練だと振り切り、服を脱ぐ。ていうか土足だった。あとで掃除しよう。
服の下の体も、少し汚れていた。ドドブランゴ戦の後、体は洗ったんだけど、クシャ戦で汗とかかいたからね。
閻魔様も、死んでもいない僕を綺麗にすることは出来なかったんだろう。
まずお風呂に入りたい。
僕は服を脱いで、抱えて持ち、風呂場で洗うことにした。
もちろん剣は置いていく。
君は後でね。

そうして下着だけ履いて部屋を出たところで、洗面場へと歩いていく母さんと会った。

「あ、母さん。お帰り。」
「おお、しばらく姿を見なかったハルマサ君ではないか! 元気にしていたか息子よ!」
「ま、まぁね。」

まさか死んでいたとも言えまい。
会わなかったと言っても、家族仲が冷えているわけではない。
基本的に、僕と母さんの活動時間がずれているのだ。
母さんが家に帰ってきて眠ったあとに、僕が起き、僕が学校に行っている間に母さんは仕事に出る。
顔をあわせるのが数日ぶりというのも珍しいことではなかった。
4日程度ならなんとか許容範囲だ。その間母さんの休日も無かった様だし。

「君、この前ゲームつけっぱなしで外出しただろ。ああいうことをするとお小遣い減らすぞ?」
「あ……ちょっと急いでて。もうしないよ。」

人差し指を突きつけてくる母さんに、曖昧な笑いを返しておく。
したくても出来なくなるんだ。嘘ではない。

この家に父さんはいない。
飲んだ暮れで僕を良く殴る人だったが、母との離婚の際に取り決めたため僕を中心に半径100m以内に侵入することを禁止されている。
あの人に関しては、正直良い思い出はない。

母は年に比べ、若く綺麗だ。再婚の申出も多いと思うのだが、僕が邪魔になってしまっているのか、そんなそぶりを見せない。
だから、僕は自分がいなくなった方が母のためではないかと思っていたものだ。
実際高校を出たら直ぐにここを離れ、アルバイトをしながら一人暮らしをするつもりだった。

でもたった4日ぶりなのに久しぶりに会うような気がして、懐かしい。
そしてこれから会えなくなると思うと、寂しかった。

「んー。なんか顔つきが変わってる。なんかあったのかい?」
「まぁ……色々と有って。」
「ふむ……。……そうだ! 久々に会ったんだから、朝食デートしよう! 美味しいものを作ってやるよ! ほれ、お風呂入るんだろ? さっさと入ってくる!」
「う、うん。……でも母さん眠いんじゃない? 無理しなくても。」
「ふふん! 眠さなど、とっくに克服してやったわ―――!」

鼻で笑い飛ばして、母は台所に行って、そして慌てて帰ってきた。

「化粧落とさなきゃッ」

これが、そそっかしくも頼もしい、僕の最愛の母親だ。




風呂場で、丸めて持っていた服とポーチを手洗いする。
すると見る見る汚れが落ちていき、ここでもスキルが有効であることを知った。
石鹸とお湯で、漂白剤も無しにここまで白くなるなんてね。
また、服の両端を持って、パン、と広げると中の水分が9割は飛んでいった。やっぱりズルイなこの「洗浄術」スキル。

そういえば鏡で自分を見るのは4日ぶりとなる。

「おおー。結構筋肉付いたかも。」

割れた腹筋や、くっきりと浮き上がる三角筋。盛り上がる胸筋に、アバラの上の前鋸筋。頼もしささえある大腿筋。
何時の間にか、僕の体は「痩せ過ぎ」から「細身筋肉質」へとジョブチェンジしていた。
筋肉の付きにくかった僕には、一番嬉しい変化かもしれない。

お風呂を出た後は部屋にとって返し、洗ったブランゴ皮の服を干し、いつものジャージを着る。
このジャージ、4セット持ってるんだよね。

台所に行くと、母が料理を並べていた。

「おお、ナイスタイミング。空気を読んでるな少年!」
「ふふ、そうかな。あ、手伝うよ。」
「じゃあ、お味噌汁を……ハルマサ、そんな格好して、もしかして学校行かないの?」
「え……あー。えっと、行くよ。うん。」

そうだ、今日は水曜日で、普通なら高校がある日だった。
母を心配させるのは嫌だから、毎日高校には行っていた。
二日も無断欠席したことを、学校側はどう思っているのか。母親には連絡が行ってないみたいだけど。

これから家には帰らなくなることを、どう母親に伝えるか。
どれだけ順当に行こうとも、あと数回しか戻ってこれない。ここに居続けるのは苦しくなる。
いずれバレて何処に行っているのかと心配をかけるなら、いっそ居なくなった方が良いと思う。
だいたい僕はもう死んでいるのだ。
この有り得なかった筈の奇跡の時間を使って、出来るだけ母を悲しませないために何かをしたい。
旅に出たいとでも言おうかな? で、音信不通。逆に心配かけそうだ。
本当のことを話すなんて、論外だろうし。
学校で考えようか。

思案していると母親が、ご飯を並べ終えたようだった。

「なんか嫌なこととかあるんだったら言いなよ? たった二人の家族なんだからさ!」
「うん……そうだね。」
「さぁ、食べよう!」

食事中、終始笑顔で母は喋っていた。
母の笑顔はこうして見ると魅力的で、今日、もしかしたらこの時で見納めだと思うと途端に胸が締め付けられるようだった。
僕は上手く笑えてたかな?

「なんだか、見ない間に良い男になったようだね少年。」
「そうかな? あ、でも筋肉は付いたよ。ホラ。」
「なんと! カッチカチじゃないかッ!」

母との朝ごはんは楽しかった。



僕は詰襟を着て、大きめのカバンを持ち、靴を履く。

「行ってきます。」
「うむ。勉学に励めよ少年! 私は寝るッ!」
「うん、お休み。…………じゃあね。」

パタン。




朝の町並みは、活気に溢れている。
今日は少し早めに出てきたからいつもより人は少ないけど、それでもゴミを出しているおばさんや、自転車で軽快に走るスーツの人。果ては犬と共にジョギングしてる人なんてのもいる。
もう時分は初夏。
歩くだけでも体は少し熱くなる。長袖のカッターシャツは失敗だったか。
それにしても、と思う。
いつもより30分早いとこうも景色が変わるものなのか。
それとも……見る僕のほうの意識が変わったのかな?

この朝の風景は、奇跡の連続で成り立っているような気がするハルマサだった。

さて、そろそろ駅だ。
いつも憂鬱になっていた電車での移動だけど、今の僕ならどう思うのだろうか
少し楽しみですらあるハルマサだった。


<つづく>

変動スキル
「洗浄術」Lv2:11→24







[19470] 38
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/20 18:53

<38>


おはようございます。
現在電車の中にいるハルマサです。
どう感じるか楽しみだ、とかいった罰でしょうか。
すんげぇ密着度高いです。
熱い。暑いじゃなくて、熱を感じる。背中から。

(や、やっぱり近くない!? このお姉さん近くない!?)

身長が僕より背の高い女の人が、ドアの近くにいる僕の背にもたれかかって来ます。
僕は扉に押し付けられる状態だ。いや、僕筋力は無駄にあるんで別に苦しくはないんですけど。
通勤ラッシュの時間帯といえど、これはセクハラなんじゃあ……?

いつもはおじさんがお尻を揉んでくることが多かったのに、この女の人は一体…………? って、鼻息荒いよこの人―――!
女の人だからか、なんだか良い匂いするし、くっ付かれても嬉しいくらいなんだけど、どんな顔してるのか(いろんな意味で)怖くて確かめられない……!

「ふふ、ボウヤ。緊張してるの……?」
(なんかAVっぽいこと言い始めた――――――!)

おかしい。明らかに変だよ! まるで発情期みたいな……あ、ぁあああああああああああああああああッ!!


□「桃色鼻息」
 異性を魅了する魔性の特性。鼻で息をする時、あなたの体からは異性をとりこにするフェロモンが溢れ出ます。たらしと呼ばれること間違いなし! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません


(こ、こいつかぁあああああああああああ! く、口で呼吸するんだ! ち、違う、お姉さんのせいで興奮してハァハァ言ってるわけじゃないんです!)
「ボウヤ……私……!」
(み、耳を舐めないで!? ぼ、僕たちにはそういうプレイは早いと思います! じゃなくてッ! なんか打開策を!)

僕は動揺しまくっていて認識していなかった周囲の状況を、「空間把握」を用いて認識する。
しかしお姉さんの攻撃は止まらない。

(く、何か……ああ!? お姉さんそこ触っちゃダメです!)
「ウフフ……恥ずかしがっちゃって……可愛い♪」
(妖艶だ―――――!)

混乱しまくる中で、僕はあることに気付く。あれ? あっちのあの子、もしかして……。
僕は意を決して振り向いた。女の人は、頬を染めており童貞の僕には刺激が強すぎる顔をしていた。

「(うわぁ……!)あ、えっとすいません。通してください。」
「え? プレイを楽しんでいたんじゃ……? ここでまさかの放置に入るの!?」
「な、何の話ですか!?」

お姉さんが小声で叫ぶのを聞き流しながら(流せなかったが)、僕は狭い車内を移動する。
舌打ちや、無駄に暑い視線(多分「桃色鼻息」のせい)を受ける中、なぜかお姉さんも付いてきた。な、なんで僕の服掴んでるの!? こわッ!

