<出席者紹介>
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●『ストII』誕生秘話 |
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安部: |
『ストII』はずいぶんまた曲数が多いタイプですね。キャラ別に曲があり、これまで作ってきたゲームの曲とはガラっと雰囲気が変わると思うんですけど。 |
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下村: |
それまでも結構ジャンルがまあ、割と節操ない感じで(苦笑)。 |
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安部: |
あ、でもほら、1ゲーム中の世界観がいろいろ入りますよね。 |
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下村: |
あー、そういう意味では、確かにひとつのゲームの中で多種多様な音楽ジャンルが入っているというのは珍しかったかもしれないですね。 |
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安部: |
で、社内的にやらざるを得ない感じの状況になっちゃった。 |
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下村: |
ふふふ(笑)。そーうですねぇ、やらざるを得ないというか、じゃあ、次何をやるの? となったときに、サウンドが決まっていないタイトルがそんなに無くて。そのときは、正直なところ、『ストII』がこんなに売れるって思って無かったんですよね。 |
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安部: |
そうでしょうねえ。空前のヒットになりました。 |
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下村: |
ほかの人とかのスケジュールとか色々考えたら、これと、もうひとつ……ふたつぐらいしか選ぶタイトルがない。それで結局『ストII』にしたんですよね。 |
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安部: |
このころは、先輩方で辞められている方がいらっしゃるんですか? |
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下村: |
そうですね、チーフ的な立場の方を含め、先輩の方々が辞められたあとだったので……。結構上の方が居なくなっていた時期でしたね。 |
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安部: |
入社何年目ぐらいですか? 作業時期としては90年くらい? |
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下村: |
そうですね、ちょうど3年目? 91年に『ストII』が発売されて、90年の作業だと思うので多分、入社して3年目だったと思います。 |
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安部: |
3年目。ディレクターさんからの発注はどんな感じだったんですか? そもそも、対戦格闘ゲームというのはご理解していた……? |
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下村: |
そうですね。『ストリートファイター』の『1』をちょうど私が入社したときに、「こういうゲームに力を入れています」というお話で、それを見たりとか……「これがパンチボタンです。パンチボタンっていっても、実際に殴る訳ではありません」っていう説明をされました(笑) |
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安部: |
「それぐらいは知ってます!(笑)」みたいな。 |
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下村: |
ボタンというか、パッド? を叩く強さでパンチやキックの大きさが変わるゲームでしたよね。 |
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安部: |
筐体がアップライトのタイプですね。 |
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下村: |
「『II』ではそれは廃止して、その代わりボタンを6つ駆使します」っていう話になって。私はゲームが基本的に下手なので、「へっ? 6つ?」みたいな。当然もう昇龍拳とか、波動拳とかホント出せなくて。そんな人間がなんで開発してるんだって感じなんですけど。 |
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安部: |
じゃあ、まあ、どんなもんかはわかって。 |
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下村: |
そうですね、どういう物かっていうのはわかってましたね。一対一でやるんだな、って。 |
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安部: |
人が戦う系のっていうのは……。 |
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下村: |
わかってましたね。 |
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安部: |
そんな中、キャラごとに全然違う曲調ですね。そのコンセプトは企画の方から来たものなんですか? それとも下村さんの方でこうしようって? |
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下村: |
なんかすごく自然な形で、どちらかが決めたとかじゃなくて。「世界観がそれぞれあるので、それなりに雰囲気を変えて欲しい」みたいな発注があって、その一方で、私はもともと、民族音楽っていうのか、そういう色々な世界の音楽が、ものすごく好きで、興味があったので……まあ、もちろん全部なんちゃってなんですけど。……最初はどちらかというと、各キャラのテーマソングみたいな感じで印象付けたいという話だったんです。でも、しっかり世界観出てるんだったら、キャラに曲を付けるよりも、もっとその背景に合わせた雰囲気を重視した方が面白いんじゃないかな? って。そこにキャッチーなメロディーが乗ればなんとなく。 |
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安部: |
そうですね、どれもメロディアスな感じ。 |
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下村: |
実はそれを書いたとき「今までのカプコンっぽい曲じゃない」って、社内では賛否両論な所もあって。『ストII』の曲はわりと軟派な曲じゃないですか。それまでのカプコンの曲の印象って、どちらかというとガッチリしてて、硬い。そしてちょっと難しい、すごく構成的な音楽みたいな感じで来てたから。 |
