手放しで喜べず 発生地域外農家

(2010年5月20日付)

 政府がワクチン接種とその後の全頭処分を決めたことで、発生地域以外の県内農家にも多少の安ど感が広がった。ただ、処分対象となる農家の心情を察すると手放しでは喜べず、さらに競り市の閉鎖などで収入が途絶え、苦しい生活を続けていることに変わりはない。

 串間市北方の繁殖牛農家坂藤政文さん(40)は「(ワクチン接種で)これ以上の感染拡大を心配しなくて済むのでは。ただ、健康な牛を殺処分される農家はかわいそうだ」と話す。さらに「出荷できない今も大変だが、獣医師が動けずに受精できないことで、約2年後にも牛を出荷できなくなる」と今後の経営を心配する。

 県内家畜市場は口蹄疫の発生を受け、5、6月の競り開催をすべて中止。県畜産協会によると、都城地域家畜市場はこの2カ月で3850頭、高千穂家畜市場は5月分の800頭、南那珂地域家畜市場でも800頭が出荷できない状態。同協会の荒武正則参与は「発生地域も大変だが、それ以外の県内農家も苦しいのは同じ」と話した。

 「せっかく昨年11月から競り価格が上昇していたのに」。都城市高城町の繁殖牛農家飯盛茂さん(50)は競り市が再開しても価格が以前の状態に戻るか、心配は尽きない。

 高千穂地区農協畜産連絡協議会の冨高正男会長は「競りの中止が長引くことで地区内の農家が倒産するのでは」と危機感を持つ。出荷できない牛は餌代がかさむ上、成長し過ぎて値が下がる。「この状態がいつまで続くのか。殺処分されれば補償があるが、口蹄疫の間接的な影響を受ける県内の繁殖農家の補償も考えてほしい」と訴えた。