むせかえるほど充満した淫気の中、私は目を覚ました。屋内、それもずいぶんと広い部屋のようだった。四方のうち一方は、全面ガラス張りになっていた。そこからは、オフィス街の夜景が眼下に見える。どうやら、高いビルの中の一室らしい。 その部屋の真ん中に私は拘束されていた。両の手首を鎖で縛られ、その鎖がそのまま私の身体を天井からつり下げている。身につけているのは、相変わらず白いランジェリーとガーターストッキングのみ。ペンダントは、取り上げられたままだった。 「ハッハッ……」 「ふぁ……あ、あぁん……」 部屋中からは、荒い吐息と艶やかな声だけが聞こえてくる。部屋に照明は付いておらず、薄暗い。代わりに、妖しげな香が立ち込めている。部屋のところどころに小さなテーブルがおかれ、その上には、ロウソクと香炉、ワイングラスと何か飲み物が入れられたボトルが置かれている。部屋中には、全裸の男女たちがいた。その人たちはテーブルの上の飲み物には目もくれず、常軌を逸した様子で、ただお互いの身体を貪欲に犯し合っていた。 「目が覚めた?」 理性なき空間の中で、私に明確な意思を持った声がかけられた。漆黒堕天使ランジェリーサキュバスを名乗った少女だった。相変わらず、漆黒のビスチェに身を包んでいる。まだ、幼さの残る可憐な顔つきに、それとは不釣り合いな成熟した肉体、その身体をきつく妖しく締めあげる真黒なランジェリー。女の私が見てもくらくらするような妖しげな色気をまとった彼女は、それゆえに私に恐怖を感じさせた。 「気分はいかがかしら、絵美理?」 「……え?」 彼女は、私に優しく笑いかける。私は息をのむ。 「あなた……私の名前を知っているの?」 「ええ、もちろん。あなたのお友達の、花梨のこともよく知っているわよ?」 そう言って微笑む彼女の顔は、昔から知っている友達のことを思い出すような表情だった。彼女は、テーブルの上からボトルを手に取ると、その中身をグラスに注ぐ。グラスを満たすそれは、何だかわからないが、血のように赤い液体だった。彼女は飲み物が注がれたグラスに口をつけながら、ゆっくりと私に歩み寄ってくる。 「ひっ……」 私は恐怖を感じ、身をよじる。だが、逃げることはできない。黒いビスチェの少女の表情は、サディスティックな笑みに変化していた。 「さぁ、絵美理……長くて、熱い夜を一緒に楽しみましょう……」 吐息がかかるほど顔を近づけた彼女は、私の白いブラの肩ひもに指を伸ばす。私は彼女に恐怖を覚えて、目をそらす。私のブラを脱がそうと、彼女の指が肩ひもにからめられた瞬間…… ――バチッ!! 青白い火花が上がった。少女の顔が苦痛にゆがみ、片手に収められたワイングラスが中身と共に床に落ちる。“聖衣”の浄化の力が、彼女の指を弾いたのだ。彼女は、火花に焦がされた指を押さえながら、私のほうを見つめてきた。 「まだ、力を失っていないのね。腐っても“聖衣”ってところかしら……いいわ。外側から、ゆっくりと蕩かしてあげる」 (この子……私と、花梨と……それに、“聖衣”のことも知っているの?) 淫気に取りつかれながら、知性を保っているだけでも驚きだった。そのうえ、この少女は、私が知らない何かを考えて動いているというのだろうか? 私が、疑問とそれよりも強い恐怖を感じているなか、少女は淫気に呑まれ乱交を重ねる全裸の女性たちのほうを仰ぎ見ていた。 「あなたたち! この娘……絵美理を悦ばせてあげなさい? 私たちの宿敵である純白の天使を、至高の悦楽でもてなすのよ!!」 黒下着の少女の声を聞いた女性たちは、知性を感じさせない緩慢な動きで立ち上がると、身動きが取れない私の身体に群がってくる。女性たちは、私の身体に顔をすりよせると、一斉に唾液に濡れた舌を伸ばしてきた。 「ヒアァっ!!」 私はその異様な感覚に、思わず変な叫び声をあげていた。ピチャリ、ピチャリ、と水音が私の皮膚から発せられる。首筋、腋、背筋、へそ、太股……純白の下着に守られていない肉体の部分が執拗に舐めまわされ、責められる。初めは嫌悪感しかなかったはずの私は、徐々に身体の奥底から湧き上がってくる甘い疼きに戸惑いを感じ始めていた。 