それでも畜産の仕事を 高鍋農業高感染疑い

(2010年5月26日付)


 「牛たちとずっと一緒にいた」。高鍋町・高鍋農業高(岩下英樹校長、361人)で飼育する乳用牛が口蹄疫に感染した疑いが確認され、25日、飼育する牛や豚334頭が殺処分された。県畜産共進会のグランドチャンピオン牛なども含まれ、処分を聞いた生徒らは涙を流したという。全寮制で学校生活は牛や豚とともにあった。ショックは計り知れない。「それでも畜産を再建していくのは君たちだ」。願いを託し、学校は将来の担い手を支えていく。

 同校の「舞鶴牧場」で朝の搾乳時に牛の異常が見つかったのは23日午前。24日に感染が確認された。発生農場から半径10キロ圏内のためワクチン接種、その後に殺処分される予定だったが、直ちに殺処分されることになった。

 生徒に感染疑いと処分が伝えられたのは24日。「尊い命を奪うのだから無駄にしてはいけない。早く終息させ、舞鶴牧場を元に戻そう」。岩下校長が涙ながらに語りかけると、生徒らは分娩(ぶんべん)の立ち会いから一緒に過ごした牛や豚を思い、涙を流したという。

 同校は全寮制で、実家が畜産を営む生徒はウイルス拡大を防ぐため、ほとんど寮にとどまっている。殺処分が行われた25日は休校となったが、牧場が寮に近いことに配慮して、生徒らを学校に移動させて作業を実施。処分した牛や豚は牧場の一角に埋却した。

 生徒らは4月28日に畜舎へ立ち入りを禁じられるまで、朝は牛の引き運動、放課後はふん尿処理やわら敷き詰め、調教に汗を流し、ブラシをかけたりして濃密な関係を築いてきた。2007年県畜産共進会・肉用種種牛の部で「みねこひめ3号」が高校初のグランドチャンピオンという栄誉に輝いたが、その子牛も含めて、すべて殺処分された。

 美郷町の実家が牛の繁殖農家という畜産科3年甲斐博子さん(17)は「頭が真っ白になり涙が止まらなかった。牛たちとずっと一緒にいた。いなくなるのはめっちゃつらい」。それでも「高校で牛に触れて興味がわいた。将来は絶対畜産の仕事をしたい」という決意は変わっていない。

 同校は心のケアのため臨床心理士2人を配置するほか、殺処分した家畜の魂を慰める機会も持つ予定。岩下校長は「牧場に牛や豚が1頭もいない現実に直面した生徒は衝撃を受けると思う。『畜産復興の原動力になるのは君たちだ』と伝えたい」と今後について語った。

【写真】品評会に出す子牛を丁寧に洗う高鍋農業高校の生徒=2008年5月