(cache) resonance:トンプソンチェルシー舞花  写す顔| 武蔵野美術大学 芸術文化学科

武蔵野美術大学 芸術文化学科 情報処理I resonance

トンプソンチェルシー舞花  写す顔

聞き手:吉田舞衣

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「どうぞー」
彼女、トンプソンチェルシー舞花が、昨日から1人暮らしを始めた新居に招かれ、このインタビューは始まった。
初めて持った自分の部屋だと嬉しそうに語る彼女は、始終とてもくつろいだ様子で私の質問に答えてくれた。


生活のにおいがする


―では、よろしくお願いします。まず、導入から(笑)1人暮らしはどうですか。


1人暮らし?もう、うきうきしてる!何か、自分から生活のにおいがすることが嬉しいんだよね。普段よく、「人形みたい」とか「何考えてるか分かんない」とか言われるから、どうもあまり人間だと思われてないみたいで(笑) だから、生活している感があることが嬉しい。そうそう、いつも髪切ってもらう美容師さんにも宇宙人だと思われてたらしいってことを最近聞いた(笑)
あ、まだ洗濯とかするのも新鮮。


―そうか。そう思っていられるのも今のうちだけよ(笑)
あ、最近は何してる?なかなか学校で会わなかったね。


(そこで彼女は歯を磨き始める)

最近は、油絵の選択の授業があった。私、絵が下手で。映像学科の写真専攻の推薦入試受けてムサビに入ってきたから、デッサンとかもほとんど触れてなかったの。だからもうデッサン恐怖症で(笑)しっかり向きあってやろうとすればいいんだろうけど、どうもひねくれた方向に走っちゃう。


―あーそれすごく分かる。私もそういうの一切触れてこなかったから。本当に恐怖だよね。


そうそう。でもふとしたことで線画っていうものに触れて、友達と色々描いてみたらすごく面白くて。だから最近は写真以外のことだったら、線画を描いてるかな。いつか展示したいねって友達とは言ってる。


撮ることがとにかく楽しい


―さて、そろそろ写真のことについて聞こうかな。


はいはい。私の苦手なジャンル(笑)語るのって苦手なんだよね。同じ学科の人で、自分の写真についてとかすごく語る人ってたくさんいるけど、語ってる間に撮りに行きたい。まあ、そういうこと考えるのも大切なんだろうけどね。


―確かに、難しいよね。何で撮るのかとか。
私も写真を少し撮るけど、そういう、自分の写真みたいなものは分からないな。


うん。でも写真について考えなきゃとは思っていたんだよね。インタビューはちょうど良い機会だったかな。 でも今、言葉で全部語れたら、写真は撮ってないと思う。うわ、今のクサイ(笑)
今は写真を撮ることがとにかく楽しい。楽しくてしょうがない。


―うーん、確かに。写真撮ってるとき、いつも楽しそう。
じゃあ、写真を撮るようになったきっかけってある?


「写真を撮っていこう」っていう意欲というか、写真に対する熱はじわじわきてた。ある日突然とかではなくて。私は結構飽きっぽいんだけど、写真はずっと続けてたし、飽きなかったんだよね。例えば、時々すごく写真を撮りたくなくなるときがあって…何か反抗期みたいな(笑)で、そういうときは撮らないでいるんだけど、「あー随分写真とってないなー」て思うとまだ3日くらいしか経っていなかったり。撮らずにいられる時間が少ない。


―何かいいね。それと一緒にいずにはいられないみたいな関係を築けるものが見つかるって、幸せなんじゃないかなと思う。
被写体についてはどんなものを撮ることが多い?傾向としては。


身のまわりが多いかな。自分の目の届く範囲、身近なものや人が中心。 被写体の写し方でも、すごく被写体から引いて撮る人もいるけど、私は寄って撮るほうが多いと思う。


―よく使うカメラはある?