桃色は危険すぎると思いつつ、電車を横切った僕は、体を縮こませている女の子に声をかけた。

「やぁ久しぶり。朝会うなんて奇遇だね!」

無理やりすぎる話しかけ方だと理解はしている。ついでに言えば、初対面だ。学校は同じみたいだけど。
女の子は驚いてこちらを見る。その後ろで息を荒くしていた男の人も、驚いたようだった。

「なんか人多くて苦しそうだね。こっち来る? まだ圧力少ないし。」
「……?……!?」

手を伸ばすと、女の子は僕の顔と手を交互に見て困惑している。
女の子の後ろの人は、驚いた後気まずそうな、悔しそうな顔をしてどこかに行った。
その瞬間、ほぅ、と息を抜く少女。

「あ、ありがとう……。」

消え入るような涙声で、女の子が話しかけてくる。

「いや、痴漢怖いよね。よく分かるよ……本当に。」
「ボウヤかっこいい……!」

いや、今の結構あなたへの当てこすりだったんですけど……全然効いてないですね。
まぁ僕が本当に怖いと思っていたのはおじさんの鼻息とかケツをまさぐってくる感じとかだったんだけどね。
僕のささやかな反撃では、まるでダメージを受けなかったお姉さんは僕の腕を握り締め、こちらを見てうっとりしている。
桃色ホントこえぇ……!

とにかく、僕は自分の精神力の向上を実感した。
この、勇気が恐怖に押し負けないというのは、いい。
女の子を痴漢の魔の手から救い出すことが出来たのだ。
これだけでも、僕が戻ってきた価値はある。
本来の目的である、エロ本とハードディスクはまだ処分できてない。母さんがいて、そんな気にならなかったし。
帰ったらしよう。

僕が感慨にふけっていると、涙目になっていた女の子がもう一度お礼を言ってきた。

「あの、ありがとう。私あの人に付き纏われてて……。」
「何ですって!?」

僕が何か言う前に、僕の腕を掴んでいるお姉さんが眉を吊り上げる。

「こんないたいけな子を……! ふふ、いいわ。お嬢ちゃん、私に任せなさい。決して這い上がれないような穴に突き落としてやるわ……!」

完全に自分のことを棚にあげているとしか思えないセリフではあったが、その表情は非常に頼もしい。

「だってさ。よかったね。」
「……うん。ありがとう、ございます……!」
「あら、いいのよ。私が気に入らないだけだから。」

あの、お姉さん? 世の中には他人の振り見て我が振り直せという言葉があってですね?

「もうメールを送ったから、これで大丈夫よ。だから私たちは続きを……あら、残念。着いちゃった。」

『間もなく~北十八条駅~お降りのお客様は……』

車掌の気怠い声が響く中、お姉さんはメモ帳を取り出して何かを書くと、僕に渡してくる。
数字の羅列と、「どんな時でもOKよ」と書いてある。ハートマーク付きだ。名前すら知らないのに……!?
地下鉄駅に滑り込んだ電車の扉が、開いた。

「お嬢ちゃんは自分から嫌って言う勇気を持ってね。私やボウヤがいつも居るとは限らないんだから。」
「は、はい。ありがとうございました。」
「じゃあね。またねボウヤ。」

女の人は颯爽と去っていった。
桃色さえ絡まなければすごく頼りになる人だ。ああいう人もいるのか……。
僕は思わず呟く。

「良い人だったねぇ……」
「え、知り合いなんじゃないの……?」
「ええ!? なんで!?」
「えっと、仲……良さそうだったし……」
「いや、初対面なんだけど、なんか気に入られちゃって……」

桃色のお陰でなッ!
いやぁ、全く……この桃色封印できないかな!
そういうモテ方してもかなり寂しいよ! いや、少しは嬉しいんだけどね! あ、ちょっと! ほんのちょっとだよ!?

でも鼻息か……。
この特性を発動させないためには口呼吸を続けるしかないんだけど、そんな、常時口で呼吸する人とか見たことないよ。
周り中の女の人発情させて、この特性は一体何がしたいんだろう。確実に僕が不幸になるでしょ。
ついでに周りの女性の人生もグチャグチャになりそう。
なんだこの完全な地雷……! 踏んでも居ないのに爆発しよるわ。

僕が唸っていると(さっきからずっと口呼吸だぜ!)、女の子が言いにくそうに話しかけてきた。

「あの、佐藤君だよね……?」
「あ、はい。確かに佐藤君ですけど。」
「体が細くて勉強も運動も出来なくて、いつもいじめられている佐藤君だよね……?」
「(遠回しに罵倒してるのか!?)そうですけど、あの、どこかで会いましたっけ……?」
「えっと……一応同じクラスなんだけど。……私影薄いし仕方ないよね……フフ…」

煤けた笑みを浮かべる女の子。
うわぁ、凄い申し訳ない。
いや僕が記憶力悪いとかじゃなくて、僕にとっては学校って耐えるところだったから、常に下を向いていたって言うか!

「あの、ごめ……じゃなくて、その、あまり目立たないだけで、君は可愛いからそんなの気にしないで欲しいッていうか!」

ペラペラ早口で僕の口は何を言ってるんだファ――――ック!

「そ、そうかな……てへへ。」

ま、まんざらでもないようだ。セーフ!
でも実際可愛いと思う! こう、小動物的な魅力で。

「私ね、佐藤君っていじめられても笑って誤魔化してるみたいで、私みたいに勇気のない人だと思ってたの。でも全然違うんだね。……助けてくれてありがと。」

女の子は申し訳なさそうに微笑む。

「い、いや……まぁね!」

全然間違ってないよ! 完全に意気地のないヘラヘラBOYだったんだよ!
笑ってやり過ごそうとしてましたァ―――! だってすごく怖いんだもんあの人たち。
で、勇気が出るようになった理由がアレだから本当のことも言えない。……チートのお陰ですとでも言えと!? 頭のおかしい子だと思われるわッ!

でも、もういじめられることを良しとはしないよ。
今日が最後の登校日になると思うけど、キッパリと撥ね退けてやる!
そして最後の学校を満喫してやるんだァ――――――!

『間もなく~……』

と、そうこうする内に学校への最寄り駅に着いたらしい。
ハルマサは鼻息荒く電車を降り、その過程で罪も無い女性をメロメロにして去っていくのだった。




<つづく>







[19470] 39
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/20 18:54

<39>


僕と名前不明のA子さん(仮)は、学校までの道を並んで歩いていた。いや、A子さんはやめよう。犯罪者みたいだし。
ちなみにずっと口呼吸です。喉渇いちゃうねこれ。

駅から学校へと続く道は、選挙時に市長が公約していた緑地計画の一端として、かなり力を入れて整備されている。
具体的には、街路樹の増加や、自然公園の整備とか。
道を歩く側としては、結構良い仕事してるぜ! といった感じである。
今も、街道にの両脇に植えられている木が、青々とした若葉をつけており、もう夏なんだなァ、と実感させてくれる光景が続いている。
本州(北海道人は内地と呼ぶ)だともう梅雨の頃。
だけど、北海道はすこし空気が湿気るくらい。それも、若葉の爽やかさで完全に打ち消されている。実際梅雨ってどんなだか分からないんだよね。
あ、今さらですが僕は生まれも育ちも北海道です。

この風景もすごく懐かしい気がするよ。
思えば三回、いや自宅での死亡も併せればもう四回も死んでるんだね。
人生3つ分くらい懐かしく感じるのかな。

そんな中、隣の女の子は顔を真っ赤にしていた。

「な、なんか男の子と一緒に登校するのって恥ずかしいね……!」

体を縮込ませながら、女の子は言う。なんか痴漢が狙うのも理解してしまいそうだよ。
いじめてオーラが感じ取れちゃいそうだもん。
でも、残念ながら僕にはそんな属性はないんだ。いや、幸運なことに、かな?

「どうしよう、離れようか?」

というか離れたほうが良いような気がする。僕って今、いじめっ子に付け狙われているし。
もちろん今日綺麗に解決するつもりだけど、もしかしたらしこりが残って、この子に迷惑が行っちゃうかも知れない。

だが、女の子はきゅ、と拳を握るとこちらを見る。

「う、ううん! 頑張るよ! 実は佐藤君が勇敢なんだって知ったら、私も頑張らなくちゃって、思ったの。だから、これくらいは、ね?」
「そ、そう?」

頑張る方向がずれている気がしないでもない。
それとも、この子の中では男と並んで歩くのと痴漢にやめて下さいって言うのは同じくらい勇気がいることなのだろうか。
まぁ、僕も平気なフリしてるけど、実は結構恥ずかしかったり。
さっきのお姉さんの濃密過ぎる攻撃がなかったら、今頃「恥ずかしいから離れよう!」なんて言っていたかも。お姉さんのお陰で、これくらいなんて事ないぜ! って思えるんだよね。

「そ、それにね……」

女の子がチラリと上目でこちらを見る。

「いつかは、男の子と……その、付き合ってみたいって…思って……ああッ! 恥ずかしいッ!」

人差し指を付き合わせつつモソモソ言っていた女の子は、両手で顔を覆ってしまった。純情すぎるよこの子。

「い、良いんじゃないかな? それくらい。あと、前見ないとこけちゃうよ?」

じゃあこれは予行演習ってことかな。
なんとなく、女の子を守るナイト役を貰ったようで、誇らしい気持ちになった。

「じゃあ……よければ、会話の練習でもしてみる?」
「え、あ、うん!」

あの、そんなに力入れなくても良いからね?

「じゃあ、えーっと。何か話題有る? こう、カップル的な。」
「な、難易度高い……。つ、付き合ったことないから分からないよ……」
「僕も無いんだよね……」

いきなり暗礁に乗り上げる僕の提案。
助け舟は女の子の方から出された。

「あ、あのカップルとか、どんな話してるんだろうね……。」

指差された先には、茶髪の女子と、頭の髪の毛がかなりハードにそびえ立つ男子がいた。
仲良さそうというか、男の方が女の子の周りをウロチョロしている。
男がペラペラと喋っているので、「付き合う男女の会話・初級編」への取っ掛かりくらいはつかめるかも。

(持ってて良かったこのスキル!「聞き耳」発動ッ! 彼らの会話は、僕に丸聞こえになるッ!)

