浜松市北区三ケ日町の浜名湖で、愛知県豊橋市立章南中学1年の生徒ら20人乗りの手こぎボートがえい航中、転覆し女子生徒1人が死亡した事故で、静岡県警細江署は19日午後、業務上過失致死容疑を視野に、実況見分を始めた。また、国土交通省運輸安全委員会も事故調査官2人を現地に派遣し調査する。転覆したボートに乗っていた教諭の「大きな横波を受けて転覆した」との証言もあり、焦点は、大雨や強風などの注意報発令中に出航した判断の適否や、ボートのえい航作業が適切だったかが中心になる見通しだ。【仲田力行、平塚雄太】
青年の家を所管する静岡県教委によると、出航するかどうかの判断は青年の家の職員と、野外体験学習に参加していた章南中の教諭が協議。職員は「このくらいの天候なら普段から訓練している」と説明し、章南中の水野克昭校長もこのアドバイスを踏まえ決行を決めたという。
一方、野外体験学習に参加した同校長は18日深夜の会見で「このくらいの雨なら大丈夫、と青年の家職員から(中学の)学年主任が聞いた」と実施判断について微妙に食い違う説明をしている。
青年の家の檀野清司所長(52)は職員から結論を聞き、出航を認めた。静岡地方気象台は18日正午すぎ、現場付近には大雨や強風、雷などの注意報を発令した。檀野所長は発令を知っていたという。
県教委の説明では、青年の家の職員は出航前、吹き流しを確認し風速3~4メートルと判断。午後4時の訓練終了までに天候が急変することはないと考えていたという。
県教委によると、青年の家は今年6月、ボートを出すかどうかの検討が必要になる基準を確認。この内規によると、乗船が小学生の場合は「平均風速8メートル以上」、中学生の場合は「最大瞬間風速10メートル以上で湖面のうねりが強い」としていた。
「ボートは大きな横波を受けて転覆した」。静岡県教委によると、ひっくり返ったボートに乗っていた女性教諭はこう証言した。
県教委は19日、青年の家の職員から聞き取った話を説明した。それによると、4隻のボートは午後2時15分ごろ、一列になって東から吹く風を船首に受けながら出航。しかし午後3時ごろ、風向きが一変。南から風が吹き始めた。先頭のボートの指導員が急きょ、船首を南に向けるよう各船に指示した。
ところが、先頭から3番目のボートだけが指示された行動を取れなかった。生徒数人が船酔いなどの体調不良でオールをこげない状態になっていたという。このため、このボートに乗っていた教諭が青年の家に無線で救助を要請。青年の家の檀野所長ら職員2人がモーターボートで駆け付けた。檀野所長らは午後3時15分ごろから、ボートの船首にロープをつなぎ、けん引し始めたところ間もなく転覆した。残る3隻は現場で救助を待ったという。
青年の家は浜名湖でボートやカヌーを使った訓練を受けられる施設。県が昨年度まで管理していたが、今年4月から「小学館集英社プロダクション」(東京都千代田区)が指定管理者になり、常勤・非常勤職員計14人で運営している。
ボートなどの海難事故を研究する「日本スポーツ法学会」の中田誠事務局員は「最悪の状態を想定する危機管理の常識があまりに希薄だった」と管理者の「静岡県立三ケ日青年の家」や施設を所管する静岡県教委の判断に疑問を指摘する。
中田さんは昨年5月、鹿児島県垂水市の鹿児島湾で、カヌーが転覆し、中学生54人が海に投げ出され、4人が一時行方不明になった事故(後に救助)との類似性を指摘。当時、現場海域には海上強風警報が発令されていたが、体験学習を受け入れている「国立大隅青少年自然の家・新城海の家」は、活動を中止させなかった。この事故では、発生時の対応マニュアルがなかったことも問題になった。中田さんは「十分なマニュアルを作っていたのか疑問」と話した。【杉本修作】
毎日新聞 2010年6月19日 12時15分(最終更新 6月19日 13時34分)