<出席者紹介>
並木学 (さんたるる)
1992年にNMKに入社し、以来数多くのゲーム作品でサウンド制作を手がける。その後ライジングを経て独立し、現在はベイシスケイプを通じて精力的に活動中。主な作品には、「バトルガレッガ」「怒首領蜂 大往生」「虫姫さま」「デススマイルズ」シリーズなどがある。 |
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●シューティング史上に残る名曲「バトルガレッガ」 |
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鴫原: |
NMKをお辞めになってライジングへ移られたのはなぜでしょう? |
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並木: |
「魔法大作戦」のプログラムを担当された外山雄一さんと、パソコン通信の趣味系フォーラムで偶然出会って、知り合ったことがきっかけです。「魔法大作戦」はライジングの第一弾タイトルですが、非常に面白くて完成度の高いシューティングゲームで、いい物を作る会社だなあと感銘を受けたので、ぜひ移りたいんですってお話して紹介していただきました。ここでもまたデモテープを持ち込んでアピールしてみたところ、「ウチには今サウンドスタッフがまったくいないし、じゃあやってみる?」と、言っていただけたので無事採用されました。 |
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大野: |
ここに入れば、開発環境のレベルも高くなるだろうと思って入社したのかな? |
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並木: |
開発機材の性能に関しては、以前に比べてそれほど大きく向上したわけではなかったですね。開発室内を見渡すと、見慣れたマシンも多かったので(笑)。 入社を決めたのは、機材よりもスタッフ自身の技術力が高いところを一番に評価したからなんです。ライジングのゲームを見ていますと、いい作品であることがプレイヤーに対してあふれるように伝わってくるものばかりでしたので、自分もこういう人たちといっしょに働きたいなと思ってました。 |
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鴫原: |
で、ここで最初に作られたのが「バトルガレッガ」のサウンドになるわけですね。 |
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並木: |
はい、そうです。 |
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鴫原: |
「バトルガレッガ」の基板なんですけど、こう言っては失礼ですが当時としてはスペックがかなり低いレベルのものを使っていましたよね? 確かメインのCPUが68000でサブがZ-80、しかも音源はFM音源を使っていたかと思います。あえて古い仕様の基板にしたのは何か意味があるのでしょうか? |
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並木: |
諸般の事情があり、最初から一世代前のハードウェアでシューティングを作ろうと決まっていたので、その範囲内で作るしか選択肢が残されていない状態でした。ですので、自分のほうからFM音源でやりたいです、などとオーダーを出したわけではないんです。それでも、先ほどもお話したようにスタッフ陣はみんな優秀でしたから、「限られたスペック?それがどうした?」みたいな頼もしい空気が、現場にありましたよ。 |
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鴫原: |
「バトルガレッガ」の曲作りにおけるコンセプトは何だったのでしょう? |
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並木: |
いつものように、このゲームにはどういう音楽を載せれば合うのかをまず考えたのですが、初めからサウンドに関しては私にお任せ状態だったので、しばらくの間は音源に理解のあるプログラマーの方にサウンドドライバを組んでいただき、その動作検証を進めながら、とりあえずひとりでアレコレと考えていました。この時、ゲームのメインプログラマーがちょうどクラブミュージックが大好きな方だったので、「テクノっていいですよね~」などと意気投合するうちに、「それなら『バトルガレッガ』もテクノでやってみようか?」ということで決まりました。実はこのプログラマーの方は矢川忍さんといって、過去にファミコンの「サマーカーニバル'92 烈火」を作られた方で、その音楽もまさにテクノそのものでしたらから、では自分としては烈火とテクノミュージックの両方へ尊敬の念を込めつつ、やってみようかなあと。 |
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鴫原: |
「烈火」も「バトルガレッガ」同様に熱いシューティングでしたよね! そんな縁があったからこそ、後々に発売されるCDでアレンジ曲を制作するお仕事にもつながったんでしょうね。 |
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LEGEND CONSUMER SERIES サマーカーニバル‘92 烈火 ファミコンサウンドトラック
ファミコン末期に発売された、カルト的人気を誇るシューティングのBGMを収録。並木氏担当のアレンジ曲「JSR $2302」は最終トラックに収録されている。 |
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並木: |