そうして二人の会話を聞いた。
なるほどなるほど。
二人を興味深そうに見つめていた女の子に、話しかける。

「あの、僕って耳良いからあの人たちの会話が聞こえたんだけど。」
「ここから聞こえるの!? 凄い!」

ゴメン。チートです。尊敬の眼差しが痛い。
とりあえず聞き取った話の内容。

『なぁなぁなぁなぁ、さっきダチがメールくれたんだけどよぉ』
『あなたって友達居たのね。』
『2億人くらい居るぜッ! っとまぁそれはいいんだけどよ、このAAを見てくれ』
『外国にも居るの……? そしてこの顔文字は何?』
『知らねぇの? オッパイ!オッパイ!だべへぇあ!』
『すごく不愉快だわ。殴って良いわよね? もう殴っちゃったけど』
『お、お前の愛の拳ならいつでもバッチコイだぜ!……でさぁ、このAAなんだけど、手の部分をそのままにしてさ、顔を反対側に書きかえると、こうなンだよ』
『……何が言いたいの?』
『フリッカージャブみたいじゃね?』
『フリ……何?』

とまぁこんな感じだった。

(全然分からん……!)
「男の子って……叩かれると嬉しいの?」

女の子がツンツンだというのは良く分かったんだけど。
あと、それは誤解だよA子さん。

そういえばと名前を聞いてみた。

「えっと、コホン。私は『渋川武美』っていう名前です。なんか恥ずかしいね……。」
(凄まじいまでのギャ――――――ップ!)

僕の頭に浮かんだのは合気道の達人である老人(バキ的な)であり、イメージの違いに悶えてしまった。


「ね、その左手、ケガ?」

お返しにと、渋川さんがおずおずと聞いてくる。
ここには、男子高校生としては恥ずかしい刺青があるのだ。もう少しおとなしい絵柄なら良かったのだが。

「そ、そう! ちょっと切っちゃってね!」
「そう……。」
「?」

何故か表情を暗くする渋川さん。
理由を聞くほどには僕たちはまだ親しくないと思い、僕は気にしつつも流した。

まぁそんな感じで歩いて行き、学校に着いた。



僕の高校は、裏門から入って真正面にグラウンドがあり、そこを横切って校舎に行けるようになっている。
正門の方が緑も多くて、華やかな感じだが、ワザワザ逆から行くこともあるまい。
それは渋川さん(やはり違和感がある……)も同じようだったが、彼女は部室棟に用事があるようで、入って直ぐ左に曲がるそうだ。
この学校が見納めになると思うと、今まで行ったことのなかった所も見ておきたくて、僕も金魚のフンの如く着いていった。

「おう、やっと学校に来たか佐藤ッ!」

すると、そこには僕のクラスの担任である体育教師が居た。
野球部の朝練が終わったところなのだろう。
生徒のことを思いやる気持ちが溢れる人だが、いささか、その情熱が空回りしている感のある教師である。

「お前をいじめてた奴らは、ビシッときつく叱っといたから、後で謝ってくるはずだ。まぁ寛大な心で許してやれよ! そして今日からは学校を楽しめッ!」

な……んと、いうことを。それは確実にいじめが加速するフラグだ。
これで僕が普通のいじめられっ子だったら、ここでUターンして家へ帰るところである。
だいたい、この教師は状況を悪化させる類の人だと思っていたので、知られないようにと注意していたのに。
小学校からいじめ続けられて来た経験はだてじゃない。
我慢強さとか、あと、大人への失望とかはたっぷりと醸成されているのである。
あ、母は別です。
あの人の前では何でもないように振舞っていたのだ。
心配かけるくらいなら、僕は死んだほうが良い。死んでるけど。

何処で知ったのかと聞くと、体育教師は良くぞ聞いてくれたと、素晴らしい思い付きを披露する前の、得意そうな気持ち悪い顔になった。
聞いて驚け、という顔だ。

「いやぁ、今まで皆勤だったお前が突然休むとは思えなくてな。そこでビビッときた訳だ。これは何か有る…! ッてな!」
(先生って良く見なくても顔濃いよなァ……)
「そこでその渋川に聞いてみたら、いじめられていると言うじゃないか。俺のクラスでいじめなんてふざけてやがる! だから、こっぴどく叱ってやったのさ! もちろん今まで黙っていた奴らもな!」

そして状況を悪化させたんですね。ありがとう。地獄に落ちろ。
この見るからに内気な少女に問い詰めるとか、この先生、結構やるな。もちろん褒めてない。
ちなみに無断欠席は、先生の独断によってお咎め無しにされたらしい。でも、親には伝えるべきだと思うんだ。僕は逆に助かったけど。

「ごめん……詰め寄られると、誤魔化しきれなくて……」
「いや、あの濃い顔はもはや凶器だから……」

ボソボソと彼女と話し合う。
彼女も、体育教師ではいじめを悪化させるのだと認識していたらしい。
いじめに理解のある子だ。
ぜひ友達に欲しかった。今さらだけど。

「今日からは心配はいらん! 存分に勉学に励め! あと今日の体育とかにもな! フン!」

最後に上腕二頭筋を見せ付けつつ教師は去っていった。
こんなにどうしようもない人だったっけ?

「ごめんね……」
「いや、いいよ。あの人は根本的なところが分かってないみたいだし。」

僕は少し腹が立った。
もともと期待はしていないのに、その下を行ってくれるとか。

いじめを行うのは、そのクラスで支配的な位置に居る者たちだ。
だからこそ横行が許されるのだし、いじめが表面化することも少ない。
逆らおうものなら、容易に自分へとターゲットが移ると分かるのに、どうして行動が取れようか。
大人はこの手の問題に対して見ぬフリをするし、たまに向き合う人が居ると思ったら、僕の担任みたいな人だ。
どこに頼れば良いのだろう。
僕が死んだのって実はストレスとかじゃないのだろうか。

「ていうか、渋川さんは僕が休んでいる間何もされなかったの?」

瞬間的に、彼女は青い顔になる。
そうか。彼女の足が学校に近づくにつれて遅くなっているような気がしたのは、気のせいではなかった訳だ。

「え、えっと……まだ、大丈夫、かな。」

それでもぎこちなく笑ってくれるのだった。
僕のせいなのにね。

「ごめん。」

あの教師、余計な注意をするだけじゃなく、情報源もばらしたのか。
減点-100点だ。奈落に落ちろ。閻魔様にチクってやる。
僕は渋川さんの目を見て言った。

「もう、辛い事のないようにするから。絶対。」
「ど、どうやって……? 佐藤君は良く耐えられるねあんなの。私は……昨日だけで……」

そう言って、泣き出してしまう。



これは……、ちょっと手加減効かないかも。

そう思った僕だった。





<つづく>




[19470] 40
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/06/21 15:41



<40>



いじめ問題は、昨今いろいろ騒がれていると思う。漫画や小説にも鳴ったし、ドラマにもなった。
その中ではいじめに甘んずる必要のなさやいじめに立ち向かう姿が描かれる。ただその場合、主人公たちはすべからく意志が強い。もしくは大人が、友達がカッコイイ。
でも、現実にはそんな友達や大人は居ないし、いじめられているのにどうしてそこまで抗えるのか分からない。
僕には無理だと、そう思っていた。
そんな時、ネット上で見つけた「悪の教科書」というサイト。
いじめられている少年が、いじめっ子を半殺しにするという、キレのある話で、とても良かった。
でも、僕にはやっぱり出来ない。
母に迷惑がかかるから。

だんだん真綿で締め付けられるように僕の心は平坦になって行って、こんな性格になった。
もう、いじめには何も感じないと思っていたのだけど。

「ごめんねぇ……あんなに辛いなんて……思ってなくて……」

目の前で、渋川さんが泣いている。
そんな時くらいは、怒りを覚えても良いよね。







渋川さんが泣き止んだのはそれから十数分後だった。
目を腫らしてしまった渋川さんは、しかし先ほどまでの明るさを取り繕っているかのようだ。
そんな無理は必要なくなるようにしたい。

渋川さんの用事とは、ロッカーに置いておくと心配であった教科書や、今日使う物を部室に取りに行くことだった。
そうか、そうすれば物がなくなったりしないのか。

「賢いなァ……。」
「う、うん? 佐藤君はどうしてたの?」
「なくなったら其のままかな。もう、どうでも良かったし。」

なくなったら困るものは、ちゃんと守っていたし。
これは、いじめられ道を極めた僕にしか出来ないと自負している。
彼らに、壊すものの代わりを用意してやれば良いのだ。
体操服とかを買い直すよりかは大分楽だ。

ていうか今日の時間割なんだっけ。
部室から出てきた渋川さんに聞いてみる。

「今日って授業何があるの?」
「ええと……」

並んで歩く渋川さんは、カバンから可愛いメモ帳を取り出すとパラパラめくる。
隣を歩くと、頭一つ分小さい渋川さん。
小動物的な魅力が光る。

答えてくれた内容は以下に。ちなみに僕のクラスは、進学する人で構成される普通科だ。僕は進学する気はあまりなかったんだけど、母親の強いプッシュで普通科に属している。
ともかく時間割。

一時間目
現代国語
おじいちゃん教師の催眠音波が、抗いがたい眠気を運ぶ。最近は受験対策にと、文章問題ばかり解かされる。そのあと、答え合せと解説。一時間目にこれを持ってくるとか、時間割を作る人は一体何を考えているんだ。

二時間目
数学Ⅲ
頭の剥げた恰幅の良い教師が死んだ魚みたいな目で、常に斜め上を見つつ講義をする授業。何処を見ているのか毎回非常に気になる。蛍光灯にピンクチラシでも貼ってあるのだろうか。これも最近は受験対策で、問題の解説ばかり。

三時間目
体育
数個の競技の中から一つを選び、同輩と切磋琢磨する。サッカー、バスケ、卓球など。何故かラグビーも選択しにあり、体育教師が張り切って指導しているらしい。僕は渋川さんと同じ卓球だ。彼女は卓球部らしい。

四時間目
音楽/美術
選択式の授業である。僕は楽器も弾けないし、人前で歌うのもご免だったので、美術。渋川さんもほぼ同じ理由で美術。油絵を描き始めたところだ。

昼休み
55分間。
基本的にいじめられてて、飯は食えない毎日だった。絶対に今日は食べる。久しぶりにお弁当だし。

五時間目
体育
また……? 謎だ。どうやら英語と振り替えらしい。それならそのまま体育を潰せば良いものを、体育教師が強固に反対したという。これも卓球。

六時間目
地理/歴史
選択授業。僕は地理だが、教科書を先生が読むだけの授業で正直退屈だ。これもまた渋川さんと同じらしい。バッティング率が凄い。ストーカーしたかった訳じゃないから許してね。

七時間目
生物/物理
選択授業で、またもや渋川さんと同じ。ここまでなって覚えていない僕って凄い。名前もすごく近いのに。ちなみに生物。先生は髪の毛がくしゃっとした背の高いおっさんだ。受験対策をする。



選択がすごく被っててなんか不思議だね、そう言おうとして、目に入る人影があった。

あいつは……剛川だッ!

