農家にあきらめ脱力感 ワクチン使用検討

(2010年5月19日付)


 本県の口蹄疫問題で、赤松広隆農林水産相が18日、発生地域内でのワクチン使用や感染・感染疑いが出ていない農場も含めた牛や豚の全頭処分の可能性に言及した。農水省の小委員会も「ワクチンを使用すべき」との見解を示し、踏み込んだ防疫措置の可能性が高まる中、県内からは「覚悟している」「これまでの消毒作業は何だったのか」とあきらめや脱力感に満ちた声が聞かれた。ただ、最終的に一定範囲内の家畜をすべて処分するため、「補償内容を合わせて示すべき」との指摘もある。

 農水省などによると、感染・感染疑い農場から一定範囲内の家畜へのワクチン接種は、感染後の症状が緩和されウイルスの放出量が減るため、感染の広がりを遅らせる効果がある。ただ、接種によって症状が弱まり、感染疑いの確認が遅れる可能性もあるという。

 接種した牛や豚は国際ルールに沿って、感染の沈静化を待ち全頭殺処分される。農水省によると、本県で発生している口蹄疫(O型)と同じ血清型のワクチン70万頭分が、動物検疫所神戸支所に保管されている。

 全頭処分も感染・感染疑いが確認農場から一定の半径内の農場が対象で、すべての牛や豚などの偶蹄(ぐうてい)類を強制殺処分する。農水省などによると、家畜がまったくいない「空白地帯」をつくることでウイルスの増殖に歯止めをかけ、感染の広がりを抑える効果が期待できるという。

 都農町の50代の和牛繁殖農家は「覚悟はしている。ただ、もう少し早く決断していれば被害は小さくて済んだのでは」と悔やむ。

 川南町の和牛繁殖農家永友定光さん(55)は「治るわけではなく結局、処分される。消毒作業を徹底してきた1カ月間は何だったのか」と疲れ切った声。JA宮崎経済連の長友和美畜産担当参事は「ワクチンを接種するのなら経済補償を示さないと農家を説得できない」と話す。

 宮崎大農学部の後藤義孝教授(獣医微生物学)は「体内で抗体ができるまで2〜3週間かかる。また、最終的に対象区域の家畜すべてを殺処分する必要があり大量の獣医師や埋却地が必要だ」と指摘する。

 発生地域外も含めた広域での全頭処分について、赤松農相は「財産権を侵す話で、物理的にも無理がある」と否定的な見解を示している。

【写真】殺処分を終えた農場を消毒する関係者。こうした懸命の防疫作業を尻目に口蹄疫の被害拡大が続く(県提供)