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W杯日本代表は正々堂々と全敗せよ(2)/杉山茂樹(スポーツライター)

Voice6月11日(金) 17時56分配信 / 国内 - 政治

◇ポジションもフォーメーションも理解してない◇

 次に、プレーする側の問題だ。

 まず基本的なことだが、日本人選手は、「ポジション」の意味を理解していない。

 よく外国人の指導者は、「ピッチをマス目に区切れ」という。各選手に与えられる、カバーする領域を示すためだ。ポジションとは「この選手は、このあたりに来たボールに対しては責任をもて」ということ。自分に与えられた領域以外の場所に移動してもいいが、そのときは誰かにその場所をカバーする責任を引き渡さなければいけない。でないと、穴が空いてしまい、相手に突かれてしまうからだ。

 しかし日本人選手にそういった意識はなく、「ポジション=キャラクター」となっている。

 話が少し逸れるが、日本人が好むキャラクターに「司令塔」がある。はっきりいって、これは日本サッカーを大きく後退させているフレーズである。

 司令塔は、ボールをもっているときに初めて生まれる(司令するのだから)。ところがサッカーにおいて、一人当たりのボールの持ち時間は90分のうちせいぜい3分だ。つまり司令塔は、3分程度しか存在しえないキャラクターなのである。それを90分のキャラクターと思っているのが日本だ。今回のW杯は相手が格上なので、司令塔は機能しないに等しいだろう。

 さて、日本はポジションを理解していないゆえに、フォーメーションもなっていない。「4-2-3-1」とか「4-3-3」などいわれるアレだ。たとえば「4-3-3」であれば、DF4人、中盤3人、FW3人の陣形のこと。

 これはピッチに描かれるデザインである。試合中、ピッチのなかで自分はどういうときにどう動き、どういう役割を果たせばよいか、それによってほかの選手や全体にどういう影響や効果があるか、ということだ。

 日本人は自分のカバーするポジションやフォーメーションがわかっていないため、きわめて非効率なサッカーをする。ピッチ全体を眺めていると一目瞭然で、たとえば相手ボールになったとき、ボールの取りに行き方がシステマチックでない。一人がバカ走りをしたり、アタフタしすぎで、みなそれぞれが勝手に動いている。また、ほかの人のぶんまでがんばってしまうところもある。そこで、いざ相手が向かってくると、「え? 誰が行くの? 俺?」となる。

 サッカーでは、ゴールキーパーも含めた11人の走行距離は、世界平均で一試合で約100km。しかし日本の場合は120km。明らかにオーバーペースであり、そのため最後まで体力がもたない。この日本の「走り過ぎサッカー」は20年前から変わっていない。

 アジア予選の試合では、日本のFW4人が、彼らだけでグルグル動いていた姿が印象的だった。これは、まったく無意味だし、パスを出すほうも焦点が定まらない。さらにその動きが走行距離となり、結局、疲れにつながっている。外国人は日本のサッカーをみて、よくこういう。「日本人って、なんでいつもせわしなく、ワサワサ動いているの?」と。

 外国では、「15m以上はボールを追わなくていい」といわれる。それ以上は、後ろに任せるのだ。たとえばFWが前に動きだしたら、中盤が上がり、バックも上がり、というように、マス目でいうと二つずつ前に上がっていく。全体を俯瞰してみたとき、3列、ないし4列のフォーメーションが均等に10mから15m間隔に配置される。そうやってプレスをかけていけば、一人抜かれても、すぐ別の人間がいて、もう一人抜かれても、また別の人間がいて、となり、よほどのことがないかぎり決定的なピンチに陥ることはない。またムダな距離を走る必要もない。

 かつて、ブラジルのロナウドは2分だけ真剣に走ったら勝てる、といわれた。ボールに触っていないときは動かないで力を溜めておき、いざボールをもつとすごい勢いで攻めてくる。このメリハリが相手には効果的なのだ。

