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●ナムコでのアルバイト、まずは… |
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鶴見: |
ナムコでアルバイトをするようになったキッカケは何なんですか? |
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細江: |
同級生に、ナムコでテストプレイをやっていた友達がいて。「スターラスター」のファミコン版の頃。その伝手で、テストプレイヤーとしてバイトに入った。 |
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鶴見: |
テストプレイヤーというのは、いわゆる「デバッグ」ですよね。ひたすら遊んで、不具合を見つける仕事。どんなゲームをやったんですか? |
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細江: |
ファミコンのゲームやアーケードゲームとか何でもやって、楽しかったねー。あの頃の(ゲームは)全部やってるよね。あと、パズルゲームの面(ステージ)を作ってた。 |
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鶴見: |
じゃあ、ステージを作るツールとかがあったんですか? |
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細江: |
紙(笑)。紙にL字のピースを置いてって、マップを書く。いかに嫌らしいマップが作れるか、みたいな。そもそも、テストプレイは開発とは場所も別だから。 |
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鶴見: |
あれ?別なのに、どうやってテストプレイから開発に移籍出来たんですか?確か、まずはドット絵を打つバイトになったんでしたよね? |
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細江: |
なんか、人が足りない、って。実際のゲームに使う絵を描かせるんじゃなくて、テスト版のアルファ物を作るのに「ちょっと手助けがほしい」みたいに云われたんで、「あー、やるやる」と。それで、バイト移籍。 |
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鶴見: |
アルファ物っていうと、まあゲーム性を確認するための試作ですよね。キャラクターが分かればいい、みたいな。その程度でも人手が足りなかったんですか? |
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細江: |
ちょうどファミコンの製品ラインが増えてた頃だったから、グラフィックのバイトも募集していて、結構な人数が必要だったんじゃないかな。ファミコンだけじゃなくて、アーケードも同じフロアで。最初はアルファ用だったけど、だんだん製品のドットもいじるようになっていった。 |
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ナムコ ビデオ ゲーム グラフィティVOL.2
88年にビクターから発売されたナムコオムニバスCD。細江氏が担当したドラゴンスピリットのほか、トイポップ、ブレイザーのオリジナル音源、ワンダーモモ、サンダーセプター、妖怪道中記のアレンジを収録。ブックレットにはドラゴンスピリット1面の楽譜も収録。 |
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鶴見: |
そのまま進めばナムコのドット絵師として一本立ちしていたかもですね。
──なのに、なんでドットのバイトが曲を作るようになったんですか!? |
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細江: |
だって、音が入ってないし(笑)。 |
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鶴見: |
なるほど、音が入ってないから入れた、と。確かにそりゃ単純明快な理由だ…ってオイ(笑)。 |
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細江: |
もともと、弓達(公雄)さんっていうプログラマがいて、そういうことやってたの。自分の曲をプログラマながら勝手に入れたり…ワンダーモモに自分の曲を入れてたり。それを教えてもらった。やらしてやらして、と。 |
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鶴見: |
確かに弓達さんは「ワンダーモモ」にも「ワンダーモモーイ」にも、作曲でクレジットされてますし、「ビデオゲームグラフィティVol.2」の歌じゃ、歌詞も書いてましたね。鶴見もよく存じ上げてますけど、ただのエロオヤジかと思ったら、そんな面白オヤジだったワケですか! |
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細江: |
いや、当時はオヤジじゃないし(笑)。弓達さんがいなかったら、やってないよね。 |
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●「勝手に」ゲームへ曲を付ける方法 |
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鶴見: |
弓達さんが教えてくれた、曲を入れる方法というのは…? |
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細江: |
まんま、ダンプリスト(16進数値の羅列)の打ち込み。音の長さって概念はなくて、音を、出す・止め・出す・止め…の繰り返し。音程は、たまたまあったカシオトーンか何かで確認しながら。 |
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鶴見: |
音色とかはどうしたんですか? |
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細江: |
2151(YM2151音源チップ)のファクトリー・プリセット(=工場出荷時の標準音色)があった。若干の変更は、2151のレジスタのリストを直に書き換えて。それぐらいしか出来なかった。2つのパラメータが1バイトに数ビットずつ入ってたりして面倒だったな。 |
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鶴見: |
今の話を聞くだけでも、マシン語の基礎知識がないと無理だと分かりますね。それにしても、作曲経験無しで、しかもそんなツールも無いような環境で、あれだけの曲を作るのって…よっぽど音楽的に天才だったか、あるいはひたすら辛抱強く試行錯誤したか、そのどっちかだったでしょう? |
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細江: |
ひたすら試行錯誤(笑)。ドラスピって結構長い間、開発が続いていたんで、それでずっとやっていた。だってそもそも、打ち込んだ曲をプレイバックして聴くのには、ROMを焼かなきゃならなくて…どのみち時間かかるから。 |
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鶴見: |
でも、効果音とかはどう作ったんですか? カシオトーンと打ち込みだけじゃ作れないのでは? |
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細江: |
サウンドの方では、(正式なサウンド担当じゃない奴には)教えるな、と云われていたらしいけど、他のゲームのソースをもらったり…。ドラゴンの死ぬ「ぴぎゃー!」なんてのはライブラリにあったり…。サンプリングは、ドラゴンの羽ばたく音を、ゴミ袋をバッサンバッサンやったり。録音で部屋借りる時は、正式に借りたけど、それ以外は全部勝手にやった。 |
