【支援策】処分補償は時価評価額

(2010年5月23日付)


 口蹄疫発生農場から半径10キロ圏内の牛、豚の全頭ワクチン接種が22日始まった。当初、政府はワクチン接種とその後の殺処分の補償について、被害農家に牛、豚それぞれ一律の額で補償金を支払う案を提示。しかし地元の反発などからその方針を事実上撤回し、21日には新たに時価評価額方式など盛り込んだ追加支援策を発表した。ただ、事態が急展開する中で、補償内容が農家にうまく伝わらないなど混乱が続いている。政府支援策を整理する。

 政府は19日、ワクチンを接種して殺処分した牛1頭につき約60万円、豚1頭につき約3万5千円の補償金を農家に支給すると発表。さらに10〜20キロ圏内の牛や豚をゼロにして「緩衝地帯」とするため、早期出荷を農家に要請。牛や豚は食肉処理し、民間会社が買った上で市場に流通させる。これらの牛や豚は感染拡大防止の観点から移動を制限しているだけで、食肉の安全性に問題はない。農家の損失は政府が負担するとした。

 また、既に殺処分を実施した農家には、牛や豚の評価額の5分の1を見舞金として、5分の4は家畜伝染病予防法に沿って手当金として、全額支払うとしていた。

 しかし、殺処分される牛や豚を一律の額で補償する政府方針に地元が反発。ワクチン接種とその後の殺処分について地元同意が得られない事態となった。そのため政府は21日、それまでの方式を事実上撤回。既に殺処分した家畜と同様に、時価評価額方式を適用し、全額補償するなどの追加支援策を発表した。

 時価評価額方式と並んで追加支援策の柱となるのが、特に地元農家から要望の多かった経営再開までの生活支援金。現在飼育している牛、豚の頭数に応じて定額方式で支払うもので、将来、現状と同規模で経営再開することを想定。それまでの生活資金に充ててもらう。ただし、農水省動物衛生課によると、廃業する農家には適用されない。

 支給額は▽肉用牛(繁殖、2歳以上)1頭あたり17万9千円▽同(同、2歳未満)5万9千円▽肉用牛(肥育)5万9千円▽母豚5万6千円▽肥育豚1万3千円。酪農牛(2歳以上)19万3千円▽同(2歳未満)3万2千円。

 県が示した事例によると、2歳以上の母牛25頭、2歳未満5頭を飼育している農家の場合、477万円が支給される。また母豚180頭、肥育豚1700頭を飼育している農家では3218万円となる計算。

 このほか、被害農家に対し殺処分までの餌代などの飼育支援として、飼養日数に応じて補償する。殺処分した牛、豚を埋めた土地は一定期間使用不能となるため、土地の賃料を負担。環境対策費も支援する。

 経営再開のための経費支援として、リース方式による家畜供給や家畜疾病経営維持資金の融資枠を拡大する方針も明らかにした。移動、搬出制限区域(半径20キロ)内で滞留する子豚の淘汰(とうた)へ人工流産させる際、母豚1頭当たり2万1千円を助成する。

 政府現地対策チームによると、10〜20キロ圏内の牛、豚の早期出荷と、政府の損失負担については変更はない。ただ、これ以上の具体的な内容は現時点では示されていない。

 【家畜の時価評価】牛や豚の時価評価額は血統や成育の状況などで数倍の開きが出る。牛や豚の口蹄疫感染が確認された場合、同じ農場で飼育されている牛や豚も含めてすべて殺処分することを家畜伝染病予防法は規定。知事が任命した3人以上の評価人が合議で時価評価額を決め、補償する。今回は同法の規定をワクチン接種後の全頭殺処分にも適用する。