僕のクラスには、男子を纏め上げている(と勘違いしていて本当は怖いから距離をとられている)、身長190cmの剛川と、その腰巾着の痩せぎすのゴマすり畑川野郎がいる。
そして女子の中心、本名はもう覚える気もないけど心の中でドリルさんと呼んでいる女の子。髪の毛のアイロンセットに多大な時間をかけていると思われるクルクル髪の、通称:エリっち……だっけ?
その取り巻きの、黒髪ロングを侍のように高い位置でポニーテールにしている、えーと誰だっけ。
まぁ他にも居たけど、どうでも良いか。
もう髪型くらいで、顔とか覚えてないし。
とりあえず、その剛川とエリっちが、僕をいじめる筆頭だ。年度が変わってもクラスの構成員がほとんど変わらなかったのだが、今年度からは二人は手を組んだらしく、いじめは鬱陶しいくらいにエスカレートしている。
正直僕じゃなかったら死んでいる。
いや、僕の死因がストレスだとすると、僕でも死んだ、と言うべきか。

まぁそのジャイアンこと剛川が柔道部の部室から出てきたのだった。

「……ッ!」

となりの少女が息を詰める。
大丈夫だから。
正直、びびる要素が全くない。こんなに小さくて柔らかい生き物なんかに、どうして恐怖を抱けると?

「お!? 早速二人でつるんでるのかよッ! ゴボウ野郎とチクリ女ってのはお似合いだな! もうヤッタのか?」
「ヒッ……!」

剛川がノシノシと近づいてくる。渋川さんは、僕の腕にしがみ付いて震えている。
まさか、性的なことを……?

「あ? ナニ無視してんだコラッ! 答えろよッ!」
「もぅ、いやァ……。」

また、涙をこぼし始める渋川さん。泣かないで、もう大丈夫だから。君が泣くと、僕は悲しい。

「何が嫌だよ、誘ってんのか? やっぱ昨日剥くだけじゃなくてヤるべきだった―――
「ねぇ。」

遮るように僕は声を出す。その声は自分でも信じられないほど、冷たい。
渋川さんが、ビックリしたようにこっちを見ていた。
その涙に濡れた目を見て思う。
良かったね。こんな奴に汚されなくて。
ごめんね。僕の代わりにみじめな思いをさせて。

「な、おまえ――――――
「うるさいから、黙って。」

こめかみの位置で優しく、本当に優しく剛川の顔を掴む。
じゃないと、怒りに任せて握りつぶしてしまいそうだった。殺すつもりはない。もしヤるとしてもこんな人目に付くところは論外だ。
いや、もうどうでもいいだろうか? 不愉快だから殺す。僕はそれが出来る力も心も持っているだろう?

「が、ぐ……」

そのまま下に手を下ろしていく。指の先で頭蓋骨が軋んでいる。
剛川は必死に手を掴み引き剥がそうと力を込めるも、僕の腕力に人間が抗える筈もない。
無理やり下げられる頭の位置に、やがて膝を着き、土に手を突き、それでも抗し得ず、ついに顎を突き出すような土下座の格好となり、そのまま顎が地面に着く。

「はぬぁ……せ……」
「ねぇ。僕は、僕だけだったらどうでも良かったんだよ。関わらないでくれたらそれで良かったのに。」
「な、なぬぃを……」

顎が動かないせいで、喋り方が変な剛川が指の隙間からこっちを見上げている。

「こうなっちゃったら、仕方ないよね。死んで。」

そして逆の手を振り上げ――――――

「や、めぇ―――」
「佐藤君ッ!」

振り下ろした。


ズン、と拳は地面を叩く。
半径30cmくらいのクレーターが出来た。

危なかった。本当に。
渋川さんにスプラッタな光景を見せてしまうところだった。

手を離すと、剛川は気絶していた。とりあえず今はこんなもんか。
色々するつもりだけど、帰るまでに何とかならなかったら、本当に殺してしまおう。
振り返ると、何時の間にか手を離していた渋川さんが、目を白黒させている。

「な、なんで? どうやったの?」
「いや、実はこの4日間、修行しててさッ!」
「そ、そうなの!? それで強くなっちゃったの!?」

間違ってはない……よね?
あと、渋川さんは騙されやす過ぎ。






剛川はそのまま放っておいて、僕たちは校舎へと歩く。
渋川さんはチラチラと後ろを振り返っている。気になるようだ。
もしかしたら、剛川の心配をしてるのかも。
話したのはわずかな時間だけど、彼女が優しいのはもう分かっていた。

で部室棟の外を回って、校舎に近づいた時、二階にある僕の教室のベランダから、声が聞こえる。
「聞き耳」があるからこそ聞こえる、結構小声での会話。

「おい、来たぜあいつ。」
「ふふふ、じゃあ予定通りやるわよ。」
「まじか! いやぁ楽しみだ! どんな顔すんだろうなァ!」
「ていうか、あいつらもうツルんでるのかよ~。」

こんな会話。
その目は僕らを見ているのだろうが、僕は目を合わせたくないので渋川さんばっかり見ていた。
剛川を見て汚れた目が、蒸しタオルを瞼の上から当てるくらい癒されていく。

そして、そろそろ校舎にたどり着くという頃。
上から何かが、降ってくる。

まさか、コレは!
あの伝説の――――――!

ガシャ――――――ン!

落ちてくるのは机と椅子。そしてベランダから聞こえる叫び声。

「「「「オメーの席ね゛ぇがらぁッッッッ!」」」」

伝説の『オメーのセキねぇから』だった。なにが伝説かって……ニコニコでの再生数?

ご丁寧にせーの、と調子をそろえての叫びだ。
言った直後、彼ら彼女らは盛大に笑い出す。

いやぁ、まさかこれをやるとは。もう外聞とかどうでも良いのかな。
どうでもいいことを考える僕の横で、渋川さんは身を竦めている。
僕は渋川さんに微笑むと、さてどうしてやろうかと考える。





「桃色」を、使うか? うーん………使っても後悔はしなさそうだね。
人生グチャってもあいつらのせいってことにしよう。



僕は始めてこの無駄特性の活躍の場が来ることでどこかワクワクしながら、ベランダで馬鹿笑いをかます奴らを見上げるのだった。



<つづく>



<あとがき>
止まってたまるか――――――!(挨拶)
4話使っても作中ではまだ朝の9時にもなっていないという、ね!
現代編は何処まで続くんだ―――!?
あと、頭の軽い作者が書く話なのでメッセージ性とかあるわけじゃないんだ。


ちなみに現在のハルマサ君の吹っ飛びすぎている強さ。

レベル:10
耐久力:3499
持久力:6050
魔力 :17339
筋力 :8349
敏捷 :25916
器用さ:22186
精神力:12782

成人男性の平均はレベルが1でステータスはオール10です。

感想ありがとうでありんす。気になるところしか返せませんが。

>ハルマサが大ピンチになりスキルが異様な速度で成長して倒すという展開ばかり
その通りでござる! 第一層はスキルとかのごり押しで突破できる難易度という設定でした。

>ソニックムーブというのはスキルでしょうか。それともソニックブーム(衝撃波)の事ですか
そうですね……違うと思っていたほうが正解だなんて……!
ありがとう恥を晒すのが一日で済むのも毎日更新のよさだぜ!

>カロンって骨系のモンスターとかの名前によくありますよね
そうなんですか。
実は私の居住環境にはネットが通っていないので、調べることもせずに書いていることが多かったり。ちなみにゲームからパクッテます。

>疑似制限時間無限状態
そうですよねー。そのうちこそっと直すか後の展開を捻るかしないとですな。

明日も更新!




[19470] 41
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/06/21 15:42

G君(ジャイアン)→剛川
スネ夫→畑川
に名前変えました。

ドラえもんファンの方に申し訳がないと思って……

40話も変えておきます。


<41>



今になってもしっかりと口呼吸を続ける僕の前に落ちてきたのは、僕の机と椅子だった。
マジックによる下手糞な絵や、落書きが掘り込んであったりと、見るに耐えない仕様になっている。

「ひどい……!」

ああ、渋川さんが悲しんでいるッ!
ダメだ! 君は笑ってないとダメなんだ!

