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きょうの社説 2010年6月21日
◎工場跡地の活用 コマツの対応も参考になる
コマツが小松市の小松工場跡地で、研修センターをはじめ、自然観察できる緑地の整備
や、旧本社建屋を復元する記念館建設などを打ち出したことは、工場撤退で衝撃が走った小松市にとっても歓迎できる活用策であろう。にぎわい創出にどれほど貢献できるかは今後の運営次第だが、企業が自らの責任で跡地問題に具体的な道筋をつけた点は、他の企業にとっても参考になる。北陸ではキリンビール北陸工場(白山市)、日本製紙伏木工場(高岡市)、JT金沢工 場(金沢市)など、地元にゆかりの深い大規模工場の閉鎖が次々と決まった。経営の一層の効率化を進める過程で、他の企業でも生産拠点再編の動きは避けられないかもしれない。 2年前に閉鎖した日本製紙伏木工場の跡地は今月、富山県内のリサイクル関連企業が取 得する見通しになったが、不透明さが残る経済状況では同じように民間が名乗りを上げる保障はない。財政状況の厳しい自治体にも取得余力はないだろう。倒産など経営が傾いたケースはやむを得ないとしても、企業は経営の後始末を地元に丸投げせず、最後まで当事者意識をもって解決に尽力してほしい。 コマツが発表した工場跡地の計画は、年間延べ約3万人の利用を見込む研修センターや 、里山を再現した緑地整備などで、チリで使われていた超大型ダンプも展示される。記念館では、理科実験やものづくりの学習ができるスペースなどが設けられる。全国の社員が研修で利用するだけでなく、産業観光の拠点としても期待できる内容である。小松市も新たな施設を最大限に生かせるよう、運営面などで協力したい。 コマツの場合、「創業の地」というこだわりや、石川に引き続き生産拠点を置くという 特別の事情もあろう。だが、コマツでなくとも、地元とともに歩んだ歴史をもつ企業であれば、跡地問題にも責任を担うのは自然な姿である。 工場や大型小売店の跡地利用が決まらず、地域の地盤沈下に拍車をかけるケースは各地 でみられる。自治体も「埋める」という発想にとどまらず、企業と一体になって知恵を絞る必要がある。
◎地域主権改革 「一丁目一番地」はどこへ
地域主権改革関連3法案が継続審議になったことで、地方から改革の停滞を懸念する声
が出ているのは当然である。鳩山前政権は地域主権改革を「一丁目一番地」と位置づけ、「国と地方の協議の場」を法制化することで、改革の大きな一歩を踏み出すはずだった。菅直人首相は所信表明演説で、地域主権に関して「総論から各論の段階に進む時がきて いる」と述べたが、政策の優先順位ははっきりしない。参院選マニフェストも、補助金の一括交付金化や国直轄事業の地方負担廃止など個別項目を列記したが、「中央集権から地域主権へ」のスローガンのもと、政権構想の柱に位置づけた衆院選マニフェストと比べれば明らかに後退した印象を受ける。 政府は参院選後に先送りする方針だった地域主権戦略会議を21日に開くことを決めた 。菅首相が議長を務めるなら、その場で改革をやり抜く決意を示す必要がある。6月中の閣議決定をめざす戦略大綱の中身も、改革の行方を見定めるうえで極めて重要である。 地域主権戦略大綱には、国出先機関の廃止・縮小計画や、「ひも付き補助金」の一括交 付金化、国が法令で自治体の仕事を縛る「義務づけ」見直しなどが明記される。だが、国出先機関改革をめぐる5月の公開討議では、権限移管に抵抗する各省の消極姿勢があらためて浮き彫りになった。補助金の一括交付金化にしても、使途に関して国の関与が残れば実質は変わらない。大綱でどこまで踏み込んだ方向性を示せるか、菅首相の本気度が試されることになる。 小泉政権下の三位一体改革で地方交付税を減らされ、地方の不信感は今も根強い。地方 が、国と対等な立場で協議する場の法制化を強く求めてきたのも、三位一体改革の二の舞を危惧しているからである。菅政権が財政再建に傾斜すれば、地方の財源に新たなしわ寄せが及ぶことも懸念される。 国と地方の協議の場は、2011年度政府予算の立案段階から機能させたい。参院選後 の臨時国会では、地域主権改革関連法案を真っ先に成立させる必要がある。
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