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安部: |
そうですね『アレスの翼』があり、『ストライダー飛竜』があり……と続いているところで。 |
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下村: |
そうなんですよ、そこで急に……そんな対戦格闘だからすごい硬派な音楽を期待してる方もいらっしゃったと思うんですけど。背景の雰囲気をそのまんま音楽に取り込んで、さらにそのテーマソングっぽくする為に、メロをキャッチーにするという手法がやりたくて。……それをやったら軟派な曲になってしまったんですけど(笑)。実際に開発してたメンバーには好評で、皆さん喜んで下さったので、そのまま採用になったんですけど、中にはやっぱり「何でこんな軟派な曲なの?」って、思われる方もいらっしゃったみたいなんですよね。企画の西谷さん(現・株式会社アリカ代表取締役)が気に入って下さって、「もう、全然これで問題ありません!!」ってきっぱり言って下さったんで。 |
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安部: |
結構、すんなり? |
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下村: |
そうですね。結構。 |
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安部: |
NGもなく? |
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下村: |
ほとんど無かったですね、NGは。 |
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安部: |
あれだけキャラが居て、すごいですね。 |
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下村: |
そうですね、やっぱり、世界観が絵から訴えかけてきますし。 |
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安部: |
曲を書いた時には、イメージボードができてたんですか? |
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下村: |
いえ、すでに結構ゲームが動いてましたね。カプコンで仕事をしているときは、ある程度ゲームができてから音楽が入る。絵のスタッフが開発終了して、抜けはじめのころに作業が始まる感じだったかと。 |
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安部: |
結構開発末期に曲付ける感じですかね? |
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下村: |
そうですね、だからすごい(仕事が)まわるんですよね、多分。
(※カプコンでは仕事のスパンが早かったのが大変だったそうです) |
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安部: |
じゃ次、はい次(笑)。 |
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下村: |
「もうできてるから、あとは音楽だけだから」みたいな。 |
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安部: |
ゲーム制作自体のひっくり返しがあんまり無いんですね。 |
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下村: |
無いですね。 |
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安部: |
つまり、捨て曲がそんな無い。 |
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下村: |
アクションなので、調整にすごい時間をかけますし。その間に音楽を乗せちゃえっていう感じの所は多分あったと思うんですよね。 |
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安部: |
その後、『ストII』が社会現象になっちゃう訳ですけど。発売されたあとってどうでした? 感想っていうか。 |
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下村: |
うーん……。実は、あんまり実感は……。今みたいにダイレクトにユーザーさんの反応が伝わって来ないし、ネットも当然そのころ無かったので……。 |
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安部: |
ゲームセンターには行かれていたんですか? 当時。 |
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下村: |
ときどき行ってましたね。私、下手なんですけど、シューティングが好きなんで。あの……大人シューティングっていうか……ひたすらコンティニューしまくって(笑)、何とかクリア、というスタイルで結構遊んだりしてました。あと、こっそりサウンドの社員何人かと、地元のゲームセンターが開催した『ストII』大会とかに……。 |
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安部: |
紛れ込んで!? |
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下村: |
紛れ込んで! 私だけなんとなく準々決勝ぐらいまで行ってしまって、で、写真撮られちゃって、ゲーメストに載るっていわれて……。「それは辞めて!!!」って!! |
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(一同笑) |
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安部: |
それは!!(笑) |
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下村: |
「申し訳無いけど、ごめんなさい、実は社員なんです、顔も名前も出せないんです」って謝って、唯一女で、ベスト8かな? 結構なところまで来て、それからは、みんなで観戦しましょうみたいな感じになって。写真バシバシ撮られて、これはマズいと(笑)。(ゲームセンターは)そんな感じで結構行ってましたね。 |
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安部: |
ちなみにその時キャラはなんだったんですか? |
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下村: |
春麗でしたね。 |
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安部: |
あー、やっぱり(笑)。それは何か誌面には残ってないんですか? |
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下村: |