「あの、渋川さん!」
「は、はいッ!」

渋川さんはシャキッと背を伸ばす。ああ、何かすごく良い子だ。
僕は思わず微笑むと彼女の手を引っ張って、校舎に入った。

「え、あの? 机は?」
「まぁまぁ。」
「あ! 手ぇ!」

そのとき彼女は手を掴まれていることに気付いたらしい。顔を真っ赤にする。

「あ、ゴメン。」
「う、ううん! 違うのッ! 嫌なんじゃないのッ!」

そう言うと強く握り返してくる。いや握り返されるのは嬉し恥ずかしな感じなんだけど……。

「……渋川さん、今から上履きを履くんだけど、繋いだままで?」
「………………。」
(何で悩んでるのッ!?)

結局手は離しました。


僕の上履きは、僕が居なかった間に、青少年たちが持て余すパワーを代わりに受け止めていたらしく、水気満載で青黒ずんでいた。マジックとかで卑猥な単語も書いてある。このマメないびり方はドリルさんだね。
さて、僕は外来者用のスリッパを取りに行こうとして、思いついた事がある。

今の器用さ(2万2千)と「洗浄術」をあわせれば、こんな汚れなんて!

「フンッ!」

タタタタタタタタタタタタタタン!

一瞬にして上下左右から汚れ部位に指を打ち付けるッ! その回数、実に一秒間に30回ッ! 微細な振動を受け、汚れは一瞬で布から弾き飛ばされるッ!
シューズの布繊維の弾力を利用して、汚れを空中に拡散させ、僕は呟く。

「力加減がかなり難しかった……。」

だがその甲斐あって、僕の上履きは新品同様!
つま先のゴム部分とか、僕の顔を映すくらい光沢が出てしまったよ。
……これ不埒なことに使えちゃうね。なしなし。傷つけてやろ。ギィー。

「ど、どうやったの?」

気付けば渋川さんが覗き込んでいた。
その手には、汚れた上履き。彼女も被害者だったのか……。ホントにゴメンね。
そんな彼女は、途方に暮れていたところ僕の意味不明すぎる技を見たらしかった。

「もちろん―――修行の成果さッ!」

思わずかっこつけた僕は、とんでもない羞恥で2秒後に死にたくなった。
汚れを落としてあげたとき、渋川さんが無邪気に喜んでくれたのが救いかな。





で、教室に着いた僕は、盛大なニヤニヤ笑いに迎えられた。
なんという悪意に満ちた笑い方だ。ブランゴに囲まれた時より居心地悪いよ。
僕の机の会った場所には、机の中に入っていたであろう物がぶち撒けてあり、さらに水がかけてある。背中に隠れている渋川さんには見せたくない光景だね。

という訳で、ここでもスキルを無駄遣い。
敵対する対象がいるこの空間は、「撹乱術」が発動する。僕の動きは、速くなるぞ!
もともと速いけど!
さらに「風操作」で空気の乱れをなくし、「身体制御」で移動後の衝撃を吸収。

「な、何処に行ったの!?」
「ねぇ、一体何を笑っていたの?」
「ぅわッ!」

一瞬にして、僕はドリルさんの後ろに立っていたッ!
ちなみに渋川さんは優しく、教室の隅に運んである。彼女はとても柔らかくて良い匂いもしてドキドキしちゃったぜ!
それに比べこのドリルさんは、化粧のニオイと香水のニオイがヒドイ。
「臭気排除」で弾かれれば良いのに。あ、弾かれて臭わなくなった。これって僕の意識に連動してんの?
まぁいいや。早速使うぜ!「桃色ウィィィンク」!

「え、おまえ、何時の間に――――――!」

振り返ってきたドリルさんに向かってパチンと片目を瞑る。

「さぁ―――ね!」

ズギュゥウウウウウウウウウウンッ!

「はぅあああああああああああッ!」

次の瞬間妙な効果音が頭の中に響いて、ドリルさんは服の上から心臓を抑えて仰け反っていた。
ウインクは予想以上に恥ずかしいけど、これはすごい威力だな。
そしてここで駄目押しの「桃色鼻息」! フンフフーン!フンナー! フンー! フンー!
おまけに「風操作」を使って窓から吹き込んでくる風を循環させ、効果範囲を調節させるぜッ!
ちなみに6月ともなると窓は全開である。虫とかもフリーパス。網戸つけてー!

とまれ、「桃色」系の説明を信じるなら、これで彼女は僕に好意を抱くはずだ。

「な、え? 何でこんな奴に……!? ウソよぉ!」

ククク、何処まで抗えるかなッ!? お前の頬はもう赤いぞ!?
僕にメロメロになったところをボロクソになじって放置してやるッ!
黒い! 黒いなぁ僕!

そういえば風を循環させている範囲内にはドリルさんの取り巻きもいる。
黒髪ポニテの子は何でかへたり込んでいて、もう一人の短い茶髪の女の子は僕の方を見てなんだかモジモジしている。
そんなにモジモジしないで! されても僕は何も返さないよ! 放置プレイを楽しんでくれたまえッ! 一生放置だけどね!

そろそろ良いかな。
僕は口呼吸を再開させつつこちらを凝視するドリルさんを押しのけると、僕の席があったところにばら撒いてある教科書を拾い集める。
もう、これも使うことはないんだよなァ……。
いや、ボロボロにされてるから使えないんだけど。
もう捨てようか。
という訳で、手早く全てを纏めて、ゴミ箱へロングシュートッ。
「鷹の目」の投擲時の命中ボーナスのお陰か、放り投げた瞬間に入ることは理解した。
だから何?って言われても何もないんだけど、紙の塊を8メートルくらい離れたゴミ箱に入れるのって、結構すごくない?

そして僕は――――――剛川の席へとやってきた。
剛川はまだやってきていない。気絶してるんじゃないだろうか。
「聞き耳」で探ると、部室棟でざわざわと人が騒いでいる。
気絶している大男が居たら確かに驚くよね。

僕は剛川の机と椅子を、僕の机があった位置へと移動させる。床が水で滑るけど、抜群のバランス感覚がある僕は大丈夫だった。

「な、なにやってんだよお前ッ!」

ああ、畑川。いたのか。掴みかかってきた畑川の手を軽く避け、逆にポンと肩に手を置いてやる。

「いや、僕の席なくて困っててさ。ちょうど今日剛川居ないみたいだから借りようかなって。別に良いよね?」
「ひ、ギィ……!」

肩をギリギリと(優しく)掴みながら、僕は笑顔を作る。

「良いよね?」

畑川は顔を歪めながら半泣きになり、頷こうとして――――――

「何、勝手なことしてんだよッ!」

横槍が入った。なんとドリルさんだ。僕の桃色を克服したのか、細い眉を吊り上げている。
そんな顔を真っ赤にしてまで怒らなくても。それとも違う理由で顔が赤いの?

「じゃあ、君が机かしてくれるの?」
「ふざけん――――――」
「じゃあ黙ってて―――ねッ?」
「ほうぁあああああッ!」

パチン、ともう一つウィンク。
ドリルさんは絶叫しつつ、きをつけをしながら後ろに仰け反って後頭部から床に落ちた。
凄い……首ブリッジだ。
ドリルさん、スカート短いもんだから、意外と可愛い趣味のパンツが見えて僕は目を逸らした。
紳士だからねッ! 別にドキドキしたとか……! ああ、したよッ! しましたァ―――! ドリルさんのパンツなんかにッ! 僕は悔しいッ! でも、僕も男なんだよッ!

そういうわけでさりげなく(残像が残るような速度で)顔を背けた僕は、畑川を放り出すと、新しい僕の机に着席する。別に剛川の臭いがするとかはなかった。「臭気排除」で弾かれてるだけかもしれないけど。

座ると、椅子がギシリ、と鳴った。
剛川が座り続けているからガタが来てるのかな。
後ろを見れば、ドリルさんが取り巻きの子たちに助け起こされているところだった。

僕はうん、と伸びをする。

「今日は楽しい一日になりそうだ。」

あっけに取られるクラスメイトが見る中で、僕は微笑を浮かべるのだった。



<つづく>


今話の見所は仰け反ってブリッジしたドリルさんです。
腕は体の横にピッタリつけて、手の平を下に向けている、ヒヨコ状態です。





[19470] 42
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/06/21 15:44


<42>



一時間目は現代国語の授業です。

老教師が、黒フレームの眼鏡で矯正された瞳を、教壇の上の教科書に落として、問題の回答の解説をしている。

「え~~~~~……とだねぇ。どこまで話したかねぇ~……。」

(だ、ダメだ――――――! 耐えられないぃいいいいいいいッ!)
「が、頑張って佐藤君ッ! あと半分だよッ! そ、そうだ、あの……眠くならないように、お手紙でお話しとかしない?」

苦しむ僕に、隣の席だった渋川武美さんがコソッと話しかけてくる。
ていうか、隣の席だったんだね。ホント僕の目は節穴だったみたいだ。

手紙、手紙か。
確かに私語ばっかしてると目立っちゃうもんね。
成績下げられたくないから、皆頑張って色々趣向を凝らしてこの授業を乗り切っている。
授業そっちのけで宿題したり、ケータイをいじったり。
手紙での会話もその一つ。
僕はいつも寝ているんだけど、今日が最後と思うと頑張ってみようという気になった。
その結果がこれだよッ!
精神力の向上によって集中力が増したはずの僕を、簡単に眠りの世界に誘う、この声の調子! 音階! 大きさ! 全てが完璧な睡眠音波だッ!

