「きちんと補償」国にくぎ ワクチン接種合意

(2010年5月22日付)


 「理解せざるを得ない」。川南町を中心に発生農場から半径10キロ圏内の牛や豚全頭にワクチンを接種した後、殺処分する国の口蹄疫対策を地元3市7町の首長は21日、断腸の思いで受け入れた。対象となる農家の心情や生活再建を懸念し、国に対して厳しい態度で臨んでいた首長側だったが、一刻も早いまん延防止へ苦渋の決断を迫られた格好だ。国に対し、「きちんとした補償をしてほしい」とくぎを刺し、いずれも険しい表情で県庁を後にした。

 この日、国から一任を受けた東国原知事と10首長は、国の追加支援策について協議し、議論は2時間以上に及んだ。20日に行われた国と地元首長との協議では首長側が「補償の内容が不透明」「一方的に国が決めすぎる」と不満をあらわにし、ワクチン接種の同意に難色。しかし、この日に西都市でも疑似患畜が初めて確認され、まん延が続く現状を目の当たりにし、最終手段としてワクチン接種を選択した。

 同市の橋田和実市長は「20日の協議では市内で感染が確認されていなかったが、市内でも発生して状況が変わった。これ以上まん延させるわけにはいかない」と厳しい決断だったことを明かした。ただ、補償額については「お金じゃ割り切れない面もある」と農家の心情を推し量った。

 協議後の取材に対し、綾町の前田穰町長も「理解せざるを得ない」と厳しい表情を浮かべ、新富町の土屋良文町長は「国が唐突に決定したことについては誠に遺憾だ。ただし、この状況下で国の指示に従った知事の判断は理解せざるを得ない」と話した。

 まん延防止のため、早期のワクチン接種に理解を示した一方で、首長からは今後の支援策実施についての要望も相次いだ。10市町のうち、疑似患畜が出ているのは6市町。疑似患畜が出ていない宮崎市の戸敷正市長は「これまで1カ月間、懸命に防疫を実施してきたのに、すべて処分するというのは納得がいかない。きちんとした補償をしてもらいたい」と注文した。

 同じく感染が確認されていない日向市の黒木健二市長は「土地の確保や生活保障など農家が納得するような支援をしてほしい」と念を押した。東国原知事は、協議後の会見で「沈痛な思いを禁じ得ない。農家に極めて大きな負担を掛けるが、日本の畜産を守るためにぜひとも理解をお願いしたい」と涙を浮かべ、声を震わせた。

【写真】ワクチン接種決定会見で記者団の質問に答える東国原知事(左)と山田正彦農水副大臣=21日午後10時6分、県庁講堂