残ってないですね(笑)。少し写ってるのが、もしかしたらあったのかも知れないですけど、覚えてないですね。 |
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●譜面全部書き直し! のレコーディング初体験 |
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安部: |
このあと、サントラ『G.S.M.CAPCOM 4』が出ますね。 |
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ストリートファイターII
-G.S.M.CAPCOM 4-/アルフライラ
何万回聴いたかわからない『ストリートファイターII』のほかに、『U.S.NAVY』、『マジックソード』、『チキチキボーイズ』、『ファイナルファイト(アレンジのみ)』を収録したお得な2枚組。1-1の『春雷』は各キャラテーマのグレードアップ・アレンジ&ノンストップ・ミックス。出回りのよいCDなので入手は簡単。 |
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下村: |
そうですね、初めて自分の曲を自分でアレンジしたのがメドレーで、超無謀だった。心に痛い思い出ですね(笑)。本当に沢山勉強させてもらいました。 |
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安部: |
1曲目に入ってる『春雷』ですかね? |
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下村: |
そうですね、『春雷』ですね。 |
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安部: |
あれは名曲ですね。 |
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下村: |
いえー(照)、いやいや、本当に恥ずかしくて聴けないですよ、もう! 10年以上聴いてないです(笑)。 |
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安部: |
それは……前回お話に出たシーケンサーで打ち込んだんですか? |
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下村: |
そうですね、それで作って。当然、レコーディングとか、まったく経験が無いので、松前(公高)さんがサポートについて下さって。松前さんが私の曲を聴いてビックリしたっていうエピソードがあります。 |
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安部: |
ビックリですか。 |
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下村: |
「大丈夫なの? この人」って。あまりにもできてなくって、できてないというか……本当に、そういう経験が無いので、セオリーが何もわからなかったんですよね。レコーディングではこういう風に作っていくとか、アレンジはこういう風にすべきとか、そういうのが……本当に。 |
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安部: |
理論ができてないというより、作業に落とし込むための前準備ができてない感じ? |
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下村: |
そうなんですよね、つまり自分では精一杯やったつもりだったんですけど、そういうレコーディングで、プロの方からすると、なんか……これはまずいんじゃないの? ということになって(笑)。着いた早々、重ーいところから始まって、全部譜面書き直し! みたいな。 |
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安部: |
修正作業は譜面なんですね。 |
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下村: |
一応譜面もあったけれど、実際はデータで録音してました。私自身はパソコンを持って来ていないので、譜面を見ながら直して、それを松前さんにデータで直してもらって。 |
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安部: |
ということは、結構時間が掛かった? |
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下村: |
そうですね、録音に入るまでが大変でした。メドレーだったんで、ちょっと異様なトラック数になってしまって……。あの、トラック数が当時……今でこそPro Toolsとか使って、どうにでもなるんですけど。当時、アナログの卓(※ミキシング・コンソールのこと) だったんで、24chしかなくて、全然トラックが足りなくて、もうすごい大変で、みんな脱力してました。 |
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大野: |
それはマリン(観音崎マリンスタジオ)で? |
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下村: |
マリンですよー! |
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大野: |
マリンってアナログ24chだったの? |
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下村: |
24chですよ。次にマリンに行った時は、1スタのお下がり。 |
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大野: |
48chの? |
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下村: |
48chのがきてたんですけど。最初はアナログ24chだったもので、ピンポン (※ピンポン録音。チャンネル数を節約するために、2トラックの音源をひとつにまとめるなどの録音作業用語)だったんですよね。「あれ? ここ何かおかしくない?」とかあると「もう直せない!! どうすんの!!」って。 |
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安部: |
大変でしたね、松前さんが(笑)。 |
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下村: |
あはは(笑)。厳しく色々言われたんですけど、なんというか……。優しさ故の厳しさ。感謝しています。 |
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安部: |
松前さんとはそのときが初めてなんですか? |
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下村: |
そうですね、お会いしたのも、お仕事したのもそのときが初めてでした。 |
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