そうですね。元々このゲームは発売日に買ったぐらい自分でも大好きなゲームでしたし、私としてもぜひ、「烈火」みたい熱さを「バトルガレッガ」でも出したいなあと、いろいろと考えて作りこんだ結果あのような曲が出来上がりました。音楽的には当時から大好きだったデトロイトテクノの様々な曲群と、シオダノブユキさん作曲の「烈火」のBGMに影響されたと思っています。それと「バトルガレッガ」の開発チームには、「烈火」以外にも「武者アレスタ」などの名作シューティングに携わった方々が一同に集まっていたんですよ。ですから、自分は他の皆さんに比べればまだまだ全然ひよっ子でしたので、人一倍頑張って働かないと追いつけないぞと思ってました。ゲームが発売されてから、もしプレイヤーさんに「このゲームって、グラフィックはカッコイイけど音がショボイよね」って言われたりしたら、それは完全に自分のせいになるんだなって思いながら、すごいプレッシャーの中で仕事をしてましたね。 |
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鴫原: |
ましてや、ライジングでは初めての本格的な作曲の仕事ですしね。 |
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並木: |
そうなんです。いくら旧世代のハードとはいえ、いざ発売されればお店では新作として出されるわけですから、FM音源だから音が弱いままでもいいかというと、それでは絶対にダメなんです。なぜかといいますと、大手メーカーさんの高性能でいい音が鳴る基板で作ったゲームと同列に並べられても、お客さんにとって不満なく楽しんでいただけるものでなくてはならない、という大前提があるからなんですね。もうホントに完全アウェーの厳しい状況でしたが、職人気質だけは誰にも負けないぞと思ってやってました。初めのうちはFM音源だと正直厳しいかなとも確かに思いましたが、目の前にある物で作らなければしようがなかったですしね。 |
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鴫原: |
個人的には、5面のBGMである「Subversive Awareness」が特に好きですね。すごくノリがよくて、遊んでいてとても気持ちがいいんですよ。 |
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並木: |
実は一番最初に書いたステージBGMがこの曲だったということもありまして、ロケテスト中は1面の曲として使っていたんですよ。でもロケテストを見に行った際に、1面の曲はこのままじゃあいけない、自分が考える1面の曲の基準に達していないと思ったので、会社に帰ってすぐに別の曲に取り掛かりました。その結果出来上がったのが、製品版でも使われている1面の「Fly to the Leaden Sky」なんですね。他の曲についてもず~っと切羽詰った気持ちで作り続けていましたし、先ほども言いましたが他のスタッフのレベルがみんな高かったですから、このままじゃあ画面のインパクトにサウンドが負けてるぞ、などと自分に言い聞かせながら必死に作りました。作っている最中は、満足できるような気分になることは一切なかったですね……。 |
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鴫原: |
最終面のボスのテーマである「Erupter」もカッコイイ曲になっていましたよね! |
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並木: |
ああ、あのロッテルダムテクノ風のテンポの速い曲ですね。やはり一番最後のボスですから、誰が見ても衝撃を受けるようなものを作ろうと思っていたらあのような構成になりました。開発当初のボスは、製品版よりもずっと大人しかったのですが、私のほうから矢川さんにもっと悪ノリしましょう、ここの2段階目をやっつけたら終わりと見せかけて、実は続きがあるようにしましょうとかお話してたら、最終的にあんなボスになっちゃいました(笑)。もう激しいのを通り越して、「ウワァ~何だよコレ、こんなの絶対クリアできるわけないじゃん!」と思われるぐらいにハメを外した、それこそ半分ギャグみたいなものにしたいなあと。かつて自分が「烈火」を遊んでいたときに、すごい強さのボスが出てきて驚いたような衝撃をここでも存分に発揮してもらったら、きっとみんな喜ぶだろうなと思ってたんですよね。 |
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大野: |
自分が並木さんのお名前を初めて意識したのが、まさにこの「バトルガレッガ」だったんだよね。あっ、また新しい世代の人が出てきたんだなあって思った印象が今でも残ってるね。 |
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鴫原: |
私もそうでした! |
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並木: |
もう発売から13年も経っていますけど、今でも一部のシューティング好きが集まるお店では大会イベントをやっていたりするので驚きますよね。そんなお店でゲームを遊んでくれている若いコたちが、「『ガレッガ』の音楽っていいッスね~!」って真剣な目で言ってくれることもあったりするので、作った側としては本当に嬉しいです。あんな昔のゲームのことを今だに褒めてもらえる仕事なんて、他にはちょっとないだろうなと。あの頃は本当にタイヘンでしたけど、頑張って作ってよかったなあってしみじみ思います。そんな「バトルガレッガ」は、自分にとっても本当に特別なタイトルになりましたね。 |
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鴫原: |
後に、新声社から発売された「ゲーメストビデオ」にはゲームミュージックCDが同梱されていましたが、最初に発売が決まったときのご感想はいかがでしたか? |
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ゲーメストビデオVol.27