 外国のストライカー選手は、向かってくるとライオンが襲ってくるようで、守備側は「来た! 怖!」とビビってしまう。ところが日本チームはいつもつねに走っていて、それでいて肝心なときのダッシュや瞬発力はまったくない。守備でボールを追いかけるときも同じだ。よって日本選手がボールをもって攻めてきても、守る側はまったく怖くはない。

◇「中盤至上主義」を廃せ◇

 さらに根本的なことをいえば、日本には「中盤至上主義」という日本式サッカーがはびこっている。

 これはいわゆる「学校サッカー」が原因である。重視すべきはチームの和であり、もっとも尊ばれるのはパスである。たとえば学校で、一人で長いドリブルをしたり勝手にシュートを打つと、監督からは怒られ、仲間からは白い目でみられる。挙げ句はイジメの原因になったりもする。

 そのせいで日本は、ストライカーはまったく育たない。一方で、責任逃れの横パスだけは天下一品だ(ただし、ボールはコート上でいっさい前に進まない)。アシストがよければ「キラーパス」などともてはやされるが、私からいわせれば、「キラーパスよりキラーシュートを打ってくれよ」といいたくなる。

 プロの試合でも、中盤の選手がパスを出してFWがゴールを外したとき、FWが頭を抱えて中盤の選手に謝ることが多い。本来は逆で、中盤がFWにボールを合わせられなかったことを謝らなければいけないのだ。

 こういった「日本式サッカー」を覆すためには、日本サッカーの色に染まってない外国人を監督に起用するのがいちばん効果的だ。実際、オシムやトルシエが監督だったとき、「君ら、そんなことも知らないの?」という感じだった。

 世界には、有名監督でも浪人をしている人がたくさんいるので、候補はいくらでもいる。そして声を掛ければ引き受けてくれる可能性は十分にある。なぜなら、いま日本はたいていW杯に出場でき、日本代表の監督になれば、それこそ自分の采配を世界の何十億人に観てもらえて、成功すれば監督としての市場価値も上がるからだ。

 日本人は誤解しやすいが、「名監督=かつてのプロ選手」とは限らない。たとえばイタリア・セリエAの強豪、インテルのモウリーニョ監督は、もともと通訳としてこの世界に入り、いつのまにかコーチになり監督になった。学校の体育教師出身やジャーナリスト出身などにも、名監督は世界に数多くいるのだ。

 ただ付言するならば、世界の一流監督にとって、日本は地理的に遠すぎる。もし4年間、日本の監督をやれば、再び本場ヨーロッパに戻ったときは浦島太郎状態で、新たな流れに付いていけない可能性がある。だから、現役をリタイアした人は別として、現役の有名監督であれば、4年間はやらないだろう。実際、2002年のW杯で韓国を4位に導いたヒディンクの監督就任期間は1年半だった。優秀な人であれば、チームのウィークポイントを直すだけなら3カ月で十分だ。

 残念ながら、サッカー協会はそのようなスカウティング能力はなかった。宿敵・韓国に惨敗するにいたっても、いまだ協会会長が岡田監督続投を指示したことからみても、それは明らかだ。

◇惜しいチャンスを死ぬほどつくれ◇

 とはいえ、監督についてはいまさらいっても始まらないので、これから行なわれる試合について話を進めよう。

 日本にとって今回のW杯グループリーグでは、初戦のカメルーン戦がすべてのカギを握る。というのは、2戦目、3戦目になってくると、グループ内の行方がだんだんみえてくる。すると、各チームが自分の立ち位置を意識し、それに応じたプレーをしてくる。

 しかし初戦はブックメーカーの予想どおりで、1番がオランダ、2番がカメルーン、わずかの差でデンマークが続き、日本が最下位の実力だと思って、相手は試合に挑んでくる。つまりカメルーン対日本は、2番対4番の対戦ということだ。カメルーンからすれば、あとの二試合には接戦が予想されるので、日本には軽く勝ちたいはず。その油断が日本の狙い目となる。