そういえば、剛川は無事目を覚ましたらしく、朝のHRの前に教室にやってきた。
俺の机は何処だと騒ぐ彼に、僕が微笑みながら、校舎の入り口に落ちていると教えてあげたところ、彼は僕の座っている机を見て目を剥き、反論しようとして、結局何も言わず下に取りに行った。
現在は、砂に塗れた元僕の机に座っている。

その剛川が僕のほうをすごく睨んでいるようだった。
ふふ、そんな敵意、軽い軽い。
僕をビビらせたかったら、その千倍は持ってこいッ!
……カッコ付けた所で眠いのは変わらないんだよね……。

ちなみに、かなり熱い視線も3つ感じている。ドリルちゃんたちかな。
前から2番目に座っている僕は、良い視線の的となっていた。

それらはさて置き、手紙か……何を話そうか……と思案していると、後ろから机の上に紙片がとんできた。
折りたたまれたそれには、正面に「読め!」 と書いてある。
僕はそれをそのまま窓の外に投げ捨てた。

「なッ――――――!」
「んん~? 誰か何か言ったかぁ~?」

後ろから聞こえるドリルさんの声に、教壇の上にある教科書に目を落としていた老教師が反応する。

「いえ、消しゴムを落としてしまいまして。もう大丈夫です。」

僕が如才無く答えておく。老教師は「そうか~」と言って、また催眠音波を発し始めた。

僕は手紙の内容を考える作業に意識を戻す。見ると、渋川さんはせっせと何かをノートの端に書いている。彼女から手紙を送ってくれるのだろうか。
手紙の綺麗な畳み方とかを学ぶためにも、その方がありがたいかも。女子の作るあの形はもはや芸術だと思う。それが僕に送られてくるのは初めてで、少しドキドキする。
あ、さっきのドリルさんのはノーカンです。何となく。

また後ろから手紙が飛んで来る。
今度は机に着く前に、筆箱で弾き飛ばし、場外(窓外)ホームランにした。
「空間把握」で、プルプルしているドリルさんが感じ取れた。
ドリルさん教師の前では良い子だから大変だね。
いっそハッチャケちゃえば良いのに。髪型はあんなに激しいんだから。

あー。渋川さんから手紙が来るまで暇だ。鼻呼吸できないし。
意味もなく「暗殺術」発動してやろうかな。
いきなり透明になったら渋川さん驚くだろうなァ。

そういえば忘れていたけど、剛川の机って教科書入ってるんだよ。
ちょっと読んでみようか。というかここまで教科書を開くという選択肢が思い浮かばなかった僕って、結構アウトロー。

机を探ると、ニギニギして握力を鍛える奴が出てきた。窓の外に投げ捨てた。校庭の木にぶつかった。
さらに探ると、アブラ取り紙(未開封)が出てきた。これも窓の外に投げ捨てた。鋭く回転して飛んでいった「アブラ取り紙50枚入り」は木の枝に突き刺さった。
もう一度探ると、筆箱が出てきた。少し考え、後ろのほうに居る剛川に、後ろ手に投げつけた。
唸りをあげて飛び、剛川の額に直撃した筆箱は机に落ちる。布製の袋なので大きな音はしない。剛川は後ろに仰け反った後、豪快に机に倒れた。また気絶したのだろうか?
教師がその音に少し驚いたような顔をするが、剛川が寝ているのを見ると、何でもないかのように流した。
もしかして、彼の授業では倒れるように眠りに落ちる生徒は珍しくないのかもしれない。
さらに探ると、やっと教科書が出てきた。

「あの、佐藤君、これ。」

つまらんと思いつつパラパラ捲っていると、隣から声がかかる。
見ると、プルプルしている手で渋川さんが手紙を差し出している。彼女にはもしかしたら手紙でさえ重いのかもしれない。文学少女っぽいし。いや違うか、卓球部だったな。
そして手紙って投げ合うのが習わしだと思っていたけど、手渡しもありなんだ。(むしろ手渡しが主流。)

受け取り、その複雑な折り方を覚えつつ開く。
中には、書いては消し、何度も書き直した跡が見え、結局書いてある文はたった一つだけ。

『タケミって呼んで欲しいです』

(甘酢っぱァ―――――――――――イ!)

思わず振り向いて目に入った渋川さん、いやタケミちゃんが、目を逸らしつつ頬を染めていたので、僕は一撃で悶絶した。
こ、これが青春と言う奴かァ!
破壊力抜群だ……!
ズルイ、ズルイよ! 皆こんな良いものを経験していたなんてッ!
チクショウ、今日一日とはいえ、取り返してやるッ!

……いや、辞めとこうかな。すごく未練が出来そうだ。
良く考えろ僕! 帰ってこれるのはあと9回しかないんだぞ!?
ここに未練が残ったら、すごく辛いだろぉ!?
……でも、目の前のにんじんに齧りつかないで居られる馬は、あんまり居ないんだよッ!
そして僕の知能は馬とどっこいどっこいなんだ。

『了解。タケミちゃんって呼ぶね。』

試行錯誤の後、なんとか折り方を真似して(その時新スキル「折紙術」を習得した)、手紙を返す。
受け取った渋川さんは、

「タケミちゃん……!」

と、蒸気が出そうなほど顔を赤くし、教科書で顔を隠していた。

もう、あれかな。
僕は逃れられないかもしれないな。
いや、しかしあまり仲良くなるわけにはァ――――――!

また後ろから、手紙が飛んで来る。段々折り方が乱雑になっているのが興味深い。
いい加減鬱陶しくなったので、ちゃんと読んであげることにした。

『少し後で顔を貸しなさいよ! このクズ!』

纏めるとこのような事が、難解な文章で長々と書いてあった。
僕は「折紙術」を駆使して、精巧な紙飛行機を折り上げ、窓の外へと送り出した。強めに投げたら、木の幹を貫通してどっか行った。
内容はもっとヒネリを聞かせて欲しかったな。2点。ユーモアが足りません。

タケミちゃんから手紙が来る。

『さっきから何を投げてるの?』

手紙を返した。

『なんかドリルさんから手紙が来るんだよね。それを投げてる。』

「ドwwリwwルwwww」

なんかウケたらしい。手紙を受け取ったタケミちゃんが肩を震わせていた。






授業は無事終わった。

「下手に出てたら調子乗りやがってぇえええええッ!」
パチン!
「ヒファ――――――ッ!」

とりあえずドリルさんにブリッジをさせてから、僕は剛川の所に歩いていく。
ドリルさん、今度は額で体を支えている。首を痛めそうだし、その内一回転しそうだ。
あと、どの編が下手に出てたの?

ユサユサ。剛川の席にたどり着いた僕は、剛川の体を揺する。

「起きなよ。もう授業終わったよ?」

剛川は動かない。でも、僕は君が起きていることを知っている。何故なら、僕が近づくにつれて鼓動音が異常に高まっていったからね。なんかホントに異常で、間違って恋とかしてないよね? と確認したくなるくらい。
つまり、僕の「聞き耳」に隙はなかった! でも咆哮だけは勘弁な。
剛川は寝たフリで僕をやり過ごす作戦らしい。もしくは背中を見せた時に不意打ちか?

「ま、起きなくても良いや。折角筆箱を返してあげたのに使わないみたいだから、僕が使おうと思って来ただけだから。」

僕は剛川の筆箱を引き裂いてこじ開き、中からボールペンを取り出す。
そして、尖っているほうを下に向け、机に突き刺した。
ガン! という音がして、剛川がビクリと震える。

「寝てると思うんだけど、もしかしたら、聞いてるかもしれないから言っておくね。」

もう一本。ガツッ! さらにガツン! まだまだガツン! ガツン! もう面倒だ、筆箱ごと、ドガァ!

剛川の顔の周りには色とりどりのペンが突き立ち、彼の頭頂部付近では突き刺さった筆箱が机の天板にクモの巣状のヒビを走らせている。
バースデーケーキみたい。

「僕とタケミちゃん、じゃない渋川さんに、もう構わないでほしいんだ。あんまりしつこいと、手が滑って君にボールペンを刺しちゃうかも。」

ちなみに一連の動作で「小刀術」を手に入れた。コンバットナイフとかをクルクル回せる様になるかも。
僕はじゃあね、と踵を返す。これでダメだったらどうしよう、と思いながら。
そんな僕にタケミちゃんは聞いてくる。

「あ、あれどうやって?」
「修行の(ry )

僕は今日退学届けを出してここを去る予定だ。残されたタケミちゃんに被害が行くような状況は、残してはならない。
母さんに迷惑が行くようなこともしてはならない。
とすると、殺しはあまりしないほうが良いな。
事故死に見せかけても、一日で何人も居なくなると、当然何かあると疑われる。
失踪扱いにするだけでもやはり事件性が疑われる。
いじめを暴露して事件を沈静化させるのはどう考えても一日じゃ無理だ。
やはり脅して、大人しくなってもらうのが良いな。
精神的トラウマもありか。

僕は席に戻りながら、想像をめぐらせる。

あとでタケミちゃんに聞いたが、この時の僕はかなり怖い顔をしていたらしい。
怖がらせてゴメンね。



<つづく>


「折紙術」Lv2:11  ……New! Level up!
「小刀術」Lv1:2   ……New!

