<出席者紹介>
吉田博昭 (MARO)
『1985年に株式会社データイーストに入社し、「空牙」「スカルファング」 「ファイターズヒストリー」「マジカルドロップ」など多数のアーケードゲームのBGMを作曲。1991年にはゲームミュージックバンド「ゲーマデリック」を結成、「MARO」の名でリーダーおよびギター担当としてゲームミュージックフェスティバルなどで活躍。現在は株式会社パオンでサウンドグループマネージャーを務める。
⇒株式会社パオン |
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●デコゲー史上伝説のカルト作品を作曲 |
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鴫原: |
昔からデコゲーはとてもマニアックな作品が多かったので、今でもゲームマニアの間でよくネタにされてますよね。その代表的な作品のひとつに「チェルノブ」があるかと思いますが? |
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吉田: |
タイトルがなんだか意味深だったヤツですね(笑)。 |
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安藤: |
今だったら、こんな名前のゲームはもう絶対発売できないですよね(笑)。 |
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鴫原: |
このゲームのBGMも吉田さんの作曲でしょうか? |
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吉田: |
確かにいくつか作りましたが……全曲はやってないですね。 |
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鴫原: |
個人的には、1面の「ダンダダンダンダンダン……」って低音でイントロが流れるメインBGMが特に印象に残っているのですが、あれは吉田さんの作曲ですか? |
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吉田: |
実はですね、ちょうど先日、木内君(※後の「ゲーマデリック」メンバーMR☆Kことみすたけ氏)と話してた時に偶然チェルノブの話題になったんですけど、あの曲の冒頭の部分は誰の作曲か記憶が定かでないのですが、そのままだと曲が短いからもっと長くしようと言う事で、MR☆Kが後半伸ばしたんですよ。で、ちょうどその頃データイーストビル内でのサウンド部署のフロア移動があってバタバタしてたんですが。サウンド調整用ツールがある付近に机だけがドカ~って寄せられてて、その中で隙間にポツ~ンとMR☆Kが座ってFM音源実機調整をしてたって話題で盛り上がったんですよ(笑)その姿がホントおかしかったな~って(笑) |
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鴫原: |
ナルホド! それであのBGMはサビの部分が前半がベースのような低音ばかりなのに、後半はいきなりメロディアスな曲になったワケですね。いやあ、長年の謎が解けました(笑)。 |
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吉田: |
当時はそうやって曲を後から付け足したり、同じ曲のデータを何回もコンバートして音色とかを調整しながら聞いてましたから、途中からどの部分が自分の担当だったのか正直よくわからなくなっちゃうんですよ(笑)。 |
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安藤: |
昔はそうやって、データを作り直すたびにいちいちコンバートしなきゃいけないからタイヘンでしたよね……。 |
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吉田: |
自分はずっとアナログ人間だったので、打ち込みの作業自体は楽しいんですけど、手弾きしちゃえば速いのにな~とも思っていて。ところが、手弾きで入力するとデータがなんだかんだで増えちゃって、後からエディットしてデータを整える作業も増える事になると。 元々ロック系の曲を作ることが多かったですし、さらに元のデータを基板用に後でコンバートしちゃうからなんですけど、作曲のMIDIの段階では割り切ってベロシティを常に最大の128にしてやってました。メロディもディレイはかけるけど、ベンドとか一切使わない、と。いやあ男らしい(笑)! その後、CDDAやストリーム再生が増えてきてから、打ち込みの表現力もさすがに気になり出して、ある日メロディの入り際とか、切れ際にオシャレにベンドを入れてたら、「お、MAROがベンド使ってる!」って言われて、「ええ、ちょっと使ってみました……」って言いながら、なぜかスゴイ恥ずかしかったのを覚えています(苦笑)。 |
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鴫原: |
同じくカルト作品として名高い、「トリオ・ザ・パンチ」も作曲をご担当されたそうですが? |
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吉田: |
「トリオ・ザ・パンチ」では、カントリーっぽいイメージのメロディを考えて作ったような覚えがありますね。まずギターでカントリーフレイバーたっぷりのアドリブを考えて、それを譜面に起こしてから後輩に渡して、「ココにこのコード進行でこのメロディを入れてみて!」とか言ってアドバイスしながら打ち込ませて作りました。 なにぶん昔のことなので、記憶が随分飛んじゃってますが、何人かで作りました。あ、そう言えば、「羊の呪い」(※)とかありましたよね!自分が羊になっちゃうやつ(笑)あれ面白かったな~。
※「トリオ・ザ・パンチ」のあるステージをクリアすると、「呪ってやる」と画面に表示されて主人公がいきなり羊に化けてしまう謎の(笑える)シーンがある。 |
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鴫原: |
当時から多数のBGMを作曲していますけど、作曲するにあたり吉田さん独自の何かこだわりとか秘訣みたいなものはあるんですか? |
