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ペリカンが魚が住民が 原油流出のメキシコ湾、深い傷

2010年6月20日14時19分

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写真洗い終わったペリカンをすすぐ。ペリカンは意外とおとなしくしている=18日午後、米ルイジアナ州ブラス、勝田写す

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 米史上最悪になった原油流出を起こした掘削基地の爆発から、20日で2カ月になる。かつてない量の原油が海中に放出され、生態系や漁業などへ深刻な影響が広がりそうだ。地元ルイジアナ州では、経済への長期的な影響に不安の声が聞かれ、21年前に大規模な流出が起きたアラスカ州では、今も傷跡に苦しむ人たちがいた。

     ◇

 原油流出が起きた油井に最も近い陸地は、ルイジアナ州最大の都市ニューオーリンズから南東に広がるミシシッピ川河口のデルタ地帯だ。広大な湿地帯には、貴重な鳥類や魚類などがすみ、野生生物保護区もある。沖合の油膜が漂着しないようオイルフェンスなどで守っているが、風向きによっては住民が原油のにおいを感じるほか、先月から周辺の島で原油まみれのペリカンが多数見つかり、被害の象徴的存在になっている。

 デルタ地帯南端の町ベニス近郊の町ブラスに野鳥を洗う基地があり、原油まみれになったペリカンやアジサシ、カモメなどが次々と運び込まれる。ルイジアナ州立大の学生や自然保護団体の人ら約60人が詰め、4月28日の開設以来、今月18日までに休日返上で591羽を洗った。

 原油が羽に付くと、海に飛び込んで魚をとるのを嫌がるようになるという。「放っておくと衰弱して死んでしまう。網などでつかまえて連れてくる」と、責任者の一人ジェイ・ホルコムさん(59)。

 鳥洗いに使うのは食器洗い用の洗剤。洗浄後、フロリダ州やテキサス州に運ぶ。元々いた場所に戻すと、また原油まみれになる可能性があるからだ。「1989年のアラスカのタンカー座礁のときも鳥を洗ったが、今回は最悪。原油が漏れ続けているからだ」とホルコムさんは訴える。

 だが、原油漏れが止まったとしても懸念は残る。油滴を細かくして細菌による分解を促す分散剤は、魚類への毒性が心配され、魚に蓄積すると鳥への影響が出る恐れも指摘される。

 魚やエビ、貝など水中の生き物への影響について、環境NPO「オセアナ」の主任科学者マイケル・ハーシュフィールド博士は、原油の毒性のほか、原油と一緒に噴き出す天然ガスに含まれるメタンを心配し、「メタンを栄養にする細菌が増え、水中の酸素を消費し尽くして多くの生き物が死ぬだろう」とAP通信に話す。細菌は原油の分解もしてくれるが、今回の流出量が異常に多く、どこまで分解されるかはわからないという。

■アラスカの事故、被害は今も

 アラスカ州南東のプリンス・ウィリアム湾にのぞむ人口2200人の小さな町コルドバ。住民たちにとって、遠く離れたメキシコ湾の流出事故は決してひとごとではない。21年前の1989年、湾内で米エクソン社(当時)のタンカーが座礁し、4万キロリットルを超える原油が流出したからだ。「今、彼らがどういう思いでいるのか、手に取るように分かる」。事故後に湾の自然回復調査を目的に設立された科学センターのナンシー・バード所長は言う。

 自然豊かな湾内の事故で約3万5千羽の野鳥、約千匹のラッコの死骸(しがい)が確認されたが、実際には25万羽、2800匹が犠牲になったと推定される。そして、21年の年月を経ても、ラッコは当時の水準には回復していないという。

 流出した原油のうち、回収できたのは14%程度。壊滅的打撃を受けたのが、町の漁業の3分の1相当を支えていたニシンだ。漁師でもあるジェームズ・カレンダー市長は「20年たってもニシン漁は復活していない」。

 89年当時、合計3400万ドル(約30億円)の価値があった各漁師の漁業権はタダ同然。影響が小さかったサケも、風評被害で価格が暴落。このため、借金を抱えていた多くの漁師が破産に追い込まれ、アルコール依存症に陥ったり、離婚したりした家庭が相次いだ。事故当時の市長は心労で93年に自殺したという。

 さらに、コルドバの漁師グループのロシェル・バンデンブロック事務局長は「メキシコ湾事故でBPは、被害補償に全額応じると言っているが、信じてはダメだ」と警告する。89年の事故直後、エクソンも同じ言葉を繰り返していたが、結局、法廷闘争に持ち込まれ、決着したのは20年近くたった08年。集団訴訟の賠償金も最高裁では地裁段階の1割に減額され、多くの原告が決着を見ることなく死亡した。メキシコ湾側からの問い合わせも相次ぐが、「オバマ大統領の主導で補償のための基金が出来たのは評価できるが、過大な期待は持ってはいけない」と助言する。(ブラス〈米ルイジアナ州〉=勝田敏彦、コルドバ〈米アラスカ州〉=田中光)

     ◇

 〈メキシコ湾の原油流出事故〉 米南部沖のメキシコ湾の海上で4月20日、英BPの掘削基地が爆発事故を起こし、海底から大量の原油が流出し始めた。1997年に日本海沖で座礁したロシアのタンカー・ナホトカ号の流出量6200キロリットルを超える9500キロリットル(最大推定値)が毎日流出中だ(回収分を含む)。総流出量は38万キロリットルを超えている可能性がある。また、汚染された海域は東京都を含む首都圏がすっぽり入る範囲に拡大している。これまでの流出防止策は、流出源が水深1500メートルの海底とあって失敗し続けている。流出を完全に止めるには、近くに別の油井を掘り進むなどして、最終的にコンクリートを流し込む必要があるが、順調にいっても8月までかかるとされる。

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