バトルガレッガ
1996年に発売。VHSビデオによる攻略映像と、全BGMを収録したCDがセットになっていたファン垂涎の逸品である。 |
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並木: |
自分が関わった作品がビデオやCDになるお話は初めてでしたから、聞いたときはやはり嬉しかったですね。それまではただ無我夢中で仕事をしていた状態でしたし、後になってCDの付録が付いた攻略ビデオまで作っていただけることになって、シューティングゲームのサウンドとして評価を受けて、こんなに充実感を覚えたのは初めてのことでした。自分はサウンドスタッフではあるけれど、ゲームが好きだったからこそゲームの開発にずっとあこがれてこの仕事を始めたわけですから、その思いが報われた実感がありました。その気持ちは今でもまったく変わっていないですね。 |
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鴫原: |
セガサターン版の「バトルガレッガ」にはアレンジ曲が入っているそうですが? |
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並木: |
はい。当時ライジングの開発トップだった外山雄一さんが、細江慎治さんや崎元仁さんのサウンドが大好きな方でしたので、ぜひアレンジを頼みたいということでお願いしました。 |
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大野: |
じゃあ、いきなり並木さんの手元から離れちゃったんだ(笑)。 |
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並木: |
そうなんですよ。細江さんをはじめ、佐宗綾子さんや相原隆行さん、崎元さんと仲のよい松尾早人さんや小谷野謙一さんといった、業界で有名な方に自分の作った曲をアレンジしていただけるということで、ウワーそんなことになったんだなあって、最初は他人事のように思ってました(笑)。でも、いざ仕事が始まってからは、現場レベルでの音楽的なやり取りや作業は自分が担当しまたけどね。アレンジャーの皆さんには、愛情にあふれた編曲をしていただけて、当時とても感動したことを憶えています。これこそプロの世界なんだな!って。 |
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鴫原: |
アーケードの基板から始まり、ビデオとCDに加えて家庭用へのアレンジもあって、「バトルガレッガ」に関するお仕事は本当に充実感でいっぱいだったんですね~。 |
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並木: |
そうですね。2004年にはINHさんから「THE MADNESS BATTLE GAREGGA 」という攻略DVDもリリースされまして、そちらにも特典でサントラCD(先述のセガサターン版アレンジ曲も収録)が付きましたし、プレイヤーや業界の方々からの並々ならぬ愛情や熱意をいまだに感じています。そして以後、ケイブのシューティング作品を何本も担当することになるわけですが、後々のシューティング作品に対するサウンド制作のアプローチがスタイルとして固まったのが、まさにこの時期だったのではないかと思います。 |
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●独立~ケイブ作品の開発に参加するまでの経緯 |
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鴫原: |
ライジング時代に開発のお仕事をされた作品は、ほかにどんなものがありますか? |
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並木: |
「アームドポリス バトライダー」という、ガレッガの流れを汲んだシューティングがありました。また、外山さんの企画・プログラムで崎元さんがBGMを作曲した「蒼穹紅蓮隊」では、効果音の制作を私がしています。ほかにもエレメカのボーリングゲームやジャンケンゲームみたいな、キッズ向けのゲームやプライズマシンの作曲とかもいろいろやってましたね。それから、ナムコさんからリリースされたガンシューティングゲームの「オーバキューン」では、ゲームの企画やディレクションも担当しました。サウンドも担当予定でしたが、波形データROMを作り終えたところでゲーム企画へ専念するため、作曲と効果音制作を元ナムコのちぁーりーこと福澤正洋さんと、すでにフリーで活動していた元ウエストンの渡辺人君へお任せしました。ひそかにすごく豪華なコラボでしょう?僕うれしかったです(笑)。休日もスタッフのみんなとロケテストを視察に行って、ストップウォッチでプレイ時間とかを計ったりもしましたね。サウンドが本職なのにゲーム企画もやった経験がある人って、多分ほかにはそうそういないと思いますよ(笑)。 |
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鴫原: |
確かに、サウンドコンポーザーでゲーム企画までやった方は今までほとんど聞いたことがないですね……。では、ライジングをお辞めになるきっかけは何だったのですか? |
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並木: |
「オーバキューン」の仕事が終わってから、これからサウンドの道に戻ろうか、それとも企画の仕事へ鞍替えしようかと自分の中でずっと葛藤があったんですよ。ちょうど会社自体も過渡期を迎えた様子もありましたので、あるとき会社に事情をお話することにしたんです。それで、自分はこれから音楽を軸にしつつ、やりたいことを見つめ直そうと思いますので、とお伝えしました。 |
