きょうのコラム「時鐘」 2010年6月20日

 7年の飛行を終えた「はやぶさ」が地球に投げ落としたカプセルが日本に届いた。果たして小惑星の砂塵(さじん)は入っているのか。新しい命の誕生を見るような一瞬が近づいている

「はやぶさ」の本体は大気圏に突入して燃え尽きた。その最後の姿を、子どもを残すため自らを犠牲にする「母」に例えた人がいた。だが、命の種を残して消えるなら、むしろ「父」のようではなかったか

「はやぶさ」帰還前に、縄文のビーナスと呼ばれる母性を象徴する土偶が発掘されて話題になった。同じ縄文期には石棒と呼ばれる男性を象徴する遺物もある。数千年の時を挟んで、宇宙から帰った探査機と、地中に眠っていた遺物が21世紀の地上で交差した。面白い時代である

最近は、子育てに励む若い父親を「イクメン」と呼ぶ。大切なのは「父と母」の役割を各家庭なりに確立することではなかろうか。男女の社会的役割がどう変わろうと子どもたちが苦しい時に思い出せば勇気がわき、懐かしく思う父であり母でありたい

長い人生の中で親子で過ごす歳月はほんの一部でしかない。命の源を考える「父の日」にしたい。