埋却作業が難航 農地買い上げに疑問も

(2010年5月26日付)


 口蹄疫問題で殺処分対象となっている家畜の埋却地確保が難航し、防疫作業に深刻な影響を与えている。そんな中、県は25日、関係市町に県農業振興公社による埋却用農地買い取りを提示。防衛省も航空自衛隊新田原基地(新富町)周辺の土地を埋却用に提供する考えを示した。ただ、作業の遅れには人員不足や周辺住民の理解などさまざまな要因が絡んでいる。加えて、ワクチン接種後に殺処分される膨大な家畜の埋却地も確保しなければならず、事態が好転するかは依然不透明な状況だ。

 県の買い取り対象が農地に限定されていることについて、県内で最も面積が狭い高鍋町の小澤浩一町長は「農地だけでは町内の処分用地が足りない」と実効性を疑問視する。

 同町上江で肉用牛1500頭を飼育する藤原辰男さん(58)は、感染疑いが分かり切れかけた緊張の糸をつなぎながら消毒作業を続け埋却地を探すが、交渉先から色よい返答はない。県にも斡旋(あっせん)を求めているが、らちが明かない。「持っている土地はすべて近くに住宅がある。住民に迷惑は掛けられない。こうしている間にも牛からウイルスが広がっている」と訴える。

 別の町で酪農と肉用牛肥育を営む男性も「自分の土地に埋めようとしたが、周辺から反対された。逆の立場なら、自分の家の近くに埋められるのは嫌だろう」と声が沈む。

 同日の衆院農林水産委員会で、山田正彦農水副大臣が感染拡大の要因として埋却地確保の遅れを指摘したことに、川南町の内野宮正英町長は「町は当初から取得に尽力してきた。獣医師不足による殺処分の遅れが感染が広がった最大の要因」と不快感。同町によると、約8割の農場で感染疑いから一両日中に埋却地を確保しているという。

 同町平田の養豚業香川雅彦さん(52)は国の姿勢に疑問を抱く。ウイルスを持ち出すわけにはいかず、埋却地探しに外出することもできない。見つかった候補地も2メートルほど掘り進めると水がわき出してしまい断念した。「国の方針にしたがっているのだから、責任を持って埋却地を選んでほしい」と声を上げる。

 感染・感染疑いの14万7千頭の埋却後には、ワクチンを接種した牛や豚計14万5千頭の殺処分、埋却という難題も控える。

 24日に豚900頭のワクチン接種を終えた甲斐利明さん(50)=川南町川南=は、殺処分のスケジュールは示されず埋却地の話もなかったという。甲斐さんは「自分の敷地も考えているが、近くに民家があるので同意が取れないだろう。梅雨に入る前には終わらせたいのだが」と不安を隠せない。

【写真】埋却地での掘削作業。埋却作業の遅れが防疫作業に暗い影を落とす(県提供)