老齢加算廃止を違法とする初めての判断を示した14日の福岡高裁判決は、廃止を決めた国の行政手続きのずさんさを明確に指摘した。「経費削減ありき」の方向性がにじむ生活保護行政への警鐘とも言える。同種裁判は全国の地・高裁で原告側が5回続けて敗訴を重ねていただけに、今後の訴訟や生活保護行政全般に一石を投じそうだ。
結核患者が十分な生活保護の受給を求めた「朝日訴訟」の最高裁判決(67年)は、生活保護の受給を国からの恩恵ではなく国民の権利と位置づけた。そのうえで、保護基準が憲法25条に定める「健康で文化的な最低限度の生活」を維持するに足りるかどうかの認定を厚労相の合目的的な裁量に委ねた。
福岡高裁判決は朝日訴訟判決を踏襲したうえで、厚労相の裁量を判断するにあたり、老齢加算廃止が03年、社会保障費の抑制を進めた小泉政権下で急決定された経緯に着目した。
加算廃止の方向を打ち出す一方(1)高齢者世帯の最低生活水準を維持するよう検討(2)生活水準の急激な低下がないよう激変緩和措置を講ずべきだ--とした同年12月16日の厚労省専門委員会の付言付きとりまとめを重視。わずか4日後の20日、財務省が老齢加算の減額・廃止を盛り込んだ04年度予算を内示した手続きを「受給者が受ける不利益を検討していない」と指摘。厚労相もこの時点までに保護基準改定を決定したと認定、ずさんさを違法性の根拠とした。
老齢加算廃止同様、小泉政権下で決まった障害者自立支援法と生活保護の母子加算廃止は、民主党中心の連立政権で見直されている。福岡高裁判決を受けた老齢加算廃止を巡る判断も注目される。【岸達也】
毎日新聞 2010年6月15日 東京朝刊