収入絶え廃業ちらつく 補償、再起へほど遠く

(2010年5月21日付)

 口蹄疫感染の激震地となった川南町で、最初の感染疑いが確認されてから約1カ月。同町では125農場の11万6028頭(20日午後9時現在)が殺処分の対象となり、町で飼育する牛、豚の8割に迫る。「感染拡大を防ぐ」との使命感から作業に忙殺される一方、収入の途絶えた農家は、いよいよ日々の暮らしが揺らいできた。防疫作業を懸命に続けても、結局は家畜を処分される。補償も再起できる額にはほど遠い。「廃業」の文字がちらつき始めた農家もある。

 「お父さん、ごはん食べてる? 私、大学辞めようか」。福岡県内の大学に入学したばかりの娘(18)が口蹄疫の発生を心配して電話してきた。黒豚千頭を飼育する甲斐利明さん(50)は「口蹄疫は子どもの将来を狂わすような大災害。心労は限界を超えている。いつ終息するのか」。国の補償が不十分なら廃業も考えるほどに追い込まれている。

 酪農を営んできた40代男性は、先週、約30頭すべてが殺処分となった。先月の搾乳代は18日に支払われ、今月の生活費はなんとかなる。ただ、それ以降は収入が途絶える。「JAからの見舞金が現金で出るらしいが、1カ月の生活費ぐらいだろう。それほどあるわけではないが、貯金を崩して生活するしかない」

 石灰で一面真っ白な牛舎から牛の姿は消え、家から出ることはほとんどなくなった。これまで朝は搾乳作業で忙しく、ニュースなど見ることはなかった。やることがなくなったいま、テレビをつければ口蹄疫のニュースが目に入る。「感染が広がるのを止められるのなら、自分たちが犠牲になるのは仕方ないと、仲間内で話している。せめて元の暮らしに戻るまで、生活費や運転資金を国に補償してほしい」

 養豚業の30代男性は町内で発生後、とにかく急いで消毒機材や大量の消石灰を値段も見ずにツケで買った。感染を逃れていたが、国の方針が出て、男性が飼育する6千頭の豚はワクチン接種後、殺処分されることに。豚舎の建築費や飼料代など数億円の借金がある。生活費や運転資金の融資制度があるが、「うちと同じような養豚経営者はどこも億単位の借金がある。(融資制度は)無利子であっても、結局は借金が増えるだけじゃないか」と淡々と話した。

 収入がなくなり、生活は苦しい。だが、自分のことより従業員を案じる農家は多い。「この農場はみんなで作り上げた。こんな形で従業員を失いたくない」と、従業員11人を雇い、養豚業を営む香川雅彦さん(52)。

 県などは発生農家に対し、金融機関から借り入れる生活費200万円を上限に利子を全額補てんする。ただ、これは従業員には適用されない。香川さんは「県外の大学にいる子どもの将来と、従業員の生活をてんびんにかけることなどできない」。なんとかやりくりできないか、悩み続ける毎日だ。

【写真】殺処分が終わり、消石灰が一面にまかれた牛舎=川南町(県提供)