 カメルーンには、ヨーロッパを代表するストライカー、エトーがいる。ゆえにエトー対策は必至だ。彼は攻撃時、左右に柔軟に動くので、日本の、とくにサイドバックが彼の動きに付いていけるか、またエトーは守備も堅実に行なう選手なので、日本が攻めるときに彼を動かしてバテさせることができるか。

 なんとか日本が踏ん張り、前半0―0で折り返すことができれば、イヤな感じになるのはカメルーンのほうである。そこで向こうが焦って、パニックを誘発させることができれば、しめたものだ。アフリカのチームは、概して波が激しく、2―0で勝っていても、突然、大崩れしたりするので、あきらめずにしつこく攻めれば波乱も起こりうるだろう。

 三戦目に戦うデンマークは、カメルーンよりも下馬評は下である。しかしデンマークという国は非常に堅実で、格下チームに負けることは、まずない。うっかりミスも起こさない。格上のチームには実力どおりのスコアで敗れる傾向があるが、格下に足元をすくわれる可能性はいちばん少ない。

 あえていうなら、ベントナーという強力なストライカーをできるだけゴールから引き離すことが対策となる。そのためには日本のDFが攻め上がること、そしてハーフサイドが内に入らないことだ。

 オランダ戦について怖いところは、彼らは相手が格下だからといって、力をセーブしてくれないことだ。イタリアであれば、1、2点取れば、攻撃をやめてくれる。しかしオランダは、こちらが攻めるほど、攻め返してくる。実力差を考えると3―0でオランダ勝利は堅い。

 もし日本が決勝リーグを狙うのであれば、とにかく初戦を勝たなければいけない。引き分けでも厳しい。最悪でも一勝二分としなければ、決勝リーグに上がる可能性はない。

 ただ、勝ち負けにこだわることは重要だが、もっと重要なのは、よい内容のサッカーをして、観ている人を飽きさせないことである。サッカーW杯は、いってしまえば世界中で行なうエンターテインメント。演劇や映画と同じで、日本人だけではなく試合を観てくれる全世界の人たちに、出し物を披露する感覚をもつべきだ。日本にはその感覚が乏しい。勝負にこだわり、負けることを怖がりすぎている。

 繰り返しになるが、今回のW杯E組での相手はみな強い。冒頭で述べたように、3戦全敗の可能性はかなり高いだろう。イギリスのあるブックメーカーによると、日本は出場する32チーム中「お尻から数えて4番目」であるそうだ。

 これを脱却するためにも、また観ている人を愉しませるためにも、はっきりいえば、日本は番狂わせを起こせればよいのだ。大多数の人は、「オランダに勝てるとは思わないけど、もしかしたら……」と思ってチャンネルをひねるのだから。たとえ負けても、観ている人が90分間、最後までハラハラしながら、途中、多少でも「お、日本、がんばれ」と思ってもらえればいい。

 1998年のW杯におけるオランダ対韓国戦、5―0でオランダが勝った。このとき、当時オランダの監督だったヒディンクは「こんなにめげずに攻めてくる韓国に将来性を感じた」と述べた。今回、日本がめざすべきは、この試合における韓国の姿だろう。

「成績はあとから付いてくるもの」という。しかしその前に、いいサッカーをやってほしい。「いいサッカーをやっても勝たなきゃしようがない」という人がいるが、それはいいサッカーをやってからいえるセリフである。

 日本はつねに「決定力不足」というが、問題は「チャンス不足」であることだ。W杯では惜しいチャンスを死ぬほどつくってほしい。オランダであれば決定力があるので、チャンスは少なくてもかまわないが、日本はものすごい数のチャンスをつくらなければいけない。いずれにせよ、下手な小細工などせずに正々堂々と戦い、「日本の試合って、チャンスはたくさん多くて、面白かった! だけどほんとに決定力不足だよねー」といわれるくらいの試合をしてほしいものである。

<文中・敬称略>

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  • 最終更新:6月14日(月) 12時 5分
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