全面的納得ではない 「今後は」不安残る農家

(2010年5月23日付)


 口蹄疫封じ込めを図る国内初のワクチン接種が22日、高鍋町などで始まり、慌ただしさの中、地元は複雑な感情が交錯した。やむを得ず接種を受け入れた農家は「つらいの一言」と割り切れなさも。対象地域内の農家は接種の必要性は理解しつつ、「補償が具体的ではない」「埋却地は大丈夫なのか」と不安や不満が渦巻く。農家への説明をまかされ、矢面に立たされている地元自治体も、国の方針や情報の少なさへのいら立ちをのぞかせている。

 高鍋町の養豚業男性(40)方では午後3時ごろから、白い防護服姿の獣医師ら2人が豚の首や尻にワクチンを打って回った。接種作業には男性も加わった。注射針を変えず、機械的に進められる作業に「いずれは処分されるからだろう」。母豚の乳を飲んでいた子豚も抱きかかえて注射した。約1600頭に対し、作業は3時間で終わった。「やりきれないが、これ以上感染が広がらないためにとの思いでやった」。自らに言い聞かせるように語る。

 農家の先行きへの不安は根強い。川南町の繁殖農家間野雄一さん(36)は「殺処分に対する補償額は借金返済に消える。ワクチンは仕方ないと思うが、今後の生活はどうなるのか。具体策を求めているのはそこだ」と吐き捨てる。

 「ワクチンを打つ前に評価額を出してほしい。打ってから5万、10万円と言われたらどうやって生活し、再建するのか」「殺処分しても埋める農地はないのでは」。高鍋町役場で開かれた農家への説明会。出席者は補償面などの不安をぶちまけた。

 一方で、感染封じ込めという緊急課題が横たわる。高鍋町が説明会に出席した46戸に確認したところ、半数を超す26戸が接種に同意した。同町の繁殖農家田中寿さん(67)は「全面的に納得したわけではない。こういう状況でなければ反対するが、近所でもどんどん感染しているので…」と複雑な思いを語る。

 農家への説明を任された地元自治体も苦悩する。同町の小澤浩一町長は「もっと補償内容が明示されれば説明しやすいのだが。国の方針に同意したわけではなく、これ以上のものを求めていく」と語る。

 都農町の河野正和町長も「生活支援面が整っておらず、再建支援金の数字も不明確な点がある」と検討不足を指摘。「時間的な制約は分かるが、町の責任者としてぎりぎりまで国と県に働き掛ける」と最後まで交渉に力を注ぐ構えだ。

【写真】高鍋町が農家を集めて開いた説明会。補償などをめぐり先行きへの不安を訴える声が相次いだ=22日午後、高鍋町役場