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大野: |
じゃあ、いわゆる円満退社みたいな形で送り出してくれたのかな? |
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並木: |
そうですね。全然ケンカ別れみたいなことはなかったですよ。「そうか、じゃあ頑張れよ並木!」と送り出していただきましたし、何年か後になってまたサウンドの仕事でご一緒させていただくようにもなりましたから。感謝しています。 |
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鴫原: |
すごく理解のある会社だったんですね! ですが、無事独立したとはいってもすぐに仕事がよそから舞い込んできたわけじゃないですよね? |
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並木: |
そうなんです。最初は大手メーカーのサウンド職としてもう一度やり直そうかと思っていたのですが、応募した会社にはことごとく落とされてしまいまして……。こりゃあヤバイぞって思っていたら、あるときNMK時代の先輩の折上英作(株式会社ゼロワン代表取締役社長)さんから声をかけていただき、ゲームボーイカラー用の女児向けソフトの「DokixDokiさせて!!」でサウンド制作の仕事をいただくことができました。このタイトルはフリーランスとしての初仕事で、サウンドドライバのプログラミングを含めたサウンド制作の一切を自分一人で行なったので、非常に思い入れが強いですし、よい経験をできたなあと思っています。 |
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大野: |
並木さんがライジングを辞めた頃って、すでに独立して実績のある人は誰かいたのかな? |
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並木: |
ベイシスケイプの崎元社長がまさにそうですね。その後何度も仕事をご一緒していろいろと親切にしていただいていますから、自分にとっては兄貴分みたいな存在なんですよ。 |
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●「怒首領蜂 大往生」でも待ち受けていた過酷な試練 |
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鴫原: |
独立なさってからは、現在に至るまでケイブのシューティング作品のBGMを数多く作っていらっしゃいますが、そもそもケイブ作品を担当するようになったきっかけは? |
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並木: |
以前から面識のあった元東亜プランの上村建也さんから、「うちの池田(※池田恒基氏のこと。現ケイブ取締役)が並木君の曲を大好きで、ぜひ今度自分たちのシューティングゲームのサウンド制作をお願いしたいそうなんだけど、やってくれるかな?」というお話をいただいたことで実現しました。ありがたいことに、池田さんには「バトルガレッガ」の曲を大変気に入っていただいてたんです。 |
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鴫原: |
それで実現したのが、「怒首領蜂大往生」の作曲のお仕事だったわけですね。 |
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並木: |
はい、そうです。 |
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鴫原: |
「怒首領蜂大往生」のサウンドは、これまでのタイトルとは随分異なった作風になっていますよね? |
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並木: |
はい。自分としては、以前のシリーズとはもうガラリと変えようと思って作りました。開発の方々も、むしろそれを望んでおられる様子でしたし。 |
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鴫原: |
たとえば1面のBGMですと、いかにも中国風の打楽器の音とか入りますよね? これは主人公キャラの一人であるチャイニーズ系の女のコ(レイニャン)がいたから取り入れたでしょうか。 |
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並木: |
チャイナシンバルの音のことですね。これは1面の背景が香港や台湾の夜景そのもののグラフィックでしたから、ああいう曲にすればゲームの世界観に合うだろうと思って作りました。 |
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鴫原: |
ケイブ作品のほうでは、早速ゲームミュージックCDが発売されるようになりましたよね? |
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並木: |
ええ、実はそこへ至るまでは色々な経緯もありましたが、最終的にケイブさん自身がリリースされる様になりました。 |
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大野: |
ゲームの名前が「大往生」っていうぐらいだから、本来ならこのシリーズはこれでもう終わらせるつもりだったのかな? |
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怒首領蜂 大往生・ケツイ~絆地獄たち~オリジナルサウンドトラック
2003年発売。同じく並木氏作曲の「ケツイ」も収録しており、ケースを持っただけでもヤケドしそうになるほどに熱いラインナップである。 |