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鶴見: |
まあ、下手すりゃ機密に属するノウハウですからね(笑)。 |
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細江: |
でも、サウンドとは関係ない人たちのバックアップはすごくあった。 |
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鶴見: |
それってなんだか昼メロちっくですね。親と離ればなれになった赤子を、村人達が手厚く育ててくれてすくすく大きくなった、みたいな。「荒野の少年イサム」(笑)。で、村人の筆頭が、弓達さんね(笑)。 |
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細江: |
当時のナムコは、チームで和気藹々としていたよ。皆んな勝手に作ってたし(笑)。 |
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鶴見: |
いちおう確認しておくと、本業のドット絵もやっていたんですよね? |
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細江: |
本業と同じ端末で出来たから。プログラマが使うようなHP(ヒューレット・パッカード)の端末が余ってたから占有して、いつも目の前にある端末で、本業が終わった後に曲データを打ち込んでいた。 |
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鶴見: |
ゲーム業界標準のHP端末ね。当時としては高価な入力端末が、使い放題だったと。なるほどねえ…弓達さんとカシオトーンと、HP端末が恩人だったワケですね。 |
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細江: |
あとは「時間」というか「放置プレイ」ね(笑)。 |
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●社員に抜擢、でも「サウンド嫌だな」!? |
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鶴見: |
ところで、ドラスピの曲をアルバイトの細江慎治が勝手に作って…それはなんでOKとなったんですか? |
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細江: |
全体的に(社内的に)気づかれたのは、ほぼ出来てた時だったから。社長に見せる時も、「ああ、音入ってるね」で、なんとなく通過してる。 |
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鶴見: |
スルーと(笑)。何故、本来のサウンドチームが関わってなかったんですか? |
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細江: |
音楽作る人いなかったしね、あんまり。ドラスピをやるはずだった人は辞めちゃって。あの頃、残っていたのは…小沢(純子)さんと、川田(宏行)さんと、中潟(憲雄)さんだけ。3人で、コンシューマも含めたナムコの全タイトルは無理でしょ。しかも中潟さんは源平プロジェクトを作っちゃって、他のタイトルの音楽までは、あまりさわれなくなっちゃったし。 |
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鶴見: |
監修すらされなかったんですか? |
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細江: |
サウンドの人ってほとんど会ってないもの。当時はプロジェクト制で配置されていて、チームが違うと接触がないから。基本的には、当時の沢野グループの中にいたんで、そこの人たちの弁当の買い出しとか小間使いはしてたけど。 |
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鶴見: |
チームごとに仕切られていた、と。じゃあチーム内で「OK」とされていればOKだった、ということですね。サウンドチームの人はどう思ってたんでしょうね? |
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細江: |
小沢さんは「生意気だ!」って云ってたけどね…俺がゴミ捨てをしなかった時に(笑)。 |
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鶴見: |
それ関係ないwwww
じゃあ、バイトがいきなり曲を作っちゃったことについて、ナムコのサウンドの人達がどう思っていたのかは…。 |
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細江: |
永遠の謎ですよ。※細江氏ご本人の音声ファイルはこちら |
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(一同笑) |
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細江: |
その後、当時の上司とか先輩社員とかが、普通に入社試験を受けろ、サウンドに入れろ、と動いてくれた。勝手に人事部に連絡して(笑)。 |
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鶴見: |
上司が「慎治はやれば出来る子だから社員にしろ」って、引き上げてくれたんですね。 |
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細江: |
やれば出来る子…かはよく分かってないけど、「便利な人」って(笑)。 |
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鶴見: |
確かに、何のツールも与えず、何も正式には教えてないのに、安いバイト代で、プロジェクトのサウンドをまるまる作っちゃうんだから、これほど便利な人もいないですね(笑)。それで、入社試験や面接を受けたワケですね。 |
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細江: |
その時ね、上司に対して迂闊にも「サウンド嫌だな」とか云っちゃって。なんか漠然と「企画がいいや」と(笑)。 |
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(一同爆笑) |
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鶴見: |
それ、空気読んでなさすぎ(笑)。私は企画出身だからよく知ってますけど、確かに皆んな、ゲーム作るんだったら「企画がいい」って云いますよね。どんなに大変な職か知らずに、ただ漠然と(笑)。でも、それホントに空気読んでなさすぎ(笑)。 |
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細江: |
後でその発言を取り消してもらって、「サウンドでいいです」と。 |
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鶴見: |
ああ良かった(安堵)。無事、社員になってサウンドへ配属されました、と。それで入社してすぐにドラスピの次のプロジェクトに入ったんですか? |
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細江: |
いや、この入社の話は、ドラゴンスピリット作ってる最中で。 |
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鶴見: |
まだ作ってる最中なのに、上司に「サウンド嫌だな」とか云ったんかアンタ!(笑) |
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(一同爆笑) |
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