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吉田: |
ユーザー目線と言いますか、ゲーム中のユーザーの気持ちだったり、テンションと合った楽曲をというのを意識してます。ゲームシーンが重視することと、楽曲では音楽ジャンルの特徴、楽器特性を無視しないよう奏法・音域にも気を配ったりもしますね。まあ、要は聞いてみてヘンじゃなきゃいいんです(笑)。あるいは、「明日までに急いで作ってくれ!」みたいな、超大至急のときはまずリズム楽器で先にテンポやサイズを決めちゃって、そのあと鼻歌でコードを考えて、一服しながらハモリとかアレンジを考えながらコード進行の変更修正、リズムのキメみたいなフックを入れて、「ハイ、おしまい!」っと仕上げます(笑)。 |
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●効果音作成のこぼれ話 |
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鴫原: |
ちょっと話は変わりますが、サウンド制作にあたりBGM以外に効果音の制作もなさっていたのでしょうか? |
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吉田: |
自分の場合は、最初の頃はずっとBGMばっかり作ってましたね。効果音を作るようになったのは多分、「エドワードランディー」あたりからですね。作曲は、この頃にアルバイトで入ってきたRAIKAやTOM君(※いずれも後の「ゲーマデリック」メンバー)が担当しました。それから、このあたりからボイスを収録するときに声優さんの手配とかもやるようにもなりましたね。 |
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安藤: |
あと当時のデコゲーだと、英語ボイスを録るときはスティーブ氏が活躍してましたよね? |
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吉田: |
そうそう! スティーブ氏は当時データイーストの海外担当で日本語もペラペラだったし、声出しもとてもうまかったですね。たくさんのゲームに英語ボイスをお願いしました。 |
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EDWARD・RANDY/SUPER BURGER TIME
1991年にサイトロンレーベルで発売。ちなみに元のゲームは、カウボーイハットの主人公がムチなどを使って敵と戦う「インディ・ジョーンズ」風アクションゲームである。 |
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RAP a de LIC
「RAP a de LIC」1992年発売。「ドロロン星人」こと吉田氏のギター演奏以外にも、ゲーマデリック各メンバー入魂の叫びや笑いが目一杯詰まった快作。ライナーには電撃ネットワークのリーダー、南部虎弾氏も登場している。 |
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安藤: |
確か「ラッパデリック」の収録のときにも参加してましたね。 |
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吉田: |
ええ、そのときも参加してますね。 |
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鴫原: |
ピンボールを説明するDJ役イメージのボイスをやってましたよね!すごくいい声でした! |
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吉田: |
はい、かっこよかったですよね~。それと忘れてならないのは「ピンボールの基本は……」「(ピーーッ)」の堀口さん(笑)いや、このアルバムね、今回のインタビューのお話もらってから久しぶりに通して聞いてみたんですけど、面白いっすね~(笑) |
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鴫原: |
あと、「ウルフファング」でも吉田さんが効果音やボイス制作をご担当なさっているようですが? |
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吉田: |
ええ。これはこぼれ話ですけど、「ウルフファング」のときはなぜかウチの妹にボイス収録を頼んだことがあったんですよ。自宅に戻ってから、「『ヘルプ!』って叫んでくれ」とか言って、1,2種類だけですけど手伝ってもらいました(笑)。英検2級なんで発音はバッチリでしたね(笑)。もちろん、それ以外のボイスはプロの声優さんにお願いしましたけどね。 |
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鴫原: |
吉田さんご自身では、BGMとSE(効果音)を作るのとではどちらがお好きですか? |
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吉田: |
お?究極の選択的な?(笑)元々がミュージシャン思考なんでどちらかと言えばBGMという選択になると思います。もちろんSEもボイスも組込み音響的な部分も、最終サウンドパッケージングまで考えれば全てが重要な部分ですけど。 |
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鴫原: |
効果音を作るときは、BGMとはまた違ったノウハウが必要になりますよね? |
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吉田: |
発想がまず大事ですね。たとえば素材を探す場合は「エドワードランディー」であれば、ムチの音を作るときは本物のムチの音だけじゃなくて、それ以外のキーワードで音を探したほうがかえっていいものが見つかったりすることもあるし、波形からEDITして作っていく時も表現したい効果音の最終形が頭の中でイメージして鳴ってないとうまく作れないですよね。 |
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鴫原: |
効果音のイメージとかも、あらかじめ企画書で指示が出ていたりするんですか? |