■「折紙術」
 紙を折る技術。イメージした形を、紙の許す限り再現する事が可能となる。熟練度上昇に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、造形し終わった紙の硬度が高くなる。

■「小刀術」
 長さが一定以下の刀剣を操る技術。小刀を使っての素早い攻撃が出来るようになる。熟練に従い、敏捷その他のまたはステータスにプラスの修正。熟練者は風のように動き、相手に気づかれる前に接近し攻撃を加え離脱する。





[19470] 43
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/06/21 15:45


<43>


二時間目は数学Ⅲ。
太った数学教師が額の汗を拭きつつ、黒板にカシカシと数式を書いていく。
北海道の初夏といえど、40人ほどの人間が一堂に会したこの空間は結構暑い。彼が汗を書くのも頷ける。
この授業はみんな真面目に受けているみたいだ。
僕は「脱・いじめられっ子計画」を練らなきゃね。

成功条件は、今日一日でこのクラスからいじめをなくすこと。
タケミちゃんなどに向かって再発することのないように処置すること。
母さんに迷惑が行かないこと。

とりあえずドリルさん含む女子は、「桃色」で何とかするとして、男子はどうしようか。
さっき僕の机を投げ落としてくれた奴は、全員顔を覚えている。
この教室に入ってからばっちり確認したし。

どうやって脅そうか。ケガをさせず、心を壊す。
ああ、「拷問術」スキルとか出ないかな。あ、ケガさせちゃうからダメか。
痣を残すくらいまでなら許容範囲にしようかな?
いや、ケガさせても誰にも言えない様にすれば良いんじゃない?
言ったら殺す的な感じで。
うーむ。一気に選択肢が広がったな。

まずは、この授業内で出来ること。

1番! 超常現象を起こし、ビビらせる。
超常現象は起こせるけど(暗殺術とか)、それが何に繋がるのだろうか甚だ疑問だ。
2番! 風とかを吹かせてビビらせる。
思いついたは良いけど、1番と同じ理由で意味ないような。
3番! 「魔力放出」で圧力をかける。
説明見て気付いたんだけど、この魔力って密度濃くしたら物に干渉できるんだよね。噴出させる勢いで、動きも補助できるし。クシャ戦では大活躍でしたよ。
で、この特性を生かして、プレッシャーをかける。体が重くなったように感じられれば何かしら僕を脅威に感じて、行動を自粛するかも。でも、それじゃあタケミちゃんはカバーできないし……。

そこで思いついたのがこの4番! 「精霊に頼む」。
なんか呪う系の精霊か神様を呼ぶ。
「天罰」のほうで良いかな?
いやぁこの人たちにはものすごい「天罰」が行きそうだよね。僕という被害者も居るし。
それでもダメだったら、カロンちゃんになんか良い方法有るか聞こうっと。

それでは早速……

(なんか呪う系の天罰をあの男子に!)

僕の左前に座っている彼が最初の標的だ。理由は僕の机を投げてくれた奴の中で一番近かったから。
ちなみにタケミちゃんは僕の右隣である。彼が突然のたうち出しても被害は行かない。
どうやら僕の願いは届き、「天罰招来」スキルが発動したらしい。
しゃがれた声が頭に響く。

【いいじゃろう……あやつは嬲り甲斐のありそうな獲物じゃて……ヒェッヒェッヒェッ。】
(いかにもなお婆さん声がキタ――――――ッ!)
【「吸精」で行くかの。一生、不能に苦しむがよかろ。】

ズズズズ…………

その瞬間僕は見た。空から伸びてきた魔力で編まれた腕が空から伸びてきて、男子の体に潜り込むのを。

【おやおや、チンケな量じゃこと。ついでに気力もいただいておこうかの。】

ズルリ、と彼の大事なものを抜き去って、腕は教室の天井へと消えていった。

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン!「天罰招来」スキルの発動に成功しました。熟練度が2033.0を越えました。熟練度上昇に伴い魔力にボーナスが付きます。≫

今回は魔力の減りが、熟練度アップ(プラス150くらい)では補えなかった。
何せ、この一回で1500も魔力が使われたのだから。雷(通常)の150倍である。
その効果は劇的だった。

男子は今まで必死で取っていたノートの上にシャーペンを放り出し、しゃっきりと伸ばしていた背をダランと後ろに持たせかけ、さらに手足を投げ出すとこう言った。

「生きるのってマジダリィ」

気力を吸い取られ過ぎだった。
その上、一生ED。

「もう死ぬか。……いや無理。死ぬのもメンドくせぇ。寝るか……いや寝るのも(ry 」
(この効果は……いけるッ!)

死んだタコみたいになって、辛うじて椅子に引っかかっている男子を見つつ、ハルマサは効果を確信する。
ここにブラックハルマサが爆誕した。
ちなみに数学教師は男子生徒に注意すらしなかった。うるさくしなければどうでも良いという顔だ。
この学校は……ホントに大丈夫だろうか。



その後、天罰を願いまくった。
精霊のバァさんはホクホク顔(だろうと予想できる声)で、男子生徒たちの精力気力を奪っていく。
結果、教室にヤル気の無い者が急増した。
今学期、テストのクラス別順位は過去最低だろう。来学期は退学者がいっぱいかも。
ちなみに精力気力を奪って欲しいと願うと、必要魔力は2000になった。
向こうの好意でやってくれることと、こちらが依頼することとでは勝手が違うらしい。

だが、ハルマサの魔力は天罰を願う前で1万7千あった。しかも願うたびに200は回復している。
机を投げ落とした6人程度の男子を不幸にする分には、何の支障もない。

6人を呪い終わった後のハルマサの魔力は、7711/18275(936up)である。
まだまだ呪いは撃ち放題だ。
しかし、とハルマサは考える。
「人を呪わば穴二つ」この言葉が脳裏をよぎる。

何のことは無い、ここまで散々やっといて今さらだが、ハルマサは自分に呪いが帰ってくるのが恐ろしくなったのだ。
正直EDとか悲しすぎると彼は思った。
よって、ここらで止めとこう、とハルマサは決心した。
対象の精神力がハルマサより高い時にしか呪詛返しは起こらないが(ハルマサの精神は20000以上)、神ならぬハルマサはそれを知りようがないのであった。

で、残りの懲らしめたい男子は剛川と畑川である。

なんか二人ともハルマサにビビッて居るようにも思えるが、ハルマサは、自分が居なくなった後のタケミの安全を保障するものが欲しかった。
よって、発想を変える。

(タケミちゃんが強くなれば良いんじゃね?)

という訳である。これはいけそうだが、手段が浮かばない。
何か良い案が浮かべば…………浮かばない。
でも、困った時に頼れる彼女は?

(女神ちゃ――――――ん!)
【なんじゃい! こんな遠くに呼びおって!】

そうカロンちゃんである。

(実はカクカクしかじかで。)
【この娘を強くしたいと。そういうコトか。貴様がその小娘に入れ込むのは少々アレじゃが……それならあいつが良い。おい、ちょっとこいッ!】
【――――――チィッス! このルクシオンをお呼びッスか、カロンの姉さん。】

勝手に新しい精霊呼んじゃったよカロンちゃん。

「神降ろし」スキルは現在レベル10なので、一柱の精霊当たり、毎秒20の魔力が減る。
よってどれくらい持つかと言うと、7000(カロンで減っている)÷40で170秒くらい。約3分か。
意外といけるな。

【ほほう。それなら「聖鱗」とかどうッスか? 効果出すにはかなり魔力使うッスけど。】
【なるほどの。では足りない分は耐久力から取れ。何とかなりそうじゃて、良かったのぅハルマサ。】

全然良くないんですけど。僕下手したら死にませんか? 僕の耐久力4000ないんですけど。

(せ、せめて持久力から!)
【持久力ッスか。問題ないッス! じゃあいくッスよ! 「聖鱗付与」ぉおおおおおおッ!】

隣でささやかな光が瞬くが、それを見る余裕がハルマサにはない。
体の中からいろんな物がなくなっていくのを感じていたからである。

(ぐぅぅぅうううッ!)

ルクシオンは体内にはもう居ないらしく、上のほうから頭に声が降りてきて、事後報告してくれた。

【あ、すんません。持久力でもちょっと足りなくて結局耐久力も削っちゃいました。】
(そ、そんなことだろうと思ったよぉオオオオオオオオ! か、体が動かない……!)
【でも、これで1年は保つッスよ!】
(あ、それは普通にありがたい……)

現在のハルマサのダメージッぷり。

耐久力:3/3499
持久力:0/6050
魔力 :0/18275

まさに瀕死だった。でも3って言えば初期より高いし、魔力も持久力もいずれ回復する。問題はないだろう。
魔力が回復したら、中庭に行ってカロンちゃんに回復してもらおう。
そう思うハルマサである。

そして「聖鱗付与」の効果だが……

「佐藤君、顔色悪いけど、大丈夫?」
「(せ、聖女!?)た、タケミちゃんは汚らわしい僕なんか見ていてはダメだッ!」
「??????」

こっちを向いて小首を傾げる彼女は、清らか過ぎて目に毒だった。
害を与える気が沸き起こるはずもないと確信できるオーラである。
精神力の高いハルマサでさえ揺さぶられるのだから、対価を払った分の効果は出ているようだった。
よほどの悪人でもない限り、彼女に危害を加えられないだろう。
これなら安心である。

見れば、魚のような目をしていた教師が涙を流して拝んでいる。
あの無気力放題な男子たちにも、とりあえず拝んどくか?という気持ちを起こさせているようだった。
突如出現した地上の女神にクラスが馴染むのは、結局数学の時間が終わる頃であった。


<つづく>


タケミちゃんは、聖(セイント)ヒロインへと進化した!


