宮崎県都農町で口蹄疫(こうていえき)の感染の疑いがある牛が見つかった問題。公表された20日、2000年以来の緊急事態の発生に地元自治体をはじめ県や畜産関係者に大きな衝撃が走った。
都農町は県からの連絡を受けて家畜伝染病予防法に基づく対策本部を設置。関係者約20人を役場に集めて会合を開き、飼育場の出入りを最小限にするなどの防疫対策を求めた。
同町は西側の尾鈴山から東側の日向灘に向かって平坦(へいたん)地が広がり、畜産が盛ん。町産業振興課によると、町内には繁殖用和牛の生産農家約190戸があり、計約2千頭を飼育している。
会合に出席した養豚業の男性(56)は「子豚は毎日生まれるのに出荷できなくなる。感染を抑えて早く規制解除にこぎ着けたい」と話した。畜産業の男性(61)も「10年前を思い出した。風評でどんな影響が出るか分からず、やはり心配」と暗い表情。同時に「肉を食べても健康に影響がないことをきちんと知らせてほしい」と訴えた。
都農町に隣接する川南町役場にも、対応を問い合わせる電話が朝から約20件あった。町は全職員約180人でつくる対策本部を設置。防災無線を使って家畜の移動自粛を呼び掛けた。
児湯郡市畜産農業協同組合連合会(新富町)の奥野福見参事は「早く終息してもらいたいが、メドが立たない。時間がたつほど、子牛の月齢が変わって評価も下がるし、えさ代もかかる。農家へのダメージは大きい」とまゆをひそめた。市場への影響についても「やっと低迷していた価格が上向きかけていたときなのに…。宮崎牛の信頼度が薄れるのが怖い」と話した。
一方、同県庁。記者会見に臨んだ東国原英夫知事は、就任当初の07年に県内の養鶏場で高病原性鳥インフルエンザが発生したことに触れ、「防疫措置などの手順は分かっている。あの時のようにピンチをチャンスに変えられるよう全庁で取り組む」と述べた。
畜産関係団体を対象にした緊急対策会議も開かれ、疑似感染の経緯や今後の措置を説明した。
県が指定した搬出制限区域には、県の南北を結ぶ唯一の幹線道路、国道10号が含まれている。出席者は「区域外の家畜運搬車両も通り抜けられないのか」などと質問。県は「通過のみなら可能になるよう早急に国と協議する」とした。
また、都農町工場を操業停止する食肉処理会社は「今のところ取引停止の要請はないが、肉が安全であることをしっかり説明したい」と話した。
同工場は1日あたり牛60頭、豚800頭の計6千万円相当を扱う。移動制限解除には少なくとも3週間かかるため、当面は別工場の稼働率を上げてカバーするという。
=2010/04/21付 西日本新聞朝刊=