10日の告示を直前の7日、弁護士でタレントの橋下徹氏(38歳)を知事にする勝手連が結成されたことに、関西経済界は戸惑いが広がっています。
メンバーは以下の14人です。
国定浩一氏 (大阪学院大学企業情報学部教授)
堺屋太一氏 (作家、元経済企画庁長官)
江口克彦氏 (PHP研究所社長)
八幡和雄氏 (政治評論家)
木村皓一氏 (ミキハウスグループ代表)
松本孝氏 (三和実業社長)
喜多俊之氏 (工業デザイナー)
南部靖之氏 (パソナグループ代表)
三枝成彰氏 (作曲家)
坂田藤十郎氏(歌舞伎役者)
井手正敬氏 (西日本旅客鉄道元会長)
五味一彦氏 (大阪ターミナルビル相談役)
本田勇一郎氏(JR西日本コミュニケーション相談役)
経営者だけでなく、デザイナーや作曲家、人間国宝の歌舞伎役者まで名を連ね、一般人受けするのは間違いないといった応援団です。
代表となった国定氏は、大和銀行専務、りそな総研会長などを歴任して、2003年10月から現職ですが、阪神タイガース私設応援団本部顧問として、「虎キチ」としてよく知られた人です。大阪府知事候補のひとりとして自民党が何度も打診したものの本人は拒否していました。橋下氏とは北野高校の先輩後輩ということで、応援団長として引っ張り出されたようです。
ただ、このメンバーをひと目みて、多くの経済人は「国定さんは名義貸しで、キーパーソンは3人でしょう。堺屋氏、井手氏、そしてメンバーには入っていませんが、塩川正十郎氏も関与しているのでは」と推測しています。
堺屋氏は橋下氏を自民党の古賀誠・選挙対策委員長のもとに連れて行き、府知事選出馬のきっかけをつくり、マニフェスト作るなど橋下氏ブレーンの中心的な役割を果たしています。ある弁護士の紹介によって橋下氏と知り合い、昨秋あたりから懇親を深めたとされています。
堺屋氏は大阪出身で毎月、「堺屋塾」をホテルで開いたり、同年生まれの会をつくったりしており、関西経済界に大きな影響力があります。最近も橋下氏の支持を広げるため、企業回りをしています。
ちなみに、メンバーの木村氏は堺屋塾のです。
これほどまでに力を入れるのは、「これまで太田房江府政にかなり不満を持っていたようで、地盤沈下していく大阪府をなんとかしたい」という思いが強くあるためのようです。橋下氏に対して勝手連設立の記者会見では「改革に欠かせない迅速さがある。大阪の情報発信源になれる」と評価していました。
もうひとりのキーパーソンは井手氏です。「国鉄改革3人組」のひとりで、JR西日本の社長、会長を歴任。関西経済連合会副会長を務め、関西財界再編を主張し、当時の秋山喜久会長と対立したりするなど、歯に衣着せぬ言動で知られ、関西経済界に存在感を示してきました。
2006年、福知山線脱線事故の責任を取って、JR西日本の相談役を辞任していますが、グループ会社のJR西日本コミュニケーションズの特別顧問として影響力を持っています。
その井手氏が勝手連のメンバーに名前を連ね、しかも7日の設立の記者会見にも出席、「大変革のときは若い人の力が求められる」と橋下氏を持ち上げていました。その会見は冒頭の10数分の出席でしたが、むしろ時間的に無理をしてでも会見に出席したことで、橋下氏の支援に全面協力する姿勢をうかがわせていました。
もともと堺屋氏と井手氏は同じ1935年生まれで、卒業年次は1年違うが同じ東京大学経済学部卒で、親しい間柄のようです。堺屋氏は「勝手連をつくろうとなった、言いだしっぺは井手さん」と話していますが、どうも二人三脚で橋下知事誕生を目指しているようです。
その井手氏の登場に「面食らった」との声が上がっています。もともと政治と近く、自民党などとの関係が深いことから、「自民党再度から、府知事選では負けられないとの圧力が相当あったのでは」との憶測と、「福知山線脱線事故の責任を取って表舞台から去ったはずなのに、府知事選で特定の候補者の支援に登場するとは違和感を感じる」と戸惑いの両面があるからです。
JR西日本は「井手氏の活動は会社としてはまったく関知していません」と話していますが、メンバーに名前を連ねている五味氏はJR西日本の元取締役、同じく本田氏もJR西日本の元常務。勝手連にJR西日本の元幹部が3人もそろっていると、あれだけの事故を起こした会社の立場を改めて問われかねない、との声もあります。
塩川氏もまた、「大阪府をもっとよくしたい」との意気込みがあり、堺屋氏と足並みをそろえていたとみられており、今回のメンバーになかにも塩川氏と親しい人の名前が並んでいる、と指摘されています。
もっとも、メンバーのなかには、「いろんな付き合いで断われなかったけど、発表するメンバー表に名前は出さないでくれといったのになあ」「橋下支援の輪を広げるのは難しい」と漏らしているようで、どこまで勝手連が関西財界のなかで橋下氏の支持を広げるか、関心が集まっています。
というのも、橋下氏と関西財界の関係が微妙というか、溝があるからです。
以前にもこのブログで欠きましたが、本来、財界は与党サイドに立つはずなのですが、関西経済連合会の下妻博会長(住友金属工業会長)はあえて「ニュートラル(中立)」を強調。マニフェストに関していえば、「(民主党推薦などが推薦する元大阪大学大学院教授の)熊谷貞俊氏のマニフェストが一番しっかりしている」と評価し、一方の橋下氏のマニフェストは「公立小学校の芝生化は、府政の仕事なのか」「それをマニフェストに書くのはどうかと思う。奇異な感じがする」とばっさり切り捨てているのです。
これに対して、橋下氏や熊谷氏、梅田章二氏による「大阪府政に関する政策討論会」(主催・関西経済同友会)が8日、開かれましたが、ここで橋下氏は「下妻さんは、まったく府と市のことを理解されていない」と辛らつに批判していましたから、歩み寄りができるかどうか、難しそうです。
勝手連の誕生で、関西財界は分裂状態になりつつあり、そのことの困惑も一段と広がっているようです。長くなりましたので、「大阪府政に関する政策討論会」のやりとりや候補者のマニフェストなどを踏まえ、候補者に対する経済界のスタンスといいますか、戸惑い、混乱を次回に書きます。
by ケンドージュウライ
先物取引発祥の地・大阪の挑戦…