それは日常から起こった事件
「ふふふ、ははは、はぁ~はっはっはっは!」
地下の研究室に響く女性の高笑い。
扉を開け放ち勢いよく階段を上る。
ちらりと横目で腕時計を確認。
目標を寝室に設定。
「忠夫~!起きて起きて!ついに出来たのよドメール戦法を可能にする次元連……」
彼女がそこで見たのは眠る夫だけではなかった。
夫を挟むように寝ている2人の女性。
とりあえず握ったままのスパナを夫に全力投球。
「忠夫の馬鹿~!」
泣きじゃくりながら家を飛び出す。
行き着いたのはなじみの喫茶店。
営業時間等とうに過ぎているがそんなことは気にしない。
故にメニューにないお酒が出てきても問題ない。
飲む、飲む、飲む。
時間がいくらかたったころ、開けられる扉。
「お迎えが来たみたいですよ」
にっこり笑うバーテン、じゃない店員のお姉さん。
頭に包帯を巻いた夫が息を切らせて立っていた。
少し胸がときめく。
「すまないね、初音ちゃん」
開口一番出てきたのは店員への謝辞。
一気に鎮静。
顔を明後日の方向日に向ける。
「こないで」
静かに言い放つ。
そんな言葉気にしてないように近づいてくる夫。
掌を夫に向けて光弾を放つ。
あっさり光る板で受け止める夫。
苦笑している。
それが余計に腹立たしくて、出来たばかりの装置に火をいれる。
先ほどと同じように光弾を放つ。
同じく受けとめようとする夫だが、ぶつかる寸前に光弾が消える。
同時に夫の横に光弾が現れ、横っ面に直撃した。
身体の震えがとまらない。
「いつもいつも白ちゃんと玉藻ちゃんばかり可愛がっちゃって、忠夫の、馬鹿~!」
撃つ、撃つ、撃つ。
光る弾の乱れ撃ち。
360度、全方位からの乱れ撃ち。
煙に包まれる店内。
晴れるとボロ雑巾のように地に倒れる夫の姿。
軽く息を乱しながら天を仰ぐ。
なんだか惨めな気持ちになった。
突然両頬にかかる圧力。
無理やり視線を変えられた。
至近距離に夫の顔があった。
無理やり唇を塞がれる。
舌が入り込んできて口内をかき回す。
抵抗する気は起きなかった。
「悪かったな蛍」
夫は黙って髪をなでてくれた。
うん、とつぶやくと顔を夫の胸に埋めた。
「一件落着ですね」
歌うように言う店員。
「では、これ壊れた店の修理代請求書です。どうぞ」
良い笑顔だ。
―某次元空間―
次元航行中の船内に衝撃が走る。
鳴り響く警告音、赤く点滅する非常灯。
「船長いったいなにがあったんです」
呼びかける少年の声。
「次元空間内に高エネルギーの魔力弾が乱れ飛んでいる。1発当たって補助動力機がいかれた」
再び揺れる船内。
悲鳴のような管制官の声が少年の鼓膜を揺らす。
「これは!?次元空間外からの干渉反応」
「馬鹿な。船をえぐるだけの魔力だぞ?それを転移させているとでもいうのか」
「しかし事実で、うっうわ!?」
「く、今度はどこに当たった」
「第13番倉庫、隔壁損傷!」
何の迷いなく少年は走った。
そして見たのは無残に抉られ、なくなっている元倉庫だった場所。
少年は懐から小さな機器を取り出すと再び船長に呼びかけた。
「船長、ジェルシードが次元空間内に落ちました。僕はこれから追尾・回収を行います」
時空管理局への連絡お願いしますとだけつげる。
少年は答えも聞かずにその身を船外へと投げた。
そして一つの事件が幕を開ける
国を護ろうとする者
「天竜!」
「あぁ、ワシも感じた。異界から何かがきおったな」
「うん。結構な力を持ってるみたい」
「あ~、このくそ忙しい時に。すまんがパピリオ、小竜姫とヒャクメに連絡。調査をさせてくれ」
「判った」
隠れ潜む者
「兄さん」
「ん、どうした初音」
「次元探知機に反応。何かがこの付近に転位してきたようです」
「……数は?」
「二十一。エネルギー反応からロストギアの類かと思います」
「はぁ、厄介な事になったな」
「どういたします?」
「とりあえず、静観かな。時空管理局の海連中に私たちの事を嗅ぎつけられたくないし」
家族を護ろうとする者
「ねぇ、バルティッシュ。時空管理局が来るのかな」
『対象がロストギア認定されていれば介入してくる可能性は高いと思われます』
「そっか。じゃあ私たちの事がばれたらやっぱり逮捕されちゃうのかな」
『主の事は判りませんが、ドクターは次元犯罪者認定されています。恐らく拘束に動くかと』
「バルティッシュ。私は家族を失いたくない。力を貸してくれる?」
『勿論です。主』
目をそらす者
「おとん、おかん。庭に空からこんなもんが落ちてきたんやけどなんやろ」
「ほぉ、中々の魔力だね」
「これはジェルシードですね」
「なんなんそれ?」
「一言で言うなら魔力貯蔵倉庫。魔力を恒久的に保存するために作りだされたとされています」
「貯蔵倉庫という割には大分揺らぎを感じるな」
「えぇ。魔力を完璧に抑えることが出来ず定期的な封印のかけなおしが必要なこと、更に生物の思念で暴走する危険があることなどから生産は中止されたはずです」
「ふ~ん。要はポンコツアイテムって訳やね」
「なぁ空。これって夜天の書と同じようにロストギア認定とかされてたりするのかな」
「はい。非常に困った事ですが」
「時空管理局がくるかもしれんか」
「むぅ、ポンコツなだけやなくて厄介品なんか。なぁおとん、これ封印かけなおして海にでも捨てよう?」
「そうだな、連中には関わり合いたくないし」
巻き込まれることが確定している者
「なのは~」
「……」
「なのは~朝よ~」
「………」
「起きなさ~い」
「…………後5分」
この事件が世界にどんな影響を及ぼすのか。未だ判らない。
AGS外伝 リリカル異端録(仮)
結末未定
おまけ
事の発端を作った者
「……というわけでこの装置を使えばドメール提督のような用兵が可能になるのよ」
「すばらしい。さすがは横島じゃ」
「むぅ、さすがは僕のライバルだ」
「ふふふ、この発明が世界を変える!う~ん、研究者冥利に尽きるわ~」
「あの~助教授。先程政府から連絡があったのですが……。助教授の発明品『ドメール君』の開発及び生産を中止せよとのことです」
「はぁ!?」
「なんでも運送業者や旅行業者が壊滅しかねないので廃棄してくれだそうです」
「なぁんですって~、あの連中~!」
「時代を先取りしすぎたということじゃな」
「まぁ、これもまた研究者冥利に尽きる事態じゃないか」
「うぅ、これを作るのに費やした時間を返せ~!」