「そうよ……下着に触れないように気をつけながら、性感帯を刺激してあげるの……アハッ! 絵美理もイイ顔になってきたわ。みんな上手じゃない?」 「イヤ……お願い……助けて……」 まるで機械のように忠実に、艶めかしく生々しい行為を延々と続ける女性たちに弄られ続ける。私は、泣き出しそうになりながら、黒下着の少女に助けを乞うていた。 「だめよ、絵美理……そんなに素敵な顔をしているのに……アハァ、私まで興奮してきちゃうわ……」 少女は、その顔に残虐さと淫蕩さが混じり合ったような表情を浮かべていた。彼女は、再びゆっくりとその紅潮した顔を、私の顔に近づけ…… 「ンッ!!?」 私の唇を、奪った。少女の舌はまるで、蛇か何かのように蠢き、私の固く閉ざしたはずの唇をやすやすと押し開いてくる。そのまま、私の口内は彼女の舌に蹂躙される。異物に対する生理反応として唾液があふれ、グチュグチュになってくると、私の唾液を吸い取られる。そうかと思えば、今度は彼女の唾液が私の口に流し込まれる。そんな動作が、二、三回繰り返され、私の唇はようやく解放された。 「アハ……絵美理のキス、すごく美味しい……男の子の匂いがしなかったから、ひょっとしてファーストキスだったのかしら?」 「イヤ……こんなの、イヤ……」 私は、弱々しく首を振った。私の初めてのキス……それが、女の子同士で……しかも、愛のない、ただ貪るだけのキスだなんて…… 「あら、ここはそんなこと言っていないみたいだけど?」 黒下着の少女の指が、ショーツとガーターストッキングの狭間で露出した太ももの一部分に延びる。 「ふあ、あぁん……」 彼女の指が、足の付け根を撫でる感覚に私は思わず喘ぎ声をあげてしまった。彼女は、妖しく撫でまわした指を、私と少女の目の前に持ってくる。その指先は、粘り気のある液体で濡れそぼっていた。 「絵美理、こんなに濡れちゃっている……」 「ウソ……ウソよぉ……」 「嘘なんかじゃないわ。アハァ、絵美理の愛液も、とっても美味しそうなのね……」 濡れた指が、彼女の口に運ばれる。彼女は、まるで指の先についたクリームを舐めるように、じっくりとその味を楽しんでいるようだった。 「すごいピュアな味がする……ヴァージンの愛液って、やっぱりいいわね……でもね、淫気をたっぷり吸った愛液も、イイものよ?」 黒下着の少女の、もう片方の手がショーツに彼女自身の覆われた秘所に延びる。漆黒のショーツの上から、数回指を擦りつけると、指先とショーツの間には粘り気のある銀色の糸が伸びていた。 「お礼に、味あわせてあげる。しっかり、舐めてね?」 「ンっ……」 彼女は、自らの愛液を絡めた指を私の口の中にねじ込む。その瞬間、濃厚な甘い匂いが私の鼻腔に充満する。南国の果物を連想されるような官能的で、それ以上に魔性を秘めた妖しい匂いが、私の脳髄を蕩かしていく。淫気の香りだって分かっているのに、抵抗できなくなって……あぁ、舐めたい……もっと、味わいたい…… 「チュパ、チュパリ……」 「あら、絵美理? 気に入ってくれたみたいね……もう、赤ちゃんみたいに吸いついちゃって」 一心不乱に指を吸う私を満足げに見詰めた黒下着の少女は、妖艶に微笑むと、私の口から指を引き抜いてしまう。私は、思わず切なげな視線を彼女に向けてしまった。 「安心して? 次は、もっと素敵なプレゼントをあげる」 黒下着の少女は、今度は全裸の男たちのほうに視線を投げかけた。すると、所在なさげに私のたちの様子を見つめていた男たちは、ふらふらと群がるように黒下着の少女の近くへ集まってくる。その股間の赤黒いペニスは、これ以上ないほどに雄々しくそそり立っていた。 「あなたは、横になって? ……そっちのあなたには、後ろの穴を使わせてあげるわ。うふ、嬉しいでしょう? ……あぁ、他の人も焦らないで? 手と口でやってあげる」 一人を仰向けに横たわらせ、もう一人には自分の腰を掴ませる。彼女は、男たちの身体とペニスの位置を、具合の良いように配置していく。 「それじゃあ、いくわよ?」 