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政権交代、そして…:検証・マニフェスト/2 診療報酬プラス改定 /秋田

 ◇再生への道筋は見えず

 「(秋田市北部の)秋田組合総合病院への救急患者の搬送が最も多くなった。従来より2倍の時間がかかっている」。一刻を争う救命救急の現場。南秋田郡のある消防関係者はこう打ち明けた。

 JA秋田厚生連の湖東総合病院(八郎潟町)は4月、夜間と休日の救急対応を中止。平日日中も、医師が対応できる場合に限られるようになった。原因は、医師が次々と辞めたこと。さらに秋田組合総合病院も手いっぱいで対応できない場合もある。「心肺停止の患者を、より離れた秋田大付属病院や秋田赤十字病院まで運ぶことが増えている」

    ◇   ◇

 県内で相次ぐ医療危機の表面化。厚生連の佐藤博身理事長は「診療報酬が下がっていなければ、これほどひどい経営状態にはならなかったのではないか」とため息をつく。

 治療や診察に応じて病院や医師に支払われる診療報酬は、02年度以来4回にわたりマイナス改定された。

 さらに国は04年度から、大卒後の研修医が研修先を自由に選べる新しい医師臨床研修制度を導入。従来は大学の「医局」が地方病院に研修医を派遣する方式が定着していたが新制度では教育環境が整った都市部の大規模病院に研修医が集中するようになった。地方では医師が足りず、受診科や病床数が減り、患者が来なくなる悪循環を招いている。

 この「ダブルパンチ」(佐藤理事長)に見舞われて収入が落ち込んだ厚生連。県内各地で中核医療を担っているが、建物の老朽化に伴って89年の山本組合総合病院以降6病院を改築した負担も重くのしかかる。

 県の支援を受けながら、湖東総合病院の診療内容を絞り込むなど抜本的な病院体制の見直しを迫られている。

    ◇   ◇

 「地域医療の再生」を掲げる民主党政権の誕生後、診療報酬削減の流れは変わった。

 国は4月から、0・19%増と10年ぶりのプラス改定。個人の開業医より病院側を優遇した内容となっている。それでも佐藤理事長は「効果の見極めに3カ月はかかるが、9病院の中でも収入が増えるのは高度医療を実施する大規模病院だけで、小規模病院は増えないのではないか」とみる。診療報酬引き上げは、健康保険の負担増にもつながる。

 また新政権は自民党政権時代の国の「地域医療再生基金」の一部を執行停止。県は当初これを活用し、1件100億円の枠で厚生連の仙北組合総合病院(大仙市)改築、30億円の枠では北秋田医療圏でのドクターヘリ配備などの応募を見込んでいた。だが結局、県に交付されたのは25億円ずつだった。

 佐藤理事長は「今の政権は、日本の医療をどうしたいのかよく見えない」と嘆く。

    ◇   ◇

 病院や患者を支える地域社会も揺らいでいる。

 厚生連平鹿総合病院(横手市)の医療社会事業室で08年から患者の医療相談に当たる事務係長の照井正仁さん(38)の主な仕事は、入院患者の退院後の行き先確保だ。

 核家族化が進み、高齢者の子供夫婦は働く場の少ない県内にいないことが多い。共働きなどで、寝たきりの親を介護する余裕もない。

 周辺の特別養護老人ホームに申し込んでも200~300人の入所待ち。有料老人ホームは料金が高く、ショートステイ利用では定期的に自宅に戻る必要がある。「資金も自宅もない高齢者は、行政に働きかけて生活保護申請し、療養型医療施設に入ってもらうことになる」。病気で働く場を失った50、60代の生活保護希望者も増えたと感じている。

 病院から離れた患者の問題も深刻だ。交通手段がなく受診費を払う余裕がない患者が診療を手控え、ようやく来院したときはがんが末期まで進行していたというケースもあった。人工透析は週3回の通院が必要で、医療費は国の補助で無料になるが、タクシー代などが膨大になる。

 同病院の猿田勤事務長はこう語る。「生計が苦しい人の生活が、病気によって崩れてしまう。いくら『地域医療を支える』と意気込んでも、病院だけでは解決できない」【岡田悟】=つづく

毎日新聞 2010年6月21日 地方版

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