◆「聖鱗付与」
 悪意ある攻撃を防ぐ聖なる守りを付与する。消費魔力に従い効果は上昇。消費魔力によっては向き合うと悪意を持つことすらできなくなる。
(今回は耐久力と持久力も魔力に変換して合計10000ポイント使用したので、後者の効果もそれなりにある。)





[19470] 44
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/06/21 15:57
<44>



多くの無気力な若者と多大な混乱を発生させた数学の授業が終わった。
次の授業は体育である。結構楽しみだ。
僕はさっさと着替えようか、と体操服を準備していた。
こんなこともあろうかと、カバンには必要最低限は入れてあるのだ。
教室は男子の更衣室となるので、女子は早々に違う場所に移るのだが、ドリルさんはノシノシと肩を怒らせながら歩いてきた。

「ちょ、ちょっと顔を貸しなさぃよ!」
「良いけど、ちょっと待って、ね!」
パチン!
「ナファ―――ッ!」

ついに彼女はブリッジを越えた。無様な格好で男子にパンツをさらす時は終わったのだ。
無様なのは変わりなかったけど。
彼女は猛烈な勢いで仰け反ると、床に頭頂部を打ちつけ、そこを基点に回転力を持続。ついにはうつ伏せに成った(この間1秒)。
ゴン!バタン! 音にすればそんな感じか。
顔が見えず、髪の毛が放射状になっていてちょっと怖い。

「で、どこに行くの?」

うつ伏せになっている彼女に質問をする僕は、何処から見てもただの外道! タケミちゃんには決して見せられない。更衣室に行っていて、ここに居なくて良かった。
僕が質問すると同時、ドリルさんは顔を跳ね上げると体も跳ね上げ(彼女は運動が出来る人なのだ)、米搗き虫の如く跳ね起きる。

「こっち来て!」

鋭い口調で言うが早いか、彼女は僕の手を掴んで足早に教室を出る。耐久力低いから気をつけないと。

「あの、何処に行きたいの?」
「いいから! こっちよ!」

有無を言わせぬ態度にちょっとイラッとしたが、この状況は「桃色」の効果が作り出したものなので、興味も湧いて、僕はなすがままにされている。だが、言うことは言って置かないと。

「次体育の授業だから、早めに終わらせてね。」
「や、休めば良いじゃない!」
「ふざけてないでよ。それで、用件は何?」

もう辺りに人気はない。彼女は赤い顔で僕を睨んでいたが、意を決したように僕に頭を下げる。

「あ、あなたに謝りたかったのッ!」
(……へぇ。)
「わ、わたし、あんな酷い事して……許されるとは思わないけど……あなたに嫌われたままっていうのが嫌で……!」

随分と殊勝な態度である。
好きになった人には尽くすタイプなのかもしれない。
だが、これは桃色の効果であることには変わりない。
所詮作られた感情であり、そう認識しているハルマサを、彼女がどう思うようになりどのように行動しようが、それがハルマサの心を動かすことはないだろう。
人の心を弄ぶ事。最初は面白半分でやっていたけど、ここまで嫌悪感が湧き出るとはね。
でも、やるからには中途半端はダメだ。

「あの、勘違いしているよ……えーっと名前知らないや。何て言うの?」
「……!? ……え、エリカって言います……」
「ふーん。まぁ、どうせ忘れるから何でも良いんだけど。とにかく、君は勘違いしてる。僕は君の事嫌いなわけではないんだよ。」
「そ、そうなの!?」

信じられない、嬉しい、という顔をするドリルさん。
確かに苛烈ないじめであり、あれに悪感情を持たないものは極少数だ。
全てを諦めている人か、いじめに耐え、さらに相手の家庭環境などに配慮を持てる聖人の様な人か。
僕はもちろん前者だ。

「うん。嫌いとか好きとか言う以前の問題かな。」
「えと、それってどういう……」
「君に全然興味がないんだ。」

固まっている彼女にさらに言葉を浴びせる。

「君が僕のことをどうしようがどう思おうが、僕はどうでも良かったし、どうとも思わなかった。それは今も同じなんだ。いじめには慣れていたしね。君のいじめっぷりは、まぁまぁだったよ。死んじゃうくらいにはね。」
「こんなはずじゃ……こんなことになるなんて思ってなくて……」
「もう僕に謝ろうなんて思わなくて良いよ。でも、タケミちゃんには謝って欲しいかな。じゃあね。」
「待って!」

ドリルさんは顔を悲痛に歪ませながら、僕を見る。

「私、あなたが好きなのッ!」
「それで? 好きだからいじめてしまった? はは、それは面白いジョークだね。」

確実に嫌われるところとか特に。

「そ、それはッ! 違うッ! 許してッ! 何でもするからぁ…許してよぉッ!」

ドリルさんはついに泣き出してしまう。濡れた瞳に、僕は全く心を動かされなかった。

「許すとかじゃないんだけどね……じゃあ、僕が好きって言うならさ。」
「な、何!? 何でもするッ!」

何故なら僕の心は自分への嫌悪感でいっぱいだから。

「もう近寄らないでよ。喋りかけもしないで欲しい。視界にも入らないでくれると嬉しいな。」
「ひ、ぐぅ……違うのぉ……!」
「じゃあね。えっと名前忘れたけど、もう僕に関わらないでね。」
「うぁ……ぁ……ぁぁ……!」

泣き崩れるドリルさんを背にして僕は思う。
なんて胸糞悪いんだ。
やっぱり桃色特性は最悪だ。
そして使った僕はもっとクソッタレだッ!

今の僕みたいに、喉の奥にタールを詰め込まれたような気分がするような時、他の人はどうやって耐えているのだろう。
ああ、タバコを吸って煙と一緒に吐き出したい。
吸った事はないけどね。






三時間目が体を動かせる授業だというのは幸運だった。
もちろん全力では動かせないけど(衝撃波が出ちゃうよ)、少しは気が紛れるというものだ。
と思ったら。

「今日はぁ、二つも体育を貰ったのでぇ、急遽予定を変更してぇ、この時間は体育祭で歌う校歌の練習をするッ!」

体育館に集められた僕のクラスメイトたちは、整列させられていた。
独断専行ばっかりだなこの体育教師。

「いい加減にしろよ鼻糞教師め。」

隣の男子がボソッと言ってて、見ると確かに担任の鼻の横のホクロがそう見えないこともない。
思わずクスリと笑ってしまった。

「ふふ、受けたぜ。って隣、佐藤か。気配薄いなァお前。今朝はあんなに……ってお前朝凄かったよなッ! どうやったんだよアレ! コツとかあるんだったら俺にも教えてくれよ!」

結構なイケメン顔をコロコロ変えながら、男子生徒はまくし立てる。
どっちのことを言っているのだろう。ペンを突き刺したことか、ウインクでドリルさんをブリッジさせたことか……どちらでも答えは決まっている。

「修行して会得したんだ。」
「はい嘘つけ!」
『そこぉ! 静かにしろッ!』
「わっ……!」

首を竦める男子に苦笑を返す。

「怒られちゃったね。」
「お前のせい……じゃないな。ったく笑いやがって。……でもお前、話すと結構面白いのな。」
「そう?」
「こんな人畜無害な顔してエリカ嬢を転ばせるしな。あいつに逆らったのってお前が初めてじゃね? ……凄いよホントに。俺には無理だ。」
「たまたまだよ。修行したしね。」
「それは嘘だ!」
『お前らァいい加減に……』

名前も知らない男子との会話。
友達を作るのって簡単なんだ、とハルマサは意外に思うのだった。


そして、校歌斉唱。
ハルマサは自分の特性を忘れていた。
「寂寞(セキバク)の歌声」とはどんな歌でも問答無用で切なソング変えてしまう特性なのだ。

体育館は涙する者、目頭をおさえる者が量産された。

「校歌がこんなに泣けるなんて……!」
「正直校歌を侮ってたぜ」
「ハンカチがビシャビシャだよぉ……!」
「お前らァ……グス、卒業しないでくれぇ……!」
「なんかあいつに言われると冷めるな……。」
「…………キモい(ボソッ)」

そんな中、ハルマサは現状が自分のせいだとも知らず、一人だけ素面で歌い続けた。
音痴な自分だけ歌い続けるのは新たないじめなのかと思いつつ。

授業後、タケミちゃんに「何があったのッ!? 私でよかったら聞くから!」と心配されて、ようやく特性に思い至る。
封印したい特性がさらに増えたハルマサだった。







カリカリ、と少年は爪を噛む。
少年は面白くない、と心底思っていた。
最近はめっきり表情も減って、人形みたいになってたのに。
何も頼れるものがなくて、どん底になっていたのに!
さらに絶望を味あわせるために、お前の目の前でいじめをチクッた女を輪姦す予定も立てていたのにッ!

2日休んだと思ったら急に生き生きとしやがって。あのチクッた乳臭い女とイチャイチャしやがって!
しかもなんだあの力は! ほんの数日前までヒョロヒョロだったくせに、突然力を手に入れただと!?
クソがッ! ガキ向けの漫画じゃねぇんだぞッ!
そんな訳の分からないことで、計画を崩されてたまるかッ!
少年は暗い表情で爪を噛む。しかし、その目はギラギラと禍々しく光っていた。
今日中に元に戻してやるよ。あの、素敵だったお前にな。
少年は唾を吐き捨てると、直ぐに表情を消して、トイレを後にした。



<つづけ>



<嘘次回予告>

ハルマサを影から脅かす彼の正体とはッ!
衝撃の人物と対面したハルマサは絶叫する。

「まさか『フリッカージャブみたいじゃね?』の人だったなんて――――――ッ!」

彼の頭の髪の盛り上がり、実は突起した頭蓋骨を隠すものだった!(エリートヤンキーの河合か!)
彼は突起をむき出しにし、醜い心もむき出しにする。

「世界征服にはお前が邪魔なんだよぉ――――――!」
「くぅぅ、全国のおじいちゃんおばあちゃん、僕に力をッ!」

このssの明日はどっちだ!
次回、あなたは激震するッ!(かも知れない)

という嘘予告。激震って何だ。




<あとがき>
コードギアス二期のDVD最終巻、誰が借りてるんだぁ――――――!(挨拶)
早く返却してくれぇ! 最後だけ見えないとか、気になり過ぎるッ!
それはさて置き、勢いオンリーssもついに地獄の44話!
そして最近思うこと。
そろそろ戦闘が書きたいッスね。
次の次の更新には現代編ともおさらばだいッ!



感想ありがとう。きっと批判がやべぇんだろうなと思いつつ見ると皆さん好意的!
かなり嬉しいっす。

>鴉さんへ
そういう検証はどんどんやっていただきたいッ!ていうかありがとうございます。
参考にします。

>同種しばりはあるけど同性しばりはない
それを期待されても困るんだぜ
書くのが精神にきすぎてきっと更新が滞ってしまうんだぜ
だからごめんなんだぜ

>あんまり陰湿じゃないイジメのほうが読んでるほうも楽でいい
いじめの描写はあんまりないんだぜ

>カロンはwikiあるので調べてみるといい
オイッス!……じじいだね。偏屈な。だが俺の中の(ry

明日も更新!
ちょっと遅めで8~9時くらいに


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