彼女は、自分の黒いショーツをずらし、蕩け、濡れそぼった秘所をむき出しにする。その秘所の真下、巨塔のようにそびえ立つペニスに向かって、ゆっくりと、それでいて躊躇することなく腰をおろしていく。 「あ……アハァ……」 黒下着の間に息つく女性器が、雄の肉の器官を根元まで咥えこむ。彼女は、満足げな溜息をついた。その表情は淫らな色に染めあがる。次の瞬間、彼女と彼女を取り囲む男たちが一斉に動き始めた。 「ン…… イイ! イイわ!!」 黒下着の少女の背後に位置していた男が、彼女のお尻を両に開くと、その間に現れたすぼまり……お尻の穴に向かって自分のペニスを突き入れた。彼女の後ろの穴は、それを拒むことなく、むしろ歓迎するように呑み込んでいく。彼女自身も、感極まったような嬌声をあげた。右手と左手で自分の顔の周りに位置するペニスをそれぞれ握りしめ、擦りあげながら、口と舌も使って舐めあげていく。 「絵美理、見て? こんなにも……素敵なのよ!?」 彼女が、私のほうを振り向いた。その顔は、白痴といってもいいほどだらしのないものだったけれど、同時にこれ以上ない悦楽を享受している表情だった。 「アハ、ペニスが脈打っているわ……イクのね? もう、イクのね!? ……いいわ、私も一緒にイッてあげる……その精液と淫気を、この私にささげなさい!!」 男たちが一斉に身を震わせると、ペニスの先端から欲望の具現である白い精液を、黒下着の少女の膣に、直腸に、全身の肌に、吐き出していく。黒下着の少女もまた、至福の表情を浮かべながら、その欲望の奔流を全身で受け止める。男たちの射精がようやく終わった時、私は目の前に繰り広げられた淫行に、意識を奪われていたことに気がついた。 「絵美理、ずいぶんとだらしない顔で見とれていたみたいね?」 「んはぁ……そんなこと……ない……あぁん」 私は、弱々しく喘ぎながら目をそらす。説得力がないことなど、自分でもわかりきっていた。 「次は、絵美理が楽しむ番だからね」 黒下着の少女は、そう言って立ち上がる。情交の跡が残る女性器を隠そうともせず、そこからは愛液と精液の混合物が糸の引きながら垂れ落ちる。彼女は、近くのテーブルに置かれていたひとつの物体に手を伸ばした。杯に見える。ただ、それはほかのワイングラスとは違い、黄金仕立てで、古代文明の遺跡を想起させるようなわけのわからない刻印が一面に施されていた。彼女は、その杯を床に置くと、その上にまたがる。ヌチャリと音を立てながら、女性器を指で押し開くと、その中から塊のようなった、愛液と精液が混じり合ったものが、ゴポリと音をたてて、杯の中へと落ちていく。 「!」 その瞬間、私は目を見開いた。淫液が杯に注がれると同時に、何かが焼けるような音が聞こえ……杯の中に注がれた淫液が、黒いタールのようなものに変質していたのだ。杯の口からは、ドロドロの淫気があふれ出ている。それも、信じられないほど濃い。杯の中の黒い液体は、あまりの濃さに実態を得た、淫気そのものだった。 「これは、“黒の杯”と言ってね。淫気を濃縮させる力を持っているの。さっきまでの淫気なら“聖衣”が持つ浄化の力で防げたようだけど……これほどの濃さになったらどうかしら?」 「……いや! やめて!!」 黒下着の少女が、杯を手に取り、立ち上る。私は、蕩けかけていた恐怖に再び恐れおののく。黒下着の少女は、ゆっくりと私に歩み寄る。顔には、古くからの親友に向けるようなとびっきりの笑顔を浮かべていた。彼女は、杯を私の身体に近づけると、胸元で傾けた。 「ひっ!?」 一瞬、何が起こったか分からなかった。杯の中から垂れ落ちた漆黒の粘液は、私の純白のブラの上に滴った。弱々しく青白い火花が上がったけど、すぐに消え、黒い染みがじわじわとブラに広がっていく。瞬く間に、その黒い染みはブラ全体に広がり、私の純白のブラジャーは、まるで目の前の少女が身につけているような漆黒の下着へと姿を変えてしまった。 「……あ! ああぁぁぁ!!」 カッと、ブラに包まれた胸が熱くなる。淫欲の炎にあぶられ、胸が直接なぶられているようだった。 