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並木: |
ええ、当初はその予定だったようです。結局、後になってから「大復活」が出ることになりましたが……。当時の事情をお話しますと、ちょうどゲームセンターからシューティングが一時的になくなった時代だったんですよ。ケイブさんも「プロギアの嵐」を出してからは、ずっとシューティングを作るのをやめていましたからね。彩京、ライジング、セイブ開発といったメーカーも同じようなタイミングで開発をやめてしまったようで、言わば「シューティング空白の時代」でした。そんな状況でしたから、当時の自分の中ではシューティングが一度、死んじゃってたんですよね。でも、そんなときに生まれ変わるきっかけになったのが、まさにこの「大往生」でした。市場的にも雰囲気的にも、もうシューティングを含めた小型のビデオゲーム作品は終焉を迎えるかもしれないとも思っていたのですが、「大往生」が出たことによって割とまだいけるんじゃないか、みたいな流れが出てきましたよね。 |
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鴫原: |
ナルホド! |
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並木: |
それと、もう今回でシューティングの仕事に関れるチャンスとしては最後になるだろうと思っていたこともありましたので、「大往生」のBGM群の曲名には、それまでシューティングゲームを世に出してこられた「送り手」に対する敬意の念を、自分なりに表現しました。ただ誤解しないでほしいのですが、曲名としてきちんと意味のある命名を心がけましたから、決していたずらな気持ちで会社名のパロディを狙ったわけではありません。 |
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大野: |
ある種、シューティング音楽の集大成的な意味を持たせたわけだね。 |
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並木: |
ええ。でもその割には、「バトルガレッガ」のとき以上にスペック的に厳しいハードで制作しましたのでかなりタイヘンでした。開発資料とかのマニュアルが広東語とかで書かれているから全然意味がわからないんですよ(笑)。英語でもいいからもっとわかりやすいマニュアルが欲しいとか、ここの部分のバグを直してくれみたいなオーダーを、ケイブさんと一緒にやり取りをしながら作っていました。サウンドに関しては、同時発音数がPCMで8チャンネルしか出せないし、オイオイこれじゃスーパーファミコンの時代に逆戻りだよ、こんなのが最新のNAOMI基板で作られた「斑鳩」みたいな作品といっしょに並ぶのかよ、なんて思ってましたね。 |
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(一同爆笑) |
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鴫原: |
ここでもまたデジャブ状態になったんですね……。 |
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並木: |
それでも負けてたまるかと思って、ナニクソ根性とハングリー精神で一生懸命作りこみました。きっと、これはもう神様が与えた試練というか罰なんだろうなと(笑)。ここでもケイブさんの「怒首領蜂シリーズ」という看板を背負っていましたから、クオリティを落とすわけにはいかないのですごくプレッシャーがありましたね。 |
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大野: |
しかも、ここでちゃんと「大往生」しなきゃいけないし(笑)。 |
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鴫原: |
「大往生」のBGMですと、5面のボスや最終ボスの「緋蜂」のテーマ曲のインパクトがスゴイですよね。もうトンデモなく強い敵が出てきたことに対するプレッシャーといいますか、プレイヤーに一種の絶望感みたいなものを与えるような凄味がありました。 |
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並木: |
そうそう。もうここまで来れたら全然悔いはないぞ、といったイメージですね。ここでもうシューティングゲームというものを、ある意味葬ってやるぞという気概を見せなきゃいけなかったですから。 |
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大野: |
この作品の音楽に関しては、ヘビメタとかハードロック系になるのかな? |
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並木: |
う~ん、何なんでしょうね……要素としては含んでいるかもしれませんが、必ずしもそのような形にしたわけではないんですけどね。そもそも、私自身の音楽のルーツって特にコレ!というものが何もないんですよ。学生時代は、マイケル・ジャクソンの曲とか「ウィー・アー・ザ・ワールド」とか、今でいう1980年代ベスト的なCDに収録されているような曲をラジオなどで聞いたり、あるいはプログレッシブロックとかフュージョンなんかもいろいろ聞いてはいたのですが。ゲームの音楽ももちろんたくさん聞きましたが、ゲームミュージックの場合はそれを聞いて何かマネをするようなものではなくて、あくまでゲームとペアで組み合わされた、そのゲーム独自の存在の楽曲ですからね。 |
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大野: |
前回インタビューした渡部(恭久)さんと同じでルーツを持っていないから、そうやって何か特定のしがらみがない世代の人たちが、いろいろなものから吸収してきたことの強みを出せているのがいいんじゃないのかな? |