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吉田: |
ええ、作品によっては「ビシッ」とか「グギャー」とか具体的にイメージが書いてあったりします。そのイメージやイラストとかを見ながら、企画者の意図を汲んで我々が形にしていくわけですね。 |
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●ギターソロでとことん弾き倒す! 代表作「空牙」の誕生 |
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鴫原: |
ユーザーから見て吉田さんの代表作となると、やはりギターを大きくフィーチャーした「空牙」のBGMになるのではないかな、と個人的には思っています。 |
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吉田: |
ちょうどこの頃にアーケード基盤上でPCM音源が使えるようになったんですよね。OKI-6295というチップです。あの頃コンシューマサウンドチームにいたSHOGOさんがアーケードサウンドチームにフラっと遊びに来たときに、ちょうど制作中の空牙(まだバッキングだけの状態を聞いてもらって、ここに後でギターソロを入れるんですよって言ったら、「これイイッスね!」って言ってもらった記憶があります。で、俺も、「いいでしょっ!」て(笑) |
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安藤: |
「空牙」のBGMにギターソロが入っていたのは当時とても新鮮でしたね。最初に聞いたときはもう鳥肌モノでした! ギターをサンプリングしているタイトルはほかにもありましたけど、ソロ全体を フレーズサンプリングして、とことん弾き倒すというのは、ちょっと他にはないなあと(笑)。そもそも、ギターソロをなぜ入れようと思ったんですか ? |
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吉田: |
実は「空牙」よりも前からギターの生演奏をやろうと思ってたんですよ。でも、「空牙」以前の基板だとなぜかうまくピッチが合わなくて、サンプリングレートも低くて音抜けもイマイチで、基板上でうまく鳴らないから実現しなかったんです。そんなこともあって、以前に作った「スタジアムヒーロー」ではドラム音だけにしかPCMを使えませんでした。「空牙」のときにちょうど基板のサウンド性能も上がってサンプリングレートもアップしたおかげで音抜けもよくなりようやく実現できました。 |
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鴫原: |
ナルホドォ! |
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吉田: |
フレーズサンプリングを駆使して、12キーのミュート&パワーコードと、ソロ用フレーズのサンプリングを容量の少ないロムに実装しました。サントラ収録のときは、後に「ゲーマデリック」の母体になる3人(※吉田、ングジャ三浦、Atomic花田)で初レコーディングをしましたね。メンバーに渡すデモを、TEAC4chカセットマルチで作ったのが懐かしいなあ……。昔は楽器機材もまだまだ少なかったですけど、気持ちだけはとにかく熱かったです。初録音のクセに、ハードなセクションとアコースティックなセクションの2部構成で、収録にもミックスにもかなり時間がかかってしまいました。知らないってことは強い! 余計な事は考えない! ただもう目指すのみ(笑)!! |
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空牙
G.S.M.1500シリーズ「空牙」 1990年発売。MARO(吉田氏)、Atomic花田、ングジャ三浦3名のギタープロジェクトでレコーディングをした入魂の1枚。吉田氏アレンジの『ヴェイパートレイル』はゲーマデリックを代表する曲のひとつである。 |
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安藤: |
これ以降になると「スカルファング」とか「サンダーゾーン」とか、ギター演奏が入るような新しい形のデータイーストサウンド、ゲームミュージックの形が出来上がった感はありますよね。 |
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鴫原: |
確か「牙(ファング)」シリーズの続編にあたる「ウルフファング」になると、以前のシリーズとはまた違った曲調になっていた印象がありますが? |
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WOLF FANG/TUMBLEPOP
「WOLF FANG/TUMBLEPOP」1992年発売。吉田氏はバンドアレンジおよびギターを担当、メカ好きなら誰もが泣いて喜ぶ名作2Dアクションゲームの傑作である。 |
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吉田: |
これは作曲がRAIKA(※「ゲーマデリック」キーボード担当)の担当で、自分はアレンジだけをしたからですね。アレンジ版は「ゲーマデリック」向けにギターソロ、ベースソロ、ギターとシンセのバトルも入れたりと、とにかく盛り上がるような仕上がりにしました。 |
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安藤: |
特に後半のギターとキーボードとのソロバトルが、とにかくカッコよくて熱かったですよね! |
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吉田: |
そうそう、フェイドアウトしきるまでバトルし続ける!(笑) |
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安藤: |
で、曲がこれまた長い!(笑) |
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吉田: |
うん、長い長い(笑)。 |
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