常に持っているのはデジカメ。あとは、HOLGA(注1)、ポラロイド、一眼レフ、ゴールデンハーフ(注2)。でも最近はゴールデンハーフが気に入ってるよ。


―そういえば最近よく持ってるよね。


うん。ゴールデンハーフはハーフカメラだし、フィルム数気にしないでパシャパシャ撮れるから好き。


―確かに、すっごいパシャパシャ撮るもんね。よくファインダーとかのぞかないで撮ったりするから驚く。


じっくり構図とか決めてゆっくり撮る人もいるけどね。私は目にうつる感じを大切にしてるからかな。目で見るときって、構図とか位置とかそういうのないでしょ。 時々、ファインダーをのぞかないで撮るのは、思わぬ写真が撮れたりしないかなと期待を込めてみるから。だけど、全然構図とか考えないわけじゃないよ。ファインダーのぞくときは自分の写したいもの、目で見たものが写真の中に入るように考えるし。
かなりたくさん撮っているのは、多分撮りたいものがたくさんありすぎるからだと思う。だから自然と枚数が増えちゃうのかなって。


まだまだですよ


―うんうん。目はずっと連続してものを見ていて、枠で切り取っているわけじゃないしね。
じゃあさ、トンプの撮りたいものって何?


なんだろう。キュンとするもの、気になるものとか。好きなもの…というわけでもない気がする。嫌いだからこそあえて撮るっていう場合もあるし。
被写体で最近気になっているのは、集合住宅かな。芸祭で集合住宅のコラージュも作ったし。見たよね?ぐるっと球体状になっている集合住宅の作品。あれ、「何でこの形にしたの?」って言われたんだ。何か現実的にあり得ない形でしょ、球体の建築って。でもあったらいいなって思って作ったんだけどね。


―球体だと転がるしね(笑)
うーん、この質問は難しいね。私だって何撮りたいのかって言われても分からないよ。
ところでトンプはさ、モデルさんというまた別の顔を持っているわけだけれど、それについても聞きたいな。 撮ることと撮られることっていう対になる2つを自分の専門としている人って、なかなかいないと思うし。


(おもむろに麻婆豆腐を作り始める)

うーん、モデルをしてるのは純粋に、写真ってものにすごく興味があるからなんだよね。撮られるのが好きだけど、やっぱりそれは写真に関われるからで。
以前にモデルの仕事の繋がりで会った人に写真を見てもらったことがあって、そこで自分の写真に対してすごく客観的に、写真を通して私の性格とか自身について言ってくれた人がいて。パワーショベルっていう会社の社長さんなんだけど、私の写真を見て「楽しそうに撮っているんだね」って言ってくれて、それが単純に嬉しかったんだよね。そのときは展示の企画で、私以外にも何人かのモデルさんと一緒に展示したんだけど、写真を持ってくるときに私は本当にたくさん撮って来てて、フィルムを何十本も出して驚かれたりした。


―では最後に、何で写真を撮るのかな?


「何で写真を撮るのか」っていう質問は難しいな。すごく幅が広すぎて。逆に写真を撮りたくないときに、何で撮りたくないのかなと考えるときがあってね、1つは忙しいときで、これは物理的に写真を撮れないわけ。2つ目は誰かが写真っていう表現のすべてをやり尽くしちゃったんじゃないかっていう妄想にとりつかれるとき(笑)

これは前に友達が言ってたことだけど、写真で、自分の伝えたいイメージがあったらそれがそのまま正確に伝わらなくちゃ意味がないと思っているらしいのね。でも私はそうじゃなくて、自分の撮ったものから、見た人それぞれが色々違ったことを感じたらいいなと思ってるんだ、今は。その写真の持つ意味がたくさん広がったらいいなと。
多分、自分の中に伝えたいものとかイメージとか、あるんだろうけどまだ、もやもやしてて言葉に出来ない。言葉化することってきっと大切なんだろうなって、最近気づいたし。そのためには、経験とか色々必要なんだと思う。まだまだですよ。

取材・場所/2006年11月19日 トンプソンチェルシー舞花 宅にて

About Interviewee


●トンプソンチェルシー舞花
1989年/東京都出身
2007年/武蔵野美術大学 映像学科在籍中
写真を撮り、撮られるという2つの顔を持つ。

About Interviewer


●吉田舞衣
1988年/栃木県出身
2007年/武蔵野美術大学 芸術文化学科在籍中