剰余価値率の推移

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 財貨・サービス別<再生産・所得再配分>価値表式の中心部分を見て欲しい。

可変資本価値         (V) 剰余価値     (M)
部 門 名  雇用者所得 間接税-補助金 営業余剰 企業消費
生産手段 1 固定不変資本生産部門 13 1 1 11
生産部門 2 流動不変資本生産部門 25 6 9 27
  (T)
消費資料 3 民間消費対象(財貨) 6 3 4 8
生産部門         生産部門
  (U) 4 民間消費対象(サービス) 36 5 25 25
           生産部門
5 政府消費対象(財貨) 7 1 0 5
        生産部門
資本家用 6 政府消費対象(サービス) 26 0 1 8
消費資料         生産部門
生産部門
  (V) 7 企業消費対象(財貨) 0 0 0 0
        生産部門
8 企業消費対象(サービス) 48 4 15 43
           生産部門
9 生産部門合計 161 20 56 128
 可変資本価値(V)と剰余価値(M)とを合算すると365(日)になる。一年365日を働いたとき、可変資本価値つまり労働力の価値を再生産するに要する日数は161日であり、資本家のために働いた204日(20+56+128)は剰余価値を生み出す。したがって剰余価値率は204/161=127%ということになる。
 ところがこれは、サービス労働を含めたすべての労働が価値を生むと考えた場合の計算であって、物的生産労働だけが価値を生むと考える人の場合には、剰余価値率を計算する分母の日数は51日となる。したがって残りの日数は314日(365-51)であるから、剰余価値率は314/51=616%となる。
 このようにして得られた逐年のデータとそのグラフを示すと次のとおりである。
物的労働
価値生産説
サービス労働
  価値生産説
  年  労働力価値 剰余価値 剰余価値率    労働力価値 剰余価値 剰余価値率
             V        M   M/V(%)             V       M   M/V(%)
1965 66 299 453 135 230 170
1970 64 301 470 134 231 172
1975 68 297 437 157 208 132
1980 61 304 498 150 215 143
1985 59 306 519 154 211 137
1990 55 310 564 154 211 137
1995 54 311 576 162 202 125
2000 51 314 616 161 204 127

 物的労働価値生産説では、逐年、剰余価値率が上昇を続けている。サービス労働価値生産説で見ると、剰余価値率は、停滞というよりもむしろ低下の傾向を示している。この二つの傾向は、何を示しているのであろうか。また今後、何をもたらすのであろうか。これを考えてみよう。

物的労働価値生産説による剰余価値率の上昇
 剰余価値を物的観点で理解した場合、上表とグラフのように、剰余価値率は顕著に上昇傾向をたどっているのであるが、この理由は勿論、物的生産力の継続的・顕著な上昇傾向に求められるだろう。そして生み出された膨大な財貨を消費して、多様なサービス産業が成長し、多方面のサービス労働が生み出されている。
 
(注)サービス労働の理論的な位置付けについては、産業連関表の組み替えを提起した同じ研究者の論文が明解である。「消費過程とサービス労働」(『政経研究』NO.80 2003.5)

サービス労働価値生産説による剰余価値率の低下傾向
 サービス労働価値生産説(つまりすべての労働が価値を生むと考える説)の考えに立てば、剰余価値率は上昇するどころか、むしろ低下傾向を示している。このことは勿論、日本という資本主義社会で、労働者がさまざまなサービスを享受しながら、多少とも豊かになってきていることを反映していると言えるだろう。
 しかしそれだけではない。一方で、物的生産力は大きく上昇しているわけであるから、労働者のための生活資料の生産には、昔よりはるかに少ない労働で事足りる。労働者が昔より沢山のサービスを享受したとしてもそうである。