「次は、こっちよ」 黒下着の少女は、楽しそうに次の照準を定める。杯を私の下腹部に持ってくると、へその辺りから垂らすように杯を傾け、黒い粘液を純白のショーツへ染み込ませていく。 「……いや! いやあぁあぁ!!」 私の拒絶もむなしく、純白のショーツもまた漆黒の下着へ姿を変えていく。とたん、私のお尻と秘所に胸と同じような、いや、それ以上の淫虐の症状が襲いかかる。 「……ふあぁんッ!!」 たまらず、私はイッてしまった。それでも、黒く染まったランジェリーの責めはおさまらない。その間に、目の前の黒下着の少女は、私の右足のガーターストッキングに黒い粘液を注ぎ、さらに残った液体で左足を染め上げた。ほどなくして私は、目の前の少女と同じ、漆黒の下着に身を包んだ女となった。 目の前の少女が、パチンと指を鳴らすと、私の腕を拘束していた鎖がほどける。床に足をついた私は、腰を小刻みに震わせながらもかろうじてバランスを保つ。もう、私を捕らえるのに鎖なんて必要なかった。私の体と精神は、身を包む黒い下着によって拘束されていた。 「漆黒堕天使ランジェリーサキュバスに生まれ変わった気分はいかかがかしら?」 「こんなの……いや……お願い、助けて……」 「あらあら、堕ちきってないなんて、さすがね。でも大丈夫よ。ゆっくり蕩かして、淫気のことしか考えられなくしてあげる」 目の前の少女は、感心したように私の淫欲に戸惑う顔を覗き込んだ。 「それじゃ、絵美理に私からのもう一つのプレゼントよ? ロストヴァージンのお相手を用意しておいたわ」 彼女は、部屋の暗がりから誰かの手を引っ張った。それに応じて、一人の男の子が現れる。私は、その男子のことを知っていた。公園で真っ先に助け出した、あの彼だった。彼もまた、他の男と同様に全裸で、肉欲に顔を曇らせていた。 「この子ったらね……ウフフ、私が犯してあげようとしたら、初めての相手は純白の下着の彼女がいい、なんて言うのよ? だから、絵美理のために取っといてあげたの」 私の胸が高鳴り、呼吸が乱れた。それは、全身をなぶる淫気のせいだけではなかった。 「絵美理。この子を犯しなさい! ランジェリーサキュバスとしての初仕事よ!!」 目の前の少女は、その彼の後ろに回ると滑らかな手つきで彼のペニスを刺激している。私は、身にまとった漆黒の下着に突き動かされるように、歩みで出て、黒いブラ越しに彼の胸板とふれあった。私の指先は、勝手にショーツをずらし、秘所をあらわにしてしまう。ショーツの中が、恥ずかしいまでにビショビショになっていることが自分でもわかった。 「……ごめん。俺のせいで……」 「私のほうこそ、ごめんなさい。守ってあげられなくて……」 彼のささやくような声が聞こえ、私も弱々しく謝罪の言葉を返す。もはや、私のコントロールから離れた指先が、彼のペニスを掴み、私の秘所へと導く。私の秘所は、彼のペニスを初めてとは思えない貪欲さで呑み込んでいく。 「ううッ!!」 「ああッ!!」 私たち二人は、立ったまま激しく腰を振りはじめた。信じられない悦楽が私の背筋を貫いていく。床に目を下ろすと、処女を失った証である赤い滴が床に染みを作っていたが、喪失の瞬間がいつだったのか私には定かではなかった。 「いい! 気持ちいいよぉ!!」 私は、いつの間にか彼を床に押し倒し、またがるように犯しはじめていた。男との交わりを求めるこの激情が、自分自身の意思なのか、淫気によって強制されたものなのかもはやわからない。 「……俺、イキますッ!」 「私も……私も、イクッ!!」 彼のペニスが躍動し、私の中に濃い射精を叩きつける。私の内部は、歓喜に打ち震え、一滴でも多く搾り取ろうと締め上げる。やがて、彼の射精が止み、絶頂の余韻だけが体に残る。それでも、私の中の淫欲の炎は、一向に収まる兆しがない。 「うふふ。絵美理、ロストヴァージン、おめでとう」 切なげに視線をさまよわせる私に対して、少女のあざけるとも祝福ともわからない言葉だけが響いていた。
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