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並木: |
そうですね、渡部さんとお話していると、お互いそういう話の流れになってきたりしますので(笑)。ただ仕事を始めるまでは、本格的に演奏とか曲を作るところまではいかなくて、あくまでリスナーとして音楽に接していただけでした。そういえば、かつてZUNTATA時代の小倉(久佳)さんが「ゲームミュージックばかり聞いていてはダメだよ」という趣旨の一文を、CDのライナーか雑誌の記事に書かれていたのを読んだ記憶があるのですが、当時最初にそれを読んだときは、何だか私自身のことを全部否定されちゃったように思いましたね。しかも、高校時代には小倉さんの作った曲でライブまでやってたわけですから(笑)。それに対する反骨精神みたいなものもあった一方で、それもそうだよなと納得する部分もあったので、以後音楽は好き嫌いをしないでいろいろな曲を聞くようになりました。ですから、自分の音楽のルーツとかジャンルとかって、特に意識したことはないんですよ。実は、他の同業者のみなさんからもよく言われるんです、「他に似ている曲があんまりないよね」って。 |
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鴫原: |
音楽の興味の幅を広げるきっかけが、まさか小倉さんのコメントにあったとは! |
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並木: |
ゲーム音楽というものを、仕事をする立場からのプロ視点から考えますと、昔のゲーセンってそれこそスポーツやらクイズやら、あるいはコミカルなパズルものだとかがいろいろあったりして、それこそ格闘だけとか戦争だけとか、今みたいなジャンルの偏りはなかったと思うんですよ。ですから本来、サウンド制作者としてはどんなジャンルの曲でも書く能力がなければやっていけないんですね。実際、自分がこの仕事を始めたときも「ボンジャック」だろうが「雷龍」みたいなシューティングだろうが、与えられた仕事は何でもやらなくちゃいけなかったんです。なので、幅の広さというものは仕事上絶対に必要になりますので、例えば自分は今までずっとロックをやっていたからロックだけでいいやとか、ある特定のジャンル「だけ」に偏っていてはダメなんじゃないかと思いますね。私の場合は楽器演奏こそ全然できませんが、コンピュータという味方があったおかげで、本格的ではない、所詮「なんちゃって」な程度かもしれませんけど、用途に応じた楽曲という目標なら、似たようなものであれば割りと何でも作れちゃいますし、そういうところの幅の広さはあるのかな、とは思っています。どこか特定の場所にカテゴライズされない、つかみどころがないのが強みなのかなあと。 |
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大野: |
ゲームミュージックって、今じゃハード上ではもう横並びみたいな状態だしね。 |
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並木: |
ええ、そこで自分たちが何をできるかといったら、自分ならではの世界を用意できるのが強みになってくるのかな、と思います。 |
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鴫原: |
お話を「怒首領蜂 大往生」に戻しますが。PS2への移植版ではアレンジ曲が1曲収録されているとお聞きしましたが? |
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並木: |
はい。このときは以前の「バトルガレッガ」とは逆のパターンで、細江さんのほうから私にアレンジ曲をやらないかとオファーがあったんですね。アリカさんによる移植で、サウンドはスーパースィープさんが担当、というご縁があったから実現できたのだと思います。それから、このアレンジバージョンを作るときは、メロディやパーカーションとかが鳴るタイミングを原曲から大きくズレることのないように意識しました。なぜかと言いますと、プレイヤーが攻略パターンを作るときに、BGMを聞きながらボタンを押すタイミングとかを計ることってよくありますよね? そういう場合に、もしアレンジ曲を聞いて遊んだときにそのタイミングとかがズレちゃうのは嫌だなあと思いましたので、アレンジ曲でもそんなズレが起きないように気を使いました。秋葉原で行われた試遊会の場で、アリカの三原一郎さんからそのことをズバリ指摘された時には、さすが見抜いていらっしゃるなぁ!と、ビックリしたこともありました(笑)。 |
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鴫原: |
ただ聞かせるだけでなく、攻略の妨げにならないような配慮もなさっていたとは! それから、Xbox360版ではサウンドディレクションのご担当もなさったそうですが? |
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並木: |
ええ。このときのコンセプトは、アーケード版の原曲ではできなかったことを 実現しよう!というものでした。 技術的な限界で実現しなかったサウンド表現や、取り入れることができなかったアイデアをいろいろフォローしつつ盛り込んでいこうと思って作りました。要は、オリジナル版を一旦白紙に戻した上で、新しい技術やアイディアをもとに再構築しちゃおうということですね。このときにはアーケード版オリジナル音源も、さらにクリアでクオリティの高いサウンドを目指し、ステレオミックスやトラックダウンを全曲やり直したりして、もうホントにスゴく気合を入れて作りましたよ!ぜひ、プレイしつつ聴いていただきたいものです! |
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