20キロ内出荷農家混乱 国指示なく不信、怒り

(2010年5月21日付)

 政府が19日に発表した口蹄疫の感染拡大防止策が、発生地域周辺の農家に混乱を呼んでいる。発生農場から半径10キロ圏内でのワクチン接種後の牛・豚の全頭処分と、同10〜20キロ圏内の早期出荷の促進―という内容が大きく報道される一方で、自治体との合意が得られないまま対策が一向に進んでいないためだ。

 20日、同10キロ圏内で予定していたワクチン接種は自治体側との協議が平行線をたどり、結局始まらなかった。すべての牛・豚の早期出荷を農家に要請し、家畜の「空白地帯」をつくるとした同10〜20キロ圏内についても、何ら指示はなかった。

 「空白地帯」に入る国富町八代北俣の和牛肥育・繁殖農家鎌田誠さん(32)は、19日の国の発表に一度は安堵(あんど)した。ウイルスが急激な広がりを見せている現状では、同町への感染拡大は「時間の問題」と考えるからだ。しかし20日、「450頭の一部でも一刻も早く出荷したい」とJAに問い合わせたところ、「まだ国から何も聞いていない。指示を待ってくれ」と返答された。

 鎌田さんは、数万頭もの家畜をどこで食肉処理するのかや、子牛や妊娠牛など食肉にならないものはどうするのかなど、政府方針の具体性のなさを指摘する。「口で言うのは簡単。国は知ったかぶりで勝手なことを言っているだけじゃないのか」。不信感と怒りを募らせる。

 JA宮崎中央肥育牛部会の山元正人会長(57)は「国の方針には無理がある。やるのか、見直すのかどっちなんだ。農家はみんな混乱している」と、先を見通せぬまま懸命の防疫作業に当たる周辺農家を代弁する。

 県も対応に追われており、畜産課は「初めてのことで規模も大きく、対策の実施には国などとの十分なすり合わせが必要。今まさに担当者が調整に走り回っている」と話している。