家畜伝染病「口蹄疫(こうていえき)」問題で、宮崎県の東国原英夫知事が「非常事態宣言」をして18日で1カ月を迎えた。感染が疑われる家畜の処分が続く中、被害が集中する県東部の川南町では、住民が再興に向けた模索を始めた。畜産農家を支援するリストバンド作りや地域商品券…。戦後、入植者によって開かれた歴史を持つだけに、住民は「先人の開拓者精神を再び」と意気込む。
日本三大開拓地の一つとされ、全国各地から農業を志す人々が集まったことから「川南合衆国」とも呼ばれる川南町。町では4月21日の感染確認後、殺処分となった牛や豚は県内最多の約15万8千頭に上り、全頭処分に向け作業が続く。一方で感染拡大により町内のイベントが相次いで中止になるなど、地域経済にも深刻な影響が出ている。
地元の若手自営業者らでつくるグループは5月下旬、リストバンド3万個を作り、販売を始めた。牛と豚の鳴き声から「MOVE(モーブー)バンド」と名付けた。英語の「MOVE(動く・取り組む)」の意味も込め、MOVEの文字、牛と豚の絵をあしらっている。
メンバーの一人、原英史さん(38)が勤める印刷会社はイベント用ポスターの受注が一気に落ち込んだ。そうした中、原さんは町の沈滞ムードを振り払おうと仲間と話し合い、リストバンド作りを思い付いたという。「全国で身に着けてもらえば勇気がわく」
1個500円。全国の農協や商工会などで販売し、経費分を除いた全額を被害農家への義援金に充てる。
地元の食品業者や農家などでつくる地場産業振興会は、ハム、ソーセージや、乳製品、野菜など地場産品詰め合わせの注文受け付けを始めた。売り上げの約1割を町に寄付する。「特産品を買って応援したい」との県内外の声に応えた。振興会の三浦活也会長(52)は「川南自慢の素材を食べてほしい」と張り切る。
町も、町内で使える1万2千円分の商品券を1万円で販売することを決定。上乗せ分は町が補正予算を組んで負担した。7月中にも発行する。
町商工会の津江章男会長(62)は「住民のほとんどが入植者の血を引くこの町は、何かやりたくてしょうがない人が多い。立ち直りは早いですよ」と胸を張った。
リストバンドと地場産品セットの問い合わせは、川南町総合政策課=0983(27)8002。
=2010/06/19付 西日本新聞朝刊=