 
増大した生産余力はどこに消えたのか。最大の行き先は企業消費である。産業連関表においては、企業の中間投入の中に、多くのサービス消費が隠れている。しかもそれは生産のための経費として扱われている。しかしここで展開した産業連関表組み替えの手法では、中間投入に隠れたサービス消費を、剰余価値の消費として摘出している。<再生産・所得再配分>表式の剰余価値の欄にある企業消費がそれである。また7,8行の企業消費対象生産部門は文字通り、この企業消費の対象を生産する部門なのである。
 高度に発展した資本主義社会では、かつて良く議論された
”利潤率の傾向的低下の法則”とはまた一つ違った意味での、利潤率低下の要因が存在している。対事業所サービスの増加といった形で、企業が中間消費するサービスが増え、また対事業所サービス部門に働く労働者も増加する。これらの部門は、いわゆる生産性の低い部門であるから、そのことにより”剰余価値率の傾向的低下”の現象が現れていると見られるのである。
 このことを、もう一つ別の側面から観察してみよう。

財貨・サービス別労働投入量
 当ページの冒頭に、財貨・サービス別<再生産・所得再配分>価値表式の一部分を掲げたが、この表の部門別合計を逐年並べると、下のような部門別・財貨サービス別・労働投入量の一覧表が得られる。

 
<部門別・財貨サービス別 労働投入量>
         (単位:日)

1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000
 民間消費対象・財貨 36 28 27 22 25 23 22 21
   同上   サービス 73 73 85 83 88 89 89 91
 政府消費対象・財貨 14 15 14 16 13 14 16 13
   同上   サービス 25 20 24 22 21 20 32 35
 企業消費対象・財貨 6 5 1 2 2 2 1 0
   同上   サービス 69 80 86 98 97 101 106 110
 流動不変資本・財貨 115 112 97 91 89 79 71 67
 固定不変資本・財貨 29 33 32 32 32 38 30 26
           小計 財貨 199 193 171 163 158 155 140 127
           小計 サービス 166 172 194 202 207 210 227 236
 年間労働投入量合計 365 365 365 365 365 365 365 365

 表中の小計欄にある財貨・サービス別の労働投入量をグラフ表示すると下のようになり、サービス部門への労働投入がますます増えていることが判る。

 

 しかも、労働投入量が顕著に増えている部門は、サービス部門の中でも企業消費対象生産部門(中のサービス生産部門)であることが、下図から読み取れるのである。



部門別剰余価値率
 ここで、物的生産部門とサービス生産部門を区分し、それぞれの剰余価値率を計算してみた。

   物的部門     サービス部門
労働力価値 剰余価値 剰余価値率 労働力価値 剰余価値 剰余価値率
M/V(%) M/V(%)
1965 66 134 203 70 97 139
1970 64 129 202 70 103 147
1975 68 103 151 91 104 114
1980 61 102 167 91 112 123
1985 59 102 173 98 108 110
1990 55 101 184 100 110 110
1995 54 86 159 109 118 108
2000 51 76 149 110 126 115

 下図に示すように物的部門とサービス部門の間には、剰余価値率において明らかに差があるようである。これら二つの部門のそれぞれについて区分した”剰余価値率”というのは、理論的には理解しがたいと思われる向きもあろうが、ここでは余り硬いことを言わずに考えて頂きたい。
 この結果は、産業連関表の数字から、それを組み替えたとはいえ、その統計数字から出てきた結果である。
 

 これらの数字は次のようなことを示している。企業消費対象生産部門、民間消費対象生産部門などで、サービス部門が大きくなって、そこへの労働投入が増大してきた。物的部門とサービス部門の剰余価値率を比べてみると、理由は必ずしも明らかではないが、サービス部門の剰余価値率の方が明らかに低位を保って推移しているので、サービス部門の増大とともに、全産業部門合計の剰余価値率は低下傾向をたどっているのである。(この場合は、サービス労働価値生産説にもとづいた剰余価値率を問題にしていることに注意されたい。)

 さて、このようなことは、日本の資本制経済とその前途にとって、極めて重大なことではないだろうか。形を変えた
”利潤率の傾向的低下の法則が、日本資本主義の行き詰まりを宣告している”のではないだろうか。

                    
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